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※ 獣の解体描写があります。
*****
赤熊に襲われた現場から1時間程歩いただろうか。
彼女の家は森の開けた街道の入り口付近にポツンとあった。
大きな木の側にあるその家は、管理小屋のような様相で、例えば平民の家族4人で暮らすには丁度良いような大きさ。
家の周りも整えられており、下草も刈り取られ、野営をするにしても快適なくらいだ。
こじんまりとした畑や、馬小屋、それに家に併設した作業小屋のようなものも見える。
しかし、辺り・・・見える範囲には他に家がない。
女性1人でこんな所に住むなんて、物騒なのではないだろうか。
ちょっと心配になる。
街道沿いに行けば、徒歩でも1時間位で次の村には着くが、すでに日は傾いていること。護衛騎士達の馬が赤熊にやられたり、逃げてしまったりで、数が少なくなってしまったこと。まして怪我人も多い事もあって、此処での一泊は決定事項。
辺境伯爵の住まう都市までは早馬でも3時間はかかると。
早速、早馬で辺境伯邸に遣いを向かわせ、明日にでも助けを貰うこととした。
彼女は、その為に快く馬も貸してくれ、伝令役は辺境伯都市へと向かっていった。
護衛騎士達が着々と野営準備をする中、防具を外しエプロンを付けた彼女は、怪我人用のテントに使ってくれと、大きな天幕を貸してくれる。
そして、家の裏の方へと向かっていった。
何をするのかと思いきや、大きな作業台が置いてある大きな木の根元で、収納袋からあの赤熊を取り出し。
張り出した太い木の枝に取り付けられた滑車のロープを、手際良くその片足に括り付け。
「そぉぃ!!」
掛け声と共に、逆側のロープを引っ張った。
ずぃ、と赤熊が逆さまに吊るされていく。
カラカラと滑車がなり、赤熊の身体がどんどん浮き上がる。
首の部分が浮き、残っていた血が流れ出す。手の甲が地面についているくらいで、引き上げるのを止めたようだ。
そこからは早かった。
脚立に上がり、皮にナイフを入れ剥いでいく。
脚立の位置を変えながら、どんどんと皮は剥がされて、あっという間に丸裸。
次に、腱を切り腕を骨ごと外し、作業台へ置く。そして胴体から肉を剥がしにかかった。
冒険者ギルドなどでの解体を見せてもらった事はあるのだが、比じゃないくらいに綺麗で早い。
チーズでも削ぎ切っているのかと思うほどに軽々と・・・それはそれは、鼻歌が聞こえてきそうな雰囲気でするするとナイフを振るう。
「殿下・・・あぁ、こんな所に。どうされましたかな?」
「ゴルドーか。」
不意に背後から声をかけられて、びくりとした。
振り返ると宰相補佐。
ニコニコしながら近づいてきた彼は、彼女の手技を見てギョッとする。
「おや、ツバキ殿・・・なんと、あの赤熊をこの短時間であんなに解体を?」
「あぁ・・・あの巨体を1人で吊り上げて、1時間も経たないうちに、あそこまで綺麗に解体しているんだ。全く無駄な動きがなくて、見惚れていた。」
「それはそれは・・・」
「なぁ、ゴルドー。彼女は何者なのだろう?あんなきめ細やかな白い肌で、瞳と眉とまつ毛が黒い。もしかして、彼女は・・・」
独り言のように呟いた俺に、宰相補佐は同意を示す。
「えぇ・・・あの赤熊を一撃で倒す胆力。そんな凄腕の女性冒険者が居たら、話題になっていても良さそうなもの。しかし、我々がスカルペルに居た間には斯様な話は聞いておりませんしなぁ。ホーツウェルに移動後に活動を始めたのか・・・若干、装備も新し目でしたしな。
まぁ、それについては、後程、彼女の髪色を確認させて頂きましょう。」
そうこうしていると、彼女は解体が終わったらしく。
肉と、薬の材料となる肝や脂、珍味となる掌をより分け、袋へと入れていく。
心臓の近くにあった魔石は拳2つ分ほどだろうか?存外大きいようだ。
残りは破棄するのだろう、畑近くに空けていた穴へと運び、残滓を投げ入れていく。
その作業を終えて、穴に木の板で作った蓋を被せた。
そうして片付けを終えた彼女は、大きく伸びをしてから、血に汚れたエプロンを外した。
そしておもむろに、頭に手をやり、帽子を取った。
「ーーーっ!!」
自分と宰相補佐は思わず息を呑む。
帽子の中から、つるりとこぼれ落ちた髪色は・・・黒。
腰まである豊かな髪は、夕日に照らされて艶かしく輝く。
まるで、我が国の教会で見る、豊穣と狩猟の女神カミーリャの壁画のような神々しさだった。
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赤熊に襲われた現場から1時間程歩いただろうか。
彼女の家は森の開けた街道の入り口付近にポツンとあった。
大きな木の側にあるその家は、管理小屋のような様相で、例えば平民の家族4人で暮らすには丁度良いような大きさ。
家の周りも整えられており、下草も刈り取られ、野営をするにしても快適なくらいだ。
こじんまりとした畑や、馬小屋、それに家に併設した作業小屋のようなものも見える。
しかし、辺り・・・見える範囲には他に家がない。
女性1人でこんな所に住むなんて、物騒なのではないだろうか。
ちょっと心配になる。
街道沿いに行けば、徒歩でも1時間位で次の村には着くが、すでに日は傾いていること。護衛騎士達の馬が赤熊にやられたり、逃げてしまったりで、数が少なくなってしまったこと。まして怪我人も多い事もあって、此処での一泊は決定事項。
辺境伯爵の住まう都市までは早馬でも3時間はかかると。
早速、早馬で辺境伯邸に遣いを向かわせ、明日にでも助けを貰うこととした。
彼女は、その為に快く馬も貸してくれ、伝令役は辺境伯都市へと向かっていった。
護衛騎士達が着々と野営準備をする中、防具を外しエプロンを付けた彼女は、怪我人用のテントに使ってくれと、大きな天幕を貸してくれる。
そして、家の裏の方へと向かっていった。
何をするのかと思いきや、大きな作業台が置いてある大きな木の根元で、収納袋からあの赤熊を取り出し。
張り出した太い木の枝に取り付けられた滑車のロープを、手際良くその片足に括り付け。
「そぉぃ!!」
掛け声と共に、逆側のロープを引っ張った。
ずぃ、と赤熊が逆さまに吊るされていく。
カラカラと滑車がなり、赤熊の身体がどんどん浮き上がる。
首の部分が浮き、残っていた血が流れ出す。手の甲が地面についているくらいで、引き上げるのを止めたようだ。
そこからは早かった。
脚立に上がり、皮にナイフを入れ剥いでいく。
脚立の位置を変えながら、どんどんと皮は剥がされて、あっという間に丸裸。
次に、腱を切り腕を骨ごと外し、作業台へ置く。そして胴体から肉を剥がしにかかった。
冒険者ギルドなどでの解体を見せてもらった事はあるのだが、比じゃないくらいに綺麗で早い。
チーズでも削ぎ切っているのかと思うほどに軽々と・・・それはそれは、鼻歌が聞こえてきそうな雰囲気でするするとナイフを振るう。
「殿下・・・あぁ、こんな所に。どうされましたかな?」
「ゴルドーか。」
不意に背後から声をかけられて、びくりとした。
振り返ると宰相補佐。
ニコニコしながら近づいてきた彼は、彼女の手技を見てギョッとする。
「おや、ツバキ殿・・・なんと、あの赤熊をこの短時間であんなに解体を?」
「あぁ・・・あの巨体を1人で吊り上げて、1時間も経たないうちに、あそこまで綺麗に解体しているんだ。全く無駄な動きがなくて、見惚れていた。」
「それはそれは・・・」
「なぁ、ゴルドー。彼女は何者なのだろう?あんなきめ細やかな白い肌で、瞳と眉とまつ毛が黒い。もしかして、彼女は・・・」
独り言のように呟いた俺に、宰相補佐は同意を示す。
「えぇ・・・あの赤熊を一撃で倒す胆力。そんな凄腕の女性冒険者が居たら、話題になっていても良さそうなもの。しかし、我々がスカルペルに居た間には斯様な話は聞いておりませんしなぁ。ホーツウェルに移動後に活動を始めたのか・・・若干、装備も新し目でしたしな。
まぁ、それについては、後程、彼女の髪色を確認させて頂きましょう。」
そうこうしていると、彼女は解体が終わったらしく。
肉と、薬の材料となる肝や脂、珍味となる掌をより分け、袋へと入れていく。
心臓の近くにあった魔石は拳2つ分ほどだろうか?存外大きいようだ。
残りは破棄するのだろう、畑近くに空けていた穴へと運び、残滓を投げ入れていく。
その作業を終えて、穴に木の板で作った蓋を被せた。
そうして片付けを終えた彼女は、大きく伸びをしてから、血に汚れたエプロンを外した。
そしておもむろに、頭に手をやり、帽子を取った。
「ーーーっ!!」
自分と宰相補佐は思わず息を呑む。
帽子の中から、つるりとこぼれ落ちた髪色は・・・黒。
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