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しおりを挟む旅が進み、魔王の側近・・・四天王と呼ばれる配下のうちの一人、『獣王』が統治する領《ティーガル》と向かい合う、人族の大きな国《ライトリクス》に立ち寄った。大きな港町もある国だ。
ここで、1日だけメンバーがバラバラに動く事になった。
私は大抵、勇者サマぶった王子か剣士がついていて、一人にされることがなかったのだけれど。
その日は《ライトリクス》の王族に勇者サマぶった王子が呼ばれたとかで、剣士を伴って行かなきゃならないとか。
・・・召喚聖女は一緒に呼ばれないのかね、と思ったけど、多分私の存在を公にしたくないのだろう。
というか、接触させたくないのだろう。
*
これまでの旅でもそうだった。
私が他の人たちと話すのを良しとせず。
共闘する冒険者パーティーとも、必要以上の接触はさせないようにされていた。
魔獣に傷つけられた人達を見かけて、癒そうとしても、必ず剣士か王子が張り付いて。
感謝を述べる人達に、笑顔で対応して、『聖女は凄いのだ』と言いながら、『癒しの技は特別なのだ』と、周囲を牽制した。私が話しかけようとしても、遮られてしまう。
その割に、悪意ある女性陣の言葉からは守ってくれない。
王子の見目に寄ってくる娘さん達が放つ、『聖女サマって言うから、どんな美人かと思ったけど、アレって・・・』とか、『パーティーメンバーが美形揃いなのに、よくあの中に居れるよね』とか。
『私のパーティーメンバーに、そのようなことを言わないでくれるかな。』
そうやって、王子は言うけれど。
結局は自分が『お優しい王子様』という称号を手に入れるだけ。
私に知識をつけさせないようにして、自尊心を傷つけ、自分達の下にいるしかない、と思わせようとしているのだと。
それは分かってる。
分かってるけど。
また、悪意に晒されるのは。
マウント要員にされるのは。
やっぱり辛かった。
*
王子と剣士は、拳闘士と女魔法使いに、私に付いているように言って、宿を出ていった。
でもそんな2人も飽きたのか、大きな街の誘惑に負けたのか、私に「宿から出るな」って言って、どっかに行った。
私1人になったそんな珍しい状況、私も出ないわけないよねぇ。
回復薬を調合したいから、薬草の類も仕入れたいし・・・
宿近くの市場だけに行こうと思って、出かけたら。面白い話が聞けた。
実の所この国は、非公式だけれど、『獣王』領と交易関係があるらしい。
「お嬢ちゃん、見ていかないかい?」と、見た事のない雑貨を扱うお店の店員さんに呼び止められ。
なんだかんだと話していたら、そんな話が飛び出した。
「“あの国”に召喚されちまった聖女さんがいるってのに、こんな話は憚られるんだけどさ・・・」って話してくれたのは、この国と『獣王』領との裏事情。
『獣王』は、人族に対して、其処まで敵意はなくて。
交易だけじゃなく、この国に出てくる魔獣の討伐まで手伝ってくれている。
だから、この国では魔族である筈の獣人族とは仲良くやってるんだ、って。
だから、魔王討伐、なんていうのはナンセンスで、出来れば今のまま、良い隣人関係でいたいんだよな、って。
召喚された聖女サマも不憫だなぁ、って、私を目の前にして言うのが居た堪れなくて。
「こんな話は、ナイショな。」って笑う店員さんに、くすり、と笑ってしまった。
やっぱり、人族は一枚岩ではないんだ、って。
国と国とのパワーバランスであったり、国同士は仲悪いことになってるけど、人的交流はあったり・・・って、地球でもあったこと、異世界でもあるんだなぁって、感心してしまった。
だからこそ、私を召喚したあの国の歪さがはっきり見えた。
*
必要な品物も揃って、パーティーメンバーが戻る前に宿に戻ろうとした所。
ぐい、と手を引かれ、路地裏に連れ込まれた。
『結界』を張っていたはずなのに、掴まれたから、凄くビックリして。
「申し訳ない、手荒な真似をした・・・大丈夫、か?」
耳障りの良い、とても落ち着いた低音声。
その声色は、私を害するようなモノではなかったから、『結界』が反応しなかったのだと直感で理解した。
大きな体躯に私はすっぽりと収まっていて。
恐る恐る見上げると、180cmくらいの大きな身体の焦げ茶色の短髪の男性。
整ってるけど強面な顔が、少し困ったように眉間にシワを寄せていた。
意思の強そうな琥珀色の目は、何処かでみたような・・・
「あ・・・地龍討伐のときの・・・」
上級冒険者の集まりだという、《グランブルー》という強い3人組のパーティーのうちの1人で、拳闘士だった人だ。
あのパーティーは、盾役の剣士さんと、回復魔法も使える魔法使いさんで、とても連携が取れていたし。
特攻しかしない勇者パーティーと、もう1組のフォローもしたりと、協力して戦うことに慣れているように見えて、場を整えるのが凄いなぁと思って、見ていたんだった。
名前は、確か・・・
「ティグレ、さん、でしたっけ。」
私が名前を呼んだら、彼は驚いたように目を見開き、それから、嬉しそうな表情へと変わった。
「覚えていてくれたのか・・・アイツらに君への接触を邪魔されていたから、覚えていないかと思ってたんだが・・・実はなァ、あれから、ずっと君の事が気になっていたんだ。」
彼は、私の頬に、肉厚でごつごつとした手を添え、また困ったような表情になる。
「こんなにやつれて・・・なぁ、君があんな奴らと魔王討伐なんてする必要があるのか?」
この世界に来て、初めて直接かけられた労りの言葉。
その言葉は、ささくれた私の心に染み渡った。
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