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しおりを挟む人族の大きな国《ライトリクス》から、『獣王』の統治領《ティーガル》に入ってすぐ、大きな力の気配があって。
私達は、『獣王 ティーガ』と対峙した。
身体は2メートルくらいあるのだろうか。がっしりとした体格。
丸っこい耳と長い尻尾は虎柄。
綺麗な琥珀色の瞳をした、金髪の強面さんだった。
渦巻く魔力が膨大で、今までの地龍とか、全くメじゃなくて。
肌で感じる、本能で感じる恐怖・・・本当の強者って、こんな感じなんだって・・・初めて知った。
「聖女!さっさと強化と防御かけやがれ!」
拳闘士の言葉に、はたと我に返り。
慌てて全員に『防御』をかけて。
『物理攻撃強化』を勇者と拳闘士に。『魔法攻撃強化』を女魔法使いにかけた。
ボス戦の時、剣士は盾役になるみたいだから、『防御』の他に『物理・魔法攻撃耐性』をかけた。
年子の弟・・・健がやってたMMORPG、画面見てても何やってるかよく分からなくて。
でも、回復役担当だっていう健は、先々見越して回復するのが大事なんだって言ってたのを考えて。
『獣王』は拳闘士タイプで、攻撃は近接接近が主体。
盾役の剣士は防御力を上げたから、火力担当の勇者と拳闘士を中心に、攻撃を仕掛けた時のカウンターに気をつけて回復を行う。
女魔法使いは構ってられないので、剣士にかけた『物理・魔法攻撃耐性』をかけておいて、しばらく放置。
強化系魔法は、大体5分くらいは持つから切れる頃を見計らってかけ直す。
でも、勇者も拳闘士も馬鹿みたいに大技を繰り出すし、魔力を回復するポーションだって馬鹿にならないし。
強化系魔法が切れてる時に、大技出したりするから、タイミング合わせるのが大変だし。
連携とか考えてないから、2人揃って強化切れ起こして、片方に支援してる最中に、もう片方が大技放って・・・強化してないって怒鳴るし・・・
バトルど素人の私でも、効率悪すぎだって分かる。
んで、私の『強化』と『回復』ありきのゴリ押し戦法なんだなって。
でも、ゾンビアタックで時間はかかるけど、『獣王』の体力は削っていける。
そんな中、『獣王』が私達を見わたして・・・鼻で笑った。
「はっ。魔王様に勝てる見込みがないからと、別世界から聖女を召喚とは・・・人身御供もいい所だな。我等よりも貴様らの方が、余程悪者ではないか!」
「煩い!この世界を、お前ら魔族の手に落とさぬ為だ!」
「それなのに、折角の強力な聖女の技も、お主ら如き有象無象では、まァったく活かすことができていないではないか!全くもって“宝の持ち腐れ”とは、よく言ったものよ!・・・なァ聖女よ、我々の下の方が、その素晴らしい力を、存分に発揮させてやれるぞ?」
「何だと!?俺らの火力に耐えられていない癖に!適当なことほざいてんじゃねぇ!」
「そうよ!私達に倒されるだけのアンタが何を分かるっていうのよ!」
「聖女殿、奴の言葉に耳を貸してはなりません!魔王の手先などの甘言に惑わされてはっ!」
勇者サマな王子の薄っぺらい口上。
それを煽るように被せる獣王。
勇者も、拳闘士も、魔法使いも、その言葉に怒り、癇癪を起こしたように攻撃を仕掛けていった。
剣士は、私を労わるような台詞を吐いて、私の側に来た。
でも。
仲間のはずなのに。
仲間の言葉より、敵側であるはずの獣王の言葉の方が、ずっとずっと私の心に刺さる。
剣士の行動と台詞は、ただの監視にしか思えない。
「聖女!!」
「!?」
「させるか!!」
一瞬の隙をついて、獣王が私に肉薄した。
『結界』を張ってあったのに、がしりと左腕が掴まれた。
剣士が振るった剣が、獣王を捉えて。
胴を斬りかかられた獣王は、即座に飛び退いた。
『聖女』と呼ばれて、一瞬だけ交錯した視線。
意思の強そうな琥珀色の瞳が、労るように揺らいだのが、印象的だった。
どうして彼が、敵である私なんかに、そんな顔を向けたのか分からなかった。
そして。
戦いの最中だったのに『結界』が発動せず彼に掴まれた、じんじんと痺れたままの左腕を、癒す気にはなれなかった。
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