13 / 40
12
しおりを挟む魔族の国《マジェスト》に入ってからは、宿なんかに泊まれる訳がないから、無論野宿で過ごす。
魔族の国は、魔王領を取り囲むようにして四天王の領があるとされていて。
人族の国々に面しているのは、獣王領と妖魔王領だけらしい。
だから、獣王領を突っ切れば、魔王領には入ることができる。
そんな最短ルートを取ることになった。
獣王と戦ってから、魔王城まで、1週間程度の道のり。
でも、不自然な程、敵が弱いと感じた。
だって、獣王はあんなに強かったのに。本拠地に近づいてるのに、敵が強くならないなんて、おかしい。
勇者も拳闘士も女魔法使いも、自分達が強くなったからだ、と寝言を言ってる。
剣士だけは、警戒しているみたいだけど。
魔族の国に入ってからの、細々したこと・・・野営準備や食事なんか、私に押し付けられていた。
・・・私は、家政婦じゃないんですけど。
そう思っていたら、徐に剣士が手伝い出した。
今更感でイライラしたけど、1人でやるよりは早くなるから、一応感謝は告げた。
不貞腐れながらの「ありがとうございます。」だけど。
すると、剣士は、「いや・・・これくらいは、当然、だ。」って言って、顔を背けた。
・・・嫌ならやらなきゃいいのに、ね。
勇者に私を懐柔しろ、とでも言われたのだろうか。
その後は無言のまま、片付けて、テントに入った。
*
魔王の国に入って1週間。
明日、魔王城に突撃する。
そんな前の日も、やる事は変わらなかった。
野営準備して、ご飯食べて、テントに入る。
回復薬の類の点検をして、寝に入ったけど、ふ、と夜中に目が覚めた。
少しだけ、1人用テントの入り口を開けて、外を見る。
晴れた夜空にぽっかりと浮かぶ月が見える。
白く丸い月は、日本から見る物と変わらないと思った。
がさり、と音がして、はっとして身を固める。
「聖女殿。」
見ると剣士がテント近くにいた。
「眠れないのですか?」
「・・・途中で目が覚めました。」
顔は見ないように、顔を伏せて答える。
溜息を吐きながら、剣士は口を開いた。
「少しでも、体力は温存した方が良いですよ。」
「それは私じゃなくて・・・アッチに言ったらどうですか?」
思わず皮肉が溢れ出た。
勇者のテントから漏れ聞こえるのは、喘ぎ声。
前日で昂ってるのか知らないけど。
どうやら、3人で盛っているようだ。
ホント、馬鹿じゃないかと。
ちらりと剣士の様子を伺うと、彼も私の方を見下ろしていて、眦を下げ困ったような顔をしていた。
「聖女殿は・・・勇者を・・・セイル王子をどう思っておられますか?」
「は?」
唐突に聞かれ、意味がわからない。
何を期待する問いなのか。
顰めっ面をしたままの私は、じ、と剣士を見た。
剣士は、幼子に言い含めるような優しい口調で私に話しかける。
「この戦いが終われば、聖女殿は王太子妃となる訳ですし。王太子であるセイル王子とは良好な関係でいて頂きたい、と。」
「は?王太子妃?なるわけないじゃん。」
「何故?」
心底驚いた風な顔をして、剣士は私に問いかける。
私は溜息を吐いて、周囲に『遮音』の結界を張った。
周囲の音は拾えるけど、こちらの話し声は漏れない仕様。
明日は魔王戦だし、剣士と一対一だから、言いたいこと言ってやろうと思った。
そして、この会話で、最後の見極めをしよう。
そうとも、思った。
「・・・私は、元の世界に帰るもの。」
「何故、そのような・・・行く末は王妃となるのですよ?彼方の世界に帰るより、よほど・・・」
「私はそんなの求めていない!」
最初から、全く噛み合わない会話にイライラして、私は思わず声を荒げた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる