闇堕ち聖女の軌跡

柴田 沙夢

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魔族の国《マジェスト》に入ってからは、宿なんかに泊まれる訳がないから、無論野宿で過ごす。

魔族の国は、魔王領を取り囲むようにして四天王の領があるとされていて。
人族の国々に面しているのは、獣王領と妖魔王領だけらしい。
だから、獣王領を突っ切れば、魔王領には入ることができる。
そんな最短ルートを取ることになった。

獣王と戦ってから、魔王城まで、1週間程度の道のり。

でも、不自然な程、敵が弱いと感じた。
だって、獣王はあんなに強かったのに。本拠地に近づいてるのに、敵が強くならないなんて、おかしい。

勇者も拳闘士も女魔法使いも、自分達が強くなったからだ、と寝言を言ってる。
剣士だけは、警戒しているみたいだけど。

魔族の国に入ってからの、細々したこと・・・野営準備や食事なんか、私に押し付けられていた。

・・・私は、家政婦じゃないんですけど。
そう思っていたら、徐に剣士が手伝い出した。

今更感でイライラしたけど、1人でやるよりは早くなるから、一応感謝は告げた。
不貞腐れながらの「ありがとうございます。」だけど。

すると、剣士は、「いや・・・これくらいは、当然、だ。」って言って、顔を背けた。
・・・嫌ならやらなきゃいいのに、ね。
勇者に私を懐柔しろ、とでも言われたのだろうか。

その後は無言のまま、片付けて、テントに入った。




魔王の国に入って1週間。
明日、魔王城に突撃する。

そんな前の日も、やる事は変わらなかった。
野営準備して、ご飯食べて、テントに入る。
回復薬の類の点検をして、寝に入ったけど、ふ、と夜中に目が覚めた。

少しだけ、1人用テントの入り口を開けて、外を見る。
晴れた夜空にぽっかりと浮かぶ月が見える。
白く丸い月は、日本から見る物と変わらないと思った。

がさり、と音がして、はっとして身を固める。



「聖女殿。」



見ると剣士がテント近くにいた。



「眠れないのですか?」

「・・・途中で目が覚めました。」



顔は見ないように、顔を伏せて答える。
溜息を吐きながら、剣士は口を開いた。


「少しでも、体力は温存した方が良いですよ。」

「それは私じゃなくて・・・アッチに言ったらどうですか?」



思わず皮肉が溢れ出た。
勇者のテントから漏れ聞こえるのは、喘ぎ声。
前日で昂ってるのか知らないけど。
どうやら、3人で盛っているようだ。
ホント、馬鹿じゃないかと。

ちらりと剣士の様子を伺うと、彼も私の方を見下ろしていて、眦を下げ困ったような顔をしていた。



「聖女殿は・・・勇者を・・・セイル王子をどう思っておられますか?」

「は?」


唐突に聞かれ、意味がわからない。
何を期待する問いなのか。

顰めっ面をしたままの私は、じ、と剣士を見た。

剣士は、幼子に言い含めるような優しい口調で私に話しかける。



「この戦いが終われば、聖女殿は王太子妃となる訳ですし。王太子であるセイル王子とは良好な関係でいて頂きたい、と。」

「は?王太子妃?なるわけないじゃん。」

「何故?」



心底驚いた風な顔をして、剣士は私に問いかける。
私は溜息を吐いて、周囲に『遮音』の結界を張った。
周囲の音は拾えるけど、こちらの話し声は漏れない仕様。

明日は魔王戦だし、剣士と一対一だから、言いたいこと言ってやろうと思った。

そして、この会話で、最後の見極めをしよう。
そうとも、思った。



「・・・私は、元の世界に帰るもの。」

「何故、そのような・・・行く末は王妃となるのですよ?彼方の世界に帰るより、よほど・・・」

「私はそんなの求めていない!」



最初から、全く噛み合わない会話にイライラして、私は思わず声を荒げた。



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