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しおりを挟むティグレさんの口から響いた私の名前。
その名前を呼ぶ、声色が、イントネーションが、いつもと違っていて。
でも、聞き覚えがあって。
ーーー そんな、まさか。
混乱する私の前でゆらりと起き上がったティグレさんは、両手で私の顔を挟み込んだ。
私を写す、琥珀色の瞳が揺れる。
「ーーー ホントに、桜、だ。会いたかった。」
へにゃり、と泣きそうな顔で笑う顔が、懐かしくて。
私は、その名前を口にした。
「琥太郎、くん、な、の?」
「あぁ・・・思い出した。俺さ、桜の事が心配で、転生したんだ、きっと。良かった。ホントに、桜の所に来られた。」
ぎゅう、と、私を抱きしめる仕草が、記憶の中の琥太郎くんとおんなじで。
私は彼に縋り付いて、大声で泣いた。
***
私が落ち着いてから、彼はゆっくりと私がいなくなった後の事について教えてくれた。
元の世界では、私は行方不明者扱いとなって。
警察も出て捜索になったけど。
結局手がかりは何もなく、捜索は打ち切られた。
神隠しにあった
世間ではそう言われたけど。
口さがない話では、琥太郎くんを犯人扱いするような話まであったのだそう。
私の姿が消えた時、道路に私の鞄が落ちていて。
琥太郎くんはすぐに私の家に乗り込んで、お母さんと、弟の健と妹の椿に会っていて、アリバイもしっかりしていた。
それに、私の住んでいた家の周囲は、お店や個人事務所のような所が多くて、個人的な監視カメラも多くあったみたいで。
琥太郎くんに送ってもらって、召喚された後の時間のカメラには、どこにも私の姿は映っていなかった。
だから、容疑者候補からはすぐに外れていた。
でも、噂は根深くて、琥太郎くんを目の敵にしていた私を虐めた学校の人達や、他校の空手部の人達が、いつまでもそれをネタにぐちぐち言っていた、と。
だけど、健や椿は、『姉の彼氏』だった琥太郎くんに懐いていて。
真っ先にその噂を否定して歩いていたのだそう。
それから、8年以上が経過して、私は失踪人から死亡人扱いとなった。
その間、私の家族と琥太郎くんの家族達は、家族ぐるみで交流していて。
琥太郎くんのお宅は、琥太郎君が小学生の時にお母さんを病気で亡くしていて。
事故でお父さんを亡くした私のお母さんと、琥太郎くんのお父さんが良い仲になるのは時間の問題だったみたい。
私がいなくなって10年が経過して、1番年下の椿が就職して。
お母さんと、琥太郎くんのお父さんは再婚した。
その後、琥太郎くんの2人のお兄さんも、健も椿も、良いパートナーに出会い、それぞれに結婚して、子どもにも恵まれた。
でも琥太郎くんは、自分はずっと結婚しなかった、と話した。
琥太郎くんのお父さんと同じ柔道整復師の資格を取って。その上、健康運動指導士、管理栄養士の資格まで取り、プロスポーツ選手の個人トレーナーとして海外を渡り歩いていた、と。
甥っ子姪っ子達も懐いてくれて、可愛がったけど。
でも、自分の子どもはいいや、って、思っていたって。
「何で?琥太郎くんとなら、結婚したい人なんていっぱい、いたでしょ?」
だって、彼は強面だけど優しいから。
・・・私と付き合いはじめてから、粉かける子いたの知ってたし。
そう思い出して、少し拗ねる口調になってしまう。
「んー?何かさぁ、自分が他の誰かと家庭を作るイメージがつかなかったんだ。だから、独身貴族でいた。」
「え、何で?」
反射的に聞いてしまった。
だって、琥太郎くんは、良いお父さんになるイメージしかなかったから。
でも、琥太郎くんから話されたのは、トンデモナイ事実で。
「いや、さぁ。なんとなく付き合ってみる事もあったケド。なんつーか、さ・・・申し訳ない程に、誰にも反応しねぇんだもん。」
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