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開き直っても大変だ(カンSide)
120.美味しい食事(+ コウ視点)
しおりを挟むレザリック先生の言葉に、皆の止まっていたフォークが動き出す。
「ほら、コウ。とりあえず食べな。」
やれやれ、と席についたコウさんに、レザリック先生がトマトスープの器を渡す。
「いただきます。」
彼は、はく、とスプーンで掬ったスープを口に運ぶ。そのまま、一気にもぐもぐと食べていく。
そして、器のスープが無くなると、ぽつり、と呟いた。
「これは・・・?」
「あ、気がついた?お疲れな人間が食べると一番分かるよね~。そのスープ、ウチのもう1人の『黒持ち』の作。」
ベネリさんが、さらっと説明する。
そのあと、イズマさんが続けた。
「昨日、森に行ってきたら、リンがビガディールを仕留めていて。暇だから新たに作ってみた、と。
何種類か薬草が入っているのと、本人のスキルの所為なのかは分からんが、かなりデタラメな疲労回復効果だ。」
「酷いよね、上級回復ポーション並の食べ物だよ?しかも、オマケに痛み軽減、食欲増進、安眠効果だって。なんぼ付与してんだって。」
クスクスと笑いながらベネリさんが話す。
師匠が、ミートソースのパスタを頬張りながら、首を傾げる。
「ポーション作りは、カンの方が得意なんだけどな。料理を絡めた付与となると、とんでもないモノ作ってくるんだよなぁ、アイツは。
レザが作る料理だって、付与ついてんのになぁ。」
「俺が作るのより、数段上の付与だねぇ。」
実際先生の作った、アクアパッツァだって、疲労回復効果があるし、美味しい。
でもリンさんのミートボール入りトマトスープは、それ以上のモノだった。
「・・・このソースにも、体力増強か?ガルの効果だろうなぁ。」
「また、レシピ登録が増えますね。スープやソースなら、食堂でも提供しやすいですし。」
ロイドさんがため息を吐く横で、ザイルさんがニコニコしている。
みんなが、付与料理について、そしてソレを作るリンさんについて思い思いに話す中、コウさんは、ミートソースのパスタを食べ、またトマトスープに手をつけた。
黙々と食べる姿は、疲れてるのと、お腹が空いているのかと思ったのだが。
彼は、何処か嬉しそうな、それでいて何かを堪えるような顔をして、スープを口に運んでいた。
「コウさん?どうかしましたか?」
その姿はまるで、今にも泣き出しそうに見えて。
思わず、声をかけてしまった。
彼は、びくっ、として顔を上げる。
「・・・ん?何だい?」
「あ、いや・・・お疲れですか?」
「あぁ、ごめん。ちょっと考えごと。・・・何だか、懐かしいような味がして。何処で食べたのかなって、考えてた。」
「そ、ですか。コウさん、色々旅してるから、その先で食べたんでしょうか?」
「うん。そう、かも。・・・美味しい、なぁ。」
そう言って、彼はまた目を伏せた。
歯切れの悪い彼を見るのは初めてな気がしたが。
逆にその姿に、これ以上踏み込んではいけない気がして。
それ以上は、話を振れなかった。
その後は、ロイドさんを弄る飲み会の様相になり。
明日に向けての気持ちの準備のため、いい時間でお開きとなった。
***
例の『黒持ち』の彼女が作ったというスープを飲み、ポーションを使ったかの様な回復具合に驚いたが。
・・・それよりも。
何より自分が焦がれてやまなかった味が、そこにあった。
自分も料理をしたが。
鈴の作るスープだけは、真似出来なかった。
滋味に溢れ、腹の底から元気になるような、そんな味。
・・・死期が近くて、流動食くらいしか食べられない時に。無理を言って差し入れてもらったスープ。
『会長達から、鹿貰ったのも入れちゃった。獣臭かったらゴメン。』
って微笑みながら食わせてくれた、あの味で・・・
「コウさん?どうかしましたか?」
カン君の声に、我に返る。
・・・多分、泣きそうな顔をしていた。
彼は察しが良いのか、自分が少し返答すると、それ以上は聞かないでくれた。
『美味しい?元気になれそ?』
ーーー うん。美味しい。
あの時、頷くだけで声に出来なかった。
『このスープで、こーくんの悪いモノ全部無くなっちゃえば良いのに。』
そう言って、目を伏せた彼女。
でもね。
あの頃は、抗がん剤も痛み止めも効かなくなり、眠りも浅い日が続いてたけど。
あのスープを食べた日だけは、よく眠れたんだ。
「・・・美味しい、なぁ。」
今なら、伝えられる。
ーーー 会いたい。
凄く、会いたい。
会って伝えたい。
君は、変わってないだろうか?
自分が居なくなったこと、気に病んでいないだろうか?
もし今でも思ってくれているのなら。
幸せじゃない君を見るのは悲しいけど、
それが自分の所為なら、
少し、嬉しい。
*
「大丈夫か?コウ。」
みんなが帰った後、食事会の片付けを手伝っていると、先生に声をかけられた。
こく、と頷く。
・・・ホントは、大丈夫じゃない。
イズマさんと一緒に、森へ向かいたい。
今すぐにでも行きたい。
頷いたまま俯く俺の頭に、ポン、と手が置かれる。
「もうすぐ、会えるさ。」
そのまま、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「ーーー うん。」
一粒だけ、涙が頬を伝った。
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