悪役令嬢は浪人生〜破滅フラグ以前に舞台の学園の入試に落ちました。ごめんヒロイン、卒業パーティーには行けません。私は今、予備校で勉強中です〜

凛海

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8.悪役令嬢は入学試験不合格後に予備校の存在を知る

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「どういう事だキュルケェェッッッッ!!」

 半狂乱のハゲ親父が怒鳴りながらソファーに座ったまま私のワイングラスを投げつける。
 ソファーから数メートルも無いところに立たされていた私にそれは容赦無く叩きつけられる。ガラス製のそれは私の頭部に当たると同時に粉々に砕け、その中身だったワインとは別の赤い液体を私の頭から流れ出させる。

 痛みはあったが、耐えられないほどのものではない。まさか父親に当たる男にワイングラスを投げつけられる日が来るとは夢にも思わなかったが、実際にそれが現実となった時、私が感じたのは「当然のリアクションだ」という事だけだった。

「貴様は今まで何をしていたっ!部屋に篭り続けた結果がこれなのかっ!!」

 叫ぶハゲ親父の隣では私の母に当たる女性……ゲームでは実は一度も出て来なかったため、実は私は彼女の名前を知らない。フィルマも奥様呼びで、ハゲ親父に至ってはお前呼ばわりだ。そんな彼女がハゲ親父の隣で少し怯えながら、自分の旦那の怒りを目の当たりにしている。夫が怒り狂ってワイングラスを娘に投げつけようとも、それを止める事もせずにただ見ているだけの彼女の姿から、私はこの家の力関係を知った。

 何故こうなったのかは言うまでもない。
 私が試験を終えて王立第一魔法学院から自宅に帰った数時間後に、学院から馬に乗った使いの者がやって来たのだ。そして彼の役目は……自明の事だ。

 一次不合格者である事が記された手紙を受け取ったハゲ親父は怒り狂い、私をダイニングルームに呼び出してそのまま怒鳴りつけているのだ。

 ハゲ親父は怒り狂い、私はこの先の事を考えて絶望し、母は……

 母は直前までハゲ親父と話していたせいで、この険悪な空間に巻き込まれたようだった。しかし自分の娘が入試に失敗したのだから、どちらにせよこの場の来る事にはなっただろう。

「今まで貴様にどれだけの金をかけてやったと思っているっ!!」

 ハゲ親父はソファーの前のテーブルに置いてあった別のワイングラスに手を伸ばした――が、それは遮られた。

「いけませんわ!!これ以上キュルケに傷を付けてはなりません!!」

 ハゲ親父の右手ががっしりと掴まれている。
 掴んでいるのは私の母だ。

「邪魔をするなマリア!ワシはこの出来損ないを痛めつけなければ気が済まんのじゃ!!」

 どうやら母の名はマリアと言うらしい。

「あなた!おやめください!!きっと何か原因があるはずですわ!!キュルケが基礎知識不十分者だなんて、おかしいではありませんか!そうでしょう、キュルケ!?」

 母が私に問いかけてくる。
 だけど私は返す言葉を持たない。

「それ見た事か!こんなろくでなしなど我がアレイドル家には必要無い!!今すぐ出て行け!!!」
「あなた!」

 ふたつ目のグラスが私の頬を掠める。

 クソ親父め……顔を狙いやがった……

 どうやら彼は本気でお怒りのようだ。君フォルの世界に放り出された私は、まともにプリンス達に会う事もなくホームレスになってしまうのか……

 私がそう絶望し、だがそこで母の口から予想外の言葉が飛び出した。

「あなた!!……もう一度キュルケにチャンスを!サラム先生の下で学ばさせればキュルケもきっと!!」

 誰だそれは。

 サラム先生?

「ふざけるな!これ以上ワシにこのクズに金を出せと言うのかっ!!」

 娘に対してクズ呼ばわりとは。
 母の言葉に一瞬希望を持ったけど、父はもはや私の事など気にかける様子はない。だがそれでも母は私を庇った。

「構いませんわ!私が寮費も授業費も払いましょう!」

 ……ん?

「……好きにしろ!!」
 
 ハゲ親父はそう吐き捨てて部屋を出た。ダイニングルームに残されたのは母と私だけになったが……それよりも寮費やら授業費やらといった言葉が気になった。

 私は恐る恐る口を開き、母に問いた。

「あ、あの……」
「……何かしら、キュルケ」

 母はその端正とした顔を私に向けて、私の次の言葉を待っている。
 しかし彼女からすれば私が何を問いたいのかは自明だろう。それ以上言葉を発する事はない。

「その……寮費……とは?」

 母はその言葉を待っていたかのように、途端に微笑み、声を発した。

「これから1年間。貴女にはサラム先生の予備校に通ってもらうわ。『耗筆塾』は全寮制になっているから、寮費はその分のお金よ」











「ボ、ボロい……」

 それが私が耗筆塾の寮を見て最初に感じた事だった。

「ハハハ。最初にここを見た方はみんなそう仰るんですよ」

 隣にいたジイサンが笑う。

 ……やべ、聞かれちった。

「あ、いえ、あの、そういう事では……」
「いやいや構いませんぞ。儂らもそろそろ建て替えなければいかんと思っとりますからな」

 咄嗟に誤魔化そうとしたけれどもジイサンはそうはさせなかった。

「さ、それじゃ中に入りましょうか。どっちにしろキュルケちゃんにはここで一年暮してもらうのじゃからな」

 そう言って彼はその木造のボロ屋……っといけない。耗筆塾の女子寮に入っていった。
 女子寮なのに男が入っても良いのかと私は思ったが、彼は気にする様子もなくどんどん奥の方へ進んでいき、私は慌ててそれを追いかけた。

 昨晩、母から予備校に入れると言われた私はそのまま荷物をまとめさせられ、そのまま翌朝には予備校の寮の前に荷物と共に置いていかれた。随分と手際が良いなと思ったけれど、そうしなければ私は今頃家を追い出されて路頭に迷っていただろう。

 とにかくそんな訳でその予備校……耗筆塾の寮にやって来た私だったが、その2階建ての木造の建物はあまりにもボロい外観をしていた。

 外観はボロかったが、意外にも中は小綺麗だった。となるとボロいと思ったのは壁に張り付いた植物達のせいなのか。内部をこの状態にできるのならば、外壁部も綺麗にすれば良いのに。

 そしてグングンと進んでいたジイサンはやがて2階のある部屋の前で立ち止まった。荷物を持って進んでいた私は階段を登った時点でかなり息が上がっていたが、そんな私の様子を気にする事なく彼は口を開いた。

「ここがお前さんの部屋じゃよ。えーっとぉ……ほれ、これが鍵じゃ」

 そう言ってジイサンは私にチープな鍵を渡した。
 ……なんだこれは。子供のおもちゃと間違えてないか?

 そう思ってしまった私だったが、ジイサンはそれを見抜いたようだ。

 カッカッカと笑った彼はそのまま言葉を続けた。

「それは魔法の鍵じゃよ。形よりもそこに刻まれた魔法式が意味を持つのじゃ」

 なるほど。
 さすがは魔法世界。そんなモノが存在するのか。

「それよりもほれ。これがこの寮でのルールが書かれたモンじゃ。飯の時間やら場所やらも書いてある。ちゃんと確認しておくでな」

 私は遠足のしおりのような物を渡された。数枚の紙がまとめられた簡易的な物だったが、表紙には耗筆塾女性寮用とだけ書いてある。どこまでもシンプルなモノである。

「それじゃワシはこれまでじゃ。今後のことはそれに書かれておるぞ」
「あ、は、はい!ありがとうございました!」

 私の言葉を聞いた彼はそのまま階段を降りていき、私だけがその場に取り残された。

 いつまでもここに立っていてもしょうがないと思った私は、恐る恐る鍵を差し込み、自分に割り振られた部屋に入っていった。

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