誘惑系御曹司がかかった恋の病

伊東悠香

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2章

7話 再スタート2(最終話)【SIDE 瑞稀】

陽毬の肩は震えていた。
俺の愛を受け入れてくれると言ったけれど、どこかまだ構えているところがあるんだろう。
それに自分の告白も、半分脅しみたいなものになってしまったし。

(つくづく、俺は恋愛初心者だな)

隠せない独占欲は幼稚で未熟である証のようにも思うし。
今までこんな気持ちになったことがないから、どれが大人の恋愛なのかすらわからない。

(そこは陽毬の方が先輩なのかもしれない)

そんなことを考えながら陽毬の唇にもう一度口付けしようとした時——

ピロンッ

陽毬のスマホがメール着信を知らせた。
瞬間、彼女の顔がこわばる。

「ご、ごめんなさい。マナーモードにするの忘れてて」
「謝らなくていいけど」
(でもなんで慌ててる? まさかまだあの男と繋がってんの?)

いくらなんでも、別れたと言っている陽毬の言葉を疑うのは俺も気が進まない。
でも心の中は、ざわめいている。

「陽毬」
「はい」
「携帯、見ていいんだよ」
「でも、今は……」
「いいから」

少し言葉の圧が強くなってしまったのは反省だが、彼女がまだあの男と繋がっているのかどうかは確かめたい。
陽毬は渋々カバンからスマホを取り出して連絡ツールを開いた。

「あー……お父さんからです」
「そう。先生なんだって?」
「しばらくぶりに食事を作ったから、一緒に食べようって」
「いいね。先生もお元気そうで何より」

(よかった、元彼じゃなかった)

俺がこんなことに一喜一憂しているなんて、陽毬は想像もしないんだろう。
でも真実の俺はこんなにも幼くて、恋愛に不慣れだ。
女性の官能を引き出すことはできても、ピュアな恋心というものには無縁で生きてきたせいだ。

(そもそも俺は陽毬に触れる資格、あるのか?)

そんな考えが浮上した途端、急に彼女に触れることがいけないことのように感じた。

「瑞稀さんも一緒にどうです?」
「陽毬……待って!」

駆け寄ってきた彼女をつい、手で制してしまった。

「瑞稀……さん?」
「ごめん。俺……ちょっとおかしいな」
(焦り? 罪悪感? 今まで一度も感じたことのない感覚だ)
「私、何か変なこと言ってしまいましたか」
「そうじゃない。陽毬がどうとかじゃないんだ」
(自分の過去を後悔しても仕方がないのに、猛烈に嫌気がさしている)

女性と真剣に向き合わず、たくさんの人を悲しませたと自覚がある。
きちんと付き合わず無言で去ることで、相手にわかってもらおうとした。
けれど、もし真剣に想ってくれた相手がいたら、きっと消えない傷になっただろう。

(こんな俺が……陽毬の過去の男をどうこう言える立場じゃない気もする。でも、彼女を諦めることはできない)

「陽毬……」

唐突に襲ってきた罪悪感の痛みに耐えながら、どうにか声を振りしぼる。

「まず……今日のことだけど」
「はい」

俺の挙動がおかしいせいで、陽毬も不安そうにしている。
この子は、相手の不安を自分のものとして受け留めてしまうタイプだ。
線引きがないせいだとは理解できるが、線を引きすぎる俺は逆のタイプだから同じ苦しみを抱えているとも言える。

(一緒に……ちょうどいい距離感を探していけないだろうか)

「先生のところには行けない」
「そう、ですか……お忙しいですもんね」
「そうじゃなくて。俺は……陽毬と、ゼロからやり直したいと思ってるんだ」
(だから先生に陽毬との関係を認めてもらうのは、段階的にはまだ早いっていうか)
「まだ君をよく知らなかった、俺の店でワンピースを買ってくれた瞬間から……やり直したい」
「っ、あの時のこと、覚えてらしたんですか?」
「実は覚えてた」

わざと知らんふりをしたことを暴露してしまった。
俺の根性の悪さを少しは実感した方がいい。そんな憧れられるような性格でもないんだ。
でも陽毬はガッカリというよりは納得したような顔で頷く。

「そういうことでしたら、私もそうしたいです」
「いいの? 手を握るところから……みたいな、関係から始めようって言ってるんだよ」
「ふふ、稀さんともう一度最初から恋ができるなんて……すごく嬉しいですよ」
「そっか……よかった」

気が抜けて思わず笑うと、陽毬も自然な笑みを見せた。
緊張も遠慮もなく、お互い平等なラインで向き合えている空気を感じた。

「陽毬、君のことが好きだよ。もっと君を深く知りたい……ゆっくりとね」

リセットした気持ちで陽毬に手を差し伸べると、彼女も頷いて手を握ってくれた。

「はい。私も瑞稀さんを深く知りたいです。たくさんデートもしたいです」
「もちろん。早速、今週末空けるから、デートしよう」
「はいっ!」

嬉しそうに返事をした陽毬の笑顔は、輝く太陽のような明るさだった。
この暖かくて眩い太陽を、俺の持つ闇で消してしまわないようにしなければ。

「陽毬……ありがとう。大切にする」

そっと髪を撫でて微笑むと、陽毬の方から胸に飛び込んできた。

「っ、陽毬!?」
「ごめんなさい。ゆっくりなのはわかってますけど、今は瑞稀さんに抱きしめられたくて」
「……うん」
(俺も君を抱きしめたい)

大切にぎゅうと抱きしめてやると、彼女の髪からは柔らかなお日様の匂いがした——


END





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