あなたの隣を独り占めしたい

伊東悠香

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2章

佐伯の過去(彼目線)3

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(繋がるほど虚しい)

 その思いに突き当たった頃。
 アラサーと呼ばれる年齢になってからは、もう誰の誘いも受けなくなって仕事にしか興味がなくなった。
 せめて何か趣味があればよかったが、酒意外に虚しさを紛らわすものが見つからない。

 そんな日々の中で、小さな光として存在していたのが槙野だった。

 そのきっかけは、ある日槙野が突然「誕生日おめでとうございます」とコーヒーを出してくれたことだ。
 皿にはアーモンド味のキャンディが添えられている。

「……誕生日?」
「あれ、今日って佐伯さんの誕生日ですよね。昨日、書類見て偶然知ったんです」

 槙野は嬉しそうにそう言って微笑んでいる。

(他人の誕生日なんかを祝おうって、なんで思えるんだ?)

 祝われた経験はほとんどないし、大人になってからは自分が何歳なのかもあまり意識していなかった。
 だからこそ、唐突に祝いの言葉をもらって驚いた。
 しかも槙野には他の女性にあるような、俺に気に入られようという下心が一切見えない。

「佐伯さん?」

 俺がずっと黙っているから、槙野は困った顔をした。

「あの、迷惑でしたか」
「いや、そういうわけじゃないけど。仕事中だし。これからは、こういうのはいいよ」
「あ……そうですよね。すみません、仕事に戻ります」

 遠慮気味に微笑むと、槙野はペコリと頭を下げてすぐに去って行った。
 その後ろ姿を見ながら、なんだか不思議な感覚になる。

(槙野って確か……25歳くらいだったか? 驚くほど純粋で真っ直ぐな目をしてるんだな)

 彼女への微かな興味が湧いたのはこの時だったように思う。

 そんな槙野が婚約破棄をされたと言って憔悴しきっているのを見かけた時、俺はどうしても彼女を放っておくことができなかった。
 槙野を振った男に対してはバカだなとしか思えないが、だからといって傷心の彼女につけ入って心を自分へ向けようという気はほとんど抱いていなかった。
 
(俺は槙野に相応しくない。あの純粋な心を、俺の手で汚すことはしたくない)

 親父のこと、佳苗さんとのことなどで自分の中に巣食っている嫌悪が、そんな気持ちを強くしていた。

 俺としては槙野が日々笑顔でいてくれたらそれでよかった。
 その笑顔を見ているだけで、どこかほっとしている自分を感じていたから。

 でも今……本当は誰かに奪われるのは嫌だと思っていた自分に気づいてしまった。

***

「結構前から、好きだったんだと思う……槙野ことを」

 最後にそう伝えたら、槙野は目元を真っ赤にして口だけぱくぱくさせていた。
 そんな姿も可愛いと思うっていうのは、もう結構本気なのかもしれない。
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