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2章
3話 ごまかせない気持ち(3)
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恋がうまくいかないからって命をとられるわけじゃないだろうって思う人もいるかもしれないけど、今の私はマーくんなしでは生きていけないと感じる。
泣きむしなのは蘭だと思ってきたけど、私の方が実はとんでもなく泣きむしで弱かった。
皆、同じ屋根の下で暮らしながら心は一つじゃなかった事が分かってしまい、お父さんへの失望と怒りが、私の心をどん底に突き落としていた。もし、今回のタイミングでマーくんが現れてくれなかったら、私は何か世界を歪めて見ながら生きる事になりそうだった。
「蕾、これ全部お前が食べたやつ?」
マーくんがビックリした顔で、カップラーメンの空がぎっしり入ったゴミ袋を見ている。
「うん。スチロールの回収日って週に1回しかないじゃない?それで出し忘れた日とかあって……ためてしまいました」
「いや、そういう問題じゃなくて!」
声を大きくして、マーくんが大人ぶった説教を始めた。
「蕾はまだ成長途中の大事な体なんだからな?カップラーメンだってたまにはいいよ。でも、せめて卵入れるとか、温野菜のせるとか……工夫して食べないと。今は良くても、将来病気になったら大変なんだから」
ガミガミ私を怒る彼の声すら嬉しくて、私は説教を受けながらニヤニヤしてしまう。
「聞いてるの、蕾?」
「あ、はいはい。聞いてます」
真面目に怒ってるのに、私がまるっきり顔を引き締めないからマーくんは余計怒る。
この人は…元来の世話女房なんだろうか。気質が男っぽくないっていうか……女性みたいなところがある。
だから、私はまーくんに思い切り甘えたいという気持ちが抑えきれない。
「蕾は女の子なんだから、体大事にしないと、赤ちゃん産む時の事も考えて必要以上に痩せるのもやめて欲しいんだけど」
「赤ちゃん!?」
私は、確かにここ数週間で3キロ落ちていて、見た目にもゲソッとしているかもしれない。でも、将来の妊娠にまで結びつけて考える事はなかった。
マーくんはどこで学んだのか分からないけど…相当女性の性とかに詳しいみたいだ。
「まあ……これからは俺が蕾の健康管理をするから、いいけど」
そうつぶやいて、彼は手つかずの野菜を使って何かを作りはじめた。
私はその後ろ姿を見ながら、ドキドキが止まらなかった。
“蕾の健康管理する”って言った?
「マーくん!」
私は彼の言葉の意味を確かめたくて包丁を持った彼の隣に立った。
「何?」
「あのさ、あの……マーくんは私とこれから一緒に暮らしてくれるの?」
「そうしなきゃ蕾が栄養失調で死んじゃうだろ?」
冗談っていう訳でもなく、わりと真剣な顔で彼はそう言った。
「この家で?」
「いや、この家は父さんのものだし…可能なら、蕾を俺のアパートに呼びたい」
やっぱり朝比奈の籍を抜いてしまったのだから、この家で暮らす事は出来ないと考えているみたいで、マーくんは、真面目な顔でそう言った。
私がここを出たら、お父さんは何て言うだろうか。
自分の事を棚に上げて、マーくんと暮らしている事を怒るような気もするけど…そんなの今の私には全く恐れに値する事では無い。
「……美咲さんは?」
私は聞こうかどうか迷っていたけど、やっぱりこの事はハッキリさせたいと思って口にした。
マーくんの顔色が一瞬曇る。
彼女との関係がクリーンになったから、ここに来たという訳でもなさそうだ。
「実はその事で少し考えないとって思ってるんだ」
「どういう意味?」
マーくんが今日顔を出したのは、私がこの家でお父さんとも何とかうまくやっていて、元気に過ごしているのを確認する為だったようだ。
でも、予想外に私がダメダメになっているのを見て、このまま家に一人きりにする訳にはいかない……という気持ちに切り替わったのだと言った。
「美咲は……ちょっと普通の女性と感覚が違うんだ」
「え、気は強そうだったけど……別に可愛い普通の人に見えたけど」
私がそう言うと、マーくんは鍋で野菜を煮込みながら首を横にふった。
「いや、普通じゃない。強引に別れたけど今も毎日アパートに訪ねて来るし。変更した携帯番号も何故か知られていて、メールと着歴すごい事になってるんだ」
ストーカー!?
私の頭に思い描かれたのは、そういう図だった。
もう単純に「好きです」という域を超えた行動だ。
試しに私はマーくんの携帯を見せてもらった。
「この……ミサっていうのが美咲さん?」
「そう。彼女が勝手に自分の名前と番号を登録した」
マーくんは調理を一時休止して、キッチンテーブルに座ると”ハア”とため息をついた。
”ミサ”という名前の着歴が延々と並んでいて、他は時々お母さんの番号が入っている程度だった。そして、メールはもっとすごい事になっていて、1時間置きぐらいに勝手な相手の妄想メールが入っている。
それに対するマーくんの返事はゼロ。
「最初はきちんと断りの返事を返してたんだけど、全く通じてないみたいだったから…もう最近は全部無視してるんだ」
「……」
私は美咲さんの人格の異常さを感じて、軽く怖くなった。
こういう思考回路の人は、相手が迷惑してるなんて全然頭に入れないのだ。そして、物事を自分の都合のいいように解釈する。
私がマーくんのアパートにいたら…どういう修羅場になるのか。
「引越しも考えたけど、あの人の事だから…多分引っ越し先も探り出すだろうし。とにかく今は玄関より中には入れないようにしてる」
「……」
マーくんは、女をとことん夢中にさせる魔力でも持ってるんだろうか。
私は黙って彼の言う事を聞いていた。
「こういう事情だから、アパートに蕾を呼んだら、お前に被害が及ぶ可能性を考えると…ちょっと迷うよ」
確かにそんな普通の感覚を逸脱した人となると、マーくんと一緒に暮らしてどうなるのか想像がつかない。
でも、多少の戸惑いはあったものの、私の答えに揺らぎは全くと言っていいほど無い。
「平気。美咲さんがどれだけ私に恨みを向けても…私は平気だよ」
笑顔すら見せてそう言った私を見て、マーくんは少し驚いている。
「ここで、一人カップラーメンすする生活続けるぐらいなら、美咲さんに意地悪される方がいい。マーくんと一緒にいられるなら、どんなひどい言葉を投げられても平気」
「そんな事させないよ」
マーくんが怒った顔で、私の言葉の途中にそう言った。
「うん。マーくんが守ってくれるしね。だから、美咲さんの件は私の中でちゃんと承諾したから」
「最初からハッキリ断っておけば良かったんだけど、中途半端に付き合ったから彼女の中でも俺を許せないのかもしれない」
美咲さんがストーカーになってしまった事に、自分の責任もあるとマーくんは思っている。
でも、私は恋愛は相手を恐怖で縛り付けても意味が無いと思う。
最初から心が無い状態で無理に付き合いを強要してきたのは美咲さんだ。
マーくんは、お父さんと家族の為に心の入らない付き合いをしてしまった。それを彼は悔いているみたいだけど…やっぱり、私から見たらマーくんは被害者だと思う。
私は、蘭よりもっと強烈なライバルを相手にしなければならなくなったようだ。
でも、マーくんの気持ちが自分にあると分かっているだけで十分戦えると思っていて…何があっても彼を手放す気持ちはない。
二人で野菜たっぷりのスープを飲んで、簡単な夕食を終えた。
リビングでぼんやりテレビを見ながら、私達はソファで手を繋いでいた。
心臓がドキンドキンと鳴っているのが分かる。
マーくんといると、どうしてこんなにドキドキするんだろう。ずっと一緒に暮らしてきたし、恋に賞味期限があるならもう少し落ち着いてもいいような気がするんだけど。
やっぱり、片思い期間が長過ぎたのが原因だろうか。
「蕾、テレビ……見てる?」
クイズ番組で観客が笑う場面が映っても全く反応を示さない私を見て、マーくんがそう言って顔を覗き込んできた。
「マーくんこそ見てるの?これ、さっぱり回答が分からないよ」
「ああ、そうだね。質問がくだらなすぎて、答えを考えるのも面倒な感じ」
ここまでお互いテレビをつまらないと思っているのに、何故見ているのか、二人が同時に同じ事を考えた。
「消していい?それとも他に見たいのある?」
リモコンを手にして、マーくんは新聞のテレビ番組が載っているページを見る。
「マーくんの顔が見たい」
「……え?」
私の言葉のせいで、マーくんの動きが止まる。
「ずっと、マーくんだけ見ていたい。今までも随分見てきたけど、ずっと距離のある場所でしか見られなかったから……すごく近い場所でマーくんを見ていたいよ」
すっかり泣きむしを表に出してしまった。
彼の顔が涙でぼやける……。
「蕾、俺達ちょっと普通の男女とは違う関係だから……苦しむ事が多いかもしれない。それでも、俺を選んでくれるの?」
テレビの電源を切って、彼はそっと私を抱きしめる。
半分ぐらいは「お兄ちゃん」という気持ちでやってきたけど、今の私にとってマーくんはもう100%恋しい男性だ。
もう……兄とは思えない。
もう……引き返せない。
「当たり前。何度も言ってるじゃない。マーくんが私の全てなんだって。マーくんこそ、私からもう離れないって約束してくれる?」
彼の背中にまわした手に力を入れて、私はしつこいほど彼の心を確認する。
「うん。もう離れないよ」
「好き?私の事……好き?」
「うん。好きだよ」
私の質問攻めを受けて恥ずかしくなったみたいで、体を離そうとするマーくん。
そうはさせまいと、私はますます彼に強く抱き付く。
「それって、妹としてじゃなくて、ちゃんと一人の女として好きになってくれてるって事だよね?」
「これ以上、照れる事言わせるなよ……」
マーくんは私の質問に答える代わりに、優しくて……とろけるような甘いキスをしてくれた。
もう、頭が真っ白になるくらい、彼とのキスに夢中になった。
問題はまだ解決はしていない。
私やマーくんのこの先数年かかる学費をどうするかという事もあるし。
延々あきらめを見せない美咲さんに対して、どう対応していけばいいかという事もある。
兄妹だったとはいえ、異性と同姓しているようなかたちになる私達を、周りはどう見るのか……そういう不安もある。
でも、今私にはマーくんがいるという事実だけで全ての問題を乗り越える勇気を持てている。
彼だって中途半端に私を好きだと言っている訳ではないだろう。
二人なら乗り越えられる。きっと……二人の絆さえ固ければ、大丈夫。
私は、『少女』から『大人の女』へ少しずつ変化していく自分を感じていた。
泣きむしなのは蘭だと思ってきたけど、私の方が実はとんでもなく泣きむしで弱かった。
皆、同じ屋根の下で暮らしながら心は一つじゃなかった事が分かってしまい、お父さんへの失望と怒りが、私の心をどん底に突き落としていた。もし、今回のタイミングでマーくんが現れてくれなかったら、私は何か世界を歪めて見ながら生きる事になりそうだった。
「蕾、これ全部お前が食べたやつ?」
マーくんがビックリした顔で、カップラーメンの空がぎっしり入ったゴミ袋を見ている。
「うん。スチロールの回収日って週に1回しかないじゃない?それで出し忘れた日とかあって……ためてしまいました」
「いや、そういう問題じゃなくて!」
声を大きくして、マーくんが大人ぶった説教を始めた。
「蕾はまだ成長途中の大事な体なんだからな?カップラーメンだってたまにはいいよ。でも、せめて卵入れるとか、温野菜のせるとか……工夫して食べないと。今は良くても、将来病気になったら大変なんだから」
ガミガミ私を怒る彼の声すら嬉しくて、私は説教を受けながらニヤニヤしてしまう。
「聞いてるの、蕾?」
「あ、はいはい。聞いてます」
真面目に怒ってるのに、私がまるっきり顔を引き締めないからマーくんは余計怒る。
この人は…元来の世話女房なんだろうか。気質が男っぽくないっていうか……女性みたいなところがある。
だから、私はまーくんに思い切り甘えたいという気持ちが抑えきれない。
「蕾は女の子なんだから、体大事にしないと、赤ちゃん産む時の事も考えて必要以上に痩せるのもやめて欲しいんだけど」
「赤ちゃん!?」
私は、確かにここ数週間で3キロ落ちていて、見た目にもゲソッとしているかもしれない。でも、将来の妊娠にまで結びつけて考える事はなかった。
マーくんはどこで学んだのか分からないけど…相当女性の性とかに詳しいみたいだ。
「まあ……これからは俺が蕾の健康管理をするから、いいけど」
そうつぶやいて、彼は手つかずの野菜を使って何かを作りはじめた。
私はその後ろ姿を見ながら、ドキドキが止まらなかった。
“蕾の健康管理する”って言った?
「マーくん!」
私は彼の言葉の意味を確かめたくて包丁を持った彼の隣に立った。
「何?」
「あのさ、あの……マーくんは私とこれから一緒に暮らしてくれるの?」
「そうしなきゃ蕾が栄養失調で死んじゃうだろ?」
冗談っていう訳でもなく、わりと真剣な顔で彼はそう言った。
「この家で?」
「いや、この家は父さんのものだし…可能なら、蕾を俺のアパートに呼びたい」
やっぱり朝比奈の籍を抜いてしまったのだから、この家で暮らす事は出来ないと考えているみたいで、マーくんは、真面目な顔でそう言った。
私がここを出たら、お父さんは何て言うだろうか。
自分の事を棚に上げて、マーくんと暮らしている事を怒るような気もするけど…そんなの今の私には全く恐れに値する事では無い。
「……美咲さんは?」
私は聞こうかどうか迷っていたけど、やっぱりこの事はハッキリさせたいと思って口にした。
マーくんの顔色が一瞬曇る。
彼女との関係がクリーンになったから、ここに来たという訳でもなさそうだ。
「実はその事で少し考えないとって思ってるんだ」
「どういう意味?」
マーくんが今日顔を出したのは、私がこの家でお父さんとも何とかうまくやっていて、元気に過ごしているのを確認する為だったようだ。
でも、予想外に私がダメダメになっているのを見て、このまま家に一人きりにする訳にはいかない……という気持ちに切り替わったのだと言った。
「美咲は……ちょっと普通の女性と感覚が違うんだ」
「え、気は強そうだったけど……別に可愛い普通の人に見えたけど」
私がそう言うと、マーくんは鍋で野菜を煮込みながら首を横にふった。
「いや、普通じゃない。強引に別れたけど今も毎日アパートに訪ねて来るし。変更した携帯番号も何故か知られていて、メールと着歴すごい事になってるんだ」
ストーカー!?
私の頭に思い描かれたのは、そういう図だった。
もう単純に「好きです」という域を超えた行動だ。
試しに私はマーくんの携帯を見せてもらった。
「この……ミサっていうのが美咲さん?」
「そう。彼女が勝手に自分の名前と番号を登録した」
マーくんは調理を一時休止して、キッチンテーブルに座ると”ハア”とため息をついた。
”ミサ”という名前の着歴が延々と並んでいて、他は時々お母さんの番号が入っている程度だった。そして、メールはもっとすごい事になっていて、1時間置きぐらいに勝手な相手の妄想メールが入っている。
それに対するマーくんの返事はゼロ。
「最初はきちんと断りの返事を返してたんだけど、全く通じてないみたいだったから…もう最近は全部無視してるんだ」
「……」
私は美咲さんの人格の異常さを感じて、軽く怖くなった。
こういう思考回路の人は、相手が迷惑してるなんて全然頭に入れないのだ。そして、物事を自分の都合のいいように解釈する。
私がマーくんのアパートにいたら…どういう修羅場になるのか。
「引越しも考えたけど、あの人の事だから…多分引っ越し先も探り出すだろうし。とにかく今は玄関より中には入れないようにしてる」
「……」
マーくんは、女をとことん夢中にさせる魔力でも持ってるんだろうか。
私は黙って彼の言う事を聞いていた。
「こういう事情だから、アパートに蕾を呼んだら、お前に被害が及ぶ可能性を考えると…ちょっと迷うよ」
確かにそんな普通の感覚を逸脱した人となると、マーくんと一緒に暮らしてどうなるのか想像がつかない。
でも、多少の戸惑いはあったものの、私の答えに揺らぎは全くと言っていいほど無い。
「平気。美咲さんがどれだけ私に恨みを向けても…私は平気だよ」
笑顔すら見せてそう言った私を見て、マーくんは少し驚いている。
「ここで、一人カップラーメンすする生活続けるぐらいなら、美咲さんに意地悪される方がいい。マーくんと一緒にいられるなら、どんなひどい言葉を投げられても平気」
「そんな事させないよ」
マーくんが怒った顔で、私の言葉の途中にそう言った。
「うん。マーくんが守ってくれるしね。だから、美咲さんの件は私の中でちゃんと承諾したから」
「最初からハッキリ断っておけば良かったんだけど、中途半端に付き合ったから彼女の中でも俺を許せないのかもしれない」
美咲さんがストーカーになってしまった事に、自分の責任もあるとマーくんは思っている。
でも、私は恋愛は相手を恐怖で縛り付けても意味が無いと思う。
最初から心が無い状態で無理に付き合いを強要してきたのは美咲さんだ。
マーくんは、お父さんと家族の為に心の入らない付き合いをしてしまった。それを彼は悔いているみたいだけど…やっぱり、私から見たらマーくんは被害者だと思う。
私は、蘭よりもっと強烈なライバルを相手にしなければならなくなったようだ。
でも、マーくんの気持ちが自分にあると分かっているだけで十分戦えると思っていて…何があっても彼を手放す気持ちはない。
二人で野菜たっぷりのスープを飲んで、簡単な夕食を終えた。
リビングでぼんやりテレビを見ながら、私達はソファで手を繋いでいた。
心臓がドキンドキンと鳴っているのが分かる。
マーくんといると、どうしてこんなにドキドキするんだろう。ずっと一緒に暮らしてきたし、恋に賞味期限があるならもう少し落ち着いてもいいような気がするんだけど。
やっぱり、片思い期間が長過ぎたのが原因だろうか。
「蕾、テレビ……見てる?」
クイズ番組で観客が笑う場面が映っても全く反応を示さない私を見て、マーくんがそう言って顔を覗き込んできた。
「マーくんこそ見てるの?これ、さっぱり回答が分からないよ」
「ああ、そうだね。質問がくだらなすぎて、答えを考えるのも面倒な感じ」
ここまでお互いテレビをつまらないと思っているのに、何故見ているのか、二人が同時に同じ事を考えた。
「消していい?それとも他に見たいのある?」
リモコンを手にして、マーくんは新聞のテレビ番組が載っているページを見る。
「マーくんの顔が見たい」
「……え?」
私の言葉のせいで、マーくんの動きが止まる。
「ずっと、マーくんだけ見ていたい。今までも随分見てきたけど、ずっと距離のある場所でしか見られなかったから……すごく近い場所でマーくんを見ていたいよ」
すっかり泣きむしを表に出してしまった。
彼の顔が涙でぼやける……。
「蕾、俺達ちょっと普通の男女とは違う関係だから……苦しむ事が多いかもしれない。それでも、俺を選んでくれるの?」
テレビの電源を切って、彼はそっと私を抱きしめる。
半分ぐらいは「お兄ちゃん」という気持ちでやってきたけど、今の私にとってマーくんはもう100%恋しい男性だ。
もう……兄とは思えない。
もう……引き返せない。
「当たり前。何度も言ってるじゃない。マーくんが私の全てなんだって。マーくんこそ、私からもう離れないって約束してくれる?」
彼の背中にまわした手に力を入れて、私はしつこいほど彼の心を確認する。
「うん。もう離れないよ」
「好き?私の事……好き?」
「うん。好きだよ」
私の質問攻めを受けて恥ずかしくなったみたいで、体を離そうとするマーくん。
そうはさせまいと、私はますます彼に強く抱き付く。
「それって、妹としてじゃなくて、ちゃんと一人の女として好きになってくれてるって事だよね?」
「これ以上、照れる事言わせるなよ……」
マーくんは私の質問に答える代わりに、優しくて……とろけるような甘いキスをしてくれた。
もう、頭が真っ白になるくらい、彼とのキスに夢中になった。
問題はまだ解決はしていない。
私やマーくんのこの先数年かかる学費をどうするかという事もあるし。
延々あきらめを見せない美咲さんに対して、どう対応していけばいいかという事もある。
兄妹だったとはいえ、異性と同姓しているようなかたちになる私達を、周りはどう見るのか……そういう不安もある。
でも、今私にはマーくんがいるという事実だけで全ての問題を乗り越える勇気を持てている。
彼だって中途半端に私を好きだと言っている訳ではないだろう。
二人なら乗り越えられる。きっと……二人の絆さえ固ければ、大丈夫。
私は、『少女』から『大人の女』へ少しずつ変化していく自分を感じていた。
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