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14話 暴かれる秘密(3)
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「どうしよう、あんなに混乱して。リュカ、どこへ行ってしまったんだろう」
心配になり、私も服を着なおすと部屋を出ようとドアまで歩いた。
するとノブに手をかけるより早くドアが開き、夜なのにアンリが入ってきた。
「アンリ?」
「……さっきここにリュカがいた?」
よろめきながら入ってくるアンリは、さっきリュカが身につけていた衣装と一緒だ。私は鳴り止まない鼓動を抑えながら、アンリに優しく尋ねる。
「リュカと会ったの?どうして夜なのに……ここへ?」
アンリはベッドにそっと腰を下ろすと、頭を軽く振った。
「僕は太陽だ。昼にしか活動しない……そう決めて、夜は記憶を失う生活をしてきたんだ。でも、ここしばらくそれがおかしくなってる」
「……どういうこと」
アンリの顔色は悪く、明らかに混乱している様子だ。私はなるべく刺激しないようにゆっくりと隣に座る。
「落ち着いて……焦らないで話してくれる?」
そっと手を握ると、それは驚くほど冷たかった。
「今までは夜の記憶なんて一切なかったんだ。でも、ここ数日、夜中に目が覚める。鏡の中には黒髪のリュカがいて、ベッドから降りて、ジュリの部屋へ行こうとしてるんだ……おかしいでしょ」
「……」
これは本当に私の仮説が合っていることになるのかもと、自分でも驚く。
(でも、二人が同一人物だからって私の気持ちに変わりはない)
私はアンリの隣に座り、優しく肩に手を置いた。
「何か理由があるんだね、アンリがリュカとして別に生きなければならなかった理由が」
アンリは言葉をすぐに理解できないようで、私のことを怯えたような目で見つめた。
「僕がリュカとして……生きなければならなかった?」
「そう。多分、あなたとリュカは同一人物なんだよ」
そう告げた途端、アンリは私の腕を力一杯払いのけた。その恐ろしいばかりの殺気に、身がすくむ。
「嘘を言うな!ジュリは結局あいつの味方なの」
「違うよ、前から言ってるみたいに、リュカはあなたの味方なの。だって……あなた自身なんだから」
必死に訴えるけれど、アンリの耳に私の声はもう届いていないようだった。
部屋をうろうろと歩き、独り言のように呟く。
「リュカは敵だ。あいつを嫌ってくれよ、少しも情をかけるな。僕は、アンリだけに愛を注ぐ女性を求めてるんだ……」
そう呟くアンリの髪が次第に黒くなり、表情もきつくなっていく。
私は怖くなって、もう何も言えなくなった。
(どうすればいいの……)
その時、耳元であの夢で聞いた王妃の声が響いた。
『アンリは可哀想な子……ジュリの愛でも、どうにもならない』
その言葉に私は猛烈な怒りが湧き、私は姿の見えない魂に向かって叫ぶ。
「あなた……母親でしょう。もっとアンリに言ってあげる言葉はないの?」
『可哀想な子で、哀れな子だわ……』
(違う、違う。可哀想なんかじゃない!)
私は心を彷徨わせるアンリを抱きしめ、涙を堪えながら王妃に反論する。
「アンリは立派な、優しい人だよ。リュカの要素も元はアンリの性格の一部だったはず……環境が彼を追い詰めたに違いない。そうでしょう?」
王妃の声はそれっきり聞こえなくなり、私に背中から抱きしめられたアンリが呆然とした様子で黒くなった片方の髪を握りしめている。
「アンリ……大丈夫?」
ゆっくり私に視線を向けると、彼は悲しそうに微笑んだ。
「ごめん……ジュリは僕が命をかけて守っていくつもりだったのに……できそうもないよ」
「アンリ、待って!」
アンリはヒュッと腕を払い、自分の周りに風を起こした。そのせいで私は近づくこともできない。
悲しそうに私を見つめると、そのまま風と一緒に部屋から消えてしまった。
心配になり、私も服を着なおすと部屋を出ようとドアまで歩いた。
するとノブに手をかけるより早くドアが開き、夜なのにアンリが入ってきた。
「アンリ?」
「……さっきここにリュカがいた?」
よろめきながら入ってくるアンリは、さっきリュカが身につけていた衣装と一緒だ。私は鳴り止まない鼓動を抑えながら、アンリに優しく尋ねる。
「リュカと会ったの?どうして夜なのに……ここへ?」
アンリはベッドにそっと腰を下ろすと、頭を軽く振った。
「僕は太陽だ。昼にしか活動しない……そう決めて、夜は記憶を失う生活をしてきたんだ。でも、ここしばらくそれがおかしくなってる」
「……どういうこと」
アンリの顔色は悪く、明らかに混乱している様子だ。私はなるべく刺激しないようにゆっくりと隣に座る。
「落ち着いて……焦らないで話してくれる?」
そっと手を握ると、それは驚くほど冷たかった。
「今までは夜の記憶なんて一切なかったんだ。でも、ここ数日、夜中に目が覚める。鏡の中には黒髪のリュカがいて、ベッドから降りて、ジュリの部屋へ行こうとしてるんだ……おかしいでしょ」
「……」
これは本当に私の仮説が合っていることになるのかもと、自分でも驚く。
(でも、二人が同一人物だからって私の気持ちに変わりはない)
私はアンリの隣に座り、優しく肩に手を置いた。
「何か理由があるんだね、アンリがリュカとして別に生きなければならなかった理由が」
アンリは言葉をすぐに理解できないようで、私のことを怯えたような目で見つめた。
「僕がリュカとして……生きなければならなかった?」
「そう。多分、あなたとリュカは同一人物なんだよ」
そう告げた途端、アンリは私の腕を力一杯払いのけた。その恐ろしいばかりの殺気に、身がすくむ。
「嘘を言うな!ジュリは結局あいつの味方なの」
「違うよ、前から言ってるみたいに、リュカはあなたの味方なの。だって……あなた自身なんだから」
必死に訴えるけれど、アンリの耳に私の声はもう届いていないようだった。
部屋をうろうろと歩き、独り言のように呟く。
「リュカは敵だ。あいつを嫌ってくれよ、少しも情をかけるな。僕は、アンリだけに愛を注ぐ女性を求めてるんだ……」
そう呟くアンリの髪が次第に黒くなり、表情もきつくなっていく。
私は怖くなって、もう何も言えなくなった。
(どうすればいいの……)
その時、耳元であの夢で聞いた王妃の声が響いた。
『アンリは可哀想な子……ジュリの愛でも、どうにもならない』
その言葉に私は猛烈な怒りが湧き、私は姿の見えない魂に向かって叫ぶ。
「あなた……母親でしょう。もっとアンリに言ってあげる言葉はないの?」
『可哀想な子で、哀れな子だわ……』
(違う、違う。可哀想なんかじゃない!)
私は心を彷徨わせるアンリを抱きしめ、涙を堪えながら王妃に反論する。
「アンリは立派な、優しい人だよ。リュカの要素も元はアンリの性格の一部だったはず……環境が彼を追い詰めたに違いない。そうでしょう?」
王妃の声はそれっきり聞こえなくなり、私に背中から抱きしめられたアンリが呆然とした様子で黒くなった片方の髪を握りしめている。
「アンリ……大丈夫?」
ゆっくり私に視線を向けると、彼は悲しそうに微笑んだ。
「ごめん……ジュリは僕が命をかけて守っていくつもりだったのに……できそうもないよ」
「アンリ、待って!」
アンリはヒュッと腕を払い、自分の周りに風を起こした。そのせいで私は近づくこともできない。
悲しそうに私を見つめると、そのまま風と一緒に部屋から消えてしまった。
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