太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

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16話 元の世界へ(1)

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 戻ったのはアンリと出会った時と同じ時間、同じ場所だった。
 社長に会いに行った時間より少し前だから、アンリが私にこの世界との別れを告げさせる前の時間に戻ったということだ。
(じゃあ私、カリーナに行く前と全く変わらない状態になったんだ)
 着ている会社の制服も、それを示している。
 ベンチでぼうっとしていると、またアンリが現れるんじゃないかという錯覚に陥る。
「もう……終わったんだ」
 謎も残ったままだし、エリオの行方がどうなったのかもわからない。
 でも、もう私は必要のない人間になった。
(寒い……)
 私は自分の腕を抱え、内側からくる底恐ろしい寂しさに震えた。以前に感じていた漠然とした寂しさじゃない。一度満ち足りた幸せを感じたからこその、実態のある生々しい寂しさだ。
「こんなことなら、一緒に記憶も消してもらえたらよかったのに」
 そんなことも思うけれど、アンリやリュカと出会ったことを全部無しにするのはそれも辛い。
 私は間違いなくカリーナ王国という異世界へ行き、そこの愛に飢えた一人の王子と愛し合った。女としての喜びも知ったし、共に生きて行く相手がいることの幸せも知った。
(片思いが破れたことなんて、とても小さなものに感じる)
 一度通じ合った相手からの拒絶は、途方もない悲しさだ。穴が開いたようなという表現がぴったりで、そこに冷たい風が吹いて止まらない。
 戻ったこの世界で、私はまたアンリに抱いたのと同じような感情を誰かに持てるんだろうか。今は、とても考えられない。
「……とりあえず現実を生きて、心を整理するしかないよね」
 ベンチから立ち上がると、私はあの日の予定通り会社へ向かって歩いた。

 会社では誰も私が戻ったことに驚きもぜず、淡々と業務をこなしている。あと少しで退社時間だから、仕事を終えるのに必死なんだろう。
(私、異世界へ行ってたんですよ)
 こんなことを口にしたら、きっともうここにはいられない。
(気持ちは乗らないけど、とりあえず終えるべき仕事はしておくしかないね)
 私は懐かしい自分の席に座り、操作を思い出しながらキーを叩いた。勘が働いたというか、案外仕事はスムーズに終わり、あと少しで仕事は終わりそう……という時。
「結城さん、社長がお呼びです」
 私を呼びに来た総務の人の声に、思わずびくりとなる。
「はい、わかりました」
(社長が、なんだろう……普段はあまり私を気にかける人じゃなかったのに)
 私は首を傾げつつ席を立った。
 この時私は、彼がアンリのことを覚えているなんて夢にも思わなかった。

「おかえり……って言った方がいいのか」
 社長室へ入るなり、そんな言葉をかけられて驚く。社長は私が来るのを待っていたようで、もうすでにコーヒーが二つ用意されていた。
「まあ、かけてくれ。ゆっくり話がしたい」
「……はい」
 正直すぐにでも帰りたかったけれど、ここで断るのも不自然だと思い、私は渋々ソファに座った。
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