太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

文字の大きさ
54 / 61

16話 元の世界へ(5)

しおりを挟む
「カプチーノで良かったか」
「あ、はい」
 テーブルに置かれたカプチーノは、挽きたて豆のいい香りがした。深呼吸してそのコーヒーの香りを楽しむ。
「結城……下の名前って何?」
 彼は自分のブレンドコーヒーをすすりながら、何気なく尋ねる。
「私は樹里って言います。樹木の樹に、里です」
「へえ……俺は瑠可っていうんだけど。あんま下の名前は好きじゃない。外国人かって毎回突っ込まれるのも疲れたしね」
「瑠可……るか……」
(名前まで酷似してる……っ)
 偶然というには、あまりにもリュカとの関連を感じさせる人だ。私の心臓はにわかに早くなっていく。
「あの、まさかと思うんですけど。瑠可さんはずっと日本で暮らしてました?」
「え?あんたもそれ聞くの」
 明らかに迷惑そうな顔で瑠可さんはコーヒーカップを下ろす。
「いえ。そうじゃないんですけど……」
 どう考えても異世界にいましたか、なんて質問はおかしい。
 私はこれ以上聞くのは難しいと思って、質問を続けるのを止めた。すると意外にも瑠可さんの方から話を続けてくれる。
「まあいいよ。俺はずっとここで生まれ、ここで育った。顔が日本人ぽくないのは、多分爺さんがハーフだった影響かな」
「そうなんですか……」
 穏やかに話するかさんの声を聞いていると、やはりカリーナを思い出す。私を最後の力でここへ返してくれたリュカは、もうアンリの中で生きているはず。
(ここにいるのは、間違いなく別人なのはわかってるけど)
 切なくて、今すぐにでもアンリに会いに行きたくなる。
 合コンに参加して気持ちが少しでも薄れるならと思ったけれど、結局私はアンリやリュカの面影をどこかに探している。そして、できるならまた繋がれるチャンスはないのかなと思っているのだ。
「……大丈夫か?」
「え?」
 顔を上げた途端、頬につっと涙が伝う。
 自分が泣いているのに気付き、慌ててそれを拭った。
「ごめんなさい」
「いや」
 瑠可さんは首を振って、何かを洞察するように私を見る。私のことは初対面でほとんど知らないはずなのに、彼は何かを悟ったように言った。
「後悔してるなら、戻ったほうがいい」
「戻るって……どこへ?」
「さあ。あんたが戻りたいと思っている場所へ……だろ」
 それだけ言って、コーヒーを飲み干すと、彼は席を立った。
「珍しく興味を惹かれる人だと思ったが、俺には用がないみたいだな。じゃあ……ここならタクシーも通るし一人で帰れるだろ」
「はい。ありがとうございました」
 瑠可さんは手を軽く上げ、そのままカフェを出て行ってしまった。その後ろ姿を見て、私はまだあの人はカリーナと何か関係のある人なのではと思ってしまう。
(そうじゃなければ、迷ってるなら戻れ……なんて言わないよ。でも、戻りたくてもその方法がわからないし)
 自分のカプチーノを飲み干し、私もカフェを出た。
 もう震えるほどの寒さはない季節で、比較的夜でも動きやすい。

(このまま帰るのも、切ないな)

 ふらふらと歩いていた私は、気がつくと夜の公園でぼうっとしていた。
 ここにいれば、アンリが来てくれるかも……そんな馬鹿みたいな期待がなかったとは言えない。
 時間は夜だし、公園には人影もない。5月とはいえ夜はまだ寒くて、風が吹くたびに肩がすくむ。
(恋がうまくいかないなんて、いつものことだよ。あの頃の私に戻るだけ)
 いつまでもこうしているのも虚しいと思い、重い腰を上げかけた時。

「こんなところにいた……探したよ」

 聞き覚えのある声に驚いて、顔を上げると、そこには紛れもないアンリ、その人が立っていた。服装は以前のようにこの世界で浮かないようにスーツスタイルで立っている。

(これは、夢?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...