太陽と月に抱かれて ~異世界で王子を産みなさい!?~

伊東悠香

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16話 元の世界へ(4)

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 一人は寂しい。
 お互い、別の世界にいたのにその寂しさは同じくらい深くて埋めきれないものだった。だから異世界にいながら惹かれ合ったのだと今も信じたい。
 あそこへ戻るのは、もう叶わない願いなんだろうか。
(ため息をついたら幸せが逃げるっていうけど、今の私にそれを禁じられても止まりそうにないな)
 小さくため息をつきながら、私はやはり今頃アンリは何をしているんだろう……なんて考えていた。

 それから一週間ほどが経過していた。
 私は元気になるどころか、ため息の数がますます増えている。
 この世界でこれからどう生きていけばいいのか、いくら考えても答えが見つからない。
(アンリを忘れるために、何をしたらいいんだろう。引っ越し?転職?それともいっそ、別の男性と知り合った方がいいのかな)
 そんなことを考えていた日の朝、同僚の立花さんに声をかけられた。
「結城さん、もしよかったら今夜、飲み会付き合ってくれない?」
「私が……ですか?」
 立花さんとは普段あまり接点がなく、給湯室で会うと雑談をする程度の関係だ。年齢は私と同じくらいで、結構な頻度で合コンを開いていると聞いたことがある。
「もしかして、合コン……ですか?」
「あ、鋭いね。まあ私の同級生の集まりみたいなのだから……気軽に参加してくれたら嬉しいんだけど」
 どうやら立花さんにはお目当の人がいて、あと一人女性を呼ばないと会が流れてしまうのだという。私にかなりの期待を寄せているのが目でわかったから、私も断りきれない。
(まあ、お酒を飲んで気分転換も悪くないかな)
「いいですよ」
 私が頷いたのを見て、立花さんは喜びながらも驚いている。
「嬉しいー!結城さんっていつも飲み会参加しないし、今回もダメ元でお願いしてみたんだけど……ありがとうね」
 私の手を握りながら、しきりにお礼を言われると少し困惑する。
(そっか。私って普段から本当に人との関係を希薄にしてたんだな)
 これでは恋人なんて出来るはずもない。
「私もたまには息抜きしたいので」
 私は苦笑いしながら、立花さんの握手に応えた。

 飲み会はちょっとお洒落な洋風居酒屋で行われていた。私と立花さんが到着する頃には他のメンバーは揃っていて、一斉に私たちを見る。
「お待たせ、今日は会社の方を連れてきたの。結城さんっていうの、よろしくね」
「あ……立花さんと同じ会社の結城です。突然の参加ですが……よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げると、皆がそれぞれに拍手で迎えてくれた。
「じゃあ結城さんはここに座ってください」
 用意された席に大人しく腰をかけ、ふっと向かいを見るとあまりにも雰囲気がリュカにそっくりな男性がいて驚く。
(え……まさかリュカじゃないよね)
 瞳が黒いのを見て、やはり単に似ているだけなのだと納得する。洋風の顔立ちだから、似ているように見えただけかもしれない。
「俺の顔に何かついてる?」
 私の視線に気づき、その人は怪訝な顔をした。
「あ、いえ。知り合いにちょっと似てたので」
「ふーん?あ、俺は相良と言います。よろしく」
 手を差し出され、私もおずおずとその手を握る。
「結城です……よろしくお願いします」
 まさかこのタイミングでリュカ似の男性と会うなんて、思いもよらなかった。もちろん恋愛感情があるかというと、そういうのではない。
(ただ、なんとなく懐かしいっていうか……他の男性よりは警戒心が弱まる感じはする)
 他愛のない話をしつつ、一次会はそつなく終了した。立花さんもお目当の人といい感じになれたようで、すごくいい笑顔をしている。
「結城さん、二次会はどうします?」
「あ……私はここでいいです」
 参加費を支払うと、私は一足先にお別れを言って外に出た。他の人たちはカラオケにでも流れるんだろうか。
(あー…少しだけスッキリしたかな)
 空を見上げ、これから夏になっていく風の香りを嗅いでいると、後ろから声をかけられた。
「結城さん、だっけ?」
「えっ」
 驚いて振り返ると、相良さんが私のスカーフを持って立っていた。どうやらテーブルに忘れてきたらしい。
「すみません!」
「いいけど」
 スカーフを受け取ったらすぐに戻ると思ったが、彼はそのまま私と歩き出そうとしている。
「あれ、相良さん。二次会は?」
「ああ……カラオケはあんまり好きじゃないし。あんたといた方が面白そうだから、出てきた」
「……っ」
 この口調といい、ムードといい。どこから見てもリュカそのものだ。
 なんとも不思議な気分がしつつも、私は一緒にいるのは嫌ではなかったから夜遅くまでやっているカフェに入るのを承諾した。
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