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7話 リュカとの夜(2)
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しばらく外の空気を吸った後、リュカは立ち上がって今度は私を背中に乗せた。そして蔦を使って、壁を軽々と登り始める。
「リュカ…大丈夫?重くない?」
「ああ。入り口は、護衛が張ってるからな」
リュカは自分の部屋には戻らず、私の部屋があるバルコニーへと降り立った。
「眠るのはあんたの部屋がいいだろ。俺は朝には部屋に戻るしな」
「あ……はい」
リュカは自分の部屋から一冊だけ本を持ってくると、ベッドに腰掛けて私を見た。
「風呂に入るなら遠慮しなくていいぞ」
「リュカは?」
「俺は食事の前に済ませてある」
「あ、じゃあ……入らせてもらいますね」
(ここのお風呂って朝に使わせてもらったけど、広すぎて落ち着かないんだよね)
私は少し冷えたお風呂で素早く体を洗い流し、湯船で体を温めてからさっぱりした気分で着替えをすませた。一応脱衣所には化粧台もあって、簡単にお化粧はできるようになっている。
私は化粧水らしいものを顔に塗りこんで、鏡の中の自分を見る。
(アンリやリュカはとても若々しい顔をしているけど、何歳なんだろう。私が30歳手前の年齢だっていうの理解しているのかなあ)
こんな余計なことを考えつつ、居間に戻る。
「戻りました」
私の声を聞いたリュカは、本を手にしたままこちらを見て少し目を見開いた。
「あの……なんですか?」
「そのドレス……ジュリが着てるってことは、もう妃候補として認められたんだな」
「あ、これはエリオから。今は私が着ているのがいいって言われたので……」
さっきまでは料理もしていたし、汚れてもいい服を着ていたのだけど、眠るときはこの白いワンピースでいいかなと思って着たのだ。
「……へえ」
リュカはベッドから降りると、私の側まで近づいてきて胸元のレースをゆっくりとなぞった。鎖骨に触れる感触が、妙にじれったい気持ちを煽る。
「ここへ来た時はそれほど感じなかったが、ジュリ……あんたはどうも普通の女と違うみたいだな」
「え、どういうことですか?」
それは異世界から来たからってことではないのかなと思うけれど、リュカはそうは言わない。私の瞳を真っ直ぐに見つめ、何か言いたげにしている。
(何、何を言おうとしてるの)
「お前は俺たちを支配しようとしているのか」
「え?」
(私がリュカを支配?何を言ってるんだろう)
私は決して支配している感覚もなければ、そのようにしたい気持ちも当然ない。きょとんとする私を見て、リュカはいかにも愉快だというように微笑んだ。
「面白い……アンリと俺の両方手玉にとってみろ、そうしたらこの世界にも何か違う風が吹くかもしれない」
「え、私は何も……」
言いかけた言葉が止まるほどの強さで、リュカは私の顎をとらえる。そして耳元へ口を寄せて話を続けた。
「料理を自ら作ったと聞いたが本当か?」
「あ、はい」
低い声が鼓膜に響く度に体がゾクゾクとする。
「初日に震えていたあんたが、早々に気持ちを切り替えてこの世界で生きようとする様は正直驚く……涙も見せていないだろ」
「涙……ですか」
(そういえば、私……泣いてないな)
私の受け入れの早さはリュカをも驚かせたらしい。でもそうじゃない、本当は怖くて、怖くて、すぐにでも逃げ出したい気持ちだってある。
(そこに気持ちを集中してしまったら多分、冷静ではいられない。元の世界に戻れるまで……耐えないと)
自分に言い聞かせるようにそう思うと、握った手に力を込めた。
「今を精一杯やっているだけです。別に……強いわけでもないですし。国をどうこうしようなんて気持ちも当然ありません」
「俺が言っている支配とは、そういう意味じゃない」
リュカは私の耳に軽く歯を当てると、私がびくりと体を震わせるのを確かめるように見た。
「こうして……体を支配するのは簡単だ。しかし、他人の心に入り込むっていうのは、強力な魔法ですら簡単には行かない」
「……そ、そうかもしれないですね」
(びっくりした。耳を噛むんだもの)
耳を押さえて驚きながら見上げると、リュカはふっと目を細めて私から離れた。
「少しだけ……お前を抱いてみたくなった」
小さく呟くように言うと、リュカはベッドへと戻っていく。そして先にリネンの中に潜り込むと、私の入るスペースを空けてくれた。
「明日も朝から飯を作るんだろ。もう寝たほうがいい」
「あ……はい」
(リュカの思考がよくわからない……)
私は首を傾げながらベッドまで歩くと、静かにリュカの隣に体を横たえた。
静まり返った夜の静寂が眠りを逆に妨げる。
「眠れないか」
「ええ」
「こっちに来い」
リュカは私の肩を抱き寄せると、自分の腕の中に抱き入れた。
(温かい……)
異世界の人でも鼓動は私と同じように規則的に打ち付けている。それが妙に私の心を落ちかせた。
「リュカ…大丈夫?重くない?」
「ああ。入り口は、護衛が張ってるからな」
リュカは自分の部屋には戻らず、私の部屋があるバルコニーへと降り立った。
「眠るのはあんたの部屋がいいだろ。俺は朝には部屋に戻るしな」
「あ……はい」
リュカは自分の部屋から一冊だけ本を持ってくると、ベッドに腰掛けて私を見た。
「風呂に入るなら遠慮しなくていいぞ」
「リュカは?」
「俺は食事の前に済ませてある」
「あ、じゃあ……入らせてもらいますね」
(ここのお風呂って朝に使わせてもらったけど、広すぎて落ち着かないんだよね)
私は少し冷えたお風呂で素早く体を洗い流し、湯船で体を温めてからさっぱりした気分で着替えをすませた。一応脱衣所には化粧台もあって、簡単にお化粧はできるようになっている。
私は化粧水らしいものを顔に塗りこんで、鏡の中の自分を見る。
(アンリやリュカはとても若々しい顔をしているけど、何歳なんだろう。私が30歳手前の年齢だっていうの理解しているのかなあ)
こんな余計なことを考えつつ、居間に戻る。
「戻りました」
私の声を聞いたリュカは、本を手にしたままこちらを見て少し目を見開いた。
「あの……なんですか?」
「そのドレス……ジュリが着てるってことは、もう妃候補として認められたんだな」
「あ、これはエリオから。今は私が着ているのがいいって言われたので……」
さっきまでは料理もしていたし、汚れてもいい服を着ていたのだけど、眠るときはこの白いワンピースでいいかなと思って着たのだ。
「……へえ」
リュカはベッドから降りると、私の側まで近づいてきて胸元のレースをゆっくりとなぞった。鎖骨に触れる感触が、妙にじれったい気持ちを煽る。
「ここへ来た時はそれほど感じなかったが、ジュリ……あんたはどうも普通の女と違うみたいだな」
「え、どういうことですか?」
それは異世界から来たからってことではないのかなと思うけれど、リュカはそうは言わない。私の瞳を真っ直ぐに見つめ、何か言いたげにしている。
(何、何を言おうとしてるの)
「お前は俺たちを支配しようとしているのか」
「え?」
(私がリュカを支配?何を言ってるんだろう)
私は決して支配している感覚もなければ、そのようにしたい気持ちも当然ない。きょとんとする私を見て、リュカはいかにも愉快だというように微笑んだ。
「面白い……アンリと俺の両方手玉にとってみろ、そうしたらこの世界にも何か違う風が吹くかもしれない」
「え、私は何も……」
言いかけた言葉が止まるほどの強さで、リュカは私の顎をとらえる。そして耳元へ口を寄せて話を続けた。
「料理を自ら作ったと聞いたが本当か?」
「あ、はい」
低い声が鼓膜に響く度に体がゾクゾクとする。
「初日に震えていたあんたが、早々に気持ちを切り替えてこの世界で生きようとする様は正直驚く……涙も見せていないだろ」
「涙……ですか」
(そういえば、私……泣いてないな)
私の受け入れの早さはリュカをも驚かせたらしい。でもそうじゃない、本当は怖くて、怖くて、すぐにでも逃げ出したい気持ちだってある。
(そこに気持ちを集中してしまったら多分、冷静ではいられない。元の世界に戻れるまで……耐えないと)
自分に言い聞かせるようにそう思うと、握った手に力を込めた。
「今を精一杯やっているだけです。別に……強いわけでもないですし。国をどうこうしようなんて気持ちも当然ありません」
「俺が言っている支配とは、そういう意味じゃない」
リュカは私の耳に軽く歯を当てると、私がびくりと体を震わせるのを確かめるように見た。
「こうして……体を支配するのは簡単だ。しかし、他人の心に入り込むっていうのは、強力な魔法ですら簡単には行かない」
「……そ、そうかもしれないですね」
(びっくりした。耳を噛むんだもの)
耳を押さえて驚きながら見上げると、リュカはふっと目を細めて私から離れた。
「少しだけ……お前を抱いてみたくなった」
小さく呟くように言うと、リュカはベッドへと戻っていく。そして先にリネンの中に潜り込むと、私の入るスペースを空けてくれた。
「明日も朝から飯を作るんだろ。もう寝たほうがいい」
「あ……はい」
(リュカの思考がよくわからない……)
私は首を傾げながらベッドまで歩くと、静かにリュカの隣に体を横たえた。
静まり返った夜の静寂が眠りを逆に妨げる。
「眠れないか」
「ええ」
「こっちに来い」
リュカは私の肩を抱き寄せると、自分の腕の中に抱き入れた。
(温かい……)
異世界の人でも鼓動は私と同じように規則的に打ち付けている。それが妙に私の心を落ちかせた。
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