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9話 太陽に抱かれる(4)
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「ジュリも来て」
「え……ちょっと」
アンリは私のこともベッドから無理やり降ろし、冷ややかな表情を向ける。
その凍りつくような視線に思わず言葉が出なくなった。
(何をする気なの)
「世界をきっちり断絶させるために、向こうへ行く」
「え……どういうこと」
「行けばわかるよ」
アンリが小さく呪文を唱えると、ここへ来た時と同じように風が吹き荒れる。
「あ……」
ふっと気付くと、アンリと出会った公園に立っていた。
時刻もここを離れた時と同じくらいで、日が傾きかけている。さっきまで着ていたワンピースは見覚えのある制服に変化していた。
(アンリの力があれば、こんなにあっさりとここへ戻ってこれるんだ)
もっと喜んでいいはずなのに、気持ちはどこか宙をさまよったように現実味がない。
「アンリ……」
(今なら、この世界に留まる方法が……)
必死に考える私の思考を読んでいるのか、アンリは重々しい声で言い切る。
「無駄だよ。僕から逃れられると思わないでね」
「……っ」
口だけで微笑むアンリの笑顔が、初めて怖いと思う。
青年実業家のように上質なスーツを着こなして立っているアンリは、異世界の王子様だ。そしてこの人は私をこの世界にもう二度と戻れないようにしようとしている。
「ジュリはこの世界で生きるべきじゃないよ」
(私は生きる世界を選ぶ権利すらないっていうの?)
「さ、ジュリの働いていた場所に行くよ」
「えっ、待って。何するの」
「だからここでの未練を断ち切ってもらうんだって言ってるじゃん」
「痛っ」
強引に手を引かれ、私は教えたはずもない自分の会社へと足を進まされた。
(私、どうなっちゃうの)
夢でも見ているのかと思った。いや、そもそも異世界へ行っていることの方が夢みたいなのだけど。
カリーナ王国へ連れて行かれた私が、その時間とほぼ変わりないタイミングで会社へ戻ってきている。
「ジュリはここで働いてたんだね」
ロビーを見渡しながら、アンリは興味深げに言う。握られていた手は離れていて、逃げたい気持ちがどんどん大きくなっていく。
(このまま……どうにかならないのかな)
走って会社の人に事実を訴えたところで、信じてもらえないだろう。私がこの金髪の青年に、心の中まで鎖に繋がれているなんて。
(にしても、アンリは何をしようとしてるんだろう)
「あの男の前で、この世界との別れを誓ってもらうよ」
「え……」
再び私の手を引いて、アンリは教えてもいないのに社長室に向かって進んだ。この様子だと、アンリはアポなしで彼に会いに行くつもりのようだ。
「待って、待ってよ!私は別に彼にはもう未練なんてないよ…もう失恋したんだから」
(だから、社長室に行くのはやめて)
必死に足を止めようとするも、アンリの力は思った以上に強くて彼を阻止するのは私の力では難しい。
「何言ってるの?僕が言ってるのは男への未練だけじゃない。この世界全てに対する未練だよ」
くすくすと笑いながら、アンリは歩く足を早めた。
「どういうこと」
「もうジュリはここへは戻らない。ずっと永遠に僕の側にいてもらう」
そう言って、アンリはバンッと扉を威勢良く開けた。
すると目の前には社長がいて、私たちを驚いた目で見つめた。
「……結城?」
「え……ちょっと」
アンリは私のこともベッドから無理やり降ろし、冷ややかな表情を向ける。
その凍りつくような視線に思わず言葉が出なくなった。
(何をする気なの)
「世界をきっちり断絶させるために、向こうへ行く」
「え……どういうこと」
「行けばわかるよ」
アンリが小さく呪文を唱えると、ここへ来た時と同じように風が吹き荒れる。
「あ……」
ふっと気付くと、アンリと出会った公園に立っていた。
時刻もここを離れた時と同じくらいで、日が傾きかけている。さっきまで着ていたワンピースは見覚えのある制服に変化していた。
(アンリの力があれば、こんなにあっさりとここへ戻ってこれるんだ)
もっと喜んでいいはずなのに、気持ちはどこか宙をさまよったように現実味がない。
「アンリ……」
(今なら、この世界に留まる方法が……)
必死に考える私の思考を読んでいるのか、アンリは重々しい声で言い切る。
「無駄だよ。僕から逃れられると思わないでね」
「……っ」
口だけで微笑むアンリの笑顔が、初めて怖いと思う。
青年実業家のように上質なスーツを着こなして立っているアンリは、異世界の王子様だ。そしてこの人は私をこの世界にもう二度と戻れないようにしようとしている。
「ジュリはこの世界で生きるべきじゃないよ」
(私は生きる世界を選ぶ権利すらないっていうの?)
「さ、ジュリの働いていた場所に行くよ」
「えっ、待って。何するの」
「だからここでの未練を断ち切ってもらうんだって言ってるじゃん」
「痛っ」
強引に手を引かれ、私は教えたはずもない自分の会社へと足を進まされた。
(私、どうなっちゃうの)
夢でも見ているのかと思った。いや、そもそも異世界へ行っていることの方が夢みたいなのだけど。
カリーナ王国へ連れて行かれた私が、その時間とほぼ変わりないタイミングで会社へ戻ってきている。
「ジュリはここで働いてたんだね」
ロビーを見渡しながら、アンリは興味深げに言う。握られていた手は離れていて、逃げたい気持ちがどんどん大きくなっていく。
(このまま……どうにかならないのかな)
走って会社の人に事実を訴えたところで、信じてもらえないだろう。私がこの金髪の青年に、心の中まで鎖に繋がれているなんて。
(にしても、アンリは何をしようとしてるんだろう)
「あの男の前で、この世界との別れを誓ってもらうよ」
「え……」
再び私の手を引いて、アンリは教えてもいないのに社長室に向かって進んだ。この様子だと、アンリはアポなしで彼に会いに行くつもりのようだ。
「待って、待ってよ!私は別に彼にはもう未練なんてないよ…もう失恋したんだから」
(だから、社長室に行くのはやめて)
必死に足を止めようとするも、アンリの力は思った以上に強くて彼を阻止するのは私の力では難しい。
「何言ってるの?僕が言ってるのは男への未練だけじゃない。この世界全てに対する未練だよ」
くすくすと笑いながら、アンリは歩く足を早めた。
「どういうこと」
「もうジュリはここへは戻らない。ずっと永遠に僕の側にいてもらう」
そう言って、アンリはバンッと扉を威勢良く開けた。
すると目の前には社長がいて、私たちを驚いた目で見つめた。
「……結城?」
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