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さらなる高みへ
影の中から
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何もない部屋に甲高い金属音だけが響く。
最初の頃は何度も挟まれた小休止と言葉は、今では最初と最後だけだ。
基礎の訓練が終わり後は実戦で高めるのみ……という訳ではない。レイの教えやすいやり方に俺がようやく順応出来たってだけだ。最初に何の訓練をするか言われ、後はだた斬り合う。修正点は彼女の視線が指摘し、動きで示してくる。俺はそれを受けて、修正して繰り出す。ただそれを繰り返し、体に馴染ませ、研ぎ澄ます。
このスタイルになって数日、訓練を始めてから三週間半が経とうとしてた。
「……ん。居合切りはこんなものかな。これは上を見たらきりがないから、後は自分の努力次第。実戦レベルには十分届いてる」
「ありがとう、ございま……す」
息も絶え絶えで何とか言葉を絞り出すと、俺はそのまま座り込んだ。
きっつ! 刀と言えば居合切りみたいなイメージ持ってたけど、一回一回にかかる集中力がとんでもない。
レイは慣れたように俺を抱えると、梯子を上がる。
「そういえば、レイさんは誰から刀の戦い方を教えて貰ったんですか?」
「ここの前院長」
「サリーナさんの前任者ですか?」
「そう。サリーナの前で、彼女の夫だったの。この刀もその人から貰ったの」
「そう、なんですね」
その人は今は? なんて聞ける神経は流石に持ち合わせていない。現状から考えれば、そういうことなのだろう。
扉を開けて一階につくと、窓からはまだ高い位置に太陽が見えた。完全に閉ざされた地下にずっといるから時間の感覚が麻痺するが、流石に日は跨いでないだろうから徐々に特訓の時間が短くなっているようだ。ぐったりしてるから格好はつかないけど、着実に身について行っている実感が沸いてくる。
視線を落とすと、外で元気に遊ぶ子供達の姿が目に映る。無邪気に遊ぶ見ていて落ち着く。変な意味ではなく、元の世界と共通しているからだろう。
よく見れば、端で座って花冠を作っている女の子の中にニーアの姿も見えた。初めの頃は一人でいることが多かったが、最近では誰かと一緒にいることが多い。あの子も少しずつここの日常に馴染んで行っているんだろう。
馴染むと言えば、俺もなんだかんだここに一ヶ月近く通っているからか、直接遊んではいなくてもここの子供達と結構仲良くなれている。基本的に元気に遊ぶ体力は残ってはいないからもっぱら話し相手程度だがそれが良いって言う子もいるし、余裕があれば一緒になって外を駆け回る。何も考えずに目一杯遊ぶというのは、体力的には割と厳しいがメンタルの回復という意味ではかなりの効果が出ている。
「おや、今日の特訓はもう終わったのかい」
廊下を歩いていると、サリーナが声をかけてきた。
「うん。サリーナは?」
「ちょいとした事務仕事さ。ここの近くの城壁にちょっとした穴が空いてるって知らせて貰ってね」
「穴って…大丈夫なんですか? 外の魔物とか入って来たりとか」
「私に知らせてくれたのが冒険者でね。国の補修も直ぐ来るそうだからそれまで見張っててくれるそうだ。それにこの辺は国の中も外も辺鄙な所でね。魔物の遭遇どころか見かけることだって稀だよ」
「そういえばこっち側で討伐依頼がある事って待ったなかったような……レイさん、そろそろ下ろして貰っても大丈夫ですよ? 恥ずかしくなってくるので」
既に何度かこの状態を見た子供達にからかわれているのだ。いつ気づかれるか分かったもんじゃないから早急に下ろして欲しい。
「恥ずかしがるのも可愛い」
この人最近お構いなしになってきたな。
その後サリーナにお茶をしないかと誘われ、断る理由もないので喜んで受けてしぶしぶレイさんの肩から下ろして貰ったとき、唐突にそれを感じた。
――助けて。
「――っ」
誰かの声が、聞こえた気がした。サリーナとレイは気づいた様子はない。……空耳? それにしてははっきりとしすぎてた。
ドラグニール、まさかお前じゃないよな。
――何故我が貴様なぞに助けを求める。
だよな。っていうか、お前にも聞こえたのか?
――ああ。だが今のはなんだ? 外からではない。貴様の内から聞こえたような気さえしたが……。
謎の出来事に立ち止まって俯く俺を不思議に思ったのか、レイとサリーナが振り返り声をかけようとしてくる。だがそれは横からの――外からの悲鳴によって遮られた。
俺とレイは何も言わず即座に窓を開けると外へ飛び出し、様子を確認する。
そこにいるのはこの孤児院の子供だけ。魔物の気配も、他の危険も見られない。子供の多くも突然聞こえた悲鳴に戸惑っているだけのようだ。
俺は悲鳴の聞こえた方を思い出しながらそっちに目をやる。そこは広場の端っこで、芝生の上には小さな花が咲いていて、一人の女の子と、いくつもの花冠が落ちていた。
まさか――!
「ねえ、ニーア、皆は!?」
俺は女の子の肩を掴み問いただす。
――落ち着け。
ドラグニールの声に、俺はようやく女の子の掴んだ肩が震えていることを、大粒の涙を零している姿が目に映る。
「……ごめんね。大丈夫、大丈夫だよ。お姉ちゃんがついてる」
俺は優しく抱きしめ、落ち着くまで頭を撫でる。少しして、女の子が恐る恐る指さした。そこは広場を囲う塀の影だった。
「みんな……そこに落ちて行っちゃったの……」
絞り出すような言葉を聞き、俺は再度頭を撫でるとその影の方を見た。
ドラグニール。影に引きずり込むとか移動するとか、そういう魔法ってあるか?
――我は使えんが、その類なら目にしたことはある。
「どう?」
合流したレイさんにそのことを伝えると、やや考え込んで口を開いた。
「影を移動する魔法なら知ってる。そこまで難しい魔法でもないらしい。一回で移動できる距離も短いし、何度も連続して使えるものでもないみたい」
「っていうことは」
「魔力さえ追えれば十分間に合う」
「だったら――」
俺は魔力探知で周囲を探索する。ただ使うだけだったら周囲の人全員反応して何の意味もないが、魔法を使った始点さえ確定してるなら……。
皆が落ちたという影に範囲を集中すると、徐々に反応の光が現れそして細い線が続いていく。
「――余裕です」
瞬間、俺たちは駆け出した。
最初の頃は何度も挟まれた小休止と言葉は、今では最初と最後だけだ。
基礎の訓練が終わり後は実戦で高めるのみ……という訳ではない。レイの教えやすいやり方に俺がようやく順応出来たってだけだ。最初に何の訓練をするか言われ、後はだた斬り合う。修正点は彼女の視線が指摘し、動きで示してくる。俺はそれを受けて、修正して繰り出す。ただそれを繰り返し、体に馴染ませ、研ぎ澄ます。
このスタイルになって数日、訓練を始めてから三週間半が経とうとしてた。
「……ん。居合切りはこんなものかな。これは上を見たらきりがないから、後は自分の努力次第。実戦レベルには十分届いてる」
「ありがとう、ございま……す」
息も絶え絶えで何とか言葉を絞り出すと、俺はそのまま座り込んだ。
きっつ! 刀と言えば居合切りみたいなイメージ持ってたけど、一回一回にかかる集中力がとんでもない。
レイは慣れたように俺を抱えると、梯子を上がる。
「そういえば、レイさんは誰から刀の戦い方を教えて貰ったんですか?」
「ここの前院長」
「サリーナさんの前任者ですか?」
「そう。サリーナの前で、彼女の夫だったの。この刀もその人から貰ったの」
「そう、なんですね」
その人は今は? なんて聞ける神経は流石に持ち合わせていない。現状から考えれば、そういうことなのだろう。
扉を開けて一階につくと、窓からはまだ高い位置に太陽が見えた。完全に閉ざされた地下にずっといるから時間の感覚が麻痺するが、流石に日は跨いでないだろうから徐々に特訓の時間が短くなっているようだ。ぐったりしてるから格好はつかないけど、着実に身について行っている実感が沸いてくる。
視線を落とすと、外で元気に遊ぶ子供達の姿が目に映る。無邪気に遊ぶ見ていて落ち着く。変な意味ではなく、元の世界と共通しているからだろう。
よく見れば、端で座って花冠を作っている女の子の中にニーアの姿も見えた。初めの頃は一人でいることが多かったが、最近では誰かと一緒にいることが多い。あの子も少しずつここの日常に馴染んで行っているんだろう。
馴染むと言えば、俺もなんだかんだここに一ヶ月近く通っているからか、直接遊んではいなくてもここの子供達と結構仲良くなれている。基本的に元気に遊ぶ体力は残ってはいないからもっぱら話し相手程度だがそれが良いって言う子もいるし、余裕があれば一緒になって外を駆け回る。何も考えずに目一杯遊ぶというのは、体力的には割と厳しいがメンタルの回復という意味ではかなりの効果が出ている。
「おや、今日の特訓はもう終わったのかい」
廊下を歩いていると、サリーナが声をかけてきた。
「うん。サリーナは?」
「ちょいとした事務仕事さ。ここの近くの城壁にちょっとした穴が空いてるって知らせて貰ってね」
「穴って…大丈夫なんですか? 外の魔物とか入って来たりとか」
「私に知らせてくれたのが冒険者でね。国の補修も直ぐ来るそうだからそれまで見張っててくれるそうだ。それにこの辺は国の中も外も辺鄙な所でね。魔物の遭遇どころか見かけることだって稀だよ」
「そういえばこっち側で討伐依頼がある事って待ったなかったような……レイさん、そろそろ下ろして貰っても大丈夫ですよ? 恥ずかしくなってくるので」
既に何度かこの状態を見た子供達にからかわれているのだ。いつ気づかれるか分かったもんじゃないから早急に下ろして欲しい。
「恥ずかしがるのも可愛い」
この人最近お構いなしになってきたな。
その後サリーナにお茶をしないかと誘われ、断る理由もないので喜んで受けてしぶしぶレイさんの肩から下ろして貰ったとき、唐突にそれを感じた。
――助けて。
「――っ」
誰かの声が、聞こえた気がした。サリーナとレイは気づいた様子はない。……空耳? それにしてははっきりとしすぎてた。
ドラグニール、まさかお前じゃないよな。
――何故我が貴様なぞに助けを求める。
だよな。っていうか、お前にも聞こえたのか?
――ああ。だが今のはなんだ? 外からではない。貴様の内から聞こえたような気さえしたが……。
謎の出来事に立ち止まって俯く俺を不思議に思ったのか、レイとサリーナが振り返り声をかけようとしてくる。だがそれは横からの――外からの悲鳴によって遮られた。
俺とレイは何も言わず即座に窓を開けると外へ飛び出し、様子を確認する。
そこにいるのはこの孤児院の子供だけ。魔物の気配も、他の危険も見られない。子供の多くも突然聞こえた悲鳴に戸惑っているだけのようだ。
俺は悲鳴の聞こえた方を思い出しながらそっちに目をやる。そこは広場の端っこで、芝生の上には小さな花が咲いていて、一人の女の子と、いくつもの花冠が落ちていた。
まさか――!
「ねえ、ニーア、皆は!?」
俺は女の子の肩を掴み問いただす。
――落ち着け。
ドラグニールの声に、俺はようやく女の子の掴んだ肩が震えていることを、大粒の涙を零している姿が目に映る。
「……ごめんね。大丈夫、大丈夫だよ。お姉ちゃんがついてる」
俺は優しく抱きしめ、落ち着くまで頭を撫でる。少しして、女の子が恐る恐る指さした。そこは広場を囲う塀の影だった。
「みんな……そこに落ちて行っちゃったの……」
絞り出すような言葉を聞き、俺は再度頭を撫でるとその影の方を見た。
ドラグニール。影に引きずり込むとか移動するとか、そういう魔法ってあるか?
――我は使えんが、その類なら目にしたことはある。
「どう?」
合流したレイさんにそのことを伝えると、やや考え込んで口を開いた。
「影を移動する魔法なら知ってる。そこまで難しい魔法でもないらしい。一回で移動できる距離も短いし、何度も連続して使えるものでもないみたい」
「っていうことは」
「魔力さえ追えれば十分間に合う」
「だったら――」
俺は魔力探知で周囲を探索する。ただ使うだけだったら周囲の人全員反応して何の意味もないが、魔法を使った始点さえ確定してるなら……。
皆が落ちたという影に範囲を集中すると、徐々に反応の光が現れそして細い線が続いていく。
「――余裕です」
瞬間、俺たちは駆け出した。
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