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一話完結
涙が溢れるのはなぜだろう
しおりを挟む男は言った。
「もう、君に愛されたくない。」
男はまだその人が好きだった。
本当はその愛に甘えていたかった。
けれど、男の心がそれを許さなかった。
(君を僕に留めておくことに、意味はあるのだろうか。君の幸せは、僕にあるのだろうか。)
男は元来自分のことが好きではなかった。殺したいほど、自分を憎んでいた。死ぬ理由を探していた。
けれど、ある人に出会い、その人のために生きていこうと誓った。
その人の幸せに自分がいるなら、自分にも生きる価値があるのだと思ったんだ。
それでも、男にはわからなかった。
自分が愛される理由、自分の意味がわからなかったのだ。
その疑問が心に溜まっていった。
男はその人が笑っているのが好きだった。その人の話が好きだった。その人の隣が好きだった。
それでも、心に溜まる疑問は減らなかった。
男が自分の幸せを感じるたびに、疑問が重なる。
何故、自分なのだろうか。
自分じゃなくても、いいのではないだろうか。
自分より、適任者が現れるのではないだろうか。そうなったら、優しいあの人は、自分に別れを告げることを躊躇ってしまうのではないだろうか。
男は、その人が心を抑えるのが好きではなかった。その人に幸せになって欲しかった。
だから、その思いに耐えられなくなった男は切り出した。
「もう、君に愛されたくない。」
その人は、優しい人だった。
男の嫌がることを、苦しむ姿を見たくないと、そう思っていた。
だから、その人は悲しそうな顔を隠してただ一言を残して去っていった。
男はその人の背中に願った。
(どうか、幸せになってくれ。この別れを、悲しいものにしないでくれ。よかったと、言えるように生きてくれ。)
男は、そう願って、心から願って…無意識に、その人の背中に手を伸ばしていた。
もう、届くことのないその人へ。
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