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恋愛がわからない男の独り言。

友達の好き、恋人の好き

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「僕は酷いやつだから、好きになっちゃ駄目だよ?」

そうやって予防線を張って、自分を見せないで殻に閉じこもる。

“どうせ、僕は”

そんな言葉が頭を回る。

けれど、そんな保身は直ぐに壊れた。
友人の立場に油断して、盲点を貫かれたんだ。


君のことを嫌いじゃないのは知っていた。
けれど、君のことが好きかなんてわからない。

僕の目には友人の君しか見えていなかった。

「自分に素直になりな」

そう、誰かが僕に言った。

その言葉はトゲとなって、僕の心に深く刺さった。

(僕の、心・・・?)

苦しさから逃げて、悲しさから逃げて、怖さから逃げて、自分を騙して、嘘をついた。

そうしないと、死んでしまいそうだったから。

死んでもいいのに、そんなことで死ぬのが悔しかったから。

自分の心に嘘を付いた。

それからずっと、その嘘が本物みたいに僕を動かすようになった。

好きの違いがわからなくなった。


「君のことは好きだ。嫌いじゃない。嫌いになる未来も見えない。けど、君との未来を、僕は望まない。」

そう、君に言えたら、どんなに楽だろうか。

わからないなりに、心地良いと思った。
このまま、隣にいたいと…。

けれど、それは数秒先の未来の話で、何年も先の未来じゃない。

僕は、今以上の気持ちを欲しいと思わない。もう、いいんだ。満足したんだ。

僕はもう、十分だよ。

けれど、別れを切り出す理由が見つからなかった。

僕は君といて幸せで、君は僕を好きだという。

離れる理由なんて見つからない。

けれど、離れる理由は探してしまう。

僕はずっと嘘をついていて、君に僕との未来を期待されるのが怖い。

僕が心から素直になって仕舞えば、君の隣にはいられない。

君のことが好きだ。
けれど、多分、この好きは…君とは違う。

僕が楽しいのは、想いを告げられる場所ができたから。
受け入れてくれる人ができたから。
恋をしている感覚になれるから。

君じゃなくても、良いって、僕は知ってる。

だから、わからない。

僕を選んだ君がわからない。

どうしたら、僕を嫌いになってくれる?
どうしたら、僕から離れてくれる?

君の隣は幸せだ。
楽しくて、自然と笑ってしまう。

けれど、君がいなくても僕は楽しくて、笑えている。

僕は酷いやつだ。
全部心から思ったことなのに、嘘をつきすぎて、自分の言葉すら信用できない。

たしかに、好きなんだ。
けれど、どうして、僕の好きはひとつなんだろう。

友達に思う好きと、君へ思う好きが、変わらないんだ。
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