亡国の系譜と神の婚約者

仁藤欣太郎

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第一章 盗賊団「鋼鉄のならず者」

第三十九話 不老不死

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 北の森の問題を解決した翌日、ジャンたちは定食屋で知り合った二人組の男、クロードとラザールに連れ立ってミーヌの町へ向かうことになった。

 昨晩三人は男たちと同じ民宿に泊まり、自己紹介やらなにやらを済ませ、この旅の経緯についても話した。

 クロードは資源採掘の会社をいとなんでおり、ラザールはその会社の二十代の従業員だ。クロードは気前が良く、見てくれはいかにも肉体労働者といった感じで、ジャンとは性格も喋り方も近いものがあった。それに対してラザールは、ちょっと生意気などこにでもいる若者といった感じだった。普段から重労働をこなしているだけあって、二人とも体格はガッシリしていた。

 クロードがこうして社長自ら納品先に出向いているのは、先方に顔と名前を覚えてもらうためで、すべて計算ずくのことらしい。意味もなく現場仕事に介入しているわけではなく、見た目に反して計算高いところがあるようだ。

 ジャンたちはクロードたちが使っている牛車の荷台に乗り込んだ。

「それじゃ、よろしく頼むぜ、おっちゃん!」
「おう、まかしときな! つっても、引っ張るのはこいつらだがな」

 クロードは車に繋がれた非常に肉付きのいい牛の尻を叩いた。

「おやっさん、そろそろ出ましょう」
「そうだな。兄ちゃんたち、ちょっと金属臭いがそこは勘弁してくれ」
「「ありがとうございます」」

 こうして三人を乗せた牛車はミーヌの町へと動き出した。

 ミーヌに向かう道中、シェリーはたびたび手鏡を取り出し、自分の顔を見てニヤついていた。

「おい、シェリー。おまえなにニヤニヤしてんだよ。なんか怖いぞ」
「えー? だって、本当にお肌スベスベなんだもん。苦労してキノコを採ってきた甲斐があったわー」
(こいつ、落としたキノコを拾って持って来たのは俺なのに……)

 ジャンはほんの少しだけイラッとした。そこでニコラがひと言。

「確かに、いつもより化粧乗りがいいんじゃないか? シェリー」
「わかる? やっぱりニコラはそういうとこちゃんと気付くのよねー。それに比べて……」

 シェリーは目を細めながらジャンの方を見た。

「な、なんだよ……」
「別に」
「うー……」

 いつもと変わらないやりとり。ジャンがシェリーを見返す日は遠そうだ。

 牛車に揺られながらミーヌに向かう途中、ニコラの頭の中にある疑問が浮かんだ。

「そういえば、あのキノコを独占しようとしてたの、けっきょくどこの誰だったんだろう?」
「どっかの貴族のオバハンじゃねぇの? こいつですらこんなに美容美容言うぐらいだし」

 ジャンはシェリーを指差した。

「こいつですらとはなによ。あと人を指差すな」
「へいへい、さーせん。でもよー、食べて肌が綺麗になるだけなら、なんであんな回りくどいやり方で独り占めしようとしたんだ?」
「そこなんだ、引っかかるのは。人を遣ってあれだけ大がかりなことをするぐらい資金があるなら普通に輸入すればいいのに」
「それもそうね」

 三人は急に、キノコの一件を裏で操っていた人物のことが気になりだした。

「シェリー、おまえはどうなんだよ? もし山ほど金があって、美容にいいキノコの噂を聞いたらどうすんだ?」

 ジャンはシェリーに尋ねた。

「わかんないわよ、そんなこと。でも、その人が誰よりも綺麗でいたいって考えるなら、他の誰にも渡したくないって思うのも無理ないかも」
「なるほど、それなら独占しようとしたこととも辻褄が合うな」

 ニコラは少し納得したようだった。しかしジャンはまだ腑に落ちない。

「でもよーニコラ。それにしたって森ん中を魔獣だらけにしたりするか? ありゃそうとうヤバい奴の発想だぜ?」
「確かにな。じゃあそういう危険な考えを持った金持ちが考えることって、いったいなんだろう?」
「「……」」

 三人は黙り込んで考えた。

「……不老不死とか」

 ジャンがぼそっと呟いた。

「そうよ! きっとそれだわ! 女性だったら誰でもずっと若いままでいたいって思うもん!」
「それはあるかもな。古い文献の中には不老不死について記述されたものも存在するし」

 そんな話をしていると、牛車を引くクロードがジャンたちを呼んだ。

「おーい! 三人とも! もうすぐ着くぜ!」

 時刻は正午前。ジャンたちは無事、ミーヌの町にたどり着いた。
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