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第一章 盗賊団「鋼鉄のならず者」
第五十六話 路地裏の戦い
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「へー、おっちゃんあれでけっこうやり手なんだなー」
「でも国が資源価格を調整してるなら新規参入は難しかったんじゃないですか?」
ニコラはラザールに尋ねた。
「それがたまたま当時廃業した会社があってね、おやっさんはその枠をそっくりそのままもらい受けたってわけ。幸運だよ」
「なるほどねー。じゃあおっちゃんがいまの仕事を始められたのって、いいタイミングでラザールさんと出会ったからなんだ」
「そういうことになるね。ただ、俺に勝ったのは紛れもなくあの人の実力だよ。今回の件も並の泥棒じゃ相手にならないと思うよ」
ラザールは誇らしげにそう言った。
「ラザールさんは、クロードさんのことを信頼されているんですね」
「ああ。あの人の強さは俺が保証するよ」
「それならよー、うちのシェリーも並じゃないぜ」
ジャンもなぜか誇らしげにそう言った。するとニコラが横やりを入れる。
「そうだよな。いつも余計なこと言ってタコ殴りにされてるもんな」
「そうそう、経験者は語るってやつ……ってそういう意味じゃねぇよ! 確かにあいつの打撃はかなり痛いけど」
「「はははははは!」」
三人がそんな話をしているころ、クロードのチームも窃盗団と遭遇しようとしていた。彼の事業所から少し南に行ったところ、同業者の事業所が多くある区域をクロードとシェリーは巡回していた。
「シェリー、気付いてるか?」
「はい。五人……六人かな? けっこういますね」
二人は窃盗団と思しき気配をすでに察知していた。
「狙ってるな。まず俺たちを片付けてから悠々と盗みを働こうって腹か。シェリー、大丈夫か?」
「あたしですか? このぐらいなら、まあ別に……」
「言うねぇ。じゃあお手並み拝見といこうか。一度ルートを変更してそこの路地裏に入る。あそこは両脇が事業所だし、路地裏側には窓がほとんどない。襲われるにはもってこいの場所だ」
「いいですよ」
「よし、じゃあ決まりだ」
二人はその路地裏へ入って行った。そこは人気がなく、ガス灯もない。大通り側のガス灯の光と月明りだけが頼りだ。道幅は路地裏といってもそこそこの広さがあり、動きやすい反面、敵の連携も許す地形だった。
十メートルほど歩いたところで、二人の前方と後方からそれぞれ三人ずつ、武器を持った男たちが現れた。
「期待通り挟み撃ちにしてくれたか。それじゃあシェリー、後ろは頼むぜ」
「はい! 任せてください!」
シェリーは振り返り、クロードと背中合わせの形をとった。そして戦いの火蓋が切って落とされる。
二人の前に現れた窃盗団の男たちはみな口を逆三角形の布で隠しており、その人相をはっきり見定めることはできなかった。また余計なことは一切喋らないようで、シェリーたちと臨戦態勢になっても挑発一つしてこない。その様子から、おそらく下っ端というわけではないことが見て取れた。
男たちはそれぞれ前衛二人、後衛一人の陣形で、シェリーとクロードの前後からじわじわと距離を詰めてきた。そして二人の間合いに近付くにつれ、ひとりひとり武器を構え始めた。
武器の構成は前衛二人が長剣ほどの長さの金属棒、後衛が長い棒だ。この組み合わせから予想される戦術は、前衛二人が相手の攻撃を封じつつ攻め立て、その背後から後衛が長い棒で援護するといったところ。そしてこの戦術はシンプルだが非常にスキが少ないと言える。
「ちっ、これは分が悪いな。しょうがねぇ、あれを使うか」
クロードはギリギリ敵に聞こえる程度の声量でそう言うと、右ポケットに手を突っ込んでなにかを握りしめた。そして思い切り手を引き抜くと同時に、なにかを上空へ投げた。敵は一瞬その物体を目で追うも、すぐにそれがブラフだと気付いた。クロードのポケットから飛び出したのはなんの変哲もないコインだった。彼は敵の目を引くために思わせぶりな態度をとっただけだった。
「でも国が資源価格を調整してるなら新規参入は難しかったんじゃないですか?」
ニコラはラザールに尋ねた。
「それがたまたま当時廃業した会社があってね、おやっさんはその枠をそっくりそのままもらい受けたってわけ。幸運だよ」
「なるほどねー。じゃあおっちゃんがいまの仕事を始められたのって、いいタイミングでラザールさんと出会ったからなんだ」
「そういうことになるね。ただ、俺に勝ったのは紛れもなくあの人の実力だよ。今回の件も並の泥棒じゃ相手にならないと思うよ」
ラザールは誇らしげにそう言った。
「ラザールさんは、クロードさんのことを信頼されているんですね」
「ああ。あの人の強さは俺が保証するよ」
「それならよー、うちのシェリーも並じゃないぜ」
ジャンもなぜか誇らしげにそう言った。するとニコラが横やりを入れる。
「そうだよな。いつも余計なこと言ってタコ殴りにされてるもんな」
「そうそう、経験者は語るってやつ……ってそういう意味じゃねぇよ! 確かにあいつの打撃はかなり痛いけど」
「「はははははは!」」
三人がそんな話をしているころ、クロードのチームも窃盗団と遭遇しようとしていた。彼の事業所から少し南に行ったところ、同業者の事業所が多くある区域をクロードとシェリーは巡回していた。
「シェリー、気付いてるか?」
「はい。五人……六人かな? けっこういますね」
二人は窃盗団と思しき気配をすでに察知していた。
「狙ってるな。まず俺たちを片付けてから悠々と盗みを働こうって腹か。シェリー、大丈夫か?」
「あたしですか? このぐらいなら、まあ別に……」
「言うねぇ。じゃあお手並み拝見といこうか。一度ルートを変更してそこの路地裏に入る。あそこは両脇が事業所だし、路地裏側には窓がほとんどない。襲われるにはもってこいの場所だ」
「いいですよ」
「よし、じゃあ決まりだ」
二人はその路地裏へ入って行った。そこは人気がなく、ガス灯もない。大通り側のガス灯の光と月明りだけが頼りだ。道幅は路地裏といってもそこそこの広さがあり、動きやすい反面、敵の連携も許す地形だった。
十メートルほど歩いたところで、二人の前方と後方からそれぞれ三人ずつ、武器を持った男たちが現れた。
「期待通り挟み撃ちにしてくれたか。それじゃあシェリー、後ろは頼むぜ」
「はい! 任せてください!」
シェリーは振り返り、クロードと背中合わせの形をとった。そして戦いの火蓋が切って落とされる。
二人の前に現れた窃盗団の男たちはみな口を逆三角形の布で隠しており、その人相をはっきり見定めることはできなかった。また余計なことは一切喋らないようで、シェリーたちと臨戦態勢になっても挑発一つしてこない。その様子から、おそらく下っ端というわけではないことが見て取れた。
男たちはそれぞれ前衛二人、後衛一人の陣形で、シェリーとクロードの前後からじわじわと距離を詰めてきた。そして二人の間合いに近付くにつれ、ひとりひとり武器を構え始めた。
武器の構成は前衛二人が長剣ほどの長さの金属棒、後衛が長い棒だ。この組み合わせから予想される戦術は、前衛二人が相手の攻撃を封じつつ攻め立て、その背後から後衛が長い棒で援護するといったところ。そしてこの戦術はシンプルだが非常にスキが少ないと言える。
「ちっ、これは分が悪いな。しょうがねぇ、あれを使うか」
クロードはギリギリ敵に聞こえる程度の声量でそう言うと、右ポケットに手を突っ込んでなにかを握りしめた。そして思い切り手を引き抜くと同時に、なにかを上空へ投げた。敵は一瞬その物体を目で追うも、すぐにそれがブラフだと気付いた。クロードのポケットから飛び出したのはなんの変哲もないコインだった。彼は敵の目を引くために思わせぶりな態度をとっただけだった。
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