亡国の系譜と神の婚約者

仁藤欣太郎

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第二章 ギルドの依頼

第七十三話 ローハンターズギルド

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「いい稼ぎ口? そうだなー、うちは採掘量を管理されてるからこれ以上人を雇えねぇし……」

 ジャンたちに尋ねられ、クロードは少し思案した。

「このあいだ協力してもらったお礼をもう少し積み増しするつもりなんだが……それでも大した額じゃないからなぁ……」

 クロードはすでに先日の謝礼金をジャンたちに渡していたが、三人が旅の資金に困ることがないよう、餞別としてもう少し包むつもりでいた。しかし彼の会社はそれなりに儲かっているとはいえ、従業員の給与や会社を回すための資金を考えるとそれほど余裕があるわけでもなかった。

「クロードさん、この間もそれなりに包んでいただきましたし、これ以上は申し訳ないです」

 ニコラはクロードの申し出を丁重に断ろうとした。ジャンも彼に同調する。

「そうだぜおっちゃん。この二週間よくしてもらったし、なにより自分で稼がなきゃ成長できないし大丈夫だぜ。それより賞金稼ぎの口でもあったら教えてくれよ」
「ちょっと、ジャン! 賞金稼ぎなんて危険よ! マリアさんと約束したんでしょ? 危険な真似はしないって」
「だーいじょぶだって。狼男やアレックスに比べたら賞金首なんて大したことねぇよ、たぶん」

 シェリーはジャンの思い付きをいさめたが、彼はいつも通り飄々ひょうひょうとしていた。しかしクロードもそれには反対した。

「いや、シェリーの言う通り賞金稼ぎはやめたほうがいい。今回は俺とラザールが付いてたからいいが、君ら三人では難しいと思う。犯罪者の相手はそれなりの経験と勘が必要だからな。……そうだな、賞金稼ぎより命の危険が少ない案件ならないこともないぜ」

 クロードはなにか別の手立てを思い出したようだ。

「ほんと!? じゃあそれ、詳しく教えてくれよ!」
「ああ。いまから地図を書くから、明日そこを訪ねるといい」
「ありがとう、おっちゃん!」

 それからクロードはある場所の地図を不要になった書類の切れ端に描き、ジャンに手渡した。

「ここを訪ねな。ここに行けばフェーブル国内の民間の依頼がすべて確認できる」
「へー、これってローハンターズギルドとかってやつ?」
「そうだ。つってもこの国は平和だからな。危険な案件はほぼないし、そもそも成果を上げなきゃそういう依頼は請け負えない。脱走した猫の捜索だとか引っ越しの手伝いだとか、ガキの使いの延長みたいなもんばっかさ」

 世界戦争後の混乱期には多くの国で犯罪が横行し、各国政府は手に負えない凶悪犯罪者を捕まえる名目でハンターズギルドを設立した。この制度は一般社会に馴染めない軍人崩れの働き口として重宝され、結果的に想定していた以上に犯罪率を抑制できた。

 しかし凶悪犯罪者が減り各国の警察組織だけで治安を維持できるようになると、今度は食い扶持ぶちに困った賞金稼ぎが窃盗などの軽犯罪を繰返すようになっていった。そこで彼らに別の仕事を斡旋しようと、従来のハンターズギルドより簡単な依頼を扱うローハンターズギルドが設立された。

 それからさらに月日が流れ、世界の多くの国が平和を取り戻すと、それに伴いローハンターズギルドが斡旋する仕事の内容は次第に健全化して行った。特にフェーブルは犯罪率が低く、魔獣の生息する区域に不用意に近づかない限り命の危険にさらされることもないため、リスクの高い依頼が入ることはまれだった。

「なるほどねー。シェリー、これなら文句ないよな?」
「まあ、それなら別にいいわよ」
「よし、じゃあ決まりだな。明日になったらとりあえずここへ行ってみようぜ。サンキュー、おっちゃん」
「ああ、がんばれよ」

 話はついた。明日はミーヌを出発する日。三人は午前中にローハンターズギルドへ向かうことに決め、その日は早めに床に就いた。

 翌朝、ジャンたちは荷物をまとめてクロードの家を出ることになった。

「ジャック、エドガー、元気でね。オーレリーさんを困らせたらだめよ」
「うん! だいじょうぶだよ、シェリーねえちゃん!」
「よしよし。また会いに来るから、それまでお利口にしてるのよ」
「うん!」

 シェリーは別れを惜しみつつジャックの頭をなでた。

「いろいろと大変だろうけど、あなたもがんばるのよ」
「うん。ありがとう、オーレリーさん」

 シェリーとオーレリーは互いにハグをした。

「クロードさん、オーレリーさん、本当にお世話になりました。ありがとうございました」

 ニコラはクロードたちに深々と頭を下げた。

「また通りがかったら寄るよ、おっちゃん」
「ああ、待ってるぜ。三人とも元気でな」

 ほんの二週間ほどの出来事だったが、三人はクロードたちと深く打ち解けた。そして新たな出会いを求め、ミーヌの町をあとにする。
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