亡国の系譜と神の婚約者

仁藤欣太郎

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第二章 ギルドの依頼

第百十九話 合流

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 馬車の停留所に着いたジャンとシェリーは、すでにニコラが到着していないかあたりを見回した。

「あそこにいるの、ニコラじゃない?」
「どれだ? ……ああ、そうだな、ニコラだ」

 二人はニコラと思しき青年の方へ近付いた。

「やっぱニコラだ! ニコラー!」
「……あ! シェリー! ジャン!」

 ニコラは二人に気付き、大きく手を振った。

「元気そうでなによりだぜ」
「おまえもな」

 ジャンとニコラは互いの拳を軽く当てて挨拶した。

「ねぇニコラ、あんた前より少し大人っぽくなったんじゃない? なんかちょっと雰囲気が違う気がする」

 シェリーは再会して早々、直感的にニコラの変化を読み取った。

「え? そうかな。変わってないと思うけど……」

 適当にはぐらかそうとするニコラ。しかしシェリーの勘は鋭かった。

「もしかして、彼女でもできたんじゃないの?」
「そうなのか? ニコラ」

 シェリーは冗談半分で聞いてみただけだったし、ジャンもまだ半信半疑だった。しかしニコラが肯定も否定もせずに黙り込んだため、二人は図星だと悟った。

「マジかよ? たった一か月だぜ? おまえいつからそんなに積極的になったんだよ?」
「えー! ほんとに彼女できたの!? どんな人!? ねぇ、どんな成り行きで付き合うことになったの!?」

 シェリーは驚きもさることながら、ニコラの恋に興味津々といった感じで、矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。

「うーん、なにから話せばいいんだろ……。実は依頼主の家で……」

 ニコラはド・モリエ家での出来事をかいつまんで話し、ミレーヌとのなれそめについてざっくりと説明した。

「すごーい! 出会って二十日で自分から行くなんて、ニコラ、やるじゃない! この色男!」

 シェリーはニヤニヤしながらニコラの脇を肘でつんつんとつついた。

「そんな……僕はただ成り行きで……」

 からかわれるのに慣れていないニコラはバツが悪そうにモジモジしだした。

「まあいいわ。馬車の中でじっくり聞くから」
「えー、もういいだろ? 面白い話なんて特にないし」

 シェリーは同世代の女性がそうであるのと同様、こういう話に目がなかった。ニコラにしてみればあまり根掘り葉掘り聞かれても困るのだが、そんなことはお構いなしだった。

 ニコラの恋の話が一段落すると、ジャンが場を仕切りなおした。

「それじゃよー、とりあえず馬車に乗るか。いま出れば昼までには第一区に着くよな?」
「いまからならそれぐらいだな。第一区のギルドは停留所から近いし、ついでに換金も済ませよう」

 こうして三人は馬車で第一区に向かった。

 車中で三人はこの一か月の間に起きた出来事について話した。ミレーヌに魔法の指導をした話、ダヴィッドと打ち解けた話、ベルナールとの一戦。そして話題があらかた出尽くすと、今回の依頼の収支の話になった。

「たぶんニコラが一番稼いでるよな。宿代まるっと浮いた計算になるし」
「今回は本当に運がよかったと思うよ。食事も朝と夜はごちそうになることが多かったし」
「でもジャン、あんたもけっこう稼いでるわよ。ていうかあんた、よくこんな毎日肉体労働ばっかできたわね。五日しか休んでないじゃない」

 シェリーは三人分の申請用書類を見ながら言った。実際ジャンはかなりの額を稼いでおり、報酬の合計ではニコラにも勝っていた。

「そうだっけ? 大した疲れも感じなかったし、もうちょっと休んでたつもりだったんだけどな」
「あんたそんな調子なら漁師継いでも困んないじゃない。むしろ天職なんじゃないの?」
「それとこれとは話が別だろ? 何事も経験じゃねぇの?」
「自分で言うことじゃないでしょ、それ」

 そんなこんなで、シェリーが代表して全員の収入を計算することになった。

「収入の合計はあたしが二十四万モネ、ニコラが二十八万モネ、ジャンが三十一万モネで、全部合わせて八十三万モネ。けっこうな額ね。食費や宿代を全部引いて残るのが六十二万モネ。これだけあれば二か月ぐらいは旅を延長できるわね」

 報酬の合計は旅を継続するのに十分な金額になっていた。

「最初に用意した資金とクロードさんからもらった報酬を合わせたら、だいたいあと五、六カ月分だな」
「それだけありゃ十分じゃね? 資金が減ってきたらまたギルドで依頼を受ければいいんだしよー」
「それもそうだな」

 ジャンたちはこの一か月でそこそこの資金を貯めることに成功した。いつまで続けられるかわからないこの旅だが、ひとまず収入のあてと先の見通しが立ったことで、三人はほんの少しだけ気持ちに余裕ができた。
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