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32.お祝い
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※※※双子視点です。
明日生がなんだか楽しそうにしている。
僕ら……じゃなかった、俺たちまで楽しくなってくる。
179号室と書かれた下に『甲斐芳明』とネームプレートが下がっている扉を甲斐は開けた。
「私の部屋です。どうぞ」
6畳くらいの部屋に、二段ベッド、勉強机が2台、本棚、クローゼット、すごく小さな冷蔵庫、そして座卓がある。
机の上にも床の上にも本が山積みになっていた。
引き出しは開いたままになっているものまである。
「おー、甲斐、部屋片付けたのか」
後ろから夜穂ちゃんが言った。
「私の部屋でやるって言うので、床と座卓の上は片付けておきました」
なんだか甲斐は不満そうな声だ。
「しょうがねえじゃん、俺らの部屋冷蔵庫ないんだからよ。ほら、双子、入って入って」
夜穂ちゃんに背中を押されて部屋の中へ入った。
「どうぞ座ってください。床が座りにくかったら、椅子やベッドの下の段使っていいですよ」
甲斐にそう言われて、俺たちは二段ベッドの下の段に揃って掛けた。
貴也が俺たちの左側に座った。甲斐は正面だ。
夜穂ちゃんと良実ちゃんが甲斐の隣に座った。
明日生は座らずに冷蔵庫を開けている。
「甲斐さん、貴也先輩、今日は飲みます?」
「飲まない」
「飲みません」
「もー、二人とも、真面目なんだから……じゃあジュースどうぞ」
明日生がペットボトルのジュースを座卓の上へ置き、甲斐が机の引き出しの中から紙コップの束を出した。
「お二人は?」
「「……え?」」
貴也がガサガサやってるなと思ったら、お菓子の袋をいくつか出して開けはじめた。
「えっとね、ビールとチューハイがあるんですけど。何飲みます?」
「チューハイって……」
「なに……?」
「……なんでしたっけ、甲斐さん」
「蒸留酒を炭酸水で割ったアルコール飲料ですね」
「要するにお酒なんですけど」
「「……いつもお酒飲んでるの……?」」
「まさか。特別な時だけです。誰かが落ち込んでるときとか、お祝い事があるときとか、ね」
『お祝い事』という部分に意味ありげなアクセントを置いて、明日生はニコッと笑った。
ああ、忘れてた!
俺たちの誕生日祝いをしてくれるって言ってたじゃないか!
「せっかくの泊まりですし、くつろいでください」
そう言いながら、明日生は座卓の中央にホールケーキを置いた。
以前3人で行った三軒茶屋のレストランで作ってもらったらしいそのケーキはかなり美味しかった。
俺たちは悩んで、ビールをもらった。
夜穂ちゃんと良実ちゃんと明日生はチューハイを飲んでいる。
良実ちゃんは飲んでも大丈夫なのかとハラハラしたんだけど、みんなの様子からして結構普段飲んでるみたいだ。
「この部屋に7人も入るとほんと暑いですねー」
明日生がそう言いながら上に着てたTシャツを脱いでしまった。
さっき風呂で見て俺たちは必死で逃げてたのに、また裸だ。
「飲んでるから余計暑いんだろ」
貴也はさっきからお菓子ばかり口にしている。
「大丈夫か、良実」
「目の前の二人が涼しそうに見えて、俺は暑くないよ」
良実ちゃんが俺たちを見ながら言った。
「やっぱりお二人のこの格好、どうかと思うんですけど、甲斐さん」
明日生が俺たちに背中を向けて甲斐に話しかけた。
とんでもなく、隙がないくらい芸術的に綺麗な背中だ。
アポロンだって裸足で逃げ出すに違いない。
突然、俺の肩に暖かいものが置かれた。
正体に気付いて、固まってしまった。
俺の肩の素肌に明日生の手が触ってる!
『Wolfy! どうしよう!』
『Amadeo? ああ……』
甲斐が明日生に話す。
「自分は暑いって脱いでおいて、この二人には何か着せようだなんて明日生くんもひどいことを……」
「まあ、確かに暑いんですけどね。ああ、いっそ裸でいたらどうです? 綺麗な身体してるんですし」
腕を撫でられた!
もう一人の俺が、ドイツ語で静かに言った。
『さっきまで、ズルイ、俺も明日生の隣に座りたいって思ってたけど、やっぱりこのままでいいよ』
『Wolfyの薄情者!』
「ドイツ語か。何喋ってんの?」
「「秘密!!」」
「明日生くん、ちょっと酔ってきましたね? もう少し離れてあげてください、狭そうですよ」
甲斐がそう言ってくれて、明日生が一歩分くらい俺から離れた。
「双子、綺麗な身体してるんだ? 脱いで見せてくれよ」
「「いやだ」」
「お、普通にノリノリで脱ぐかと思ったぜ。意外」
「隣で明日生が脱いでるのに、並びたくない」
「ああ、わかる。明日生はね、理想的だよね」
「えー、お二人も綺麗なんですよ? 僕お風呂でびっくりしましたもん」
そう言いながら、明日生がまた俺の両肩を掴んで、俺はビクッと固まってしまった。
「それは、ありがとう……」
口さえも動かせない状態の俺に代わって、片割れが明日生に返した。
甲斐がなんだか……必死に笑いをこらえている。
あいつ、何か気付いてるな。
絶対誰にも言わないように話しておかなきゃいけない。
俺はそこでやっと疑問に思った。
「あのさ、俺たちどこで寝るの?」
甲斐が落ち着いたらしく、咳払いをひとつして答えた。
「片方が私の部屋のそのベッドで、もう片方が明日生くんの部屋で寝るんですよ」
……片方ってどっちが?
明日生がなんだか楽しそうにしている。
僕ら……じゃなかった、俺たちまで楽しくなってくる。
179号室と書かれた下に『甲斐芳明』とネームプレートが下がっている扉を甲斐は開けた。
「私の部屋です。どうぞ」
6畳くらいの部屋に、二段ベッド、勉強机が2台、本棚、クローゼット、すごく小さな冷蔵庫、そして座卓がある。
机の上にも床の上にも本が山積みになっていた。
引き出しは開いたままになっているものまである。
「おー、甲斐、部屋片付けたのか」
後ろから夜穂ちゃんが言った。
「私の部屋でやるって言うので、床と座卓の上は片付けておきました」
なんだか甲斐は不満そうな声だ。
「しょうがねえじゃん、俺らの部屋冷蔵庫ないんだからよ。ほら、双子、入って入って」
夜穂ちゃんに背中を押されて部屋の中へ入った。
「どうぞ座ってください。床が座りにくかったら、椅子やベッドの下の段使っていいですよ」
甲斐にそう言われて、俺たちは二段ベッドの下の段に揃って掛けた。
貴也が俺たちの左側に座った。甲斐は正面だ。
夜穂ちゃんと良実ちゃんが甲斐の隣に座った。
明日生は座らずに冷蔵庫を開けている。
「甲斐さん、貴也先輩、今日は飲みます?」
「飲まない」
「飲みません」
「もー、二人とも、真面目なんだから……じゃあジュースどうぞ」
明日生がペットボトルのジュースを座卓の上へ置き、甲斐が机の引き出しの中から紙コップの束を出した。
「お二人は?」
「「……え?」」
貴也がガサガサやってるなと思ったら、お菓子の袋をいくつか出して開けはじめた。
「えっとね、ビールとチューハイがあるんですけど。何飲みます?」
「チューハイって……」
「なに……?」
「……なんでしたっけ、甲斐さん」
「蒸留酒を炭酸水で割ったアルコール飲料ですね」
「要するにお酒なんですけど」
「「……いつもお酒飲んでるの……?」」
「まさか。特別な時だけです。誰かが落ち込んでるときとか、お祝い事があるときとか、ね」
『お祝い事』という部分に意味ありげなアクセントを置いて、明日生はニコッと笑った。
ああ、忘れてた!
俺たちの誕生日祝いをしてくれるって言ってたじゃないか!
「せっかくの泊まりですし、くつろいでください」
そう言いながら、明日生は座卓の中央にホールケーキを置いた。
以前3人で行った三軒茶屋のレストランで作ってもらったらしいそのケーキはかなり美味しかった。
俺たちは悩んで、ビールをもらった。
夜穂ちゃんと良実ちゃんと明日生はチューハイを飲んでいる。
良実ちゃんは飲んでも大丈夫なのかとハラハラしたんだけど、みんなの様子からして結構普段飲んでるみたいだ。
「この部屋に7人も入るとほんと暑いですねー」
明日生がそう言いながら上に着てたTシャツを脱いでしまった。
さっき風呂で見て俺たちは必死で逃げてたのに、また裸だ。
「飲んでるから余計暑いんだろ」
貴也はさっきからお菓子ばかり口にしている。
「大丈夫か、良実」
「目の前の二人が涼しそうに見えて、俺は暑くないよ」
良実ちゃんが俺たちを見ながら言った。
「やっぱりお二人のこの格好、どうかと思うんですけど、甲斐さん」
明日生が俺たちに背中を向けて甲斐に話しかけた。
とんでもなく、隙がないくらい芸術的に綺麗な背中だ。
アポロンだって裸足で逃げ出すに違いない。
突然、俺の肩に暖かいものが置かれた。
正体に気付いて、固まってしまった。
俺の肩の素肌に明日生の手が触ってる!
『Wolfy! どうしよう!』
『Amadeo? ああ……』
甲斐が明日生に話す。
「自分は暑いって脱いでおいて、この二人には何か着せようだなんて明日生くんもひどいことを……」
「まあ、確かに暑いんですけどね。ああ、いっそ裸でいたらどうです? 綺麗な身体してるんですし」
腕を撫でられた!
もう一人の俺が、ドイツ語で静かに言った。
『さっきまで、ズルイ、俺も明日生の隣に座りたいって思ってたけど、やっぱりこのままでいいよ』
『Wolfyの薄情者!』
「ドイツ語か。何喋ってんの?」
「「秘密!!」」
「明日生くん、ちょっと酔ってきましたね? もう少し離れてあげてください、狭そうですよ」
甲斐がそう言ってくれて、明日生が一歩分くらい俺から離れた。
「双子、綺麗な身体してるんだ? 脱いで見せてくれよ」
「「いやだ」」
「お、普通にノリノリで脱ぐかと思ったぜ。意外」
「隣で明日生が脱いでるのに、並びたくない」
「ああ、わかる。明日生はね、理想的だよね」
「えー、お二人も綺麗なんですよ? 僕お風呂でびっくりしましたもん」
そう言いながら、明日生がまた俺の両肩を掴んで、俺はビクッと固まってしまった。
「それは、ありがとう……」
口さえも動かせない状態の俺に代わって、片割れが明日生に返した。
甲斐がなんだか……必死に笑いをこらえている。
あいつ、何か気付いてるな。
絶対誰にも言わないように話しておかなきゃいけない。
俺はそこでやっと疑問に思った。
「あのさ、俺たちどこで寝るの?」
甲斐が落ち着いたらしく、咳払いをひとつして答えた。
「片方が私の部屋のそのベッドで、もう片方が明日生くんの部屋で寝るんですよ」
……片方ってどっちが?
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