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70.会いたくて
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※※※双子視点です。
2月に入る頃からさらに忙しくなった。
ラファエルの仕事がぎっしりの上に、ZOKKOHは夏テーマの曲の録音だけじゃなくてバレンタインに特別ライブがあった。
合間に雑誌のインタビューやテレビ番組の撮影が入る。
2月下旬に学年末試験もある。
『覚』は仕事で学校を休む日もあったから、試験はしっかり点を取らなきゃいけない。
その上、日本で国際コンクールがまたあるから申し込んでしまった。
ちょっと後悔している。
連日睡眠時間が3時間くらいになってしまっている。
顔色が悪いと言ってメイクを施される始末だ。
きっと明日生に会ったら元気になって顔色もよくなる。
そう思って、何とか時間を作ってロングレッグスハウスへ行くことにした。
雪でもちらついてきそうな空の色だ。
自由が丘駅で迎えを待つって結構楽しい。
やっぱり甲斐やほかのメンツは来ないのかなとか、明日生は今日はどんな服を着てくるのかなとか、談話室に今日は誰がいるかなとか考えながら、通り過ぎていく人たちの様子を眺める。
映画が公開されてから、遠巻きに俺たちを指さして何か言っている人も目につくようになったけど、特に気にならない。
明日生が来ると、遠くてもすぐわかる。
周囲の女の人がちらちら見てるし、すごく目につく姿だからだ。
もちろん特別に派手な格好をしてるわけじゃない。
今日は黒いブーツにラフな黒いパンツにカーキのミリタリージャケットを着ている。
恰好もおしゃれだけど、それよりあんなに綺麗に動く人間って、他にはいない。
「この寒いのに、コート着ないんですか? 今夜は降るかもしれませんよ?」
ジャケットの下にセーターを着ているし、マフラーもしているから寒くない。
徒咲の冬の制服は生地が厚いから春先や秋口に暑くて困るくらいだ。
「「そんなに寒く感じないけど?」」
「風邪、ひかないでくださいね。ああ、でも」
「「?」」
「やっぱりちゃんと手は大事にしてるんですね」
明日生は俺たちの手袋に覆われた手を見て微笑んだ。
胸がキュウってなる。
「手袋はさすがにないとね」
「今日は二枚重ねなんだよ」
毛糸の手袋をめくって、下にも手袋を着けているのを明日生に見せた。
「他のところも暖かくしてくれると、心配せずに済むんですけど」
その少し心配そうな笑顔もやっぱり色っぽくて、もう笑うしかない。
最近の明日生は一体どうなってるんだろうか。
色っぽくない時なんてあるのかな。
ああ、一昨年は眠っているときは年相応に見えた。
今でもそうなんだろうか。
またあんな機会がないかな。
驚いてる明日生を、抱きしめて眠った。
すごくドキドキしながら、夏なのに暖かさに安心した。
今度泊まりに来たら一緒に寝ようかって誘ってみようかな。
良くも悪くも男同士なんだから、問題はないはずだ。
「最近本当に忙しそうですよね。大丈夫ですか?」
「うん」
「平気だよ」
明日生の顔を見て元気が出た。
まだまだ俺たち余裕で頑張れる。
俺たちは一人じゃないし、こんな素敵な好きなひとがいる。
ロングレッグスハウスへ行って、良実ちゃんと世間話をして甲斐とふざけ合って、帰ることにした。
明日生が送ってくれて、うちへ寄ってピアノを聴いてお茶を飲んで帰っていった。
明日生が家を出て十分くらいあとに窓を見ると外が白く霞んでいた。
慌てて、明日生の携帯に電話をかける。
『雪、降ってきちゃったけど、大丈夫?』
『ああ、平気ですよ。綺麗ですね! お二人に似合いそうだなあ』
なんだかはしゃいでいるような声だ。
『え? 何が似合うの?』
『雪景色がね、お二人に似合いそうですよ!』
楽しそうに、何を言ってるのかと思ったら。
明日生の方がずっと似合いそうだ。
艶のあるサラサラな黒髪に、静かな夜の闇、降り積もる白い結晶。
ただでさえ元から絵にも描けないような姿なのに、幻想的なシーンになるんだろう。
見たかったな、雪に喜ぶ明日生。
むしろ、もし何でもできるのなら、明日生のために雪を降らせたい。
医師の家系じゃなくて気象予報士とかでもよかったのに。
『ああ、訊き忘れてたんですけど』
『なに?』
『明日、土曜じゃないですか。やっぱりお忙しいですか?』
雪が多くなってきたんだろうか。
雑音を吸収してるらしくて、明日生の声がいつもよりはっきり聞こえる。
『明日はね、一日仕事なんだ。でも遅くても夜7時には帰ってると思う』
だから、会いに来て、明日生。お願いだ。
俺たち忙しくなってからというもの、お前に会いたくて会いたくて。
会いたいんだ、そればかりなんだ。
『じゃあ、その頃お邪魔してもいいですか?』
少し浮かれたような明日生の声音。
『……うん。雪積もってるかもしれないけど』
『平気、平気!』
明日もきっと会える。
嬉しくて泣けてきそう。
この涙もどうせなら雪に変わって、明日生の上に降るといいのに。
そうしたら、明日生は雪一粒分、喜びが増すかもしれない。
ひとかけらでも多く、お前が幸せでありますように、明日生。
2月に入る頃からさらに忙しくなった。
ラファエルの仕事がぎっしりの上に、ZOKKOHは夏テーマの曲の録音だけじゃなくてバレンタインに特別ライブがあった。
合間に雑誌のインタビューやテレビ番組の撮影が入る。
2月下旬に学年末試験もある。
『覚』は仕事で学校を休む日もあったから、試験はしっかり点を取らなきゃいけない。
その上、日本で国際コンクールがまたあるから申し込んでしまった。
ちょっと後悔している。
連日睡眠時間が3時間くらいになってしまっている。
顔色が悪いと言ってメイクを施される始末だ。
きっと明日生に会ったら元気になって顔色もよくなる。
そう思って、何とか時間を作ってロングレッグスハウスへ行くことにした。
雪でもちらついてきそうな空の色だ。
自由が丘駅で迎えを待つって結構楽しい。
やっぱり甲斐やほかのメンツは来ないのかなとか、明日生は今日はどんな服を着てくるのかなとか、談話室に今日は誰がいるかなとか考えながら、通り過ぎていく人たちの様子を眺める。
映画が公開されてから、遠巻きに俺たちを指さして何か言っている人も目につくようになったけど、特に気にならない。
明日生が来ると、遠くてもすぐわかる。
周囲の女の人がちらちら見てるし、すごく目につく姿だからだ。
もちろん特別に派手な格好をしてるわけじゃない。
今日は黒いブーツにラフな黒いパンツにカーキのミリタリージャケットを着ている。
恰好もおしゃれだけど、それよりあんなに綺麗に動く人間って、他にはいない。
「この寒いのに、コート着ないんですか? 今夜は降るかもしれませんよ?」
ジャケットの下にセーターを着ているし、マフラーもしているから寒くない。
徒咲の冬の制服は生地が厚いから春先や秋口に暑くて困るくらいだ。
「「そんなに寒く感じないけど?」」
「風邪、ひかないでくださいね。ああ、でも」
「「?」」
「やっぱりちゃんと手は大事にしてるんですね」
明日生は俺たちの手袋に覆われた手を見て微笑んだ。
胸がキュウってなる。
「手袋はさすがにないとね」
「今日は二枚重ねなんだよ」
毛糸の手袋をめくって、下にも手袋を着けているのを明日生に見せた。
「他のところも暖かくしてくれると、心配せずに済むんですけど」
その少し心配そうな笑顔もやっぱり色っぽくて、もう笑うしかない。
最近の明日生は一体どうなってるんだろうか。
色っぽくない時なんてあるのかな。
ああ、一昨年は眠っているときは年相応に見えた。
今でもそうなんだろうか。
またあんな機会がないかな。
驚いてる明日生を、抱きしめて眠った。
すごくドキドキしながら、夏なのに暖かさに安心した。
今度泊まりに来たら一緒に寝ようかって誘ってみようかな。
良くも悪くも男同士なんだから、問題はないはずだ。
「最近本当に忙しそうですよね。大丈夫ですか?」
「うん」
「平気だよ」
明日生の顔を見て元気が出た。
まだまだ俺たち余裕で頑張れる。
俺たちは一人じゃないし、こんな素敵な好きなひとがいる。
ロングレッグスハウスへ行って、良実ちゃんと世間話をして甲斐とふざけ合って、帰ることにした。
明日生が送ってくれて、うちへ寄ってピアノを聴いてお茶を飲んで帰っていった。
明日生が家を出て十分くらいあとに窓を見ると外が白く霞んでいた。
慌てて、明日生の携帯に電話をかける。
『雪、降ってきちゃったけど、大丈夫?』
『ああ、平気ですよ。綺麗ですね! お二人に似合いそうだなあ』
なんだかはしゃいでいるような声だ。
『え? 何が似合うの?』
『雪景色がね、お二人に似合いそうですよ!』
楽しそうに、何を言ってるのかと思ったら。
明日生の方がずっと似合いそうだ。
艶のあるサラサラな黒髪に、静かな夜の闇、降り積もる白い結晶。
ただでさえ元から絵にも描けないような姿なのに、幻想的なシーンになるんだろう。
見たかったな、雪に喜ぶ明日生。
むしろ、もし何でもできるのなら、明日生のために雪を降らせたい。
医師の家系じゃなくて気象予報士とかでもよかったのに。
『ああ、訊き忘れてたんですけど』
『なに?』
『明日、土曜じゃないですか。やっぱりお忙しいですか?』
雪が多くなってきたんだろうか。
雑音を吸収してるらしくて、明日生の声がいつもよりはっきり聞こえる。
『明日はね、一日仕事なんだ。でも遅くても夜7時には帰ってると思う』
だから、会いに来て、明日生。お願いだ。
俺たち忙しくなってからというもの、お前に会いたくて会いたくて。
会いたいんだ、そればかりなんだ。
『じゃあ、その頃お邪魔してもいいですか?』
少し浮かれたような明日生の声音。
『……うん。雪積もってるかもしれないけど』
『平気、平気!』
明日もきっと会える。
嬉しくて泣けてきそう。
この涙もどうせなら雪に変わって、明日生の上に降るといいのに。
そうしたら、明日生は雪一粒分、喜びが増すかもしれない。
ひとかけらでも多く、お前が幸せでありますように、明日生。
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