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69.ウィザード
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※※※双子視点です。
部屋へこもるなり、俺も相棒も同時に喋り出してしまった。
『抱きしめちゃった!』
『キスしちゃった!』
ベッドに入って日中にお互い体験したことの報告も含めて感想を言い合い終えると、もう3時近かった。
どんなに遅く寝ても俺たちは5時には目が覚めてしまう。
明日は睡眠不足だな。
お客様の前であくびが出ないといいけど。
右腕を相棒にかけて、寝る体勢に入る。
相棒の左腕の重さと暖かさを感じて眠気に襲われながら、さっきのことを改めて振り返る。
Amadeoの唇よりもふわっと柔らかかった。
少しだけひんやりしてた。
でも俺の頬にかけた指先は暖かかった。
俺のことがまるで壊れ物かのような優しい手だった。
まっすぐで長い黒い睫毛を伏せた何かを言いたそうな顔を、もっと長い時間見ていたかった。
胸が高鳴りながらも、引っ張られるように眠りに落ちていく。
ドキドキしながら眠ると、ドキドキするような内容の夢を見るんだろうか。
『入れ替わる』のは、人目がなければ朝起きた時だ。
目覚まし時計を止めた瞬間、呼び名も変える。
『Wolfy、おはよう』
朝はいつもキスで始まる。
相棒にキスした瞬間に、つい昨夜の明日生のキスを思い出してしまった。
あんなに控えめなキスだったのに、どうしてこんなに思い出してしまうんだろう。
相棒が俺の頭を撫でた。
『明日生に会った時に、そんな顔するなよ』
『え……うん』
気持ちは胸の中にだけ。
ずっと仲良くしていたいから。
この暖かい楽しい関係をまだ持っていてもいいのなら、表情を隠すくらい造作もない。
いずれ明日生に彼女ができて離れていく日まで。
なにがなんでもこの気持ちを隠し通してみせる。
今年の正月のスーツは変わり織生地のダークグレイのものにした。
それを着て防音室へ出てピアノを弾いた。
いつもならその日『覚』になった方が朝一番でグランドピアノを使うけど、今日は『諒』は一日忙しいから特別だ。
数曲弾き終えて気付くと明日生が斜め前にたたずんで俺をじっと見てた。
ほんとに、飽きないんだな。
笑いながら、声をかけた。
『おはよう、明日生』
『おはようございます……』
そう返す明日生の唇が目について、昨夜のキスを思い出してしまうけど、何も思ってない顔をつくる。
今もその唇は少しひんやりしてるのかな。
『大丈夫? あまり寝てないんじゃない?』
『いえ、諒さんこそ。僕は平気ですよ』
あれ、今日はまだ名乗ってないのに……ああ、そうか。
片割れはスーツを着ていないから、スーツを着ている方が『諒』だってわかったのか。
『俺は平気だよ。ほら』
椅子から立ち上がると、明日生が俺の全身を下から上まで眺めた。
んん?
『……すごくいいスーツですね。品がいいのに浮いたりせずちゃんと似合うなんてさすがです。どこのスーツですか?』
どこのって言うのはきっとブランドの話なんだろうけど、俺はそんなことは全くわからない。
前合わせを開けて、明日生に中を見せた。
『よくわからないんだけど、書いてある?』
『見せてくださいね』
明日生は俺のジャケットを開いて覗き込むと、急に手を離した。
『す……すみません。僕のようなものがこんな高級品に触れてしまって……』
しゅんとした様子になっている。
素直で可愛いんだけど、可哀そうだ。
慰めようと、ポンと頭に手を載せて、ドキッとした。
最上級シルクのような手触りの髪。
そういえば、去年俺たちが残念がったから髪を伸ばしてくれたのかな。
……ものすごく可愛い。
どうしてこの存在を抱きしめることができないんだろう。
『えっと……何、大げさに……そんな高級品なの? このスーツ』
『ご自分の服の値段ご存じないんですか?』
『うん。自分で買っても値段なんて覚えてないよ』
『はあ……まあ、似合うからいいのかな』
明日生は澄んだ湖に映った月のように微笑んだ。
すごく清澄な綺麗さを持ちながら、妖艶さが潜んでいる。
俺はおそらく明日生が実は魔術師だったって聞いても驚かない。
いつも思いだしたように俺に魔法をかけてくれるんだ。
俺を虜にする魔法。
きっと今夜も眠る時、一日を振り返ってドキドキが止まらない。
部屋へこもるなり、俺も相棒も同時に喋り出してしまった。
『抱きしめちゃった!』
『キスしちゃった!』
ベッドに入って日中にお互い体験したことの報告も含めて感想を言い合い終えると、もう3時近かった。
どんなに遅く寝ても俺たちは5時には目が覚めてしまう。
明日は睡眠不足だな。
お客様の前であくびが出ないといいけど。
右腕を相棒にかけて、寝る体勢に入る。
相棒の左腕の重さと暖かさを感じて眠気に襲われながら、さっきのことを改めて振り返る。
Amadeoの唇よりもふわっと柔らかかった。
少しだけひんやりしてた。
でも俺の頬にかけた指先は暖かかった。
俺のことがまるで壊れ物かのような優しい手だった。
まっすぐで長い黒い睫毛を伏せた何かを言いたそうな顔を、もっと長い時間見ていたかった。
胸が高鳴りながらも、引っ張られるように眠りに落ちていく。
ドキドキしながら眠ると、ドキドキするような内容の夢を見るんだろうか。
『入れ替わる』のは、人目がなければ朝起きた時だ。
目覚まし時計を止めた瞬間、呼び名も変える。
『Wolfy、おはよう』
朝はいつもキスで始まる。
相棒にキスした瞬間に、つい昨夜の明日生のキスを思い出してしまった。
あんなに控えめなキスだったのに、どうしてこんなに思い出してしまうんだろう。
相棒が俺の頭を撫でた。
『明日生に会った時に、そんな顔するなよ』
『え……うん』
気持ちは胸の中にだけ。
ずっと仲良くしていたいから。
この暖かい楽しい関係をまだ持っていてもいいのなら、表情を隠すくらい造作もない。
いずれ明日生に彼女ができて離れていく日まで。
なにがなんでもこの気持ちを隠し通してみせる。
今年の正月のスーツは変わり織生地のダークグレイのものにした。
それを着て防音室へ出てピアノを弾いた。
いつもならその日『覚』になった方が朝一番でグランドピアノを使うけど、今日は『諒』は一日忙しいから特別だ。
数曲弾き終えて気付くと明日生が斜め前にたたずんで俺をじっと見てた。
ほんとに、飽きないんだな。
笑いながら、声をかけた。
『おはよう、明日生』
『おはようございます……』
そう返す明日生の唇が目について、昨夜のキスを思い出してしまうけど、何も思ってない顔をつくる。
今もその唇は少しひんやりしてるのかな。
『大丈夫? あまり寝てないんじゃない?』
『いえ、諒さんこそ。僕は平気ですよ』
あれ、今日はまだ名乗ってないのに……ああ、そうか。
片割れはスーツを着ていないから、スーツを着ている方が『諒』だってわかったのか。
『俺は平気だよ。ほら』
椅子から立ち上がると、明日生が俺の全身を下から上まで眺めた。
んん?
『……すごくいいスーツですね。品がいいのに浮いたりせずちゃんと似合うなんてさすがです。どこのスーツですか?』
どこのって言うのはきっとブランドの話なんだろうけど、俺はそんなことは全くわからない。
前合わせを開けて、明日生に中を見せた。
『よくわからないんだけど、書いてある?』
『見せてくださいね』
明日生は俺のジャケットを開いて覗き込むと、急に手を離した。
『す……すみません。僕のようなものがこんな高級品に触れてしまって……』
しゅんとした様子になっている。
素直で可愛いんだけど、可哀そうだ。
慰めようと、ポンと頭に手を載せて、ドキッとした。
最上級シルクのような手触りの髪。
そういえば、去年俺たちが残念がったから髪を伸ばしてくれたのかな。
……ものすごく可愛い。
どうしてこの存在を抱きしめることができないんだろう。
『えっと……何、大げさに……そんな高級品なの? このスーツ』
『ご自分の服の値段ご存じないんですか?』
『うん。自分で買っても値段なんて覚えてないよ』
『はあ……まあ、似合うからいいのかな』
明日生は澄んだ湖に映った月のように微笑んだ。
すごく清澄な綺麗さを持ちながら、妖艶さが潜んでいる。
俺はおそらく明日生が実は魔術師だったって聞いても驚かない。
いつも思いだしたように俺に魔法をかけてくれるんだ。
俺を虜にする魔法。
きっと今夜も眠る時、一日を振り返ってドキドキが止まらない。
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