6 / 20
6話 アルバイトとマーメイド
しおりを挟む「素蓋さん! 頼まれてたもの持ってきましたよ!」
一階でプロテインドリンクを飲んでいるところに、ティフシーが飛び込んできた。
「ありがとう、ティフシー」
「いえいえ~! たくさん持ってきましたから、選び放題ですよ!」
そう言って、ティフシーはテーブルにカラフルな紙束を広げた。
これは求人の広告だ。
オレはシュリカさんの店の手伝いをしてるので、食べ物と住む場所には困らないけど、服を買う金などは自分で稼がないといけないのだ!
それに、異世界のバイトはちょっと興味がある。
「簡単そうで、半日くらいで終わるやつがいいな~」
「そういうのもたくさんありますよ! ほら、たとえばコレとか!」
そう言ってティフシーが見せた求人はコレだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯ゾウの遊び相手! 募集中!
退屈しているゾウの遊び相手をしてくれる方を募集しています。ゾウは優しい動物なので、けっして危険ではありません。
◯この仕事に向いてる人
・筋肉に自信のある人
・動物が好きな人
・ゾウと相撲をとれる人
◯必要なもの
・生命保険
・健康保険
・社会保険
◯注意点
・労災保険は加入必須です
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「絶対危険だろ! こんな仕事できるのはゴリラかキリンくらいだよ!」
「ダメですか? ゾウ可愛いのに。じゃあ、こっちはどうですか?」
そう言ってティフシーが見せたのは、こんな広告だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯わんちゃんと一緒にまったり! 犬カフェ『ポメラニアン』
犬カフェでコーヒーを注いだり、ワンちゃんのお世話をしたりするお仕事です。
◯この仕事に向いてる人
・コーヒーが好きな人
・ワンちゃんが好きな人
・自宅でワンちゃんを飼ってる人
◯注意点
・いろいろな種類の動物がいます
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「犬カフェじゃないのかよ!?」
最後の一文が怖い! 犬以外に何がいるんだ!
「えー、ダメですか? じゃあ素蓋さんはどれがいいですか?」
「うーん……コレかな……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレは書類面接がアッサリ通り、一日だけ海の監視員として働くことになった。
「こんにちはー!」
海の砂浜に立ててあるテントの中に入る。
海を眺めてるだけの仕事は簡単そうだし、半日で給料をもらえるのも嬉しい。
「えっ、あなたが応募してきた素蓋くん?」
「はい、素蓋です!」
オレの前には小麦色の肌をした美女がいた。
小さな顔に高い鼻。白の水着姿。
肌と水着のコントラストで、全身の肌が眩しいほど艶やかに見える。胸は大きいけど、水着の下からチラッと見えてるのが謙虚な感じだ。
上品な顔立ちと小麦色の肌。不思議なアンバランスが未知の魅力を振りまいていた。
まるで海から現れたマーメイドだ。
「ふーん……あなたがマックグリスさんから評価されたマッチョなの?」
「うっ……!」
そう。オレはマックグリスから、『このボーイはナイスマッスルさ!』という一言を履歴書に書いてもらって、アッサリこのバイトに合格したのだ!
マーメイド美女は疑わしげな目で、オレの細身の体をジロジロと見てくる。
「とてもそうは見えないわね」
「クッ……!」
白の水着と日焼けしたおっぱいの組み合わせは、やっぱり最高だぜ!
「ま、いいわ」
マーメイド美女はなぜかツンとした態度で、オレを簡易テントの中へ案内した。
中には案の定、色黒のマッチョたちが五人ほどいた。
マーメイド美女はふと安心したような表情になり、オレたちに言う。
「みなさん、海の監視員のバイトにお集まりいただき、ありがとうございます。いまから簡単な身体測定をしてもらいますので、呼ばれた方からこちらへ来てください」
「イェェエエエア! いつでも準備はできてるぜミリアンッ!」
ぶっちぎりで体がデカいマッチョが叫んだ。
「あ、ディブは前回も来てもらったから、測定は免除でいいわ」
ディブと呼ばれたマッチョは、『オーケー!』と誇らしげな顔で後ろへ戻り、他のマッチョと談笑し始めた。
なるほど。リピーターもいるのか。
ま、オレには関係ないけどな!
美少女を見るために強化した『視力』と、ぶっちぎりの泳ぎの『技術』があれば、海の監視員なんて楽勝だ!
「じゃあ、素蓋さん。こちらへ来てください」
「おっけー!」
オレはサンダルを脱いで、測定器の上に立った。
マーメイド美女のミリアンは、眉を潜めてその数値を確認する。
「体脂肪率ゼロパーセント……おかしいわね。壊れてるのかしら?」
「ゼロパーセント!?」
オレも思わず聞き返した。
え、オレって体脂肪率ゼロなの? それって人としてどうなの?
『マッチョ科高校の劣等生 ~体脂肪率ゼロパーセントのオレは最強になった~』
みたいなタイトルが浮かんだけど、思ったよりカッコよくない。
「ま、いいわ。特別に免除にしてあげる。いまから仕事の説明を始めるから、よく聞いてね」
本当ならあなたは不合格なんだけどね。みたいなツンとした言い方だった。
薄々気づいてたけど、やっぱりこのミリアンとかいう女ッッ……………………!!!
左のおっぱいより、右のおっぱいの方が少し大きいなっ!
「じゃあ、次に注意事項だけど」
オレはミリアンの話を聞き流しながら、左右のおっぱいどっちか片方揉めるとしたら、どっちを選ぶか、真剣に考えていた。
そして。
「では、各自の持ち場で監視を始めてください。サボっていたり、集中力が切れかけていたりしたら、その場で帰宅してもらいますので、注意してくださいね」
「はーい」
ついにこの世界に来てはじめてのアルバイトが始まった!
最初は監視台の高さにドン引きしていたが、上ってみると、
「おぉっっ! 眺め最高だな!」
海の水は透明で、海底の砂やヒトデや珊瑚、泳いでる魚までバッチリ見える。
海辺はそこそこ賑わっていて、浜辺でビーチバレーをしてる美女たちや、ドリンクを飲んでる美少女たちもいる。
「コレなら退屈することはなさそうだな~!」
綺麗な海とダイナマイトボディの美女たちを眺めながら、ちょっと強めの日光で肌を焼く。
ときどき吹いてくる海風が気持ちいい。
「でも、ちゃんと監視はしないとな。誰かが溺れてたらすぐ助けないと」
オレは少し心を入れ替えて、周囲を観察し始める。
すると。
「ヘイッ、ミリアン! このバイトが終わったら、一緒にジムへ汗を流しに行かないかい?」
さっきの体のデカいマッチョが、マーメイド美女のミリアンをナンパしていた。
なにやってんだアイツ!
「ディブ、持ち場に戻って。監視の時間よ?」
「トイレに行った帰り道さ! 返事だけ聞かせてくれたら、すぐ持ち場に戻るさ!」
「トイレに行くのも許可を取らないとダメよ。代わりの人を立てるんだから!」
「いやぁ! ついウッカリしてたなっ! ちなみに僕とジムでデートは」
と言いながら、ディブがオレの監視台に壁ドンのような体勢で寄りかかった。
「えっ?」
アホなのかコイツは!?
あの体格で、この細長い監視台に体重なんてかけたら……!
「ちょ、ディブッ! あなた手」
「え?」
その瞬間、オレの監視台がバランスを崩し、傾き始めた。
高さは五メートル以上。このまま落ちたら死ぬかもしれない。
「ちょ、まじかよっ!」
しかも、いま傾いてる方向へ倒れたら、下にいる人たちを巻き込むかもしれない。
「クッソ! オレに力を貸せ、技術!」
オレは監視台から身を投げ出し、手摺を掴んだ。
そのまま全身のバネを使い、空中で手摺を引っ張る。
監視台は少しだけ向きを変え、テントの方へ倒れ始めた。
「よっし! これで安心……」
じゃねぇえええええええええ!
反動を使い切ったオレは、空中でなにもできず、そのまま急速に落下していく。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ドシャッッッッッッ!
オレは砂浜に落ちる瞬間、前転しながら受け身をとったが、全身をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
「い、てて……。こんなことなら、ゾウと遊ぶバイトの方がマシだったかもしれないな……」
オレは背中をさすりながら、ゆっくり立ち上がった。
周囲の人たちから、ムダに注目を集めてしまった。
たっぷり五秒間、ビーチが静まり返った。
そして。
「ウワァアアアアアアアアアアアアアオッッッッッッ!」
オレの周囲から地面が揺れそうなほどの歓声が巻き起こった。
「アンビリーバボーォオオオオオオッ! 空中で監視台の軌道を変えるなんてッッッッッ! なんてストロングなインナーマッスルを持ってるんだ彼はッッッッ!?」
「私たちを守るために、自分の身を犠牲にして、あっちへ転んでくれたのねっ!」
「あの高さから落ちたら死んでもおかしくないぞッッッ! いったいどれほどのトレーニングをすれば、あんなビューティフルなハートを手に入れられるんだァアアアッッ!」
「カッコよすぎるわ! 一度でいいから、彼のスペシャルなマッスルに抱かれたいわ!」
ベタ褒めだーっ!
監視台から落ちただけなのに、めっちゃ好感度上がってるーっ!
「それにしても……」
一人の美女が、ディブにゴミを見るような目を向けた。
「あの男が彼を突き落としたのよ……彼はきっとたんぱく質が足りてないんだわ」
「あのボーイは、監視の仕事もしないで、女性をナンパしてたぜ! 仕方ない! 俺たちの汗と友情のトレーニングで鍛え直してあげよう!」
「ええ、あの男はマッスルを磨いて、出直してくるべきね。プリティマッスルの汗でも飲ませてもらったらいいんじゃないかしら?」
ディブの評価はガタ落ちだ。
まあ、擁護はできないな。オレは無傷で済んだけど、この世界に来てはじめて身の危険を感じたからな。
その後。ディブは色黒マッチョな男たちの暑苦しいハードトレーニングに参加させられていた。
オレはビーチの人たちからヒーローのように扱われていたが、しばらくして人が落ち着くと、ミリアンが遠慮がちにオレに近づいてきた。
「素蓋さん。あの、最初はあなたを疑ってて、ごめんなさい。あなたは私がこれまで見た中で、一番のビューティフルマッスルよ」
「別にいいって。気にしてないよ!」
「いいえ。あなたを監視台から落としてしまったのは、私の監督不行き届きのせいもあるもの。謝ってもダメ。私にできることがあれば、お詫びになんでもするわ!」
ミリアンはオレに急接近してきた。
背伸びをして、キスでもしそうなほどの距離で見上げてくる。
「え、じゃあ、おっぱい触らせてっ! なーんてね!」
オレは冗談めかして言うと、ミリアンは考え込むように腕を組んだ。
しばらくしてオレを見上げると、赤くなった頬を手で押さえた。
「左か右、どっちか片方ならいいわ」
「えっ!? じゃあ……どっちにするか、もう一回最初から考え直してもいい?」
0
あなたにおすすめの小説
ライバル悪役令嬢に転生したハズがどうしてこうなった!?
だましだまし
ファンタジー
長編サイズだけど文字数的には短編の範囲です。
七歳の誕生日、ロウソクをふうっと吹き消した瞬間私の中に走馬灯が流れた。
え?何これ?私?!
どうやら私、ゲームの中に転生しちゃったっぽい!?
しかも悪役令嬢として出て来た伯爵令嬢じゃないの?
しかし流石伯爵家!使用人にかしずかれ美味しいご馳走に可愛いケーキ…ああ!最高!
ヒロインが出てくるまでまだ時間もあるし令嬢生活を満喫しよう…って毎日過ごしてたら鏡に写るこの巨体はなに!?
悪役とはいえ美少女スチルどこ行った!?
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる