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6話 アルバイトとマーメイド
しおりを挟む「素蓋さん! 頼まれてたもの持ってきましたよ!」
一階でプロテインドリンクを飲んでいるところに、ティフシーが飛び込んできた。
「ありがとう、ティフシー」
「いえいえ~! たくさん持ってきましたから、選び放題ですよ!」
そう言って、ティフシーはテーブルにカラフルな紙束を広げた。
これは求人の広告だ。
オレはシュリカさんの店の手伝いをしてるので、食べ物と住む場所には困らないけど、服を買う金などは自分で稼がないといけないのだ!
それに、異世界のバイトはちょっと興味がある。
「簡単そうで、半日くらいで終わるやつがいいな~」
「そういうのもたくさんありますよ! ほら、たとえばコレとか!」
そう言ってティフシーが見せた求人はコレだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯ゾウの遊び相手! 募集中!
退屈しているゾウの遊び相手をしてくれる方を募集しています。ゾウは優しい動物なので、けっして危険ではありません。
◯この仕事に向いてる人
・筋肉に自信のある人
・動物が好きな人
・ゾウと相撲をとれる人
◯必要なもの
・生命保険
・健康保険
・社会保険
◯注意点
・労災保険は加入必須です
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「絶対危険だろ! こんな仕事できるのはゴリラかキリンくらいだよ!」
「ダメですか? ゾウ可愛いのに。じゃあ、こっちはどうですか?」
そう言ってティフシーが見せたのは、こんな広告だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯わんちゃんと一緒にまったり! 犬カフェ『ポメラニアン』
犬カフェでコーヒーを注いだり、ワンちゃんのお世話をしたりするお仕事です。
◯この仕事に向いてる人
・コーヒーが好きな人
・ワンちゃんが好きな人
・自宅でワンちゃんを飼ってる人
◯注意点
・いろいろな種類の動物がいます
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「犬カフェじゃないのかよ!?」
最後の一文が怖い! 犬以外に何がいるんだ!
「えー、ダメですか? じゃあ素蓋さんはどれがいいですか?」
「うーん……コレかな……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレは書類面接がアッサリ通り、一日だけ海の監視員として働くことになった。
「こんにちはー!」
海の砂浜に立ててあるテントの中に入る。
海を眺めてるだけの仕事は簡単そうだし、半日で給料をもらえるのも嬉しい。
「えっ、あなたが応募してきた素蓋くん?」
「はい、素蓋です!」
オレの前には小麦色の肌をした美女がいた。
小さな顔に高い鼻。白の水着姿。
肌と水着のコントラストで、全身の肌が眩しいほど艶やかに見える。胸は大きいけど、水着の下からチラッと見えてるのが謙虚な感じだ。
上品な顔立ちと小麦色の肌。不思議なアンバランスが未知の魅力を振りまいていた。
まるで海から現れたマーメイドだ。
「ふーん……あなたがマックグリスさんから評価されたマッチョなの?」
「うっ……!」
そう。オレはマックグリスから、『このボーイはナイスマッスルさ!』という一言を履歴書に書いてもらって、アッサリこのバイトに合格したのだ!
マーメイド美女は疑わしげな目で、オレの細身の体をジロジロと見てくる。
「とてもそうは見えないわね」
「クッ……!」
白の水着と日焼けしたおっぱいの組み合わせは、やっぱり最高だぜ!
「ま、いいわ」
マーメイド美女はなぜかツンとした態度で、オレを簡易テントの中へ案内した。
中には案の定、色黒のマッチョたちが五人ほどいた。
マーメイド美女はふと安心したような表情になり、オレたちに言う。
「みなさん、海の監視員のバイトにお集まりいただき、ありがとうございます。いまから簡単な身体測定をしてもらいますので、呼ばれた方からこちらへ来てください」
「イェェエエエア! いつでも準備はできてるぜミリアンッ!」
ぶっちぎりで体がデカいマッチョが叫んだ。
「あ、ディブは前回も来てもらったから、測定は免除でいいわ」
ディブと呼ばれたマッチョは、『オーケー!』と誇らしげな顔で後ろへ戻り、他のマッチョと談笑し始めた。
なるほど。リピーターもいるのか。
ま、オレには関係ないけどな!
美少女を見るために強化した『視力』と、ぶっちぎりの泳ぎの『技術』があれば、海の監視員なんて楽勝だ!
「じゃあ、素蓋さん。こちらへ来てください」
「おっけー!」
オレはサンダルを脱いで、測定器の上に立った。
マーメイド美女のミリアンは、眉を潜めてその数値を確認する。
「体脂肪率ゼロパーセント……おかしいわね。壊れてるのかしら?」
「ゼロパーセント!?」
オレも思わず聞き返した。
え、オレって体脂肪率ゼロなの? それって人としてどうなの?
『マッチョ科高校の劣等生 ~体脂肪率ゼロパーセントのオレは最強になった~』
みたいなタイトルが浮かんだけど、思ったよりカッコよくない。
「ま、いいわ。特別に免除にしてあげる。いまから仕事の説明を始めるから、よく聞いてね」
本当ならあなたは不合格なんだけどね。みたいなツンとした言い方だった。
薄々気づいてたけど、やっぱりこのミリアンとかいう女ッッ……………………!!!
左のおっぱいより、右のおっぱいの方が少し大きいなっ!
「じゃあ、次に注意事項だけど」
オレはミリアンの話を聞き流しながら、左右のおっぱいどっちか片方揉めるとしたら、どっちを選ぶか、真剣に考えていた。
そして。
「では、各自の持ち場で監視を始めてください。サボっていたり、集中力が切れかけていたりしたら、その場で帰宅してもらいますので、注意してくださいね」
「はーい」
ついにこの世界に来てはじめてのアルバイトが始まった!
最初は監視台の高さにドン引きしていたが、上ってみると、
「おぉっっ! 眺め最高だな!」
海の水は透明で、海底の砂やヒトデや珊瑚、泳いでる魚までバッチリ見える。
海辺はそこそこ賑わっていて、浜辺でビーチバレーをしてる美女たちや、ドリンクを飲んでる美少女たちもいる。
「コレなら退屈することはなさそうだな~!」
綺麗な海とダイナマイトボディの美女たちを眺めながら、ちょっと強めの日光で肌を焼く。
ときどき吹いてくる海風が気持ちいい。
「でも、ちゃんと監視はしないとな。誰かが溺れてたらすぐ助けないと」
オレは少し心を入れ替えて、周囲を観察し始める。
すると。
「ヘイッ、ミリアン! このバイトが終わったら、一緒にジムへ汗を流しに行かないかい?」
さっきの体のデカいマッチョが、マーメイド美女のミリアンをナンパしていた。
なにやってんだアイツ!
「ディブ、持ち場に戻って。監視の時間よ?」
「トイレに行った帰り道さ! 返事だけ聞かせてくれたら、すぐ持ち場に戻るさ!」
「トイレに行くのも許可を取らないとダメよ。代わりの人を立てるんだから!」
「いやぁ! ついウッカリしてたなっ! ちなみに僕とジムでデートは」
と言いながら、ディブがオレの監視台に壁ドンのような体勢で寄りかかった。
「えっ?」
アホなのかコイツは!?
あの体格で、この細長い監視台に体重なんてかけたら……!
「ちょ、ディブッ! あなた手」
「え?」
その瞬間、オレの監視台がバランスを崩し、傾き始めた。
高さは五メートル以上。このまま落ちたら死ぬかもしれない。
「ちょ、まじかよっ!」
しかも、いま傾いてる方向へ倒れたら、下にいる人たちを巻き込むかもしれない。
「クッソ! オレに力を貸せ、技術!」
オレは監視台から身を投げ出し、手摺を掴んだ。
そのまま全身のバネを使い、空中で手摺を引っ張る。
監視台は少しだけ向きを変え、テントの方へ倒れ始めた。
「よっし! これで安心……」
じゃねぇえええええええええ!
反動を使い切ったオレは、空中でなにもできず、そのまま急速に落下していく。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ドシャッッッッッッ!
オレは砂浜に落ちる瞬間、前転しながら受け身をとったが、全身をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
「い、てて……。こんなことなら、ゾウと遊ぶバイトの方がマシだったかもしれないな……」
オレは背中をさすりながら、ゆっくり立ち上がった。
周囲の人たちから、ムダに注目を集めてしまった。
たっぷり五秒間、ビーチが静まり返った。
そして。
「ウワァアアアアアアアアアアアアアオッッッッッッ!」
オレの周囲から地面が揺れそうなほどの歓声が巻き起こった。
「アンビリーバボーォオオオオオオッ! 空中で監視台の軌道を変えるなんてッッッッッ! なんてストロングなインナーマッスルを持ってるんだ彼はッッッッ!?」
「私たちを守るために、自分の身を犠牲にして、あっちへ転んでくれたのねっ!」
「あの高さから落ちたら死んでもおかしくないぞッッッ! いったいどれほどのトレーニングをすれば、あんなビューティフルなハートを手に入れられるんだァアアアッッ!」
「カッコよすぎるわ! 一度でいいから、彼のスペシャルなマッスルに抱かれたいわ!」
ベタ褒めだーっ!
監視台から落ちただけなのに、めっちゃ好感度上がってるーっ!
「それにしても……」
一人の美女が、ディブにゴミを見るような目を向けた。
「あの男が彼を突き落としたのよ……彼はきっとたんぱく質が足りてないんだわ」
「あのボーイは、監視の仕事もしないで、女性をナンパしてたぜ! 仕方ない! 俺たちの汗と友情のトレーニングで鍛え直してあげよう!」
「ええ、あの男はマッスルを磨いて、出直してくるべきね。プリティマッスルの汗でも飲ませてもらったらいいんじゃないかしら?」
ディブの評価はガタ落ちだ。
まあ、擁護はできないな。オレは無傷で済んだけど、この世界に来てはじめて身の危険を感じたからな。
その後。ディブは色黒マッチョな男たちの暑苦しいハードトレーニングに参加させられていた。
オレはビーチの人たちからヒーローのように扱われていたが、しばらくして人が落ち着くと、ミリアンが遠慮がちにオレに近づいてきた。
「素蓋さん。あの、最初はあなたを疑ってて、ごめんなさい。あなたは私がこれまで見た中で、一番のビューティフルマッスルよ」
「別にいいって。気にしてないよ!」
「いいえ。あなたを監視台から落としてしまったのは、私の監督不行き届きのせいもあるもの。謝ってもダメ。私にできることがあれば、お詫びになんでもするわ!」
ミリアンはオレに急接近してきた。
背伸びをして、キスでもしそうなほどの距離で見上げてくる。
「え、じゃあ、おっぱい触らせてっ! なーんてね!」
オレは冗談めかして言うと、ミリアンは考え込むように腕を組んだ。
しばらくしてオレを見上げると、赤くなった頬を手で押さえた。
「左か右、どっちか片方ならいいわ」
「えっ!? じゃあ……どっちにするか、もう一回最初から考え直してもいい?」
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