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8章
若者の明日
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「取」というカルプが読み取れる、鉄骨を露わに崩れ傾いた旧民鉄駅前の広場だった。線路沿いには、焼け焦げた廃車両が、無数に、互いに食いつき合うような配列で放置されていた。線路には、元はシルバーとブルーの塗装であったものと分かる、全ての車窓を失った列車が、傾き倒れている。
改札口近くには、手を取り合う、男女のものと思われる白骨体が、互いを労り、慰めるように、骨の顔を向け合って横臥していた。
その駅前広場に、数十台の軽排気二輪とハーレーダビッドソンが停車し、鹵の率いる機動賊徒団の構成員達が寛いでいる。
一斗缶の焚き木が燃える前で、ハーレーダビッドソンに跨り、青龍刀のブレードを親指で撫でる鹵は、自分のたどってきた道を思い出していた。
あれはデストラクションの二年前だった。
鹵は、湊の中学に通う十五歳の少年だった。成績は中の上で、部活動は陸上部に在籍し、100メートルを12秒で駆け抜ける俊足ぶりを見せ、進学校への推薦を得られることも間違いないと言われていた。
父親は湊でアジアの輸入家具を扱う会社を経営しており、母がそれを手伝い、ベトナム人や日本人の従業員とともに汗を流して働いていた。
山本悟実は、竹馬の友、と呼ぶべき存在だった。鹵は生粋の大陸人でありながら、日本に生まれ育ち、幼くして日本人の子供達のコミュニティに問題なく溶け込んだ。幼稚園で出来た初めての大親友の妹で、言葉の発育が遅いことは分かっていたが、よく、個人的にも行動をともにした。彼女の手を引き、小遣いを持って甘味を食べに行ったり、川沿いを散歩したりもした。鹵は日本に棲む外国人、悟実は障害児という、制度的、または生まれのハンデを背負う者同士だが、気心の知れた間柄だった。
立場的弱者への共感性を持たない偏右政党が、喝采の中に政権を取った時、あたかも国民の自由意思であるかのように、外国人を、資質不良者も、善良、勤勉な者も十把一絡げ、障害者や生活保護受給者を財政圧迫の根源的諸悪と決めつけた民間団体が、各地で迫害を始めた。当初はヘイトの言葉を浴びせる程度のものから始まり、次第に物理的な嫌がらせ、暴力沙汰へと発展した。
あの日、あの夜、鹵の一家三人は、ファミリーレストランであるフラナガンズで夕食を食べていた。
席で、何の迷惑行為をするわけでもなく、大人しく食事をする三人の一家を、通路を挟んで斜めに座る四人の若い男達が、にやつきながらちらちらと視線を当て、聞えよがしの悪口を言っていた。その中に「便所服」という言葉が聴き取れた。
ふざけるな。俺達の同胞は日本国に税金も納めてる。鹵の血気はたぎったが、「偏見には偏見を、差別には差別を返しては決してならない。日中戦争の逸脱行為は、国同士でお互い様、戦争とはこういうもの」という父の教育を貫き、それを抑えた。その頃、これまで仲良くしてくれていた級友達の態度も目に見えて冷たく素っ気ないものになり、悟実の兄以外の者達が、皆、鹵を避けるようになっていた。
胸元に団体名の刺繍された黄色のブルゾンを着た、髪型などは特段の素行不良者には見えないが、目付き、顔付きに人品的な卑しさの出ている男達だった。
そこへ、ベトナムかラオス出身と思われる母親と、小学生の年齢らしい娘が入ってきた。
店員に案内されて席に着こうとしたその母娘に、席を立った黄色ブルゾンの一人が通せん坊をし、日本人客の飯が不味くなるから、外国人は入店禁止と言い、席の仲間達がけたけたと笑った。
その時、鹵の父が立ち上がり、その男に歩み進んだ。男が振り返り、席の者達がその父に凝視の目を向けた。
ミディアム・ウェルダンが、プレート皿の上で、肉の知るをぴちぴちと爆ぜされていた。隣には、フォークとナイフ、スプーンのセットが、綺麗に畳まれたナプキンの上に置かれていた。
「遠慮すんな。食え。これからうちで働いてもらう契約だ。支払いのことは心配すんな」真向いに座る砂山が言い、雄大はフォークとナイフを手に取った。
雄大によって片輪にされた二人の兵徒は、砂山が呼びつけた幹部により銃殺処分となった。
雄大は、これまでは食えるべくもなかった上物の食事を、無我夢中で口に運んでいる。それを砂山が、充分に値を踏んだ目で見ている。
テーブル席が三脚、三人が座れるカウンター席を設ける10坪の店。半円形のアーチ窓にクロスカーテンが掛かり
洋電灯の下がる店の内観。
カウンター前で、主人とその妻が、雄大に、自分達の儚い何かを期待する眼を向けている。
明座に近づく算段が成った。ちょうど良い具合に、今は篠との間が緊迫している。
若い食欲を見せ、肉とライス、野菜を口に放り込み、咀嚼する雄大の秘める意図を読んだように、砂山はその姿を、謀る目で見ている。
それは組織の勢力維持、利益のため、思うままに使用出来る人間を得たことで、これからの使い勝手を計算する目だった。
店主夫妻は、雄大に対して縋る目を向け続けていた。
集団暴行が始まり、父を助けるために一人を殴り倒した十五歳の鹵は、襟首を後ろに引かれて倒され、鳩尾を蹴られ、呼吸が出来なくなった。
殴打音が響く中、店員はあたかも何も起こっていないように仕事を続け、居合わせた他の客も、時折不安げな視線をちらりと送るだけで、携帯を取り、通報しようとする者はいなかった。そればかりか、白い歯を見せて笑ながら、スマホを向けている若者達のグループもいた。中年男までがスマホを向けていた。
ベトナム人母娘は、母親が娘を抱きしめ、目の前の狂景を見せまいとしていた。
店は、通報すればあとから酷い嫌がらせを受けるし、客達は、自分達の生活が脅かされることを恐れているのだ。
ジャパン・ファーストとは、身勝手な、我が身のみのファースト。自分の躰さえ傷つかなければ、他人の安全、尊厳、命が危険に晒されることなどどうでもいい。他人が傷つき、死ぬことは、むしろ激励。それが我が身の娯楽にさえなる。
母は、フロアに爪を立てるようにして腹這いに倒れ、頭から、泡立つ大量の血を流している。護身用具として流通する、通称「撲殺アイアンバー」で頭蓋を割られたのだ。
フロアに背中を着けて横たわる父は、すでに内臓破裂を起こし、鼻と口から血を吐いているにも関わらず、リーダー格と見られる男が腹を蹴り続けていた。鹵は仲間の男達から躰を抑え込まれながら、それを見せられた。
てめえらみてえな便所服は、日本に棲むな。
リーダーの男は罵り、かっと痰をせせり、動かなくなった父の顔にそれを吐きかけ、鹵の胸をさらに蹴った。
俺は伊佐岡だ。警察行くなら行ってみな。警察なんか行ったって、こっちの味方だよ。なんせ、俺らの活動支援の後ろ盾が、警視庁公安部なんだからな。俺らの活動は、言うなりゃ公安部の民間委託なんだよ。てめえらはまともに教育されてねえだろうけどな、てめえらの同族が通州で俺らの同胞にやったことはこんなもんじゃねえんだからな。
伊佐岡と名乗った、感情の通わぬ昆虫を思わせる顔をした男は言って、鹵の腹をまた蹴った。
それから数分して、警察と救急車が来た。少し心ある店員か客が、目立たない所から通報したようだった。救急隊員は、集団暴行によって亡骸となった両親の瞳孔にペンライトを当てるだけの簡易的な処理を行い、青い遺体収容袋に父、母を詰めて運び去り、事情を聴取する警察に、伊佐岡は、こちらが殴られたからごく正当的な防衛をした、としゃあしゃあと答えた。
鹵は、現実に起こったことを受け入れられず、涙も出ない心境のまま、手錠を後ろ手に嵌められ、警察署に連行され、やる気のなさを顔一面と態度に出した婦警から拇印押しを強いられ、調書を取られた。
とりあえず今回は、補導という扱いにしておいてやる。動揺の中、ことの次第を日本語で訴えて話した稚い鹵に、婦警は言い放った。
どうして、と、ようやく涙が出始めた鹵は訊き返した。
お前達は嘘が得意だということは、こちらは職業経験上、よく知っている。日本に来て棲んでいるお前達のような者達は、違法行為、迷惑行為が手に職のようなものだ。今日のところはこれでいいから、帰れ。お前の親の遺体は南病院に置いてある。
斎場で荼毘に伏された両親の遺骨は、大陸本土の実家へ送られた。火葬に立ち合った叔父は、今は耐える時だと、悔しさと悲しみに咽ぶ甥を諭した。
その頃、悟実を妹とする日本人親友の父親が自死した。その経緯は、悟実と公園で話し、知ることになった。悟実とその家族に対して行われたことの概要に、腹から汚濁が込み上げるような思いになった。
ダブルデストラクションはその二年後に襲い、日本全土を焦土に変え、その人口、3分の2超の命を焼き尽くした。日本に棲んでいた親族は全員が死に、何も持たざる少年となった鹵は、手始めに一人で強盗稼業を始めた。通貨システムが崩壊した中、身を寄せ合って暮らす家族や他人同士のグループに、家宝であった青龍刀を突きつけ、必需品を奪い、それを糧に命を繋いだ。その暮らしを続けること数年、自分と同じように国内でヘイトクライムを受けたという大陸人、半島人、ベトナム人が集まった。そのグループは、乗り捨てられた二輪を拾い、機動力を得た。堅牢な造りをした焼け残りのオートスタンドはまだ機能しており、それが行動の源となり、今に至っている。
人相をはっきりと記憶に刻印している伊佐岡が、デストラクションで死んだか、まだ命があり、どこかにいるかは分からない。あの時、涙とともに、悟実とともに悲しく誓ったことは、今も止めど続けている。
鹵は空を仰ぎ、青龍刀のブレードを立てた。
「ここだ」幹部の運転する車を降りた砂山が言い、同乗していた雄大が背中を丸めて続いた。至る所に鉄のプレートが貼り巡らされたテラスハウスの立哨兵徒が、自動歩槍銃を下ろし、砂山に頭を下げた。二人の立哨は、頭を上げばな、雄大に、性別を見粉っているかのような視線を向けた。それは雄大があまりに美しく、愛らしいためだった。
応接セット脇に袈裟姿の明座がふん反り立ち、煙草を燻らせている。ソファに座るバスローブ姿の女が、雄大を見て、眼に明星の輝きをきらめかせた。
「さくま、というらしいです。長物を遣います。今日から早速、うちで働いてもらおうと思うんですが」
砂山が雄大を手で指して紹介すると、明座は彼の全身をじろりと舐めるように見て、品を定めた。その品定めの顔に、見覚えのある人間を見たような光が、一瞬だけ瞬いた。
「気張ってやれや」明座はそれだけを言い、腰を屈めて煙草を擦り消した。女は瞬きもせず、雄大を見つめている。
「こいつは佐久間だ。今日からうちに加わることになったんだ。お前らよりも仕事をする奴だぞ。ここの分からねえことは、お前らが教えてやれ」
砂山は、詰めている兵徒達を見回して言い、雄大は忙しなく瞬きをし、おどおどと顔を伏せた。
私の躰には、とある、アンプル程度のサイズをしたものが埋め込まれている。それが、役立ちの日を待っている。
悟実は、今日の客と、逆さ数字の体勢を取り、互いの性器を口で繋いでいる。彼女は頬に谷を作り、唇をゆっくりと滑らせ、客は舌の踊りと指で、その躰に愛撫を施している。
悟実が客の陰茎から口を離したことが、繋いで、という合図になり、肘、膝を褥に着け、獣の体勢になった彼女に、客が後ろから躰を沈めた。
私達にとっての明日とは。悟実は躰を前後に振りつつ、過去のコマを思い出した。それは、私と彼の未来に繋がるもの。語彙を成さない思いが、悟実の胸に沸き出していた。
デストラクションより遡ること二年前の冬だった。その時に、まだ子供であった悟実の身に振りかかったことが、彼女に、あの手術を受けることに同意させたのだ。
外国人迫害が日に日にエスカレートしていた。それは似非国粋主義者団体、若者の自称自警団により行われていた。それが障害者と呼ばれる人々にも及んでいるという噂を、耳にし始めた頃だった。
家に、二人の男が訪ねてきたことから、それは始まった。インターホン向こうの男は、先日、三軒隣に越してきた者、と言い、母がドアを開けた。
その数日前、中学から帰った悟実が家に入る際、家の前に黒いワゴン車が停車しており、中から、絡みつくような視線を感じていた。
足をストッパーにしてドアが開けられたことが分かった。母の躰が傾ぎ、倒れた。
中にいた父が木刀を取った。男らは二人だけではなかった。門柱陰に隠れていたと思われる、他数人の男達も、土足で上がり込んできた。その時、「ろーちん」の親友である兄は、部活動に出ていて不在だった。
木刀で立ち向かおうとした父は、母とともに躰を拘束され、カーペットの上に捻じ伏せられていた。
男達は、偏差値程度の高くない大学生か、フリーターのように見えた。服装などは、別段に職務質問の対象にはならないであろうカジュアルで、特に目立つ髪色もしていなかったが、顔の相が、揃って曲者のそれをし、人の顔写真がプリントされた腕章を着けていた。
それはその時から遡ること十幾年前、神奈川の知的障害者入所施設に深夜、刃物を手に押し入り、就寝中の利用者を十数人も死傷させた男の、愉悦の笑いを浮かべた逮捕写真だった。
俺らのソウル・フューラー、と一人の男が言い、その男はなおも、連帯責任、と続けた。一般的に、健常、と呼ばれる人の言うことは、自分には、簡単な日常会話以外は覚えづらい。
鳩尾を殴られて動けなくされ、髪を掴まれた悟実の目の前で、両親への集団暴行が始まった。
一人の男が、二人がかりで立位にされた父の股間を蹴り上げ、カーペットの上に引きずり倒し、三人で頭、背中、腹、腰を蹴り込んだ。母は髪を掴まれ、部屋中を引き回された上、顔と胸を拳で殴られ、同じように蹴り込まれた。籠った音の中に、哄笑が混じった。
それから、娘を守ろうにも守れなくなった両親の前で、男達はひゃらひゃらと笑いながら、悟実のトレーナーを毟り取り、インナー、ブラジャーを引っ剝ぎ、スカートと女児用ズロースを抜き取り、全裸にした。
その時、口に押し込まれた不潔な陰茎の臭み、乳房をこね回し、幼い性器を弄り回した手の感触、破瓜の痛みは、今も忘れることなく覚えている。両親は、集団暴力で受けた痛みに伏せるだけで、目前で数人がかりで輪姦される娘を助ける力は残されていなかった。
凌辱の様子は、一人の男によってスマホで撮影されていた。スマホの前で、屈辱と、破瓜の痛みに泣く悟実を、男達は全員が射精するまで犯し続けた。その男根は、悟実の肛門にまで突き立てられた。
警察行くなら行ってみろ、今、警察は身障の言うことなんか相手にしないし、それをやれば、今日撮ったやつが闇サイトに流れて、拡散されることになるぞ、という旨のことを、苦痛にぐったりしている両親と、裸で泣き呻く悟実の前でリーダー格の男は言い、高笑いする子分達を連れて撤収した。
その男が言ったことは事実だった。ヘイトクライムは外国人のみならず、障害者や生活保護受給者にまで及び、沼狩り、車椅子狩り、白杖狩り、生ポ者狩りと呼ばれる、性的暴力を含む暴行強盗事件が全国で続発していたが、容疑者とされた者達の多くは証拠不十分、または保護者が保釈金を支払うことで釈放されていた。
その後、母は行方不明となり、父は首を吊って自殺した。兄は若くして精神障害を患い、遠隔地の親戚宅に身柄を預けられた。悟実は妊娠し、中絶手術を受けた。
堕胎したのち、その産婦人科病院の院長と面談になった。大陸人らしい姓を持つ院長の促しで、悟実は妊娠の経緯を話した。そこで院長は、紹介状を書かせてもらっていいかと訊いてきた。それは外科手術の紹介状とのことだった。
密に大陸へ行き、大陸の陸軍病院で受ける手術。それは、躰の中に、市一つを吹き飛ばす威力を持つ超小型核爆弾を埋め込む手術であり、費用の心配はない、と、院長は噛み砕いた言葉で悟実に説明した。
その院長は、大学生の右派セクトに娘を凌辱され、自殺に追いやられていたのだ。
公なものではないため、君自身の意思一つで出来る、と院長は言い、悟実は頷きで承諾した。
男達の護衛が付き、朝に成田から大陸へ発ち、深夜に手術を受け、スイッチ端末を持たされて帰国した。それを使う間もなく、ダブルデストラクションは襲来した。
叔父とともに、二つの大惨禍を生き延びた。復興の見込みもない焦土の中、店を営む店主である叔父を扶ける手段は、自分の肉体を販ぐことの他、思いつくものはなかった。
語彙を形成しない回想が巡り終わった時、客が射精した。悟実は、客が躰から陰茎を抜いたのちも、四つ這いの姿勢を取り続けた。露わになった肛門と、朱の肉を覗かせた会陰部に客の視線を感じながら、悟実は、自分が陰から指揮する組織の、これからの動かし方を計算していた。
「砂山、やっぱりお前の目利きは伊達じゃねえ。こいつは使える」割れたアスファルトの上に転がる二つの生首を目下に、明座が感嘆し、雄大は、作法に則った動作で国宗の血を振った。その場には、砂山も立ち合っていた。
雄大が、明座と砂山の前で首を飛ばした二人の男は、他所から流れてきて明座の縄張に棲みついていた、そこそこ刃物を遣うギャングだった。こいつを倒したら兵徒の腕章をやる、と、雄大を指した砂山が言い、一対二で命のやり取りをさせた。その勝敗は、瞬きの間も設けることなく、着いた。
「これは是非とも、うちの先頭フォワードとして働いてもらうしかねえ。そうなりゃ、篠の島なんざ、ものの二日かそこらで俺達のものになる」明座は満ち溢れる自信の声で言い、砂山が頷いた。
「老板。老大からです」鹵の補佐である周という男が、フォンを彼に渡した。その「老大」の存在を知る者は、鹵が率いる総勢二千人の「死幇」の中では、彼と周のみだ。老大が仕入れた、物資、銅貨が比較的あるコロニー、集落、または武器商人の情報を鹵、または周が受け、指示の下に襲撃や兵器類の買いつけを行うことが活動ルーティンだ。
「すごい刀遣う人が、明座商会に入ったんだって。それで篠総業さんも、使える兵隊、求めてるの」通話口から、雑音に混じって流れる老大の口調は淡々としたものだった。
あの旧市を分割支配する二組織の間に食い込み、それにより、湊を拠点とする。それをやることにより、あの偏右政権発足時までは楽しい時間を過ごした湊に戻り、彼女とともに最期を迎える。湊を道連れに。そのために斥候兼挑発役を送ったが、その男は帰ってこなかった。
「篠と組めば、私達、また一緒だよ。篠も、明座に対抗出来る力、求めてるから」老大、悟実が言った時、雑音の入り具合が激しくなった。
「じゃあね、ろーちん」「今すぐに、湊へ行くよ」
通話を終了させた鹵は、改札前に骨の躰を横たえる男女に目を遣った。骨ながら、満ち足りた表情をしているように見える。この男女は、おそらくここで毒か睡眠薬を呷ったのだろうが、二人死ぬことが出来たことだけが、この二人に与えられた最期の恵みだと思った。
「明日、俺達の組織を挙げて、攻め込む」鹵は軽二輪の間にスロースピードのハーレーを割り入れ、低い檄を放った。手勢達は一斉に「到」と返答した。
改札口近くには、手を取り合う、男女のものと思われる白骨体が、互いを労り、慰めるように、骨の顔を向け合って横臥していた。
その駅前広場に、数十台の軽排気二輪とハーレーダビッドソンが停車し、鹵の率いる機動賊徒団の構成員達が寛いでいる。
一斗缶の焚き木が燃える前で、ハーレーダビッドソンに跨り、青龍刀のブレードを親指で撫でる鹵は、自分のたどってきた道を思い出していた。
あれはデストラクションの二年前だった。
鹵は、湊の中学に通う十五歳の少年だった。成績は中の上で、部活動は陸上部に在籍し、100メートルを12秒で駆け抜ける俊足ぶりを見せ、進学校への推薦を得られることも間違いないと言われていた。
父親は湊でアジアの輸入家具を扱う会社を経営しており、母がそれを手伝い、ベトナム人や日本人の従業員とともに汗を流して働いていた。
山本悟実は、竹馬の友、と呼ぶべき存在だった。鹵は生粋の大陸人でありながら、日本に生まれ育ち、幼くして日本人の子供達のコミュニティに問題なく溶け込んだ。幼稚園で出来た初めての大親友の妹で、言葉の発育が遅いことは分かっていたが、よく、個人的にも行動をともにした。彼女の手を引き、小遣いを持って甘味を食べに行ったり、川沿いを散歩したりもした。鹵は日本に棲む外国人、悟実は障害児という、制度的、または生まれのハンデを背負う者同士だが、気心の知れた間柄だった。
立場的弱者への共感性を持たない偏右政党が、喝采の中に政権を取った時、あたかも国民の自由意思であるかのように、外国人を、資質不良者も、善良、勤勉な者も十把一絡げ、障害者や生活保護受給者を財政圧迫の根源的諸悪と決めつけた民間団体が、各地で迫害を始めた。当初はヘイトの言葉を浴びせる程度のものから始まり、次第に物理的な嫌がらせ、暴力沙汰へと発展した。
あの日、あの夜、鹵の一家三人は、ファミリーレストランであるフラナガンズで夕食を食べていた。
席で、何の迷惑行為をするわけでもなく、大人しく食事をする三人の一家を、通路を挟んで斜めに座る四人の若い男達が、にやつきながらちらちらと視線を当て、聞えよがしの悪口を言っていた。その中に「便所服」という言葉が聴き取れた。
ふざけるな。俺達の同胞は日本国に税金も納めてる。鹵の血気はたぎったが、「偏見には偏見を、差別には差別を返しては決してならない。日中戦争の逸脱行為は、国同士でお互い様、戦争とはこういうもの」という父の教育を貫き、それを抑えた。その頃、これまで仲良くしてくれていた級友達の態度も目に見えて冷たく素っ気ないものになり、悟実の兄以外の者達が、皆、鹵を避けるようになっていた。
胸元に団体名の刺繍された黄色のブルゾンを着た、髪型などは特段の素行不良者には見えないが、目付き、顔付きに人品的な卑しさの出ている男達だった。
そこへ、ベトナムかラオス出身と思われる母親と、小学生の年齢らしい娘が入ってきた。
店員に案内されて席に着こうとしたその母娘に、席を立った黄色ブルゾンの一人が通せん坊をし、日本人客の飯が不味くなるから、外国人は入店禁止と言い、席の仲間達がけたけたと笑った。
その時、鹵の父が立ち上がり、その男に歩み進んだ。男が振り返り、席の者達がその父に凝視の目を向けた。
ミディアム・ウェルダンが、プレート皿の上で、肉の知るをぴちぴちと爆ぜされていた。隣には、フォークとナイフ、スプーンのセットが、綺麗に畳まれたナプキンの上に置かれていた。
「遠慮すんな。食え。これからうちで働いてもらう契約だ。支払いのことは心配すんな」真向いに座る砂山が言い、雄大はフォークとナイフを手に取った。
雄大によって片輪にされた二人の兵徒は、砂山が呼びつけた幹部により銃殺処分となった。
雄大は、これまでは食えるべくもなかった上物の食事を、無我夢中で口に運んでいる。それを砂山が、充分に値を踏んだ目で見ている。
テーブル席が三脚、三人が座れるカウンター席を設ける10坪の店。半円形のアーチ窓にクロスカーテンが掛かり
洋電灯の下がる店の内観。
カウンター前で、主人とその妻が、雄大に、自分達の儚い何かを期待する眼を向けている。
明座に近づく算段が成った。ちょうど良い具合に、今は篠との間が緊迫している。
若い食欲を見せ、肉とライス、野菜を口に放り込み、咀嚼する雄大の秘める意図を読んだように、砂山はその姿を、謀る目で見ている。
それは組織の勢力維持、利益のため、思うままに使用出来る人間を得たことで、これからの使い勝手を計算する目だった。
店主夫妻は、雄大に対して縋る目を向け続けていた。
集団暴行が始まり、父を助けるために一人を殴り倒した十五歳の鹵は、襟首を後ろに引かれて倒され、鳩尾を蹴られ、呼吸が出来なくなった。
殴打音が響く中、店員はあたかも何も起こっていないように仕事を続け、居合わせた他の客も、時折不安げな視線をちらりと送るだけで、携帯を取り、通報しようとする者はいなかった。そればかりか、白い歯を見せて笑ながら、スマホを向けている若者達のグループもいた。中年男までがスマホを向けていた。
ベトナム人母娘は、母親が娘を抱きしめ、目の前の狂景を見せまいとしていた。
店は、通報すればあとから酷い嫌がらせを受けるし、客達は、自分達の生活が脅かされることを恐れているのだ。
ジャパン・ファーストとは、身勝手な、我が身のみのファースト。自分の躰さえ傷つかなければ、他人の安全、尊厳、命が危険に晒されることなどどうでもいい。他人が傷つき、死ぬことは、むしろ激励。それが我が身の娯楽にさえなる。
母は、フロアに爪を立てるようにして腹這いに倒れ、頭から、泡立つ大量の血を流している。護身用具として流通する、通称「撲殺アイアンバー」で頭蓋を割られたのだ。
フロアに背中を着けて横たわる父は、すでに内臓破裂を起こし、鼻と口から血を吐いているにも関わらず、リーダー格と見られる男が腹を蹴り続けていた。鹵は仲間の男達から躰を抑え込まれながら、それを見せられた。
てめえらみてえな便所服は、日本に棲むな。
リーダーの男は罵り、かっと痰をせせり、動かなくなった父の顔にそれを吐きかけ、鹵の胸をさらに蹴った。
俺は伊佐岡だ。警察行くなら行ってみな。警察なんか行ったって、こっちの味方だよ。なんせ、俺らの活動支援の後ろ盾が、警視庁公安部なんだからな。俺らの活動は、言うなりゃ公安部の民間委託なんだよ。てめえらはまともに教育されてねえだろうけどな、てめえらの同族が通州で俺らの同胞にやったことはこんなもんじゃねえんだからな。
伊佐岡と名乗った、感情の通わぬ昆虫を思わせる顔をした男は言って、鹵の腹をまた蹴った。
それから数分して、警察と救急車が来た。少し心ある店員か客が、目立たない所から通報したようだった。救急隊員は、集団暴行によって亡骸となった両親の瞳孔にペンライトを当てるだけの簡易的な処理を行い、青い遺体収容袋に父、母を詰めて運び去り、事情を聴取する警察に、伊佐岡は、こちらが殴られたからごく正当的な防衛をした、としゃあしゃあと答えた。
鹵は、現実に起こったことを受け入れられず、涙も出ない心境のまま、手錠を後ろ手に嵌められ、警察署に連行され、やる気のなさを顔一面と態度に出した婦警から拇印押しを強いられ、調書を取られた。
とりあえず今回は、補導という扱いにしておいてやる。動揺の中、ことの次第を日本語で訴えて話した稚い鹵に、婦警は言い放った。
どうして、と、ようやく涙が出始めた鹵は訊き返した。
お前達は嘘が得意だということは、こちらは職業経験上、よく知っている。日本に来て棲んでいるお前達のような者達は、違法行為、迷惑行為が手に職のようなものだ。今日のところはこれでいいから、帰れ。お前の親の遺体は南病院に置いてある。
斎場で荼毘に伏された両親の遺骨は、大陸本土の実家へ送られた。火葬に立ち合った叔父は、今は耐える時だと、悔しさと悲しみに咽ぶ甥を諭した。
その頃、悟実を妹とする日本人親友の父親が自死した。その経緯は、悟実と公園で話し、知ることになった。悟実とその家族に対して行われたことの概要に、腹から汚濁が込み上げるような思いになった。
ダブルデストラクションはその二年後に襲い、日本全土を焦土に変え、その人口、3分の2超の命を焼き尽くした。日本に棲んでいた親族は全員が死に、何も持たざる少年となった鹵は、手始めに一人で強盗稼業を始めた。通貨システムが崩壊した中、身を寄せ合って暮らす家族や他人同士のグループに、家宝であった青龍刀を突きつけ、必需品を奪い、それを糧に命を繋いだ。その暮らしを続けること数年、自分と同じように国内でヘイトクライムを受けたという大陸人、半島人、ベトナム人が集まった。そのグループは、乗り捨てられた二輪を拾い、機動力を得た。堅牢な造りをした焼け残りのオートスタンドはまだ機能しており、それが行動の源となり、今に至っている。
人相をはっきりと記憶に刻印している伊佐岡が、デストラクションで死んだか、まだ命があり、どこかにいるかは分からない。あの時、涙とともに、悟実とともに悲しく誓ったことは、今も止めど続けている。
鹵は空を仰ぎ、青龍刀のブレードを立てた。
「ここだ」幹部の運転する車を降りた砂山が言い、同乗していた雄大が背中を丸めて続いた。至る所に鉄のプレートが貼り巡らされたテラスハウスの立哨兵徒が、自動歩槍銃を下ろし、砂山に頭を下げた。二人の立哨は、頭を上げばな、雄大に、性別を見粉っているかのような視線を向けた。それは雄大があまりに美しく、愛らしいためだった。
応接セット脇に袈裟姿の明座がふん反り立ち、煙草を燻らせている。ソファに座るバスローブ姿の女が、雄大を見て、眼に明星の輝きをきらめかせた。
「さくま、というらしいです。長物を遣います。今日から早速、うちで働いてもらおうと思うんですが」
砂山が雄大を手で指して紹介すると、明座は彼の全身をじろりと舐めるように見て、品を定めた。その品定めの顔に、見覚えのある人間を見たような光が、一瞬だけ瞬いた。
「気張ってやれや」明座はそれだけを言い、腰を屈めて煙草を擦り消した。女は瞬きもせず、雄大を見つめている。
「こいつは佐久間だ。今日からうちに加わることになったんだ。お前らよりも仕事をする奴だぞ。ここの分からねえことは、お前らが教えてやれ」
砂山は、詰めている兵徒達を見回して言い、雄大は忙しなく瞬きをし、おどおどと顔を伏せた。
私の躰には、とある、アンプル程度のサイズをしたものが埋め込まれている。それが、役立ちの日を待っている。
悟実は、今日の客と、逆さ数字の体勢を取り、互いの性器を口で繋いでいる。彼女は頬に谷を作り、唇をゆっくりと滑らせ、客は舌の踊りと指で、その躰に愛撫を施している。
悟実が客の陰茎から口を離したことが、繋いで、という合図になり、肘、膝を褥に着け、獣の体勢になった彼女に、客が後ろから躰を沈めた。
私達にとっての明日とは。悟実は躰を前後に振りつつ、過去のコマを思い出した。それは、私と彼の未来に繋がるもの。語彙を成さない思いが、悟実の胸に沸き出していた。
デストラクションより遡ること二年前の冬だった。その時に、まだ子供であった悟実の身に振りかかったことが、彼女に、あの手術を受けることに同意させたのだ。
外国人迫害が日に日にエスカレートしていた。それは似非国粋主義者団体、若者の自称自警団により行われていた。それが障害者と呼ばれる人々にも及んでいるという噂を、耳にし始めた頃だった。
家に、二人の男が訪ねてきたことから、それは始まった。インターホン向こうの男は、先日、三軒隣に越してきた者、と言い、母がドアを開けた。
その数日前、中学から帰った悟実が家に入る際、家の前に黒いワゴン車が停車しており、中から、絡みつくような視線を感じていた。
足をストッパーにしてドアが開けられたことが分かった。母の躰が傾ぎ、倒れた。
中にいた父が木刀を取った。男らは二人だけではなかった。門柱陰に隠れていたと思われる、他数人の男達も、土足で上がり込んできた。その時、「ろーちん」の親友である兄は、部活動に出ていて不在だった。
木刀で立ち向かおうとした父は、母とともに躰を拘束され、カーペットの上に捻じ伏せられていた。
男達は、偏差値程度の高くない大学生か、フリーターのように見えた。服装などは、別段に職務質問の対象にはならないであろうカジュアルで、特に目立つ髪色もしていなかったが、顔の相が、揃って曲者のそれをし、人の顔写真がプリントされた腕章を着けていた。
それはその時から遡ること十幾年前、神奈川の知的障害者入所施設に深夜、刃物を手に押し入り、就寝中の利用者を十数人も死傷させた男の、愉悦の笑いを浮かべた逮捕写真だった。
俺らのソウル・フューラー、と一人の男が言い、その男はなおも、連帯責任、と続けた。一般的に、健常、と呼ばれる人の言うことは、自分には、簡単な日常会話以外は覚えづらい。
鳩尾を殴られて動けなくされ、髪を掴まれた悟実の目の前で、両親への集団暴行が始まった。
一人の男が、二人がかりで立位にされた父の股間を蹴り上げ、カーペットの上に引きずり倒し、三人で頭、背中、腹、腰を蹴り込んだ。母は髪を掴まれ、部屋中を引き回された上、顔と胸を拳で殴られ、同じように蹴り込まれた。籠った音の中に、哄笑が混じった。
それから、娘を守ろうにも守れなくなった両親の前で、男達はひゃらひゃらと笑いながら、悟実のトレーナーを毟り取り、インナー、ブラジャーを引っ剝ぎ、スカートと女児用ズロースを抜き取り、全裸にした。
その時、口に押し込まれた不潔な陰茎の臭み、乳房をこね回し、幼い性器を弄り回した手の感触、破瓜の痛みは、今も忘れることなく覚えている。両親は、集団暴力で受けた痛みに伏せるだけで、目前で数人がかりで輪姦される娘を助ける力は残されていなかった。
凌辱の様子は、一人の男によってスマホで撮影されていた。スマホの前で、屈辱と、破瓜の痛みに泣く悟実を、男達は全員が射精するまで犯し続けた。その男根は、悟実の肛門にまで突き立てられた。
警察行くなら行ってみろ、今、警察は身障の言うことなんか相手にしないし、それをやれば、今日撮ったやつが闇サイトに流れて、拡散されることになるぞ、という旨のことを、苦痛にぐったりしている両親と、裸で泣き呻く悟実の前でリーダー格の男は言い、高笑いする子分達を連れて撤収した。
その男が言ったことは事実だった。ヘイトクライムは外国人のみならず、障害者や生活保護受給者にまで及び、沼狩り、車椅子狩り、白杖狩り、生ポ者狩りと呼ばれる、性的暴力を含む暴行強盗事件が全国で続発していたが、容疑者とされた者達の多くは証拠不十分、または保護者が保釈金を支払うことで釈放されていた。
その後、母は行方不明となり、父は首を吊って自殺した。兄は若くして精神障害を患い、遠隔地の親戚宅に身柄を預けられた。悟実は妊娠し、中絶手術を受けた。
堕胎したのち、その産婦人科病院の院長と面談になった。大陸人らしい姓を持つ院長の促しで、悟実は妊娠の経緯を話した。そこで院長は、紹介状を書かせてもらっていいかと訊いてきた。それは外科手術の紹介状とのことだった。
密に大陸へ行き、大陸の陸軍病院で受ける手術。それは、躰の中に、市一つを吹き飛ばす威力を持つ超小型核爆弾を埋め込む手術であり、費用の心配はない、と、院長は噛み砕いた言葉で悟実に説明した。
その院長は、大学生の右派セクトに娘を凌辱され、自殺に追いやられていたのだ。
公なものではないため、君自身の意思一つで出来る、と院長は言い、悟実は頷きで承諾した。
男達の護衛が付き、朝に成田から大陸へ発ち、深夜に手術を受け、スイッチ端末を持たされて帰国した。それを使う間もなく、ダブルデストラクションは襲来した。
叔父とともに、二つの大惨禍を生き延びた。復興の見込みもない焦土の中、店を営む店主である叔父を扶ける手段は、自分の肉体を販ぐことの他、思いつくものはなかった。
語彙を形成しない回想が巡り終わった時、客が射精した。悟実は、客が躰から陰茎を抜いたのちも、四つ這いの姿勢を取り続けた。露わになった肛門と、朱の肉を覗かせた会陰部に客の視線を感じながら、悟実は、自分が陰から指揮する組織の、これからの動かし方を計算していた。
「砂山、やっぱりお前の目利きは伊達じゃねえ。こいつは使える」割れたアスファルトの上に転がる二つの生首を目下に、明座が感嘆し、雄大は、作法に則った動作で国宗の血を振った。その場には、砂山も立ち合っていた。
雄大が、明座と砂山の前で首を飛ばした二人の男は、他所から流れてきて明座の縄張に棲みついていた、そこそこ刃物を遣うギャングだった。こいつを倒したら兵徒の腕章をやる、と、雄大を指した砂山が言い、一対二で命のやり取りをさせた。その勝敗は、瞬きの間も設けることなく、着いた。
「これは是非とも、うちの先頭フォワードとして働いてもらうしかねえ。そうなりゃ、篠の島なんざ、ものの二日かそこらで俺達のものになる」明座は満ち溢れる自信の声で言い、砂山が頷いた。
「老板。老大からです」鹵の補佐である周という男が、フォンを彼に渡した。その「老大」の存在を知る者は、鹵が率いる総勢二千人の「死幇」の中では、彼と周のみだ。老大が仕入れた、物資、銅貨が比較的あるコロニー、集落、または武器商人の情報を鹵、または周が受け、指示の下に襲撃や兵器類の買いつけを行うことが活動ルーティンだ。
「すごい刀遣う人が、明座商会に入ったんだって。それで篠総業さんも、使える兵隊、求めてるの」通話口から、雑音に混じって流れる老大の口調は淡々としたものだった。
あの旧市を分割支配する二組織の間に食い込み、それにより、湊を拠点とする。それをやることにより、あの偏右政権発足時までは楽しい時間を過ごした湊に戻り、彼女とともに最期を迎える。湊を道連れに。そのために斥候兼挑発役を送ったが、その男は帰ってこなかった。
「篠と組めば、私達、また一緒だよ。篠も、明座に対抗出来る力、求めてるから」老大、悟実が言った時、雑音の入り具合が激しくなった。
「じゃあね、ろーちん」「今すぐに、湊へ行くよ」
通話を終了させた鹵は、改札前に骨の躰を横たえる男女に目を遣った。骨ながら、満ち足りた表情をしているように見える。この男女は、おそらくここで毒か睡眠薬を呷ったのだろうが、二人死ぬことが出来たことだけが、この二人に与えられた最期の恵みだと思った。
「明日、俺達の組織を挙げて、攻め込む」鹵は軽二輪の間にスロースピードのハーレーを割り入れ、低い檄を放った。手勢達は一斉に「到」と返答した。
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