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プロローグ

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 ガタゴトと整備されていない道を駆る複数の馬車。幌付きの馬車の御者台には魔物よけのランタン。青白く仄かに光るそのランタンは時折、プルッンと揺れる。
 「どうしたの?ぷにさん」
 二叉幌の片方が捲れ、赤毛に栗色の瞳の褐色の娘が顔を出した。
 ランタンはみるみるうちに形を変え、形の良い饅頭型になった。
 プルン、プルン、プルン。揺れる度に色が変化する。青から黄色、黄色から赤になったのを見て、娘は薄暗い森に意識を向ける。
 「・・・・な、なんだ!魔物か?」
 御者台で手綱を執っていたキャラバン隊の隊長ガルータが上ずった声で聞いてきた。
 「・・・・静かすぎる!?」
 娘はぼそりと呟き、馬車の中に顔を引っ込める。と、すぐに横の幌が開いて娘が顔を出す。
 「どうした、リース?」
 馬車のすぐ横を馬で並走していたドワーフ族の戦士ティガが娘、リースに声を掛ける。
 「ねぇ、ここって生き物いないの?」
 ティガは少し考える素振りをみせて後ろに声を掛ける。
 「ラフティア。来てくれ!!」
 「どうしたの~?ティガ」
 やって来たエルフ族の魔法使いラフティアは間延びした声を出した。ティガがリースから聞かれたことを聞くと、ラフティアは耳のそばに一房垂れているミント髪の三つ網に触れ、意識を集中させる。
 「・・・・そうねぇ。《配達》もあるし、周辺を調べてみる~?」
 ラフティアの言葉を受けてガルータがため息をつき、キャラバンの隊員達に野営指示を出す。
 「・・・・ここで、ですか?」
 食材・園芸担当のフィラルドが眼鏡のブリッジを人差し指と中指で押し上げて辺りを見渡す。
 薄暗い木立の合間から生暖かい風が吹く。
 「こんな、魔物よけの《結界》もない場所(ところ)で野営しなくても・・・・。《草の魔術師》殿の小屋まで行きましょう!!たいち・・・・」
 アォォォーンッ!!
 フィラルドが言い終わらないうちに雄叫びが木霊する。
 「っ!?」
 キャラバン隊《暁の明星》のメンバー達が震えあがる。
 「落ち着け。あれは遠吠えで仲間を呼んでいるだけだ!!」
 ティガはそう言って《暁の明星》のメンバーを落ち着かせた。ガルータが再度、野営準備を指示すると、皆ぎこちなくも動き始めた。
 「あ、わたしも手伝います!行こう、ぷにさん」
 リースはスライムを抱き抱えると、薬師のナズナと仕立て屋のアリーナに駆け寄った。その途中、フィラルドとすれ違った。
 リースは胸に抱えたぷにさんをぎゅっと抱きしめた。ぷにさんがスリムになった。リースは意を決して、ティガ達A級冒険者パーティー《銀狼》に声を掛けた。
 「あの、あの!調査に行くなら、わたしも同行させて下さい!!!」
 勢い良く頭をさげたリースの後ろで、フィラルドが眼鏡のブリッジを人差し指と中指で押し上げていた。眼鏡の奥の水色の瞳は冷たくリースを映していた。
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