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一章
魔女、奇術団を脱走する
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魔女って知ってる?
魔道士、魔法使い、魔術師、いろいろあるけど魔女ってのはまず女で、魔法が得意で、そして悪い。男の魔女? そんなのもいるらしいけど無視無視。
とにかく人々を恐れおののかせる怖い魔法使いが魔女なの。
私、ミル・シュガルはこの大陸一番の魔女になってやるって決めたのだ。
私の両親は魔法使いだった。
二人とも魔術団に入ってた。魔術団ってのは、国が凄い魔法使いを選んで集めてる軍団だ。
でも戦争になって、ダメな王様のせいでひどいことになって、二人とも戦死してしまった。
国があっさり滅亡した後、魔術団がどうなったと思う?
奇術団に鞍替えして、魔法を見世物にあちこち巡業し始めた。
あんなに恐れられた黒服の魔法使いたちが滑稽な芸人の恰好をして見世物をさせられる! 我慢できるなんて信じられない。
それも魔物に変身する魔法を見せて回るだなんて。子猫みたいなかわいい生き物なら好きなんだけど、魔物よ、魔物。不気味ったらありゃしない。
だいたい変身の魔法は秘儀だったはずなのに。
人からでっかい魔物に変身するショーは意外にも受けた。子どもたちは大はしゃぎ、大人だって拍手喝采。
まあ、大人たちが喜んでるのは変身するときに姉たちの服が千切れ飛ぶところかもしれないけどね。
でもこんな屈辱ってある?
人間を別の生物に変えるってのはそりゃもう大魔法なわけ。幻術みたくちゃちなごまかしじゃない本物なの。
それが町から町へとドサ回りして、ぱっと驚かせて見せるだけ。まさしく奇術扱いよ。私はそんなの嫌。
私は尊敬していた父さんや母さんみたいになりたくて、小さい頃から魔法をがんばって勉強してきた。
父さんは錬金術、母さんは変身術の達人だった。片方を覚えるだけでも吐きそうに難しかったけど、私は両方を身に着けようと自分に誓っていた。でも並の勉強じゃ無理。
私は引きこもって魔法の本を全部書き写した。
両親が隠している秘儀書もこっそり持ち出して、見つかる前に頭に叩き込んだ。
姉からは家事を手伝えってよく怒られて喧嘩になったけど、そんな暇なんてないっての。
そのかいあって、私はひとかどの魔法を身に着けた。
錬金術だったら、秘宝だって作れる腕前だ。希少材料さえあればね。
画期的な変身魔法の術式だって発明した。
それって奇術もどきをやるためだったの? 違うよね!
私は人前に出るのが大の苦手だってのもある。
知らない人の前に出たり、大勢から見つめられたり、大声で騒ぎ立てられたりするのは怖い。
だって仕方ないじゃない、魔法使いは芸人じゃないんだから。
だいたい、私はこんな見た目だよ?
全然かわいらしくもなければ、女性らしいスタイルでもない。やたら背も高い。男みたいだってよく言われたから髪は伸ばしたけど、別段かわいくはならなかった。
大勢の前でにこやかな顔をして、布の少ない服を着て胸や尻や肌をひけらかす。そういうことは、そういうのに向いてきてそういうのが好きな姉がやればいい。
それと、なるだけ不気味な魔物に化けるほうがお客をびっくりさせて受けるんだけど、そういう気味悪いのは苦手。というか魔物はどれも嫌い。
他の魔法使いがでっかい蛙に変身したのを見たときは気絶しかけた、んん、本当のことを言うと気絶した。
だってブヨブヨでヌルヌルでデロデロでギョロギョロなんだよ!
ああ、もう正直に言う。私は怖がりなのだ。
臆病とか馬鹿にされるから言いたくなかったんだけど。
戦争で負けて、父さんも母さんも死んで、みんな逃げ出して、人の海の中で姉とはぐれて、そこで大きな魔物が……
もうやだ、思い出したくない。
とにかく人前に出るのも魔物も巡業も嫌だ。
姉にはそう何度も言ったのに聞いてくれやしない。
それどころか、私に歌えとか踊れとか言い始める始末。客に受けるはずだって。
そりゃあ私も自分がかわいい女の子だったら、そんなこともやったかもね。
でも、私は目つきがきついとか男じゃないのかとか怖いとか言われて育ってきた。
そんな私が人前に出たってただの晒し者よ。
そんな目に会わされるか、それとも見知らぬ世界に飛び出すか。
どちらが怖いか一日考えたあげく、私は奇術団を脱走して魔女になろうと決めた。
どうせ怖がれられるんだったら、いっそ怖い魔女になってしまえば、みんな近寄ってこなくなるはずだ。
怖さをもって怖さを制す、うん、頭いいね!
そう、魔女になるには怖がられなきゃいけない。
そうなると大陸の西とか東とか北はだめだ。特に北の帝国は魔法文化が進んでる。魔法を使っても驚かれもしない。
その点、南の王国にはいろんな恐ろしい伝説がはびこっていて魔法を忌み嫌っていると物の本に書いてあった。
だから今、私は飛龍に変身して南の空を飛んでいる。どこか良さげな根城を探して。
飛龍は長い距離を速く飛べるし、いろんな焔が噴けて錬金にも便利。大きすぎないのもいい。それと見た目がそんなに怖くないから安心。
奇術団をどうやって逃げ出すか考えたときに、まず徒歩は却下した。魔物に変身した姉たちからすぐに捕まえられてしまう。
馬は乗ったことがないので無理。
追いつかれないような魔物に変身して逃げる。これが正解なのは確かだ。問題は私が魔物を怖がることだった。
魔物に変身する魔法が使えるのと、魔物に変身して平気かどうかは違う話なのだ。自分がブヨブヨのゲコゲコになるのは嫌でしょ?
それで私は飛龍を選んだ。
飛龍は速く飛べて逃げやすいし、火を吐けて強い。なにより見た目が他の魔物よりはましだ。大きな目はかわいいと言えないこともないし、四本脚に二枚の翼を持つ姿は恐ろしいけど気持ち悪くはない。
いろんな属性のブレスを吐けるから錬金術に便利そうというのもある。
さて、魔物に変身するにはまず難しい魔法陣が必要。そして変身したい対象から写しとった霊紋も要る。
飛龍に変身するための霊紋は特別扱いで姉が厳重に管理してた。奇術団の興行で飛龍に変身してみせるのも姉だけ。
それでも隙はある。興行のためにはあらかじめテントの床に変身の術式と霊紋を仕込んでおかねばならない。大がかりな魔法だから準備にも時間がかかるのだ。
誰かに盗まれないように、興行前のテントは隠形の結界やら人払いの結界やらあれこれで厳重に守られている。私にかかっちゃ、それほどのことでもないけどね。
みんなが寝静まった深夜に私は起き出して、結界をひとつひとつ解除。
数時間かけて、とうとう剥き出しになった飛龍の霊紋を私は自分の身体に写しとった。そしてまた結界をかけ直していった。
一晩かけて、団員たちが起きてくる前になんとか後始末を終えることができたときはほっとした。姉に見つかってたら何日も閉じ込められてしまってただろう。
そして次の日の夜、興業が終わった姉が町長から招待されて出かけていった。その時を見計らっていた私はテントを飛び出した。飛龍に変身するのは目立つから、見られないところでやらないとね。
普段はたいして運動してないから少し走っただけでも息が切れる。それでも必死に走って町の門にまで来たら、門衛がいるじゃない!
昨日確認したときにはいなかったのに、奇術団の興行で町民が騒ぐのを抑えるためだろうか。いい迷惑だ。
姉だったら色仕掛けでもできるんだろうけど、私には無理。
私は思いきって門衛に話しかけた。
自分は奇術団の者で、姉は町長に招待されていて、外に出て変身しなきゃならなくなった。
何一つ嘘はついていない。
人の良さそうな門衛は、町長のために私が変身するものとばかり思い込んで外に出してくれた。ごめんね。
私はそこから歩いて小高い丘までたどり着いた。
町の明かりがちらほらと見える。
テントも見えた。
さようなら奇術団のみんな。姉さん、私は一人で立派に魔女として生きていきます。心配しないで。
心の中で分かれの挨拶を告げた。書置きは残してきていない。分かると思うし。
いよいよ飛龍に変身してやる。
そのままだと服が千切れ飛んじゃうから、まず周囲をよく見回して無人なのを確認して服を脱ぐ。
全身の紋様をしっかり隠すためにたくさん着ている風を脱ぐのは時間がかかる。
脱いだ服は畳んで革袋にしまう。革袋は長い紐付きだ。
春すぎの季節だけど夜の野外で全裸は肌寒い。それにこんなところをもし見られたら変態扱いだ。
「変身魔法術式発動」
魔法術式に魔力が通って、全身の紋様が輝き始める。
「対象霊紋を飛龍に指定」
紋様の上に光のパターンが浮かび上がり、流れ出す。
私の魔力のありったけを胸の魔法陣に注ぎ込む。
これまで鳥系の魔物に変身したことはあるけど、龍種に変身したことなんてない。
龍種は魔物の中でも上位種、それも希少な飛龍だ。霊紋がやたら複雑で緻密、ちょっとずれたら崩壊しそう。
霊紋の維持に全力で集中する。龍の形相を、質料を、魂を、魔を、己の魔法陣に固定していく。
きっつい。ものすごい勢いで魔法陣が魔力を吸い込んでいく。この魔力ってのは大元が生命力な訳。
魔力を消耗すれば生命力が削られる。身体は力を失い、目の前が暗くなる。腰が砕けそうになる。
息が苦しい。激しく喘ぐ。
耐えろ、私。もうちょっとだ。魔法陣に魔力が充填される。変身魔法術式の条件が満たされる!
「飛龍に変身! あぶそるれんす・ぼるくれむ!」
周囲の時空間が一気に歪む。魔法術式が霊紋に基づいて、私が飛龍だという可能性を構築していく。
変身とは言うけれど、実際には肉体が龍に変化するわけじゃない。私の運命が過去から入れ替わって、私は元から飛龍だったことになるのだ。
あらゆる私が喪われる。死の闇。
新たな私が導かれる。誕生の光。
身体が現出した。
四肢と翼を持ち、鱗に覆われた身体。魔力を捉える二本の角、根源を見通す眼。顎に並ぶ牙。
体長八メルの飛龍。
やった! 大成功!
龍種としては小型だけど世界最速の魔物。
複数の属性を操る上位種。
私はその力を我が物とした!
飛龍の感覚が世界の見え様を一変させる。
飛龍の力が身体にみなぎる。
私はもうか弱い人間なんかじゃない。
飛龍の力を手にした魔女、恐るべき龍魔女だ!
革袋の紐を長い首にかける。
翼を広げ、魔力を放射して浮上する。
高度はぐんぐんと上がり、町は小さな光の点々になる。
すばらしい高揚感!
さよなら、これまでの私の人生。
私は龍魔女のミル・シュガル!
魔道士、魔法使い、魔術師、いろいろあるけど魔女ってのはまず女で、魔法が得意で、そして悪い。男の魔女? そんなのもいるらしいけど無視無視。
とにかく人々を恐れおののかせる怖い魔法使いが魔女なの。
私、ミル・シュガルはこの大陸一番の魔女になってやるって決めたのだ。
私の両親は魔法使いだった。
二人とも魔術団に入ってた。魔術団ってのは、国が凄い魔法使いを選んで集めてる軍団だ。
でも戦争になって、ダメな王様のせいでひどいことになって、二人とも戦死してしまった。
国があっさり滅亡した後、魔術団がどうなったと思う?
奇術団に鞍替えして、魔法を見世物にあちこち巡業し始めた。
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それも魔物に変身する魔法を見せて回るだなんて。子猫みたいなかわいい生き物なら好きなんだけど、魔物よ、魔物。不気味ったらありゃしない。
だいたい変身の魔法は秘儀だったはずなのに。
人からでっかい魔物に変身するショーは意外にも受けた。子どもたちは大はしゃぎ、大人だって拍手喝采。
まあ、大人たちが喜んでるのは変身するときに姉たちの服が千切れ飛ぶところかもしれないけどね。
でもこんな屈辱ってある?
人間を別の生物に変えるってのはそりゃもう大魔法なわけ。幻術みたくちゃちなごまかしじゃない本物なの。
それが町から町へとドサ回りして、ぱっと驚かせて見せるだけ。まさしく奇術扱いよ。私はそんなの嫌。
私は尊敬していた父さんや母さんみたいになりたくて、小さい頃から魔法をがんばって勉強してきた。
父さんは錬金術、母さんは変身術の達人だった。片方を覚えるだけでも吐きそうに難しかったけど、私は両方を身に着けようと自分に誓っていた。でも並の勉強じゃ無理。
私は引きこもって魔法の本を全部書き写した。
両親が隠している秘儀書もこっそり持ち出して、見つかる前に頭に叩き込んだ。
姉からは家事を手伝えってよく怒られて喧嘩になったけど、そんな暇なんてないっての。
そのかいあって、私はひとかどの魔法を身に着けた。
錬金術だったら、秘宝だって作れる腕前だ。希少材料さえあればね。
画期的な変身魔法の術式だって発明した。
それって奇術もどきをやるためだったの? 違うよね!
私は人前に出るのが大の苦手だってのもある。
知らない人の前に出たり、大勢から見つめられたり、大声で騒ぎ立てられたりするのは怖い。
だって仕方ないじゃない、魔法使いは芸人じゃないんだから。
だいたい、私はこんな見た目だよ?
全然かわいらしくもなければ、女性らしいスタイルでもない。やたら背も高い。男みたいだってよく言われたから髪は伸ばしたけど、別段かわいくはならなかった。
大勢の前でにこやかな顔をして、布の少ない服を着て胸や尻や肌をひけらかす。そういうことは、そういうのに向いてきてそういうのが好きな姉がやればいい。
それと、なるだけ不気味な魔物に化けるほうがお客をびっくりさせて受けるんだけど、そういう気味悪いのは苦手。というか魔物はどれも嫌い。
他の魔法使いがでっかい蛙に変身したのを見たときは気絶しかけた、んん、本当のことを言うと気絶した。
だってブヨブヨでヌルヌルでデロデロでギョロギョロなんだよ!
ああ、もう正直に言う。私は怖がりなのだ。
臆病とか馬鹿にされるから言いたくなかったんだけど。
戦争で負けて、父さんも母さんも死んで、みんな逃げ出して、人の海の中で姉とはぐれて、そこで大きな魔物が……
もうやだ、思い出したくない。
とにかく人前に出るのも魔物も巡業も嫌だ。
姉にはそう何度も言ったのに聞いてくれやしない。
それどころか、私に歌えとか踊れとか言い始める始末。客に受けるはずだって。
そりゃあ私も自分がかわいい女の子だったら、そんなこともやったかもね。
でも、私は目つきがきついとか男じゃないのかとか怖いとか言われて育ってきた。
そんな私が人前に出たってただの晒し者よ。
そんな目に会わされるか、それとも見知らぬ世界に飛び出すか。
どちらが怖いか一日考えたあげく、私は奇術団を脱走して魔女になろうと決めた。
どうせ怖がれられるんだったら、いっそ怖い魔女になってしまえば、みんな近寄ってこなくなるはずだ。
怖さをもって怖さを制す、うん、頭いいね!
そう、魔女になるには怖がられなきゃいけない。
そうなると大陸の西とか東とか北はだめだ。特に北の帝国は魔法文化が進んでる。魔法を使っても驚かれもしない。
その点、南の王国にはいろんな恐ろしい伝説がはびこっていて魔法を忌み嫌っていると物の本に書いてあった。
だから今、私は飛龍に変身して南の空を飛んでいる。どこか良さげな根城を探して。
飛龍は長い距離を速く飛べるし、いろんな焔が噴けて錬金にも便利。大きすぎないのもいい。それと見た目がそんなに怖くないから安心。
奇術団をどうやって逃げ出すか考えたときに、まず徒歩は却下した。魔物に変身した姉たちからすぐに捕まえられてしまう。
馬は乗ったことがないので無理。
追いつかれないような魔物に変身して逃げる。これが正解なのは確かだ。問題は私が魔物を怖がることだった。
魔物に変身する魔法が使えるのと、魔物に変身して平気かどうかは違う話なのだ。自分がブヨブヨのゲコゲコになるのは嫌でしょ?
それで私は飛龍を選んだ。
飛龍は速く飛べて逃げやすいし、火を吐けて強い。なにより見た目が他の魔物よりはましだ。大きな目はかわいいと言えないこともないし、四本脚に二枚の翼を持つ姿は恐ろしいけど気持ち悪くはない。
いろんな属性のブレスを吐けるから錬金術に便利そうというのもある。
さて、魔物に変身するにはまず難しい魔法陣が必要。そして変身したい対象から写しとった霊紋も要る。
飛龍に変身するための霊紋は特別扱いで姉が厳重に管理してた。奇術団の興行で飛龍に変身してみせるのも姉だけ。
それでも隙はある。興行のためにはあらかじめテントの床に変身の術式と霊紋を仕込んでおかねばならない。大がかりな魔法だから準備にも時間がかかるのだ。
誰かに盗まれないように、興行前のテントは隠形の結界やら人払いの結界やらあれこれで厳重に守られている。私にかかっちゃ、それほどのことでもないけどね。
みんなが寝静まった深夜に私は起き出して、結界をひとつひとつ解除。
数時間かけて、とうとう剥き出しになった飛龍の霊紋を私は自分の身体に写しとった。そしてまた結界をかけ直していった。
一晩かけて、団員たちが起きてくる前になんとか後始末を終えることができたときはほっとした。姉に見つかってたら何日も閉じ込められてしまってただろう。
そして次の日の夜、興業が終わった姉が町長から招待されて出かけていった。その時を見計らっていた私はテントを飛び出した。飛龍に変身するのは目立つから、見られないところでやらないとね。
普段はたいして運動してないから少し走っただけでも息が切れる。それでも必死に走って町の門にまで来たら、門衛がいるじゃない!
昨日確認したときにはいなかったのに、奇術団の興行で町民が騒ぐのを抑えるためだろうか。いい迷惑だ。
姉だったら色仕掛けでもできるんだろうけど、私には無理。
私は思いきって門衛に話しかけた。
自分は奇術団の者で、姉は町長に招待されていて、外に出て変身しなきゃならなくなった。
何一つ嘘はついていない。
人の良さそうな門衛は、町長のために私が変身するものとばかり思い込んで外に出してくれた。ごめんね。
私はそこから歩いて小高い丘までたどり着いた。
町の明かりがちらほらと見える。
テントも見えた。
さようなら奇術団のみんな。姉さん、私は一人で立派に魔女として生きていきます。心配しないで。
心の中で分かれの挨拶を告げた。書置きは残してきていない。分かると思うし。
いよいよ飛龍に変身してやる。
そのままだと服が千切れ飛んじゃうから、まず周囲をよく見回して無人なのを確認して服を脱ぐ。
全身の紋様をしっかり隠すためにたくさん着ている風を脱ぐのは時間がかかる。
脱いだ服は畳んで革袋にしまう。革袋は長い紐付きだ。
春すぎの季節だけど夜の野外で全裸は肌寒い。それにこんなところをもし見られたら変態扱いだ。
「変身魔法術式発動」
魔法術式に魔力が通って、全身の紋様が輝き始める。
「対象霊紋を飛龍に指定」
紋様の上に光のパターンが浮かび上がり、流れ出す。
私の魔力のありったけを胸の魔法陣に注ぎ込む。
これまで鳥系の魔物に変身したことはあるけど、龍種に変身したことなんてない。
龍種は魔物の中でも上位種、それも希少な飛龍だ。霊紋がやたら複雑で緻密、ちょっとずれたら崩壊しそう。
霊紋の維持に全力で集中する。龍の形相を、質料を、魂を、魔を、己の魔法陣に固定していく。
きっつい。ものすごい勢いで魔法陣が魔力を吸い込んでいく。この魔力ってのは大元が生命力な訳。
魔力を消耗すれば生命力が削られる。身体は力を失い、目の前が暗くなる。腰が砕けそうになる。
息が苦しい。激しく喘ぐ。
耐えろ、私。もうちょっとだ。魔法陣に魔力が充填される。変身魔法術式の条件が満たされる!
「飛龍に変身! あぶそるれんす・ぼるくれむ!」
周囲の時空間が一気に歪む。魔法術式が霊紋に基づいて、私が飛龍だという可能性を構築していく。
変身とは言うけれど、実際には肉体が龍に変化するわけじゃない。私の運命が過去から入れ替わって、私は元から飛龍だったことになるのだ。
あらゆる私が喪われる。死の闇。
新たな私が導かれる。誕生の光。
身体が現出した。
四肢と翼を持ち、鱗に覆われた身体。魔力を捉える二本の角、根源を見通す眼。顎に並ぶ牙。
体長八メルの飛龍。
やった! 大成功!
龍種としては小型だけど世界最速の魔物。
複数の属性を操る上位種。
私はその力を我が物とした!
飛龍の感覚が世界の見え様を一変させる。
飛龍の力が身体にみなぎる。
私はもうか弱い人間なんかじゃない。
飛龍の力を手にした魔女、恐るべき龍魔女だ!
革袋の紐を長い首にかける。
翼を広げ、魔力を放射して浮上する。
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すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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