追放騎士と家出魔女 ~悪い魔女は天敵の騎士になつかれてしまいましたが島の支配を目指します~

モト

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一章

魔女、魔物に襲われる

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 飛龍になって脱走する計画には一つ大きな誤算があった。
 変身するのって、ただ身体が飛龍になるだけじゃすまなかった。心も飛龍になるのだ。

 飛ぶほどに心が躍る。
 風に乗って山間を抜け、川に沿って水しぶきを上げる。
 超低空で人里の建物をかすめ、高空に上がり、急降下。
 村人が騒ぎ、馬がいななき、犬が吠えている。
 あちこちで騒ぎになったみたいだ。

 それでも私は止まらない。
 高い壁に囲まれ、尖塔が立ち並ぶ大きな街が近づいてくる。南の都だね!
 猛速度で私は飛んで、尖塔の間を駆け抜ける。
 一つ避け損ねてレンガが砕け飛んだ。
 ごめん、でも倒れてないからいいよね!
 さらに加速していくと街中央の城が迫ってくる。
 城壁にぶつかる寸前で上に九十度ターンして上昇。
 張り出した壁が目前に現れた。

 危ない!
 まずいまずいまずいまずい!
 避けきれない!

 なにか飛龍の力は?
 そうだ、龍のブレス!
 身体の中の魔力を変換する。熱い焔に変える。

 私は顎を大きく開く。
 溜まった焔を噴く! 壁に当たる! 吹き飛ばす!
 石の壁は砕けて大穴が空く。
 融けた石が花火のように飛び散る。
 その中を私は通り抜ける。

 やった! 飛龍のブレスを使えた!
 ぐるりと踊るように飛んで喜びを表明。
 そしたら城壁の上にずらりと兵士が現れた。一斉に矢を射かけてくる!
 ちょっと、当たったら痛いじゃない!

 私は身を踊らせて低空へ。
 街並みを駆け抜けて縦横無尽。
 都の通りからはびっくりするぐらいたくさんの人たちが空飛ぶ私を見上げている。
 街の門を見つけて、焔で派手に吹き飛ばす。
 門を抜けて街を出る。
 丘の上を飛ぶ。
 丘に広がる畑の麦穂が風を受けて揺れる。

 そのあたりで私は飛龍になじんできて、自分を振り返る余裕ができた。
 ちょっとこれ、やばくない?
 振り返ると都からは狼煙が上がっている。
 呼応してあちこちの砦からも狼煙が上がり始めた。

 南の国をすっかり怒らせちゃったんじゃないかな?
 私が目指すところの悪い魔女らしい行動っちゃそうだし、凄さをアピールできたかもしれないけど、まだ根城も見つけてない。今追われたらまずすぎる。

 そこからはできるだけ人がいない場所を選んで飛んだ。
 それでもところどころでは狼煙が上がったり、恐怖の絶叫が聞こえてきたり、兵士が追いかけてこようとしたりした。
 どうにも飛龍は元気にあふれていて、つい咆哮を上げたりしてしまうのだ。

 南下していくと人口もまばらになってきて、なんとか大陸の南端にたどり着いた。
 そこから海岸線沿いに飛んでいたら見つけたのだ。とてもいい感じの場所を。

 海岸線から細い陸地が伸びていて、その先にそこそこ大きな島がある。半島ってやつね。
 島は深い密林に覆われている。密林は枯れて暗くて人を寄せ付けなさそうな感じがいい。
 島には城みたいな起伏がある。いかにも龍の住みかっぽくていい。
 そして、ちらりと見える地層が気に入った。ああいった金属っぽい色合いの地層は、錬金の材料が豊富にあるという印なのだ。研究しがいがありそう。
 うん、龍好みの物件だ。

 高度を下げて近づいてみると、地表のあちこちには穴が開いているようだった。内部に空洞があってつながっているのかもしれない。
 もしかしたら洞窟をそのまま住みかに使えるかも。

 島の上をぐるぐる飛びながら見て回る。
 島には生き物の気配が感じられなかった。邪魔者なしに一人ですごせるっぽい。
 歩いて回ったら数日かかりそうなぐらいには広い島なのに、生き物がまるでいないのは変だなってちらっと思いはしたけど、その時の私は発見にわくわくしていたのと疲れとでハイになってた。危険な予感を無視してしまったのだ。

 私は森の中に池を見つけて、そのほとりに降りた。
 開けていて降りやすいのもあったし、もう丸二日ほど飛びっぱなしだったから身体を洗いたかった。
 あ、飛龍を洗うんじゃないよ。変身を解いて人間の身体を洗うの。

 池は高い木に囲まれてた。西方山脈の針葉樹とはまるで違ってて、大きな葉をみっしり茂らせている。ただし、どの葉も枯れた色合いだ。
 昼過ぎの木漏れ日が池のきれいな水面をきらきらと照らしてた。風がそよいで水面を揺らす。
 季節はまだ春すぎだけど南方の空は日射しがきつくて暑かった。冷たそうな水が呼んでいる。

 私が池を覗き込むと、水面に映った飛龍の姿が私を見つめる。
 びっくりして後ずさりしてから、この飛龍は自分だってことを思い出した。ほんと魔物って怖い。

「術式解除」
 私は変身を解いた。怖い姿とはお別れだ。
 長く飛び続けてすっかりくたくた。しばらくは変身できそうにない。

 さて、ここで問題なのは、人から大きな魔物に変身するときに服なんて千切れ飛ぶってこと。だから人に戻ると裸ってわけ。
 でも、私はそんなに馬鹿じゃない。飛龍になる前には服をきちんと脱いで革袋に詰め込んでおいた。袋は飛龍の首に紐をかけて運んできている。
 
 私の裸はいろんな意味で人に見せたくない。
 普通に恥ずかしいのはもちろん、今の私のお肌には紋様がのたくっている。飛龍に変身するための術式と霊紋だ。

 奇術団で行われていた変身は、テントの床に大きな魔法陣をあらかじめ設置しておく大仕掛けな術式だった。好きな場所で自由に変身したりはできないのが欠点ね。

 姉は変身魔法の術式研究を皆に禁じていたけど、知ったこっちゃないよね。私は術理を見抜いて独自に改良していた。魔法陣と霊紋を極限までコンパクトにして分子レベルに凝縮し、身体の表面に変身術式の回路を形成するのだ。身体一つで変身術式を持ち歩けるってわけ。難しい? ん、大丈夫そうだね。
 私の術式にも欠点はあって、刺青みたくお肌の上に術式の紋様がはっきり見えてしまう。
 魔女は魔法の秘密を隠すもの。だから裸は見せられないし、服はびっしり厚着を用意してお肌を見せないようにしてある。

 でも、私はすっかり油断していたのだ。

 しゃがんで池の水に手の先を浸してみる。ちょっと冷たすぎるけど、それでも体を洗いたい。
 澄みきった水は池の岩底まで露わに見せている。魚一匹いなかった。
 水面には自分の裸と紋様が映っている。
 長い銀髪が腰まで垂れて揺れる。黒い目がじっと自分をにらんでいる。

 私は目を伏せた。
 自分の姿はあまり見たくない。
 私はスマートなスタイルを目指してたのに、十八歳に近づいたら背が伸びると共に妙に胸が育って動きにくくなってしまった。暴力的とか威圧的とか言われるし、姉は刺すような目で見てくるようになるし、邪魔ったらないよね。

 水面に映った自分を壊すように、私は飛び込んだ。
 池は深い。沈んだ全身から体温をいきなり奪われて震えあがる。
 私は両足を動かして水をかき、水面に顔を出して口を開けた。
「ちょっとだけ変身」
 飛龍に変身するほどの余力はないけど、ちょっとだけなら大丈夫。
 一度変身に成功してコツはつかんだ。

 私のお尻から飛龍の尻尾が伸びる。
 身体にすこしだけ飛龍の力が宿る。
 冷たさが気にならなくなる。さすが龍種!

 身体に飛龍の力を宿すと感覚も鋭くなるし、息も長くなる。便利だ。
 池の底に煌めくものが見えて、私は深く潜水してみた。
 底にまで近づいてみると、うわ、希少金属の結晶粒が沈んでるじゃない! 錬金術師が夢見る貴重な材料よ! この金色っぽいのはミスリウムで、銀色っぽいのは、なんとオリハルコニウム!
 この島は宝の山だ。やっぱり、ぜひとも私の根城にしなきゃ。

 結晶粒を手づかみして水面まで戻る。深呼吸して変身を解除。
 そこで私は異様な気配に気づいた。
 周り中からガサガサゴソゴソと音が近づいてくる。
 枯れた森の隙間から見えるのは黒色や灰色の何か。
 澱んだ瘴気の匂い。

 なになに!?
 私は今、池の中に浮かんでて、飛龍に変身することもできなくて、丸裸なわけ。
 どうしろっていうのよ!
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