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第2章
遷宮競争と暗黒騎士
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暗黒騎士ザニバルは漆黒の二輪車に乗って山道を爆走する。
二輪車は神宝の杖が変じたもの。木から成っており、ザニバルから噴出する瘴気を動力源として駆動されている。その姿はかつてザニバルがお父さんからもらった小さな木馬の玩具に似ているが、車輪には厳つい溝が刻まれ、車体は刺々しく禍々しい。
「はいやあ! ベンダ号!」
ザニバルは二輪車と一体になって走る。ベンダ号はその玩具につけていた名前だ。
ザニバルを追うはマヒメの雷蛇。
悪魔ボウマの力を自覚したマヒメは雷蛇の力を全開にしている。稲妻に光る七本もの尾をうねらせながら電離風を噴射推進して、滑るように進む。
山道の草が電撃に焼かれ、尾にかすられた木の幹が黒く焦げる。雨上がりでなければ燃えていただろう。
ババリバリラリバラバー
稲妻の音が重なり合って奇妙な音楽を奏でる。山奥にまで響いてこだまする。まるで雷蛇があちこちで走っているかのようだ。
「みんな、待ってて!」
雷蛇の頭に乗っているマヒメは、先行するザニバルをにらみすえる。ザニバルに奪われた杖は仲間たちとの絆なのだ。
ザニバルは振り返って雷蛇を見る。距離が縮まってきている。
「ベンダ号は速いもん、負けないんだもん!」
魔装の隙間から暗黒の瘴気を噴き出し、瘴気はベンダ号に吸い込まれて加速力となる。
山道は狭く凹凸だらけで雨に濡れて泥まみれだ。ベンダ号の車輪は強大な推進力を路面に押し付けようとするも滑って食い付ききれない。曲がり道で大きく滑って倒れそうになる。
「みゃっ!」
ザニバルはカーブと反対側に取っ手をきる。車体は滑りながらも姿勢を保つ。カーブを抜けて姿勢を立て直しながら再加速。ザニバルは大きく息を吐く。
その間にもさらに雷蛇は迫ってきていた。
「杖を返してええええっ!」
青い右瞳を輝かせてマヒメが叫ぶ。
「やだ! ミシカにもらったんだもん!」
爆音が轟く中でザニバルは叫び返す。
「だったら勝負しようぜえええ!」
今度は白い左瞳を輝かせてマヒメの中のボウマが叫ぶ。
「ボウマが勝ったらその杖をよこせえ!」
ザニバルは叫び返す。
「ザニバルが勝ったらヴラドのことを教えてもらうよ! それともうひとつ言うこと聞いてもらうんだもん!」
「ああ? だったらこっちだってもうひとつ増やすぜえ! 勝ったらバランはボウマの舎弟になれ! こっちの身体に宿るんだ!」
マヒメは左の口角を上げる。
<なんだって! ふざけてるんじゃないよ、誰がボウマの手下なんぞを!>
魔装に宿る悪魔バランが怒る。
「いいよ、好きにすればいいもん!」
ザニバルは言い放ち、
<おいおいおいおい、ザニバル!>
バランが慌てる。
「絶対に負けないもんね!」
ザニバルは断言。
「よおおし、これで決まりよ!」
マヒメは両瞳を輝かせる。
マヒメとボウマの要求はアルテムの杖とバラン。
そしてザニバルの要求はヴラドの情報をもらうのと、マヒメにひとついうことを聞かせること。
勝った側が望みをかなえることになる。
ベンダ号と雷蛇は急峻な山坂に入った。
きついカーブが連続して、ザニバルは左右にベンダ号を切り返し続ける。ずるずると車輪が滑るのを巧みに制御する。
「遊ぶの得意だもんね!」
ザニバルはもう二輪車の高速走行に習熟しつつあった。
<この調子で絶対に勝っておくれよ! ボウマに取り込まれるのは勘弁さね!>
バランは心底嫌そうだ。
<へえ、バランも怖いんだ>
<悪魔は自由が好きなのさ。ボウマにこき使われるなんざやってられないね>
<じゃあバランのほうはボウマを欲しくないの?>
<ごめん被る。あいつら七悪魔とは相いれないのさ>
<でも、あっちは大好きみたいだよ>
急坂を下るザニバルにマヒメは猛追してくる。
「そんな身体は捨ててこっちに来ようぜええ、バラン! 逃避と恐怖がそろえば無敵だぜえええ!」
「暗黒騎士は逃げないもん」
「今逃げてるじゃねえかよおお!」
下り坂の急カーブをザニバルのベンダ号は精密な操作で豪快に駆け抜ける。
一方、マヒメの雷蛇は七本の尾を動かして自在な方向に電離風を発生し、姿勢を制御しながら滑走する。きつい急カーブでは立ち木に尾を絡めて強引に曲がる。
両者の距離は間近にまで迫り、ザニバルの背後で稲妻が轟き輝く。
ザニバルの魔装に電撃が届いた。
「みぎゃ!」
ザニバルはびくりと痙攣する。操作が乱れて車体が揺らいだのをなんとか立て直す。
「目が覚めたかよおおお!」
マヒメが嗤う。
むっとしたザニバルはわざと水たまりに突っ込んだ。
泥水を浴びせられた雷蛇は稲妻が一部消滅。安定制御を失ってスピンし、森の木々にぶつかりかけた。なんとか尾を絡めて止める。
「そっちも目は覚めた? それとも怖くて気絶しちゃった?」
ザニバルは楽しそうに煽りながら、ここぞとばかりに引き離す。
そろそろ山道も終わる。木々が減り、夏の強い日差しが突き抜けてくる。風が暑い。開けた平野が見えてきた。
この先、どう走れば目的地の海の宮とやらにたどり着けるのかザニバルは知らない。だがベンダ号から大地の脈動が伝わってくる。大地の奥深くからの力の流れだ。この流れに乗って行けとベンダ号が伝えてくるかのようだ。
ザニバルが乗っているベンダ号は神宝アルテムの杖が変じたものだ。杖が目的地への道筋をザニバルに示しているのだ。
山道は終わり、平野の細道が始まる。畑が広がる中をザニバルのベンダ号がばく進する。
後ろからはまた雷蛇が距離を詰めてきている。
ベンダ号は暗黒の瘴気をたなびかせながら重低音を轟かす。
雷蛇は白い稲妻で輝きながらけたたましい音楽を鳴り響かせる。
畑で作業している者たちはぎょっとして、ある者は逃げ出し、またある者は凍りつく。
ザニバルは大地から感じる力の流れに沿って走り続ける。
バランがうなる。
<ふうむ、この流れが星脈ってやつかね。星の核に残っている生命力みたいなものは時に地表まで対流するそうだけど、本当に存在していた現象とはねえ。微弱すぎて、神樹とやらを使えなければ全く感知できないところだよ>
ベンダ号が走る細道は垂直に街道につながり、街道は大河に沿っている。その先での星脈の流れがザニバルに見えた。
「みゃ!?」
星脈は真っ直ぐに大河を突っ切っている。ザニバルは慌てて左右を確認するが橋は見当たらない。後ろからは雷蛇が猛追してくる。大河の川幅は数百メル。ジャンプでは到底超えられない。
ザニバルの目前に猛烈な勢いで大河が迫ってきた。
二輪車は神宝の杖が変じたもの。木から成っており、ザニバルから噴出する瘴気を動力源として駆動されている。その姿はかつてザニバルがお父さんからもらった小さな木馬の玩具に似ているが、車輪には厳つい溝が刻まれ、車体は刺々しく禍々しい。
「はいやあ! ベンダ号!」
ザニバルは二輪車と一体になって走る。ベンダ号はその玩具につけていた名前だ。
ザニバルを追うはマヒメの雷蛇。
悪魔ボウマの力を自覚したマヒメは雷蛇の力を全開にしている。稲妻に光る七本もの尾をうねらせながら電離風を噴射推進して、滑るように進む。
山道の草が電撃に焼かれ、尾にかすられた木の幹が黒く焦げる。雨上がりでなければ燃えていただろう。
ババリバリラリバラバー
稲妻の音が重なり合って奇妙な音楽を奏でる。山奥にまで響いてこだまする。まるで雷蛇があちこちで走っているかのようだ。
「みんな、待ってて!」
雷蛇の頭に乗っているマヒメは、先行するザニバルをにらみすえる。ザニバルに奪われた杖は仲間たちとの絆なのだ。
ザニバルは振り返って雷蛇を見る。距離が縮まってきている。
「ベンダ号は速いもん、負けないんだもん!」
魔装の隙間から暗黒の瘴気を噴き出し、瘴気はベンダ号に吸い込まれて加速力となる。
山道は狭く凹凸だらけで雨に濡れて泥まみれだ。ベンダ号の車輪は強大な推進力を路面に押し付けようとするも滑って食い付ききれない。曲がり道で大きく滑って倒れそうになる。
「みゃっ!」
ザニバルはカーブと反対側に取っ手をきる。車体は滑りながらも姿勢を保つ。カーブを抜けて姿勢を立て直しながら再加速。ザニバルは大きく息を吐く。
その間にもさらに雷蛇は迫ってきていた。
「杖を返してええええっ!」
青い右瞳を輝かせてマヒメが叫ぶ。
「やだ! ミシカにもらったんだもん!」
爆音が轟く中でザニバルは叫び返す。
「だったら勝負しようぜえええ!」
今度は白い左瞳を輝かせてマヒメの中のボウマが叫ぶ。
「ボウマが勝ったらその杖をよこせえ!」
ザニバルは叫び返す。
「ザニバルが勝ったらヴラドのことを教えてもらうよ! それともうひとつ言うこと聞いてもらうんだもん!」
「ああ? だったらこっちだってもうひとつ増やすぜえ! 勝ったらバランはボウマの舎弟になれ! こっちの身体に宿るんだ!」
マヒメは左の口角を上げる。
<なんだって! ふざけてるんじゃないよ、誰がボウマの手下なんぞを!>
魔装に宿る悪魔バランが怒る。
「いいよ、好きにすればいいもん!」
ザニバルは言い放ち、
<おいおいおいおい、ザニバル!>
バランが慌てる。
「絶対に負けないもんね!」
ザニバルは断言。
「よおおし、これで決まりよ!」
マヒメは両瞳を輝かせる。
マヒメとボウマの要求はアルテムの杖とバラン。
そしてザニバルの要求はヴラドの情報をもらうのと、マヒメにひとついうことを聞かせること。
勝った側が望みをかなえることになる。
ベンダ号と雷蛇は急峻な山坂に入った。
きついカーブが連続して、ザニバルは左右にベンダ号を切り返し続ける。ずるずると車輪が滑るのを巧みに制御する。
「遊ぶの得意だもんね!」
ザニバルはもう二輪車の高速走行に習熟しつつあった。
<この調子で絶対に勝っておくれよ! ボウマに取り込まれるのは勘弁さね!>
バランは心底嫌そうだ。
<へえ、バランも怖いんだ>
<悪魔は自由が好きなのさ。ボウマにこき使われるなんざやってられないね>
<じゃあバランのほうはボウマを欲しくないの?>
<ごめん被る。あいつら七悪魔とは相いれないのさ>
<でも、あっちは大好きみたいだよ>
急坂を下るザニバルにマヒメは猛追してくる。
「そんな身体は捨ててこっちに来ようぜええ、バラン! 逃避と恐怖がそろえば無敵だぜえええ!」
「暗黒騎士は逃げないもん」
「今逃げてるじゃねえかよおお!」
下り坂の急カーブをザニバルのベンダ号は精密な操作で豪快に駆け抜ける。
一方、マヒメの雷蛇は七本の尾を動かして自在な方向に電離風を発生し、姿勢を制御しながら滑走する。きつい急カーブでは立ち木に尾を絡めて強引に曲がる。
両者の距離は間近にまで迫り、ザニバルの背後で稲妻が轟き輝く。
ザニバルの魔装に電撃が届いた。
「みぎゃ!」
ザニバルはびくりと痙攣する。操作が乱れて車体が揺らいだのをなんとか立て直す。
「目が覚めたかよおおお!」
マヒメが嗤う。
むっとしたザニバルはわざと水たまりに突っ込んだ。
泥水を浴びせられた雷蛇は稲妻が一部消滅。安定制御を失ってスピンし、森の木々にぶつかりかけた。なんとか尾を絡めて止める。
「そっちも目は覚めた? それとも怖くて気絶しちゃった?」
ザニバルは楽しそうに煽りながら、ここぞとばかりに引き離す。
そろそろ山道も終わる。木々が減り、夏の強い日差しが突き抜けてくる。風が暑い。開けた平野が見えてきた。
この先、どう走れば目的地の海の宮とやらにたどり着けるのかザニバルは知らない。だがベンダ号から大地の脈動が伝わってくる。大地の奥深くからの力の流れだ。この流れに乗って行けとベンダ号が伝えてくるかのようだ。
ザニバルが乗っているベンダ号は神宝アルテムの杖が変じたものだ。杖が目的地への道筋をザニバルに示しているのだ。
山道は終わり、平野の細道が始まる。畑が広がる中をザニバルのベンダ号がばく進する。
後ろからはまた雷蛇が距離を詰めてきている。
ベンダ号は暗黒の瘴気をたなびかせながら重低音を轟かす。
雷蛇は白い稲妻で輝きながらけたたましい音楽を鳴り響かせる。
畑で作業している者たちはぎょっとして、ある者は逃げ出し、またある者は凍りつく。
ザニバルは大地から感じる力の流れに沿って走り続ける。
バランがうなる。
<ふうむ、この流れが星脈ってやつかね。星の核に残っている生命力みたいなものは時に地表まで対流するそうだけど、本当に存在していた現象とはねえ。微弱すぎて、神樹とやらを使えなければ全く感知できないところだよ>
ベンダ号が走る細道は垂直に街道につながり、街道は大河に沿っている。その先での星脈の流れがザニバルに見えた。
「みゃ!?」
星脈は真っ直ぐに大河を突っ切っている。ザニバルは慌てて左右を確認するが橋は見当たらない。後ろからは雷蛇が猛追してくる。大河の川幅は数百メル。ジャンプでは到底超えられない。
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