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第2章
悪魔召喚と暗黒騎士
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暗黒騎士ザニバルが駆る二輪車、ベンダ号は大河へと真っ直ぐにばく進する。
「あわわわ!」
ザニバルは慌てる。二輪車は水上を走れないのだ。避けたいところだが、ベンダ号が示すコースは大河を突っ切っている。
その後ろを行く雷蛇もまた大河へと直進していく。
「水は苦手だけど! やるしかない!」
雷蛇の頭に乗っている巫女マヒメは突入を決意する。雷蛇の放電を強化する。
大河の土手がみるみる近づいてくる。
ザニバルは恐怖に震える。
このまま進めば川の中。重いザニバルは沈んでしまうし泳げない。
怖い。助けてほしい。お父さん、お母さん、お姉ちゃん。
でも、助けてはくれない。みんなザニバルを助けるためにいなくなったから。
だから今はザニバルがみんなのために立ち向かう番だ。
ザニバルは恐怖を見据える。
土手へとベンダ号は走る。
土手に埋まっている切り立った岩、そこにベンダ号は突入する。
車輪が岩にぶつかり、車体は跳ね返され、高く跳ね上がり、宙を縦に一回転。後ろを走っていた雷蛇へと落ちる。
雷蛇の尾は塔を抱えている。その上にベンダ号は着地した。塔は激しく揺れ、雷蛇の電撃がベンダ号にまたがるザニバルを襲う。
「みゃみゃみゃみゃみゃみゃ!」
電撃にしびれるザニバルは、しかし雷蛇の尾から落ちようとしない。
雷蛇はザニバルを乗せたまま大河へと滑走する。
雷蛇を駆るマヒメは白い左瞳を光らせ、
「降りろよおお! 沈むだろうがあああ!」
怒鳴りつける。
「やだよ! 水は嫌いだもん!」
「それはこっちも同じだああああ!」
ベンダ号を乗せた雷蛇は土手を越えて大河に進入。水面が激しくしぶきを上げて雷蛇を濡らす。
雷蛇は稲妻で電離風を起こして浮遊滑走している。その稲妻が水しぶきによって弱まる。高度と速度が落ちる。水面が迫ってくる。
「邪魔なんだよおおお!」
雷蛇はベンダ号の乗った尾を左右に振り、ベンダ号を落とそうとする。ザニバルが巧みに操ってバランスをとり、尾に乗り続ける。
「しつこいいい!」
雷蛇は尾を縦に振る。
ザニバルは両腕の魔装を細長く鞭のように伸ばした。鞭は車体と尾に絡みついてしっかり支える。
「しぶといなあああ!」
雷蛇は他の尾でベンダ号をはたこうとしたが、尾の推進力が弱まって雷蛇は水面にぶつかる。
雷蛇は高い水しぶきを上げる。沈みかけながら慣性で進む。なんとか向こう岸にたどりついた。
ザニバルは鞭を解除、ベンダ号を急加速させて雷蛇の尾から飛び出す。土手に着地して駆け上り、大河の先へ。
ぬれねずみになったマヒメは怒りに歯ぎしりしながら後を追う。
真昼の日射しを浴びながらザニバルのベンダ号は街道を進む。ザニバルも濡れていたが、風に吹かれてすぐに乾いていく。
ベンダ号が示す星脈の流れは街道に沿っている。そのままにザニバルはベンダ号を走らせる。
雷蛇は後ろを追ってくる。
バリラビラビラー
ベンダ号の爆音と雷蛇の音楽が平野に響き渡る。
地平線の先に城の突端が見えてくる。ナヴァリア州の都城、芒星城だ。
以前は閑散としていた芒星城だが、貿易再開の成果か、街道にはぽつぽつと人の流れがある。商人や領民のようだ。
ザニバルたちの騒音が迫ってきて、彼らは驚き慌てて街道をそれる。
進むザニバルは星脈の力が強まってきたのを感じる。
<ふうむ、芒星城には強い星脈溜まりがある。というよりも星脈溜まりに城を築いたのだろうね>
バランが感心している。
星脈の流れは芒星城をぐるぐると何周も回っている。
ザニバルは流れに従って周回に入る。
ベンダ号は神宝アルテムの杖が変じたものだ。その杖に遺されていた恐怖の匂いが急激に強まる。
暴虐。
殺戮。
喪失。
絶望。
召喚。
悪魔。
ザニバルには分かった。
この杖を使っていた者たち、ユミナとフブキとサレオとルシタとアルとケインとハルト。彼らはここで死んだのだ。マヒメを遺して。
芒星城の地にはかつて巨大な魔法陣が設置されていたことを魔女フレイアがザニバルに教えてくれた。おそらく死んだ彼らはその魔法陣で行われた悪魔召喚の犠牲になったのだろう。
その時の途轍もない恐怖が杖に遺されている。
マヒメは雷蛇を駆ってザニバルを追う。
「ああああああ!」
ベンダ号から立ち昇る恐怖の匂いを感じて絶叫する。仲間たちが惨たらしく殺されていったときの恐怖だ。心の奥底に押し込めていた記憶が襲ってくる。逃げられない。
雷蛇の動きが乱れる。七つの尾がのたうち回る。激しい放電が芒星城を取り巻く。
ババリバラリラリラリラリラリバラリバラリラー
芒星城、領主の間。
質素なテーブルと椅子が置かれた部屋だ。ここにも外からの騒音が響いているが、領主の少女アニスは静かに書類を処理している。
そこに側近のゴブリン少女ゴニが駆けこんできた。
「アニス様、た、大変です! 襲撃です! この音、魔物です。蛇のような魔物に囲まれています。暗黒騎士が引き連れてきたんです!」
普段は冷静なゴニが血相を変えている。
アニスは耳を澄まして、
「あら、祭の音楽ではなかったの? 書類が終わったら見物に行こうと思っていましたのに」
「とにかくご覧になってください!」
ゴニはアニスの手を引いて立ち上がらせる。
主従は芒星城の主塔屋上にやってきた。
胸壁から下の様子をうかがう。
黒い木馬のようなものにまたがった暗黒騎士と、稲妻に包まれた長大な蛇のような魔物が、凄まじい騒音を響かせながら芒星城を周回している。
人々は芒星城に逃げ込んだようで見当たらない。
ゴニは緑色の顔から血の気を引かせている。
「暗黒騎士が魔物を連れて襲撃に来たんです。やっぱりあいつは悪魔です!」
アニスはしばらく下の様子を眺めてから、にっこり微笑んだ。
「やっぱりあれはお祭りですわ」
「え!?」
「ザニバル様は今、エルフの塔之村から頼まれてお仕事をなさっているはず。あれはエルフのお祭りでしょう。百年に一度、塔を運ぶと聞いたことがありますわ」
言われてみれば、魔物が振り回している尾の一つには塔が収められているようにも見える。
「え、いえ、しかし」
「ザニバル様にお任せしていれば安心です。皆にはお祭りだとお知らせしてください」
下で走り回っているザニバルをゴニはにらむ。騒音を轟かせる暗黒の悪魔。どう見ても安心とは真逆の存在だ。だがゴニはアニスに忠誠を誓っている。一族を救ってくれた恩人だから。
「わかりました」
ゴニは伝令のために主塔を降りていく。
アニスは優しい目で見送った。
震えるマヒメは雷蛇を制御できなくなっていた。
速度を落とし、闇雲に放電しながら暴走する。村を回っていたときと同じだ。恐怖に囚われている。
「あああああ! みんな、みんな、私のために死んだ! 私ひとりで遷宮するなんて許されない!」
塔を振り回す。
「私はみんなの命を食べた! 呪われた悪魔だ!」
稲妻が乱れて雷蛇の形が崩れ始める。
周回遅れになった雷蛇の後ろにザニバルがつく。
<あれ、どうなってるの?>
バランが答える。
<まずいね、術式の自己破壊だよ。このままだと周囲の空間を巻き込んで完全崩壊しちまう>
<マヒメ、死んじゃうの!?>
<ボウマも消えるね>
<そんなのダメだよ!>
ザニバルは加速して雷蛇に並走。ベンダ号から跳んだ。雷蛇の頭に降り立つ。激しい雷撃がザニバルを打つ。すごく痛い。でもザニバルは懸命に我慢する。
マヒメは雷蛇の頭上でもうろうとしている。瞳の色は白でも青でもなく闇だった。
「あわわわ!」
ザニバルは慌てる。二輪車は水上を走れないのだ。避けたいところだが、ベンダ号が示すコースは大河を突っ切っている。
その後ろを行く雷蛇もまた大河へと直進していく。
「水は苦手だけど! やるしかない!」
雷蛇の頭に乗っている巫女マヒメは突入を決意する。雷蛇の放電を強化する。
大河の土手がみるみる近づいてくる。
ザニバルは恐怖に震える。
このまま進めば川の中。重いザニバルは沈んでしまうし泳げない。
怖い。助けてほしい。お父さん、お母さん、お姉ちゃん。
でも、助けてはくれない。みんなザニバルを助けるためにいなくなったから。
だから今はザニバルがみんなのために立ち向かう番だ。
ザニバルは恐怖を見据える。
土手へとベンダ号は走る。
土手に埋まっている切り立った岩、そこにベンダ号は突入する。
車輪が岩にぶつかり、車体は跳ね返され、高く跳ね上がり、宙を縦に一回転。後ろを走っていた雷蛇へと落ちる。
雷蛇の尾は塔を抱えている。その上にベンダ号は着地した。塔は激しく揺れ、雷蛇の電撃がベンダ号にまたがるザニバルを襲う。
「みゃみゃみゃみゃみゃみゃ!」
電撃にしびれるザニバルは、しかし雷蛇の尾から落ちようとしない。
雷蛇はザニバルを乗せたまま大河へと滑走する。
雷蛇を駆るマヒメは白い左瞳を光らせ、
「降りろよおお! 沈むだろうがあああ!」
怒鳴りつける。
「やだよ! 水は嫌いだもん!」
「それはこっちも同じだああああ!」
ベンダ号を乗せた雷蛇は土手を越えて大河に進入。水面が激しくしぶきを上げて雷蛇を濡らす。
雷蛇は稲妻で電離風を起こして浮遊滑走している。その稲妻が水しぶきによって弱まる。高度と速度が落ちる。水面が迫ってくる。
「邪魔なんだよおおお!」
雷蛇はベンダ号の乗った尾を左右に振り、ベンダ号を落とそうとする。ザニバルが巧みに操ってバランスをとり、尾に乗り続ける。
「しつこいいい!」
雷蛇は尾を縦に振る。
ザニバルは両腕の魔装を細長く鞭のように伸ばした。鞭は車体と尾に絡みついてしっかり支える。
「しぶといなあああ!」
雷蛇は他の尾でベンダ号をはたこうとしたが、尾の推進力が弱まって雷蛇は水面にぶつかる。
雷蛇は高い水しぶきを上げる。沈みかけながら慣性で進む。なんとか向こう岸にたどりついた。
ザニバルは鞭を解除、ベンダ号を急加速させて雷蛇の尾から飛び出す。土手に着地して駆け上り、大河の先へ。
ぬれねずみになったマヒメは怒りに歯ぎしりしながら後を追う。
真昼の日射しを浴びながらザニバルのベンダ号は街道を進む。ザニバルも濡れていたが、風に吹かれてすぐに乾いていく。
ベンダ号が示す星脈の流れは街道に沿っている。そのままにザニバルはベンダ号を走らせる。
雷蛇は後ろを追ってくる。
バリラビラビラー
ベンダ号の爆音と雷蛇の音楽が平野に響き渡る。
地平線の先に城の突端が見えてくる。ナヴァリア州の都城、芒星城だ。
以前は閑散としていた芒星城だが、貿易再開の成果か、街道にはぽつぽつと人の流れがある。商人や領民のようだ。
ザニバルたちの騒音が迫ってきて、彼らは驚き慌てて街道をそれる。
進むザニバルは星脈の力が強まってきたのを感じる。
<ふうむ、芒星城には強い星脈溜まりがある。というよりも星脈溜まりに城を築いたのだろうね>
バランが感心している。
星脈の流れは芒星城をぐるぐると何周も回っている。
ザニバルは流れに従って周回に入る。
ベンダ号は神宝アルテムの杖が変じたものだ。その杖に遺されていた恐怖の匂いが急激に強まる。
暴虐。
殺戮。
喪失。
絶望。
召喚。
悪魔。
ザニバルには分かった。
この杖を使っていた者たち、ユミナとフブキとサレオとルシタとアルとケインとハルト。彼らはここで死んだのだ。マヒメを遺して。
芒星城の地にはかつて巨大な魔法陣が設置されていたことを魔女フレイアがザニバルに教えてくれた。おそらく死んだ彼らはその魔法陣で行われた悪魔召喚の犠牲になったのだろう。
その時の途轍もない恐怖が杖に遺されている。
マヒメは雷蛇を駆ってザニバルを追う。
「ああああああ!」
ベンダ号から立ち昇る恐怖の匂いを感じて絶叫する。仲間たちが惨たらしく殺されていったときの恐怖だ。心の奥底に押し込めていた記憶が襲ってくる。逃げられない。
雷蛇の動きが乱れる。七つの尾がのたうち回る。激しい放電が芒星城を取り巻く。
ババリバラリラリラリラリラリバラリバラリラー
芒星城、領主の間。
質素なテーブルと椅子が置かれた部屋だ。ここにも外からの騒音が響いているが、領主の少女アニスは静かに書類を処理している。
そこに側近のゴブリン少女ゴニが駆けこんできた。
「アニス様、た、大変です! 襲撃です! この音、魔物です。蛇のような魔物に囲まれています。暗黒騎士が引き連れてきたんです!」
普段は冷静なゴニが血相を変えている。
アニスは耳を澄まして、
「あら、祭の音楽ではなかったの? 書類が終わったら見物に行こうと思っていましたのに」
「とにかくご覧になってください!」
ゴニはアニスの手を引いて立ち上がらせる。
主従は芒星城の主塔屋上にやってきた。
胸壁から下の様子をうかがう。
黒い木馬のようなものにまたがった暗黒騎士と、稲妻に包まれた長大な蛇のような魔物が、凄まじい騒音を響かせながら芒星城を周回している。
人々は芒星城に逃げ込んだようで見当たらない。
ゴニは緑色の顔から血の気を引かせている。
「暗黒騎士が魔物を連れて襲撃に来たんです。やっぱりあいつは悪魔です!」
アニスはしばらく下の様子を眺めてから、にっこり微笑んだ。
「やっぱりあれはお祭りですわ」
「え!?」
「ザニバル様は今、エルフの塔之村から頼まれてお仕事をなさっているはず。あれはエルフのお祭りでしょう。百年に一度、塔を運ぶと聞いたことがありますわ」
言われてみれば、魔物が振り回している尾の一つには塔が収められているようにも見える。
「え、いえ、しかし」
「ザニバル様にお任せしていれば安心です。皆にはお祭りだとお知らせしてください」
下で走り回っているザニバルをゴニはにらむ。騒音を轟かせる暗黒の悪魔。どう見ても安心とは真逆の存在だ。だがゴニはアニスに忠誠を誓っている。一族を救ってくれた恩人だから。
「わかりました」
ゴニは伝令のために主塔を降りていく。
アニスは優しい目で見送った。
震えるマヒメは雷蛇を制御できなくなっていた。
速度を落とし、闇雲に放電しながら暴走する。村を回っていたときと同じだ。恐怖に囚われている。
「あああああ! みんな、みんな、私のために死んだ! 私ひとりで遷宮するなんて許されない!」
塔を振り回す。
「私はみんなの命を食べた! 呪われた悪魔だ!」
稲妻が乱れて雷蛇の形が崩れ始める。
周回遅れになった雷蛇の後ろにザニバルがつく。
<あれ、どうなってるの?>
バランが答える。
<まずいね、術式の自己破壊だよ。このままだと周囲の空間を巻き込んで完全崩壊しちまう>
<マヒメ、死んじゃうの!?>
<ボウマも消えるね>
<そんなのダメだよ!>
ザニバルは加速して雷蛇に並走。ベンダ号から跳んだ。雷蛇の頭に降り立つ。激しい雷撃がザニバルを打つ。すごく痛い。でもザニバルは懸命に我慢する。
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