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第4章
三時限目 その二
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クレシータ先生は授業の様子を見て取る。
ミレーラの話が生徒たちに辛い戦争の思い出を蘇らせてしまって、授業が沈みつつある。せっかくザニバルへの嫉妬が盛り上がりつつあったのにこのままではまずい。
「ミレーラ先生は帝都にお住まいでしたね。帝都の様子を教えてもらえませんか」
クレシータ先生は別の話をミレーラに振る。
「いい質問ですね! ザニバル様がおられた頃の帝都は、中央街に新築された壮麗なナインフォルドが大人気でした。この九重塔は最上階から帝都全体を一望できるという軍事拠点なのですが、予算的な問題から一般市民も入場させて料金を徴取することになりまして……」
堰を切ったようにミレーラは帝都の話を始める。
生徒たちの目が輝くと共に嫉妬の炎も高く強く渦巻き始める。
辺鄙なナヴァリア州に住む生徒たちにとって帝都は羨望の対象だ。
帝都のきらびやかな建物。流行っている服装、最新の音楽、有名な俳優や歌手の行動。
いずれもナヴァリアにはないものばかりだ。
そうした文化の粋である芝居の話を、目の前に思い浮かべるようにミレーラが語る。
「最近の帝都で人気だったのはナインフォルドで上演された黒猫剣士の演劇です。人気の役者が集められて、人気の作曲家が曲を書いて、きらびやかな衣装で歌い踊る様はもう夢のようでしたね、ザニバル様」
ミレーラの話を聞いているうちに、生徒たちも気付いてくる。
そんな話をしているミレーラ自身が、最新モードで仕立てられた白銀の制服に流行の髪型、洗練された化粧で装った都会の住人であることに。
そしてミレーラの語っているザニバルもまた都会にいたことに。
「黒猫剣士の芝居を観たんですの?」
パトリシアが小声でザニバルに聞く。
「二回観たよ。おもしろかったもん」
その返事に教室がざわつく。
遠い立場の先生よりも身近な同級生のほうが妬ましい。生徒たちの妬みがザニバルへと向かう。
パトリシアもザニバルがうらやましくなる。黒猫剣士の芝居を観ただなんて。生まれてこのかた、芝居の一座がナヴァリアに来たことなんてないのに。
じっとりした目に囲まれて、とりわけパトリシアの視線に刺されてザニバルは戦場にいるような気分になる。
<ずいぶんと妬まれたものだよ、都会者のザニバル>
魔装に宿る悪魔バランがからかうように言う。心の言葉だからザニバル以外には聞こえない。
ザニバルは魔装の中で口をへの字にする。
<いつも戦ってたんだから、帝都になんてぜんぜんいなかったもん! この前呼ばれたのだって数年ぶりなのに。お芝居はそのとき運良く観れただけだもん>
<でも帝都生まれだろ。匂いが違うのさね>
ちなみに芝居の券はミレーラがザニバルのために必死で入手してきたのだが、ザニバルは意識していない。
教室に満ちた嫉妬によって、クレシータ先生は生き生きとしていく。お肌はつやつやだ。
クレシータ先生はまるで自分が舞台にいるかのように情感たっぷりと大きく首を振って皆を眺め回し、
「さあ、皆さん。帝都の話はたっぷりとうかがいました。皆さんのお国自慢も聞きたいですね!」
もはや何の授業なのか分からないが、クレシータ先生は気にしていない。嫉妬がより激しくなるための油を注げればそれでよいのだ。
弾けるようにドゥルセが立ち上がる。ザニバルをにらみつけながら、
「あたくしの住むパリエ郡はナヴァリア一の都会です! 街には立派な店が建っていて、帝都のお菓子だって買えるんです! マルメロなんて田舎くさいものは扱っていない、都会の店です!」
パトリシアはドゥルセの発言に恥ずかしくなる。その店はドゥルセの家であり、父親のダギル・ラミロが営業している。扱っている菓子は帝都の店から名前を借りただけのパリエ製だ。このところ帝国全体で人気が高まりつつあるマルメロの果実だが、反アニス派だったラミロは流通に参加できていない。
ドゥルセの話が終わると、生徒のゴブリンが椅子の音を響かせて立ち上がる。
「みんなも知ってるだろ、マルメロがどんなに売れているか。俺たちゴブリン族が苦労して切り開いたマルメロ果樹園のおかげだ!」
マルメロを馬鹿にしたドゥルセを見下ろしながら語る。
主に王国向けのマルメロ輸出が貴重な現金収入をナヴァリア州にもたらし、その成果の一つとしてこの学園が再開されている。生徒は誇り高い表情だ。この本人もずっと果樹園を手伝ってきていた。
その話を聞かされるドゥルセは悔しい顔を隠せず、歯をぎりぎりと鳴らしている。
次いで、芒星城勤めの親を持つドワーフ族の少年が立ち上がり、芒星城の魅力を語る。
「五芒星の形をした城は前代未聞、商業を目的とした建築としても類を見ません。ドワーフ族の高度な技術が成し遂げた最新建築です。芒星城こそがナヴァリアで一番進んだ場所です!」
「がらがらだけどね」「だからお金かけすぎだって」などとヤジが飛ぶ。
「新しいお店がどんどん入ってるよ! みんなだって知ってるでしょ!」
ドワーフの生徒は憤激して反論する。
「あたいが住んでいるぺスカは神様に守られてるのよ。すごいでしょ!」
サイレン族の生徒が話し始めて、ミレーラが気まずそうな顔をする。
「この前は魔物の群れから襲われたけど、ワダツミ様が闇の奇跡を起こしてやっつけたの。嘘だと思うなら来てみればいいよ。昼間でも町中が真っ暗だから」
ミレーラは小声で「魔物じゃなくて聖獣……」とつぶやき、他の生徒たちは「なんだよそのワダツミとかって」「真っ暗とか、なんか呪いでもかけられたんじゃないの」などとぶつくさ悪口大会だ。
ぺスカが闇に包まれたこと自体はナヴァリア州で大きな話題となっていて、否定できない事実ではある。だが単調な田舎暮らしの生徒たちにとって、魔物が暴れて退治されたといった話は面白過ぎて妬ましいのだ。だからどうあれ拒絶しようとする。
話が進むにつれて、ナヴァリア各地の自慢話が互いの嫉妬を増していく。自分のところは他よりも都会だという主張が多い。
パトリシアは悲しい気分になってくる。パトリシアも帝都をうらやむ気持ちは強い。でも同じナヴァリアの中で都会らしさを比べあっても仕方ない。はっきり言ってどこも田舎なのだから。
パトリシアは立ち上がる。
「私はパリエの実りの時が大好きです。なだらかな丘に麦の穂が広がって風に揺れる様はまるで黄金の海のよう。パリエの民が毎日祈りを込めて育ててきたからこその美しさです。見るたびに私は胸いっぱいになって、この地を守らねばならないと誓うのです」
ドゥルセがほおを紅潮させて全力で拍手をし、他の取り巻きたちもそれに続く。だが、他の生徒達は妬ましさを増したようだった。さらに憎しみすら感じられる。
パトリシアはうまく言えなかったと苦い思いをしながら座る。パリエ郡の畑は本当に美しい。だが他郡の畑は戦争のときに魔法攻撃で大打撃を受け、厄介な呪縛効果をいまだ除去しきれていない。他郡の者にとっては卑怯な物言いだろう。
ここまで話を聞いてきた悪魔バランがうなる。
<ペリギュラめ、こうやって嫉妬を育てていって喰らうつもりなのかい。一か月後にはよく肥えてさぞかしうまいことだろうよ>
ザニバルは不満でいっぱいだ。
<続きの本を書けるようになりたいのに、こんな授業ばっかりじゃ困るもん。なんとかみんなの気持ちを変えなきゃ>
ザニバルはおもむろに立ち上がった。皆の視線が集まる。
「ねえ、帝都には流行りのお店が何千軒もあるんだよ。ナヴァリアのお店を自慢したってしょうがないよ」
ドゥルセが激しい嫉妬と憎悪の表情を浮かべる。
他の生徒たちも嫌そうな顔だ。
「お金とか、流行りだとか、いくらがんばっても帝都と比べたらぜんぜんだよ。でもねえ、お芝居だったら負けないことがやれるよ」
「お芝居?」
隣のパトリシアが興味を持つ。
「黒猫剣士はねえ、とっても面白いんだよ」
「ふん、芝居を観た自慢かあ」「観れない芝居の話をされたって……」「もう読んだし、とっくに終わってるし」などなど文句が爆発する。
「黒猫剣士は終わってないもん。続きのお話があるんだもん! そのお芝居をやれば帝都よりすごいもん!」
ザニバルが反論して、パトリシアが不審顔になる。
「黒猫剣士に続きはありませんわよ?」
「お姉ちゃんからお話を聞いたんだもん」
驚いてパトリシアは立ち上がる。
「お姉ちゃんって、まさか、イザベル・デル・アブリル? 作者本人?」
「そうだもん」
「なんですって! じゃあ続きの本があるんですの!?」
「……ないもん。だから書けるように学校に来たんだもん。ねえ、みんなでお芝居やろうよ。ザニバルはがんばって脚本を書くから、だから先生は書き方を教えてよ」
パトリシアは自分の手でザニバルの籠手を握った。
「ザニバルが黒猫剣士の続きを脚本に書くんですのね」
「うん、お姉ちゃんから聞いたお話を書くもん」
「そんなにうらやましいことを一人でやるんですのね」
「だって、他に聞いた人はいないんだもん」
パトリシアは力を込めてザニバルの籠手を握りしめる。ぎちりと音が鳴る。
「許しませんわ! 私も手伝います! 私の方がイザベルの他の本にも詳しいんですから!」
ザニバルの赤い眼が燃え上がる。
「いいよ、やってみせてよ、パティ。でも、ザニバルだって他の本を読めるようになってみせるもん!」
ミレーラが目を輝かせて、
「ザニバル様の舞台! これは大変な話題になります! 帝都で上演された黒猫剣士にザニバル様が挑戦! 今までの舞台化など屑にすぎないとザニバル様が宣言!」
報告書の内容を考え始める。ほとんどが大げさな捏造情報だ。
クレシータ先生が天を抱くかのように両腕を高く掲げた。
「すばらしい! 演劇、それは才能がぶつかりあい嫉妬が燃え盛る最高の舞台です。いいでしょう、一か月後の勝負はこの芝居で決着をつけてもらうことにします! 全員参加です!」
ザニバルはバランに向けて言う。
<かかったよ。ここからがペリギュラとの勝負だもん>
ミレーラの話が生徒たちに辛い戦争の思い出を蘇らせてしまって、授業が沈みつつある。せっかくザニバルへの嫉妬が盛り上がりつつあったのにこのままではまずい。
「ミレーラ先生は帝都にお住まいでしたね。帝都の様子を教えてもらえませんか」
クレシータ先生は別の話をミレーラに振る。
「いい質問ですね! ザニバル様がおられた頃の帝都は、中央街に新築された壮麗なナインフォルドが大人気でした。この九重塔は最上階から帝都全体を一望できるという軍事拠点なのですが、予算的な問題から一般市民も入場させて料金を徴取することになりまして……」
堰を切ったようにミレーラは帝都の話を始める。
生徒たちの目が輝くと共に嫉妬の炎も高く強く渦巻き始める。
辺鄙なナヴァリア州に住む生徒たちにとって帝都は羨望の対象だ。
帝都のきらびやかな建物。流行っている服装、最新の音楽、有名な俳優や歌手の行動。
いずれもナヴァリアにはないものばかりだ。
そうした文化の粋である芝居の話を、目の前に思い浮かべるようにミレーラが語る。
「最近の帝都で人気だったのはナインフォルドで上演された黒猫剣士の演劇です。人気の役者が集められて、人気の作曲家が曲を書いて、きらびやかな衣装で歌い踊る様はもう夢のようでしたね、ザニバル様」
ミレーラの話を聞いているうちに、生徒たちも気付いてくる。
そんな話をしているミレーラ自身が、最新モードで仕立てられた白銀の制服に流行の髪型、洗練された化粧で装った都会の住人であることに。
そしてミレーラの語っているザニバルもまた都会にいたことに。
「黒猫剣士の芝居を観たんですの?」
パトリシアが小声でザニバルに聞く。
「二回観たよ。おもしろかったもん」
その返事に教室がざわつく。
遠い立場の先生よりも身近な同級生のほうが妬ましい。生徒たちの妬みがザニバルへと向かう。
パトリシアもザニバルがうらやましくなる。黒猫剣士の芝居を観ただなんて。生まれてこのかた、芝居の一座がナヴァリアに来たことなんてないのに。
じっとりした目に囲まれて、とりわけパトリシアの視線に刺されてザニバルは戦場にいるような気分になる。
<ずいぶんと妬まれたものだよ、都会者のザニバル>
魔装に宿る悪魔バランがからかうように言う。心の言葉だからザニバル以外には聞こえない。
ザニバルは魔装の中で口をへの字にする。
<いつも戦ってたんだから、帝都になんてぜんぜんいなかったもん! この前呼ばれたのだって数年ぶりなのに。お芝居はそのとき運良く観れただけだもん>
<でも帝都生まれだろ。匂いが違うのさね>
ちなみに芝居の券はミレーラがザニバルのために必死で入手してきたのだが、ザニバルは意識していない。
教室に満ちた嫉妬によって、クレシータ先生は生き生きとしていく。お肌はつやつやだ。
クレシータ先生はまるで自分が舞台にいるかのように情感たっぷりと大きく首を振って皆を眺め回し、
「さあ、皆さん。帝都の話はたっぷりとうかがいました。皆さんのお国自慢も聞きたいですね!」
もはや何の授業なのか分からないが、クレシータ先生は気にしていない。嫉妬がより激しくなるための油を注げればそれでよいのだ。
弾けるようにドゥルセが立ち上がる。ザニバルをにらみつけながら、
「あたくしの住むパリエ郡はナヴァリア一の都会です! 街には立派な店が建っていて、帝都のお菓子だって買えるんです! マルメロなんて田舎くさいものは扱っていない、都会の店です!」
パトリシアはドゥルセの発言に恥ずかしくなる。その店はドゥルセの家であり、父親のダギル・ラミロが営業している。扱っている菓子は帝都の店から名前を借りただけのパリエ製だ。このところ帝国全体で人気が高まりつつあるマルメロの果実だが、反アニス派だったラミロは流通に参加できていない。
ドゥルセの話が終わると、生徒のゴブリンが椅子の音を響かせて立ち上がる。
「みんなも知ってるだろ、マルメロがどんなに売れているか。俺たちゴブリン族が苦労して切り開いたマルメロ果樹園のおかげだ!」
マルメロを馬鹿にしたドゥルセを見下ろしながら語る。
主に王国向けのマルメロ輸出が貴重な現金収入をナヴァリア州にもたらし、その成果の一つとしてこの学園が再開されている。生徒は誇り高い表情だ。この本人もずっと果樹園を手伝ってきていた。
その話を聞かされるドゥルセは悔しい顔を隠せず、歯をぎりぎりと鳴らしている。
次いで、芒星城勤めの親を持つドワーフ族の少年が立ち上がり、芒星城の魅力を語る。
「五芒星の形をした城は前代未聞、商業を目的とした建築としても類を見ません。ドワーフ族の高度な技術が成し遂げた最新建築です。芒星城こそがナヴァリアで一番進んだ場所です!」
「がらがらだけどね」「だからお金かけすぎだって」などとヤジが飛ぶ。
「新しいお店がどんどん入ってるよ! みんなだって知ってるでしょ!」
ドワーフの生徒は憤激して反論する。
「あたいが住んでいるぺスカは神様に守られてるのよ。すごいでしょ!」
サイレン族の生徒が話し始めて、ミレーラが気まずそうな顔をする。
「この前は魔物の群れから襲われたけど、ワダツミ様が闇の奇跡を起こしてやっつけたの。嘘だと思うなら来てみればいいよ。昼間でも町中が真っ暗だから」
ミレーラは小声で「魔物じゃなくて聖獣……」とつぶやき、他の生徒たちは「なんだよそのワダツミとかって」「真っ暗とか、なんか呪いでもかけられたんじゃないの」などとぶつくさ悪口大会だ。
ぺスカが闇に包まれたこと自体はナヴァリア州で大きな話題となっていて、否定できない事実ではある。だが単調な田舎暮らしの生徒たちにとって、魔物が暴れて退治されたといった話は面白過ぎて妬ましいのだ。だからどうあれ拒絶しようとする。
話が進むにつれて、ナヴァリア各地の自慢話が互いの嫉妬を増していく。自分のところは他よりも都会だという主張が多い。
パトリシアは悲しい気分になってくる。パトリシアも帝都をうらやむ気持ちは強い。でも同じナヴァリアの中で都会らしさを比べあっても仕方ない。はっきり言ってどこも田舎なのだから。
パトリシアは立ち上がる。
「私はパリエの実りの時が大好きです。なだらかな丘に麦の穂が広がって風に揺れる様はまるで黄金の海のよう。パリエの民が毎日祈りを込めて育ててきたからこその美しさです。見るたびに私は胸いっぱいになって、この地を守らねばならないと誓うのです」
ドゥルセがほおを紅潮させて全力で拍手をし、他の取り巻きたちもそれに続く。だが、他の生徒達は妬ましさを増したようだった。さらに憎しみすら感じられる。
パトリシアはうまく言えなかったと苦い思いをしながら座る。パリエ郡の畑は本当に美しい。だが他郡の畑は戦争のときに魔法攻撃で大打撃を受け、厄介な呪縛効果をいまだ除去しきれていない。他郡の者にとっては卑怯な物言いだろう。
ここまで話を聞いてきた悪魔バランがうなる。
<ペリギュラめ、こうやって嫉妬を育てていって喰らうつもりなのかい。一か月後にはよく肥えてさぞかしうまいことだろうよ>
ザニバルは不満でいっぱいだ。
<続きの本を書けるようになりたいのに、こんな授業ばっかりじゃ困るもん。なんとかみんなの気持ちを変えなきゃ>
ザニバルはおもむろに立ち上がった。皆の視線が集まる。
「ねえ、帝都には流行りのお店が何千軒もあるんだよ。ナヴァリアのお店を自慢したってしょうがないよ」
ドゥルセが激しい嫉妬と憎悪の表情を浮かべる。
他の生徒たちも嫌そうな顔だ。
「お金とか、流行りだとか、いくらがんばっても帝都と比べたらぜんぜんだよ。でもねえ、お芝居だったら負けないことがやれるよ」
「お芝居?」
隣のパトリシアが興味を持つ。
「黒猫剣士はねえ、とっても面白いんだよ」
「ふん、芝居を観た自慢かあ」「観れない芝居の話をされたって……」「もう読んだし、とっくに終わってるし」などなど文句が爆発する。
「黒猫剣士は終わってないもん。続きのお話があるんだもん! そのお芝居をやれば帝都よりすごいもん!」
ザニバルが反論して、パトリシアが不審顔になる。
「黒猫剣士に続きはありませんわよ?」
「お姉ちゃんからお話を聞いたんだもん」
驚いてパトリシアは立ち上がる。
「お姉ちゃんって、まさか、イザベル・デル・アブリル? 作者本人?」
「そうだもん」
「なんですって! じゃあ続きの本があるんですの!?」
「……ないもん。だから書けるように学校に来たんだもん。ねえ、みんなでお芝居やろうよ。ザニバルはがんばって脚本を書くから、だから先生は書き方を教えてよ」
パトリシアは自分の手でザニバルの籠手を握った。
「ザニバルが黒猫剣士の続きを脚本に書くんですのね」
「うん、お姉ちゃんから聞いたお話を書くもん」
「そんなにうらやましいことを一人でやるんですのね」
「だって、他に聞いた人はいないんだもん」
パトリシアは力を込めてザニバルの籠手を握りしめる。ぎちりと音が鳴る。
「許しませんわ! 私も手伝います! 私の方がイザベルの他の本にも詳しいんですから!」
ザニバルの赤い眼が燃え上がる。
「いいよ、やってみせてよ、パティ。でも、ザニバルだって他の本を読めるようになってみせるもん!」
ミレーラが目を輝かせて、
「ザニバル様の舞台! これは大変な話題になります! 帝都で上演された黒猫剣士にザニバル様が挑戦! 今までの舞台化など屑にすぎないとザニバル様が宣言!」
報告書の内容を考え始める。ほとんどが大げさな捏造情報だ。
クレシータ先生が天を抱くかのように両腕を高く掲げた。
「すばらしい! 演劇、それは才能がぶつかりあい嫉妬が燃え盛る最高の舞台です。いいでしょう、一か月後の勝負はこの芝居で決着をつけてもらうことにします! 全員参加です!」
ザニバルはバランに向けて言う。
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