青の王子様の話

相生 るり子

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あの子についてーSide:Older Sister

喪ったのは青だった

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 私の知らないところで、あの子は1人で死んでいた。
 おばさんに叱られて庭先に出されて、誰にも気づかれないまま外に飛び出して。近くの国道まで、傘も持たずに歩いたあの子。雨に紛れて、信号のない横断歩道で車と接触した。お気に入りの赤いチューリップの傘をさしていれば、気付いてもらえたかもしれないけれど。でもそこまで考えて、あの傘は小学校に入学するときに母が買ってくれたもので、中学1年生のあの子がもう使っているはずがないものであったことに思い至る。
 もういない母、もういない妹。双子のようにそっくりな顔の母娘だった。今でも瓜二つなのだろうか。棺は閉ざされていたから、私にはわからない。正面の写真のあの子は、八重歯をにゅっと剥き出しにして笑っている。昔ほどは似ていないけれど、面影がある。校庭の花壇を背景に撮られた、小学校の卒業アルバムの切り抜き。おばさんの家には写真をがなかったから、アルバム会社から特別に取り寄せたのだと、知らないおじさんが誰かに囁いていた。
 剥き出しの八重歯。
 嬉しい時は、むしろ唇を合わせて微笑む子だった。八重歯が見えるのは、つらいとき。もしくは、耐えているとき。母が死んだ日も、私と別れる日も、八重歯がのぞいていた。作った笑顔。おばさんと初めてご飯を食べた日も。あの子は、気に入られようと必死で作っていた。
 この5年間、あの子は笑顔を作り続けたのだろうか。それとも、写真の一枚も撮ってくれなかったおばさんとの生活はそれでも幸福に満ち溢れていて、卒業アルバムの個人写真の撮影に緊張したのだろうか。
 独り身の、大きなルビーのブローチをつけていたおばさん。座敷での会食、慣れない正座で足が痺れたと作った笑顔で訴えたあの子に、一暼しただけで言葉の一つかけなかったおばさん。どれだけ考えても、おばさんがあの子に愛情を注いだようには思えなかった。

 念仏は、どうしてこんなにも物思いに耽らせるのだろう。もっと、亡き者との幸せな思い出を呼び起こしてくれるようなものだったらいいのに。例えばそう、小学校の生活科の時間にあの子が描いたのが、青い猫の王子様だったこととか。
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