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第4章 Last Day
1.マルシェ
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6月28日午前7時。光太と零はマルシェの出店に向けた食材の最終仕込みをしていた。食材を食べやすい大きさにカットし、なるべく現地で調理の手間が出ないようにした。kore焼きそばには贅沢に海老やホタテなどの海鮮を、ふんだんに使用することにした。
「ちょっと贅沢すぎない?この焼きそば。」
「なに言ってるの、今日は俺たちのラストだよ。パーっといこうよ。」零は鼻歌まじりに仕込みをしている。
「とうとう最後なのか…。今日が終わったら、本当にあの世に行ってしまうのかな。」
「そうだな…。でも光太がやり残したことの一つにレストランを選んでくれてよかったよ。てっきり弥生ちゃんを選ぶかと思ったな。」
「めちゃめちゃ悩んだよ。めちゃめちゃ悩んだあげく零を選んだんだから、感謝してよね。」
「そりゃーどうも。」零はおどけて見せた。こんなやり取りも今日で最後だと思うと、ちょっぴり悲しくなってくる。
午前9時。現地に食材や機材、営業に必要な備品を搬入した。会場には出店者が集まってきて、各々準備に取りかかっている。晴天にも恵まれ、皆この日を待ちわびていたかのように、イキイキとしている。
「こんにちは。今日隣で営業させてもらいます、カフェ美鈴です。お願いします。」
光太と零が長机に焼き台やかき氷機をセッティングしていると、おそらく20代後半くらいの小柄な女性に話しかけられた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」光太が挨拶で返すと、零は隣で驚いた表情をしている。
「どうした零。挨拶しろよ。」
「光太…。その子、俺の元カノだ。」零が小声で話した。
「え!?まじで?どうしてこんなところで…」
「まだ生きていた時に、8コ上の彼女がいたんだよ。バイト先のレストランが一緒で、将来は結婚してレストランやろうって夢語ってたなあ。まさかここで会えるなんて。」
美鈴と名乗ったその女性は、一人で黙々と開店準備を進めていた。メニューを見ると、クッキーとクロワッサン、そしてコーヒーだった。
「彼女が淹れるコーヒーが美味くってさ。俺コーヒーの中で一番好きだったんだ。」
「そうか。後でコーヒー飲んでこいよ。でないと後悔するぞ。」
「それもそうだな。」零は一瞬、昔を懐かしむ表情をした。とても淡い記憶。でもはっきりと思い出される青春の日々。後にも先にも零が愛した人はその人だけだった。絶対に忘れることはない。
午前10時。マルシェが始まった。
休日ということもあり、朝から家族連れで賑わった。昼近くになると若者も増えてきて、会場は大きな盛り上がりを見せた。
光太と零はひっきりなしに訪れるお客さんに、次から次へと料理を提供した。沢山仕込みをしたおかげで、スムーズに対応できていた。
すると、隣の店舗のカフェ美鈴で準備していたクロワッサンが開始一時間で売り切れてしまった。予想をはるかに上回るお客さんが来たお陰で、即完売したのだ。
「美鈴さん、クロワッサンまだ持ってきてますか?」零は一人でせわしなく動いている美鈴に声をかけた。
「はい…。車に戻ればあるのですが、ここを離れられなくて。」
「それなら少しの間、お客さんの対応してますので、取りに行ってきてください。」
「え、いいんですか…?助かります、ありがとうございます!」そう言うと、美鈴は申し訳なさそうに車へと向かって走っていった。零は美鈴が淹れていたコーヒーを続きから注ぐと、お客さんのオーダーを取り始めた。
「わるいな光太。少の間し一人で頑張ってくれ。」
「わかってるよ。零、男前なとこあるんだな。」
「うるせーよ。」
零は照れながらも、物腰やわらなか接客でお客さんを止めることなく対応している。
しばらくすると美鈴が戻ってきた。手に持っている箱には、クロワッサンが敷き詰められている。
「あのー、ありがとうございました!」
「あ、ちょっと待ってて。このコーヒー淹れ終わったら代わりますね。」
零は左手を腰にあて、ゆっくりと円を描くようにコーヒーを抽出している。
"どこかで見た光景。懐かしい人が近くにいる感覚…。そうか、零くん?!いや、そんなはずないよね。"
「さあ終わりました。では持ち場に戻りますね。」零は自分のブースに戻ると、すぐに焼きそばを焼き始めた。
美鈴は昼過ぎにお客さんが途切れた時、休憩がてら零が淹れたコーヒーを一口飲んだ。
丸みを帯びた滑らかな酸味、同じ豆で淹れたとは思えないコク。間違いない、以前彼氏が淹れてくれたコーヒーの味そっくりだ。
彼はゆっくりコーヒーを抽出するから、酸味が丸くなり、よりコクがあるコーヒーを淹れる。美鈴はそのコーヒーが大好きだったー。
彼は突然交通事故で亡くなった。美鈴にとって大好きな彼がいなくなったショックは大きく、二度と立ち直れないのではないかと思うほどだった。バイト先を辞め、実家に引きこもる生活を続けていた。そんな時、親から実家にある物置小屋をリフォームしてカフェをやるように勧められた。きっと毎日落ち込む美鈴を見かねての提案だったのだろう。なんとなく始めてみたカフェだったが、お客さんと触れあう時間が段々楽しくなってきて、悲しい思い出ともうまく付き合えるようになっていた。
そして今日、たまたま出店したマルシェで、亡くなった彼と似た味のコーヒーを淹れることができる男の子と出会った。
最初コーヒーを口にした時は、「まさか零くん?!」て思った。そんなはずないのに…。だけど、再び零くんを身近に感じられて、すごく嬉しかった。
美鈴はゆっくりとコーヒーを味わった。
「ご馳走さま、零くん。」
コーヒーを飲みきると、すでに15時半を回っていた。マルシェは人影が少なくなり、皆終わりに向けて片付けを始めていた。
「ちょっと贅沢すぎない?この焼きそば。」
「なに言ってるの、今日は俺たちのラストだよ。パーっといこうよ。」零は鼻歌まじりに仕込みをしている。
「とうとう最後なのか…。今日が終わったら、本当にあの世に行ってしまうのかな。」
「そうだな…。でも光太がやり残したことの一つにレストランを選んでくれてよかったよ。てっきり弥生ちゃんを選ぶかと思ったな。」
「めちゃめちゃ悩んだよ。めちゃめちゃ悩んだあげく零を選んだんだから、感謝してよね。」
「そりゃーどうも。」零はおどけて見せた。こんなやり取りも今日で最後だと思うと、ちょっぴり悲しくなってくる。
午前9時。現地に食材や機材、営業に必要な備品を搬入した。会場には出店者が集まってきて、各々準備に取りかかっている。晴天にも恵まれ、皆この日を待ちわびていたかのように、イキイキとしている。
「こんにちは。今日隣で営業させてもらいます、カフェ美鈴です。お願いします。」
光太と零が長机に焼き台やかき氷機をセッティングしていると、おそらく20代後半くらいの小柄な女性に話しかけられた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」光太が挨拶で返すと、零は隣で驚いた表情をしている。
「どうした零。挨拶しろよ。」
「光太…。その子、俺の元カノだ。」零が小声で話した。
「え!?まじで?どうしてこんなところで…」
「まだ生きていた時に、8コ上の彼女がいたんだよ。バイト先のレストランが一緒で、将来は結婚してレストランやろうって夢語ってたなあ。まさかここで会えるなんて。」
美鈴と名乗ったその女性は、一人で黙々と開店準備を進めていた。メニューを見ると、クッキーとクロワッサン、そしてコーヒーだった。
「彼女が淹れるコーヒーが美味くってさ。俺コーヒーの中で一番好きだったんだ。」
「そうか。後でコーヒー飲んでこいよ。でないと後悔するぞ。」
「それもそうだな。」零は一瞬、昔を懐かしむ表情をした。とても淡い記憶。でもはっきりと思い出される青春の日々。後にも先にも零が愛した人はその人だけだった。絶対に忘れることはない。
午前10時。マルシェが始まった。
休日ということもあり、朝から家族連れで賑わった。昼近くになると若者も増えてきて、会場は大きな盛り上がりを見せた。
光太と零はひっきりなしに訪れるお客さんに、次から次へと料理を提供した。沢山仕込みをしたおかげで、スムーズに対応できていた。
すると、隣の店舗のカフェ美鈴で準備していたクロワッサンが開始一時間で売り切れてしまった。予想をはるかに上回るお客さんが来たお陰で、即完売したのだ。
「美鈴さん、クロワッサンまだ持ってきてますか?」零は一人でせわしなく動いている美鈴に声をかけた。
「はい…。車に戻ればあるのですが、ここを離れられなくて。」
「それなら少しの間、お客さんの対応してますので、取りに行ってきてください。」
「え、いいんですか…?助かります、ありがとうございます!」そう言うと、美鈴は申し訳なさそうに車へと向かって走っていった。零は美鈴が淹れていたコーヒーを続きから注ぐと、お客さんのオーダーを取り始めた。
「わるいな光太。少の間し一人で頑張ってくれ。」
「わかってるよ。零、男前なとこあるんだな。」
「うるせーよ。」
零は照れながらも、物腰やわらなか接客でお客さんを止めることなく対応している。
しばらくすると美鈴が戻ってきた。手に持っている箱には、クロワッサンが敷き詰められている。
「あのー、ありがとうございました!」
「あ、ちょっと待ってて。このコーヒー淹れ終わったら代わりますね。」
零は左手を腰にあて、ゆっくりと円を描くようにコーヒーを抽出している。
"どこかで見た光景。懐かしい人が近くにいる感覚…。そうか、零くん?!いや、そんなはずないよね。"
「さあ終わりました。では持ち場に戻りますね。」零は自分のブースに戻ると、すぐに焼きそばを焼き始めた。
美鈴は昼過ぎにお客さんが途切れた時、休憩がてら零が淹れたコーヒーを一口飲んだ。
丸みを帯びた滑らかな酸味、同じ豆で淹れたとは思えないコク。間違いない、以前彼氏が淹れてくれたコーヒーの味そっくりだ。
彼はゆっくりコーヒーを抽出するから、酸味が丸くなり、よりコクがあるコーヒーを淹れる。美鈴はそのコーヒーが大好きだったー。
彼は突然交通事故で亡くなった。美鈴にとって大好きな彼がいなくなったショックは大きく、二度と立ち直れないのではないかと思うほどだった。バイト先を辞め、実家に引きこもる生活を続けていた。そんな時、親から実家にある物置小屋をリフォームしてカフェをやるように勧められた。きっと毎日落ち込む美鈴を見かねての提案だったのだろう。なんとなく始めてみたカフェだったが、お客さんと触れあう時間が段々楽しくなってきて、悲しい思い出ともうまく付き合えるようになっていた。
そして今日、たまたま出店したマルシェで、亡くなった彼と似た味のコーヒーを淹れることができる男の子と出会った。
最初コーヒーを口にした時は、「まさか零くん?!」て思った。そんなはずないのに…。だけど、再び零くんを身近に感じられて、すごく嬉しかった。
美鈴はゆっくりとコーヒーを味わった。
「ご馳走さま、零くん。」
コーヒーを飲みきると、すでに15時半を回っていた。マルシェは人影が少なくなり、皆終わりに向けて片付けを始めていた。
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