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第4章 Last Day
2.最後の食事
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「零、美鈴ちゃんに何か伝えとくこととかないの?今日僕たちいなくなっちゃうんだよ。」
「だめなんだ、本当のことを話したら。あの世に戻されちゃうだろ。」
「もういいんじゃないの。どうせ今日あの世に連れてかれるんだしさ。」
「いやだめだ、俺はこのレストランを最後までやるって決めた。そのためだけにこの世に戻ってきたんだから。」
「なかなか頑固だねぇ。」
「俺のコーヒーをもう一度飲んでもらっただけで、十分だよ。」
二人は急いで片付けをした。皆イベント事に慣れているのか撤収が凄まじく早い。取り残されないよう、必死で片付けをした。
荷物をまとめると、二人はクッチーナへと戻った。一日調理と接客に追われた身体は悲鳴をあげていた。幽霊なのに、しっかり疲労感が襲ってくるのが不思議だった。
椅子に腰かけると、零が淹れたコーヒーを二人で飲んだ。コーヒーの奥深い苦味が全身に染み渡り、疲労感をやわらげてくれる。これほどコーヒーを美味しいと思ったことがあっただろうか。
「光太、最後の食事なに食べたい?今夜はパーっといこうぜ。」
「いいねぇ!何にしよう…。光太が作るローストビーフがいいかな。」
「おいおい、意外と普通だな。クリスマスにも食べたじゃんか。」
「でも美味しかったから、また食べたい。」
「わかったよ。ちょっと待ってて。」
零は食材の買い出しへと出掛けた。日付が変わるまであと6時間。そしたらあの世に旅立たなければならない。今までの充実した日々ともおさらば。そして、どんな世界が待っているかわからない。でもなんとなく頑張れる気がした。以前あの世に行ったときは一人だったが、今度は零と一緒だから…。
光太はふと立ち上がると、A4のコピー用紙を一枚取り出した。すると横書きで、自分で書ける精一杯の丁寧な字で手紙を書いた。宛先は弥生だった。光太は時間をかけ、丁寧に書き上げた手紙を封筒に入れると、近所の郵便局へと向かった。
零は買い物から帰ると、早速ローストビーフ作りに取りかかった。その間光太は珍しくコーヒーを淹れていた。いつもは零がコーヒーを淹れるのだが、零の真似をして、ゆっくりとコーヒーを抽出した。
「光太のコーヒーうまいね。よく深みが出てる。」
「いつも零が淹れるとこを見てたからね。イメージトレーニングの成果だな。」
「さすがだね。コーヒーは淹れる人によって同じ豆でも味が変わる。不思議だよなぁ。」
零のコーヒーには零の深い優しさがにじみ出てると、光太は思った。決して主張しすぎない深い優しさ。美鈴さんもそこに惚れたのだと思うと、やけに納得できた気がした。
「さ、できたよ。」
テーブルには二人で食べるにはやけに大きいローストビーフと、木製ボールにたっぷりのマカロニサラダ、そしてコーラが並んだ。
「わお!豪華になったね。零頑張りすぎたんじゃない?」
「当たり前だろ、最後の食事なんだから。」
二人は大ジョッキになみなみ注いだコーラで乾杯した。勢いよくコーラをのどに流し込むと、パチパチと弾ける炭酸がとても心地よかった。
「本当に、今日が最後なんだな。でも悔いはないよ。光太本当にありがとう。俺、お前とあの時に出会えてよかったよ。」
「僕もだよ。こんな若くして死んじゃったのはいまだに後悔してるけど…。でも零と出会えて何倍も濃い時間を過ごせたよ。レストランをやるっていう夢も果たせたしね。」
「きっと光太ぐらいだったんだろうな、こんな幽霊とレストランやってくれる人なんて。たまたま余命が少ない歳が近そうな光太に話しかけたら、思いがけない出会いになった。」
「そういえば、なんで余命が少ない僕を選んだんだい?別に先が長い人でもよかったんじゃないかな。」
「実はね、俺はあの世でもレストランをやりたいんだ。もちろん、あの世がどんな世界かわからないから、必ずできるとは思ってない。だけど、もしチャンスがあるならあの世でまた、光太と一緒にレストランをやりたいんだ。」
「あの世でもか…。めっちゃ面白いね。なんだかあの世に行くのが楽しみになってきたよ。」
「でも、二人同時にあの世へ行っても、向こうで離れ離れになってしまうかもしれない。そうなったとしても、俺と光太のここでの約束を忘れないで欲しい。あの世で出会った時、また絶対に一緒にレストランをやろうな!」
零は身に付けていたブレスレットを光太に渡した。
「そのブレスレットは美鈴ちゃんからもらったんだ。俺が死んだとき、墓にそっと置いてくれていた。」
「そんな大事なブレスレットもらえないよ!」
光太はブレスレットを返そうとすると、零が遮った。
「そのブレスレットに使われている石は、"再会"させてくれるパワーがあると言われているんだ。俺はその石のお陰で美鈴ちゃんに再会することができた。俺はあの世でも光太にまた会いたい。だからそのブレスレット、身に付けておいてくれないか?」
「わかった。零がそこまで言うなら、大事に使わせてもらうよ。向こうでも零に会えますようにー。」
「あと、これは俺が生きてた時の写真だ。よかったら上に行くとき持っていてよ。今光太が見てる俺の姿は、実際とは別人だからね。」
「なるほど…てか、意外とイケメンだね。」
「意外は余計だ!」
零はそう言いつつも、嬉しそうに頬を緩ませた。
時計の針は23時40分を回った。二人は静かにその時を待った。ここにきて意外なほど恐怖や緊張感がなく、この世で一番やりたかったことを、やりきった達成感で一杯だった。
しばらくすると、薄暗い部屋で二人の周りだけ白くまばゆい光に包まれた。光に覆われると、光太の視界からは零のことが見えなくなっていた。零も同じ状況だった。
すると二人は同時にゆっくりと、地面から浮き上がり、上へ上へと昇っていった。いつの間にか身にまとっていた男の子の姿をした脱け殻は消え、身体は透き通っていた。
クッチーナの屋根をすり抜けると、幻想的な満月が浮かぶ、夜の空へと昇っていった。
あの事故に遭ったとき、どうしても人間の世界に戻りたいと思い、必死にもがいた。でも今は違う。やり残したことをやり遂げた、清々しい気持ちだった。上へと昇る力に逆らうことなく、二人は暗い夜空の一点の星となり、満点の星空の中に消えていった。
「だめなんだ、本当のことを話したら。あの世に戻されちゃうだろ。」
「もういいんじゃないの。どうせ今日あの世に連れてかれるんだしさ。」
「いやだめだ、俺はこのレストランを最後までやるって決めた。そのためだけにこの世に戻ってきたんだから。」
「なかなか頑固だねぇ。」
「俺のコーヒーをもう一度飲んでもらっただけで、十分だよ。」
二人は急いで片付けをした。皆イベント事に慣れているのか撤収が凄まじく早い。取り残されないよう、必死で片付けをした。
荷物をまとめると、二人はクッチーナへと戻った。一日調理と接客に追われた身体は悲鳴をあげていた。幽霊なのに、しっかり疲労感が襲ってくるのが不思議だった。
椅子に腰かけると、零が淹れたコーヒーを二人で飲んだ。コーヒーの奥深い苦味が全身に染み渡り、疲労感をやわらげてくれる。これほどコーヒーを美味しいと思ったことがあっただろうか。
「光太、最後の食事なに食べたい?今夜はパーっといこうぜ。」
「いいねぇ!何にしよう…。光太が作るローストビーフがいいかな。」
「おいおい、意外と普通だな。クリスマスにも食べたじゃんか。」
「でも美味しかったから、また食べたい。」
「わかったよ。ちょっと待ってて。」
零は食材の買い出しへと出掛けた。日付が変わるまであと6時間。そしたらあの世に旅立たなければならない。今までの充実した日々ともおさらば。そして、どんな世界が待っているかわからない。でもなんとなく頑張れる気がした。以前あの世に行ったときは一人だったが、今度は零と一緒だから…。
光太はふと立ち上がると、A4のコピー用紙を一枚取り出した。すると横書きで、自分で書ける精一杯の丁寧な字で手紙を書いた。宛先は弥生だった。光太は時間をかけ、丁寧に書き上げた手紙を封筒に入れると、近所の郵便局へと向かった。
零は買い物から帰ると、早速ローストビーフ作りに取りかかった。その間光太は珍しくコーヒーを淹れていた。いつもは零がコーヒーを淹れるのだが、零の真似をして、ゆっくりとコーヒーを抽出した。
「光太のコーヒーうまいね。よく深みが出てる。」
「いつも零が淹れるとこを見てたからね。イメージトレーニングの成果だな。」
「さすがだね。コーヒーは淹れる人によって同じ豆でも味が変わる。不思議だよなぁ。」
零のコーヒーには零の深い優しさがにじみ出てると、光太は思った。決して主張しすぎない深い優しさ。美鈴さんもそこに惚れたのだと思うと、やけに納得できた気がした。
「さ、できたよ。」
テーブルには二人で食べるにはやけに大きいローストビーフと、木製ボールにたっぷりのマカロニサラダ、そしてコーラが並んだ。
「わお!豪華になったね。零頑張りすぎたんじゃない?」
「当たり前だろ、最後の食事なんだから。」
二人は大ジョッキになみなみ注いだコーラで乾杯した。勢いよくコーラをのどに流し込むと、パチパチと弾ける炭酸がとても心地よかった。
「本当に、今日が最後なんだな。でも悔いはないよ。光太本当にありがとう。俺、お前とあの時に出会えてよかったよ。」
「僕もだよ。こんな若くして死んじゃったのはいまだに後悔してるけど…。でも零と出会えて何倍も濃い時間を過ごせたよ。レストランをやるっていう夢も果たせたしね。」
「きっと光太ぐらいだったんだろうな、こんな幽霊とレストランやってくれる人なんて。たまたま余命が少ない歳が近そうな光太に話しかけたら、思いがけない出会いになった。」
「そういえば、なんで余命が少ない僕を選んだんだい?別に先が長い人でもよかったんじゃないかな。」
「実はね、俺はあの世でもレストランをやりたいんだ。もちろん、あの世がどんな世界かわからないから、必ずできるとは思ってない。だけど、もしチャンスがあるならあの世でまた、光太と一緒にレストランをやりたいんだ。」
「あの世でもか…。めっちゃ面白いね。なんだかあの世に行くのが楽しみになってきたよ。」
「でも、二人同時にあの世へ行っても、向こうで離れ離れになってしまうかもしれない。そうなったとしても、俺と光太のここでの約束を忘れないで欲しい。あの世で出会った時、また絶対に一緒にレストランをやろうな!」
零は身に付けていたブレスレットを光太に渡した。
「そのブレスレットは美鈴ちゃんからもらったんだ。俺が死んだとき、墓にそっと置いてくれていた。」
「そんな大事なブレスレットもらえないよ!」
光太はブレスレットを返そうとすると、零が遮った。
「そのブレスレットに使われている石は、"再会"させてくれるパワーがあると言われているんだ。俺はその石のお陰で美鈴ちゃんに再会することができた。俺はあの世でも光太にまた会いたい。だからそのブレスレット、身に付けておいてくれないか?」
「わかった。零がそこまで言うなら、大事に使わせてもらうよ。向こうでも零に会えますようにー。」
「あと、これは俺が生きてた時の写真だ。よかったら上に行くとき持っていてよ。今光太が見てる俺の姿は、実際とは別人だからね。」
「なるほど…てか、意外とイケメンだね。」
「意外は余計だ!」
零はそう言いつつも、嬉しそうに頬を緩ませた。
時計の針は23時40分を回った。二人は静かにその時を待った。ここにきて意外なほど恐怖や緊張感がなく、この世で一番やりたかったことを、やりきった達成感で一杯だった。
しばらくすると、薄暗い部屋で二人の周りだけ白くまばゆい光に包まれた。光に覆われると、光太の視界からは零のことが見えなくなっていた。零も同じ状況だった。
すると二人は同時にゆっくりと、地面から浮き上がり、上へ上へと昇っていった。いつの間にか身にまとっていた男の子の姿をした脱け殻は消え、身体は透き通っていた。
クッチーナの屋根をすり抜けると、幻想的な満月が浮かぶ、夜の空へと昇っていった。
あの事故に遭ったとき、どうしても人間の世界に戻りたいと思い、必死にもがいた。でも今は違う。やり残したことをやり遂げた、清々しい気持ちだった。上へと昇る力に逆らうことなく、二人は暗い夜空の一点の星となり、満点の星空の中に消えていった。
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