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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)
第弐百四拾七話 武具を納品しますがニャにか! その壱
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「要件は?」
「・・・こちらが依頼されたトライデントになりますニャ。」
「よ・う・や・く、ですか。持ち込んだ武具に拵えを施すだけの事で2周近くも時を要するとは・・・。まぁ『御大』の工房ですから多くの依頼が舞い込んでいるのでしょうが、それにしても時が掛かり過ぎるのではありませんか?随分とのんびり仕事をされるのですね。商人の私にはとても考えられない事ですよ。」
僕と御爺々様はトライデントの拵えを施した翌日、出来上がったトライデントを手に依頼主である人魚族が居るティブロン商会へトライデントを納品するために出向いたのニャが、訪れた店先で待つ事数刻、店先に立ったまま待っている僕と御爺々様の姿を商会を訪れる多くの商人に不審者を見る様な目でジロジロと見られ続けながら待っていると、ようやく姿を現したティブロン商会の会頭とトライデント持ち主である人魚族の男が姿を現した。
これで商会の中へ案内されて納品が出来ると思ったのニャが、『中へ』と案内される事も無く店先でジロリと睨み付けられ、不機嫌を絵にかいたような顔で何をしに来たと言わんばかりに問いを投げつけられたニャ。
その態度に、思う所が無い訳では無かったのニャが此処で騒いだところで意味は無いと湧き上がってこようとする苛立ちをグッと押さえ、店先の上がり端に布を覆い被せたトライデントを置くと、それを見たティブロン商会の会頭は少し呆れた様な表情を浮かべ、文句を言い始めた。
そんなティブロン商会の会頭に対し、御爺々様は我関せずとばかりに一切表情を崩すことなくじっと黙っていると、そんな御爺々様の態度に面白くないとでも言うように舌打ちをし、背後に控えていた人魚族に視線を飛ばした。
その合図に人魚族の男は軽く頷くと、上がり端に置かれたトライデントを持ち上げて覆っている布を取り去り、
「ほ~ぉ、これはす「オッホン!」・・フン! 長々と待たされてこの程度か。」
拵えの整えられたトライデントの姿が露わになった途端、溜息と共に感嘆の言葉を口に仕掛け、ティブロン商会の会頭からの咳払いに慌てて口を閉ざし、改めて僕たちが整えた拵えに不満を口にした。
その言葉を受けてティブロン商会の会頭はニヤリと笑い、
「『御大』。拵えを整ええるだけだと言うのに長々と待たせて依頼者が納得のいかないような物を納品されても困りますなぁ。
レヴィアタン街で看板を掲げ工房を開いているからには依頼人が納得する品にしていただかなくては。幾らレヴィアタン街に長年に渡り拵え師として貢献してきたとはいえ、『御大』奔安見光月も寄る年波には勝てぬという事ですかな。」
と御爺々様を蔑むような事を口にしてきた。その、あまりな物言いに僕は怒りを抑える事が出来ず、文句の一つも言ってやろうかとした瞬間。僕の胸に御爺々様の手がスッと伸びて来た。
僕は思わず御爺々様の顔に視線を飛ばすと、御爺々様軽く首を横に振った後少しだけ微笑み、
「・・・では、この拵えでは納得がゆかぬと仰るのですニャ。それは困りましたニャぁ、これ以上の拵えをと言われましても、それは無理と言うものですニャ。
勿論、ワシらの拵えは実際に使用する際に最も相応しと考えて整えたものですから、必要のない肌な装飾など一切排除した拵えとなっておりますから、物を知らぬお方が一見しただけでは、その価値が分からぬかもしれませぬが、困りましたニャ。
どなたか物の分かる御方に間に入って貰わねば、話が纏まらぬやもしれますぬニャぁ。」
と、ティブロン商会と人魚族の男の見る目が無いのだと煽り返した。その言葉にティブロン商会の会頭は憤りながらも、事が上手く進んだとばかりに愉悦の光をその瞳に宿し、
「ほっほぉ。依頼人たる我らが納得の出来ない様な物しか用意出来なかったと言うのによくもまぁその様な事が言えた物ですなぁ。老いて己の腕が落ちた事に気が付かぬ職人と言うのは憐れなものですなぁ。良いでしょう、そこまで言うなら第三者を入れて話をしようではありませんか。ですが、もしその拵えが私達が感じた通り『御大』の腕が鈍った結果の産物であった場合は如何いたします?」
「その時にはすっぱりと拵え師を廃業するニャ。だが、ワシの腕は鈍っていたのではなくお主たちの眼が曇っていたと明らかになった時には如何するのニャ?
ワシもレヴィアタン街にて名の知れた職人ニャ。その職人に今回の様な無理難題を突き付け、仕上げた品にまで難癖をつけたその報いは受けて貰う事になるが、よいのかニャ?」
挑発する会頭の言葉に対して、いきなり拵え師を廃業すると告げつつも、同じようにティブロン商会に対しても相応の報いを受ける事を示唆する言葉を口にしたが、そんな御爺々様の言葉を鼻で笑い我が意のままだとでも言わんばかりの表情を浮かべたティブロン商会の会頭は言い放ったのニャ。
「決まったな! では明日、第三者の者立ち合いの下で改めて『御大』が仕立てたトライデントの拵えを検分するとしよう!!
明日はよい見世物になるぞ! わ~っはっはっはっはっは♪」
高笑いを響かせながら店の奥へと姿を消し、その様子を見ていたティブロン商会の者達もニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。ただ一人、実際にトライデントの拵えを見た人魚族の男だけはオロオロして困惑の表情をしていた所を見ると、どうやらこの男はティブロン商会の会頭からの意向でトライデントの拵えを貶しはしたものの、本当のところは僕と御爺々様が手懸けた拵えが優れた出来だった事が分かっていた様だった。
そんなティブロン商会の店の中を御爺々様はぐるりと見回すと、上がり端に置かれたまま放置されていたトライデントに再び布で覆うと、さっさと店から出て歩き始めた。
「御爺々様、どちらへ行かれるのですニャ?工房とは反対方向に歩いていますニャ。」
トライデントを持ったままズンズンと歩を進める御爺々様に訪ねると、御爺々様は歩きながら
「奴の事ニャ、第三者の立会いの下と言いつつ自分に有利となる者を立ち会わせるに違いないニャ。だが、なにも第三者の立会人は一人である必要はない。ワシらが立会人を立ててもよい筈ニャ。それも、もっとも第三者として立会人として相応しい者をニャ♪」
そう言うと、ちょっと悪戯を思いついた子供の様な笑顔になっていたのニャ。その笑顔は、響鎚の郷で喧嘩を売った時の驍廣さんと同じ笑顔だったニャ。
「・・・こちらが依頼されたトライデントになりますニャ。」
「よ・う・や・く、ですか。持ち込んだ武具に拵えを施すだけの事で2周近くも時を要するとは・・・。まぁ『御大』の工房ですから多くの依頼が舞い込んでいるのでしょうが、それにしても時が掛かり過ぎるのではありませんか?随分とのんびり仕事をされるのですね。商人の私にはとても考えられない事ですよ。」
僕と御爺々様はトライデントの拵えを施した翌日、出来上がったトライデントを手に依頼主である人魚族が居るティブロン商会へトライデントを納品するために出向いたのニャが、訪れた店先で待つ事数刻、店先に立ったまま待っている僕と御爺々様の姿を商会を訪れる多くの商人に不審者を見る様な目でジロジロと見られ続けながら待っていると、ようやく姿を現したティブロン商会の会頭とトライデント持ち主である人魚族の男が姿を現した。
これで商会の中へ案内されて納品が出来ると思ったのニャが、『中へ』と案内される事も無く店先でジロリと睨み付けられ、不機嫌を絵にかいたような顔で何をしに来たと言わんばかりに問いを投げつけられたニャ。
その態度に、思う所が無い訳では無かったのニャが此処で騒いだところで意味は無いと湧き上がってこようとする苛立ちをグッと押さえ、店先の上がり端に布を覆い被せたトライデントを置くと、それを見たティブロン商会の会頭は少し呆れた様な表情を浮かべ、文句を言い始めた。
そんなティブロン商会の会頭に対し、御爺々様は我関せずとばかりに一切表情を崩すことなくじっと黙っていると、そんな御爺々様の態度に面白くないとでも言うように舌打ちをし、背後に控えていた人魚族に視線を飛ばした。
その合図に人魚族の男は軽く頷くと、上がり端に置かれたトライデントを持ち上げて覆っている布を取り去り、
「ほ~ぉ、これはす「オッホン!」・・フン! 長々と待たされてこの程度か。」
拵えの整えられたトライデントの姿が露わになった途端、溜息と共に感嘆の言葉を口に仕掛け、ティブロン商会の会頭からの咳払いに慌てて口を閉ざし、改めて僕たちが整えた拵えに不満を口にした。
その言葉を受けてティブロン商会の会頭はニヤリと笑い、
「『御大』。拵えを整ええるだけだと言うのに長々と待たせて依頼者が納得のいかないような物を納品されても困りますなぁ。
レヴィアタン街で看板を掲げ工房を開いているからには依頼人が納得する品にしていただかなくては。幾らレヴィアタン街に長年に渡り拵え師として貢献してきたとはいえ、『御大』奔安見光月も寄る年波には勝てぬという事ですかな。」
と御爺々様を蔑むような事を口にしてきた。その、あまりな物言いに僕は怒りを抑える事が出来ず、文句の一つも言ってやろうかとした瞬間。僕の胸に御爺々様の手がスッと伸びて来た。
僕は思わず御爺々様の顔に視線を飛ばすと、御爺々様軽く首を横に振った後少しだけ微笑み、
「・・・では、この拵えでは納得がゆかぬと仰るのですニャ。それは困りましたニャぁ、これ以上の拵えをと言われましても、それは無理と言うものですニャ。
勿論、ワシらの拵えは実際に使用する際に最も相応しと考えて整えたものですから、必要のない肌な装飾など一切排除した拵えとなっておりますから、物を知らぬお方が一見しただけでは、その価値が分からぬかもしれませぬが、困りましたニャ。
どなたか物の分かる御方に間に入って貰わねば、話が纏まらぬやもしれますぬニャぁ。」
と、ティブロン商会と人魚族の男の見る目が無いのだと煽り返した。その言葉にティブロン商会の会頭は憤りながらも、事が上手く進んだとばかりに愉悦の光をその瞳に宿し、
「ほっほぉ。依頼人たる我らが納得の出来ない様な物しか用意出来なかったと言うのによくもまぁその様な事が言えた物ですなぁ。老いて己の腕が落ちた事に気が付かぬ職人と言うのは憐れなものですなぁ。良いでしょう、そこまで言うなら第三者を入れて話をしようではありませんか。ですが、もしその拵えが私達が感じた通り『御大』の腕が鈍った結果の産物であった場合は如何いたします?」
「その時にはすっぱりと拵え師を廃業するニャ。だが、ワシの腕は鈍っていたのではなくお主たちの眼が曇っていたと明らかになった時には如何するのニャ?
ワシもレヴィアタン街にて名の知れた職人ニャ。その職人に今回の様な無理難題を突き付け、仕上げた品にまで難癖をつけたその報いは受けて貰う事になるが、よいのかニャ?」
挑発する会頭の言葉に対して、いきなり拵え師を廃業すると告げつつも、同じようにティブロン商会に対しても相応の報いを受ける事を示唆する言葉を口にしたが、そんな御爺々様の言葉を鼻で笑い我が意のままだとでも言わんばかりの表情を浮かべたティブロン商会の会頭は言い放ったのニャ。
「決まったな! では明日、第三者の者立ち合いの下で改めて『御大』が仕立てたトライデントの拵えを検分するとしよう!!
明日はよい見世物になるぞ! わ~っはっはっはっはっは♪」
高笑いを響かせながら店の奥へと姿を消し、その様子を見ていたティブロン商会の者達もニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。ただ一人、実際にトライデントの拵えを見た人魚族の男だけはオロオロして困惑の表情をしていた所を見ると、どうやらこの男はティブロン商会の会頭からの意向でトライデントの拵えを貶しはしたものの、本当のところは僕と御爺々様が手懸けた拵えが優れた出来だった事が分かっていた様だった。
そんなティブロン商会の店の中を御爺々様はぐるりと見回すと、上がり端に置かれたまま放置されていたトライデントに再び布で覆うと、さっさと店から出て歩き始めた。
「御爺々様、どちらへ行かれるのですニャ?工房とは反対方向に歩いていますニャ。」
トライデントを持ったままズンズンと歩を進める御爺々様に訪ねると、御爺々様は歩きながら
「奴の事ニャ、第三者の立会いの下と言いつつ自分に有利となる者を立ち会わせるに違いないニャ。だが、なにも第三者の立会人は一人である必要はない。ワシらが立会人を立ててもよい筈ニャ。それも、もっとも第三者として立会人として相応しい者をニャ♪」
そう言うと、ちょっと悪戯を思いついた子供の様な笑顔になっていたのニャ。その笑顔は、響鎚の郷で喧嘩を売った時の驍廣さんと同じ笑顔だったニャ。
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