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第一章 聖女転生
第35話 女子部研究会の打ち合わせ
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俺がクビディタスの孤児院で、子供達に配ったぬいぐるみには仕掛けがあった。背中のポッケから中に手を突っ込むと、そこには嘆願書が入っているのだ。もちろん最初からうまくいくとは思っていないが、スティーリアが子供達に話をした限りでは理解してくれたらしい。そして小さい子のぬいぐるみにはそれが入っていない、入っているのは九歳以上の分別のつく子達だけだった。小さい子だと、分けも分からず俺の策略をクビディタスにばらしてしまうかもしれないからだ。俺は今まで数度、孤児院に行ってはマジックをして心を掴んできたつもりだ。きっと俺を信頼して子供達に声が届くと信じている。
その孤児院視察から数日して、俺とスティーリアとヴァイオレットがある準備をしていた。それは貴族女子部勉強会についてだった。
「第一回目の資金は王宮からと、聖女支援財団から補填されます」
ヴァイオレットが俺に告げた。
「まずは試験的にという事だからね。それほど遠くへ行けるわけじゃないけど、まずは王都周辺の領への研修旅行からね」
するとスティーリアが言った。
「そうですね。ただ女性が世に出るというのを良しとしない、保守派の面々があまりいい顔をしないようですね」
前世日本でもそういう傾向は強かったが、この世界はより一層、男尊女卑の色合いが強い。もちろん法律的な問題でそうなっているのだが、だからといって何も事を起こさないでいれば女性の立場は上がらない。俺はどうにかしてそれを突破する必要があるのだ。
だって! 女性の立場が上がらないと! もっとソフィアやビクトレナに自由に会う事が出来ないんだもん! そしてその結果…女の子達は何も出来ないまま親の言いなりになって結婚してしまう! そんな絶望的な事になる前に! 俺は何が何でも! 上級貴族だけでも女性の地位をあげる野望を成し遂げるのだ! 王女ビクトレナはまだ良いとしても、ソフィアの自由だけでも勝ち取りたいのだ!
「そうか。いつの世にもそういう人は居る。あまり公には言えないけど、私は必ず女性の地位を向上させてみせる! だけど保守派の意見は、うまく取り入れるようにしていく必要があるんだよね」
長いものには巻かれていかないと。その中でも、うまく聖女の立場を利用して舵取りをしていこうと思っているのだ。
「はい。それで初回は、親同伴で来る娘さんもいるようです」
なるほどなるほど。
「それは良い事。この集いが健全であることを知ってもらう良い機会だ」
「あとは何を視察するかという事ですね」
もちろん! 観光と温泉と宿泊! と言いたいところだが。
「それはすでに約束を取り付けてある。ある貴族領の市場や農業を見せてもらってから、繁華街での市場調査をさせてもらう事を快く受けてくれた人がいる」
嫌だけど野望の為に仕方なくね。
「どちらの御方です?」
ヴァイオレットが聞いて来た。
「知ってるかどうか分からないけど、近衛騎士団長の御実家」
するとヴァイオレットが頬を染めて、驚いたように言った。
「あの…氷の騎士!」
「ああ、そう、それ」
「お美しくも冷淡で笑顔を見せないと言われているあの?」
「まちがいない。それ」
「いざ仕事となると、その敏腕な指揮で…」
「コホン!」
スティーリアがチラリとヴァイオレットを見て咳払いをする。
「あ、失礼いたしました! べ、別に深い意味は…」
いや、ヴァイオレットちゃんは悪くない。悪いのはあのバレンティアとかいうイケメン騎士のやつだ。アイツは自分がイケメンである事を良い事に、女達の人気を独り占めしようとする悪魔だ。ヴァイオレットちゃんは知らないから、そんな憧れを持っているんだ。アイツは俺に、めっちゃ優しそうなキモイ笑顔を振り向いて来るんだよ。悪い事をしているという噂は聞かないが、ああいうイケメンはきっと欲望で渦巻いているに違いない!
「ああ、別にいいかな。ルクスエリム陛下の元で仕事していると、一番接するのがアイ…彼なのでね。どちらかと言うと、陛下が決めたようなものなんだけどね」
「そうなのですね。それは驚きました」
「ヴァイオレットはバレンティアを知っているの?」
「いえ。遠くでお見掛けしたことがあるくらいです。近衛騎士団長など、お話するような事もございませんでした」
「まあそうだよね。とにかく今回は、アイ…彼の御実家も拝見させてもらう事になっているから」
「わかりました」
するとスティーリアがヴァイオレットに言う。
「まあ私達からすれば雲の上の御方です。遠くからお目見えするのが丁度よいかと思います」
いや、雲の上の御方ってよりも、俺に色目を使って来るキモイ奴だって感じだけどね。
「わ、わかっております! 私の女友達の間で噂になっているものですから、ちょっと驚いてしまっただけです」
「まあ、分からなくもないです」
スティーリアが良い感じにまとめてくれた。
しかし…あの近衛騎士団長の何処が良いんだか…。イケメンで爽やかな雰囲気のくせに、周りに冷たくて堅物って感じで…。たしかに部下達の信望は厚いようだけど、なんか俺にだけフランクに接して来ようとするんだよね。
キモイ。
そしてスティーリアが言う。
「後は日程調整と通達ですね」
「出来れば…」
俺がスティーリアに手を上げて言う。
「どうしました?」
「議会の日にぶつけてもらったら嬉しいかな。父親が議会に行っている間に、こちらは研修に行くって言うのが理想的なんだけどね」
‥‥‥
スティーリアは難しい顔をする。
「それは、聖女様から陛下に許可を頂かねばなりませんが?」
確かにそうだ。俺がルクスエリムに直談判して、それから各部署にネゴシエーションしなければならない。だが俺はあの議会には出たくないし、議会に出ている親父達が女子部研修に参加できないようにしたいんだ!
「なんとかしてみる…」
「わかりました。一度、聖女様の方でお尋ねして見てください。決めるのはそれからという事になりそうです」
「はい…」
かなり険しい賭けだが、俺がルクスエリムに言えば何とかなりそうな気もする。今度の議会では俺は何も発言する事は無いだろうし…。まあその次の議会では、女子部研修会の報告をしなければならないだろうけど。一回目くらいはソフィアといちゃいちゃしたい…
するとヴァイオレットが言う。
「それにしても聖女様の印象が百八十度変わりました。こんなに女性の地位の事や、孤児の事を考えていらっしゃっただなんて。私は本当にここに来て良かったです。採用してくださってありがとうございます!」
「いや、ヴァイオレットが優秀だからだよ」
「そんなことはございません! でも嬉しいのです!」
「そうだ。女子部研修にはヴァイオレットも来てもらうからね」
「えっ! 私がですか! 良いのですか?」
「もちろん。私の仕事を見てもらわねばならないし」
「わかりました! 是非お供させてください!」
まあヴァイオレットちゃんのお目当てはバレンティアの野郎だろうけど、俺はヴァイオレットちゃんの素を見てみたいんだ。研修への同行を口実に、おめかししてやろうと画策しているのだった。
だって間違いなく。えっ! 意外! 眼鏡取ったら可愛いい! って感じの人なんだもの。それを見ずして、俺は一緒に仕事なんかしてられない。気になってちらちら見続けちゃうから!
その孤児院視察から数日して、俺とスティーリアとヴァイオレットがある準備をしていた。それは貴族女子部勉強会についてだった。
「第一回目の資金は王宮からと、聖女支援財団から補填されます」
ヴァイオレットが俺に告げた。
「まずは試験的にという事だからね。それほど遠くへ行けるわけじゃないけど、まずは王都周辺の領への研修旅行からね」
するとスティーリアが言った。
「そうですね。ただ女性が世に出るというのを良しとしない、保守派の面々があまりいい顔をしないようですね」
前世日本でもそういう傾向は強かったが、この世界はより一層、男尊女卑の色合いが強い。もちろん法律的な問題でそうなっているのだが、だからといって何も事を起こさないでいれば女性の立場は上がらない。俺はどうにかしてそれを突破する必要があるのだ。
だって! 女性の立場が上がらないと! もっとソフィアやビクトレナに自由に会う事が出来ないんだもん! そしてその結果…女の子達は何も出来ないまま親の言いなりになって結婚してしまう! そんな絶望的な事になる前に! 俺は何が何でも! 上級貴族だけでも女性の地位をあげる野望を成し遂げるのだ! 王女ビクトレナはまだ良いとしても、ソフィアの自由だけでも勝ち取りたいのだ!
「そうか。いつの世にもそういう人は居る。あまり公には言えないけど、私は必ず女性の地位を向上させてみせる! だけど保守派の意見は、うまく取り入れるようにしていく必要があるんだよね」
長いものには巻かれていかないと。その中でも、うまく聖女の立場を利用して舵取りをしていこうと思っているのだ。
「はい。それで初回は、親同伴で来る娘さんもいるようです」
なるほどなるほど。
「それは良い事。この集いが健全であることを知ってもらう良い機会だ」
「あとは何を視察するかという事ですね」
もちろん! 観光と温泉と宿泊! と言いたいところだが。
「それはすでに約束を取り付けてある。ある貴族領の市場や農業を見せてもらってから、繁華街での市場調査をさせてもらう事を快く受けてくれた人がいる」
嫌だけど野望の為に仕方なくね。
「どちらの御方です?」
ヴァイオレットが聞いて来た。
「知ってるかどうか分からないけど、近衛騎士団長の御実家」
するとヴァイオレットが頬を染めて、驚いたように言った。
「あの…氷の騎士!」
「ああ、そう、それ」
「お美しくも冷淡で笑顔を見せないと言われているあの?」
「まちがいない。それ」
「いざ仕事となると、その敏腕な指揮で…」
「コホン!」
スティーリアがチラリとヴァイオレットを見て咳払いをする。
「あ、失礼いたしました! べ、別に深い意味は…」
いや、ヴァイオレットちゃんは悪くない。悪いのはあのバレンティアとかいうイケメン騎士のやつだ。アイツは自分がイケメンである事を良い事に、女達の人気を独り占めしようとする悪魔だ。ヴァイオレットちゃんは知らないから、そんな憧れを持っているんだ。アイツは俺に、めっちゃ優しそうなキモイ笑顔を振り向いて来るんだよ。悪い事をしているという噂は聞かないが、ああいうイケメンはきっと欲望で渦巻いているに違いない!
「ああ、別にいいかな。ルクスエリム陛下の元で仕事していると、一番接するのがアイ…彼なのでね。どちらかと言うと、陛下が決めたようなものなんだけどね」
「そうなのですね。それは驚きました」
「ヴァイオレットはバレンティアを知っているの?」
「いえ。遠くでお見掛けしたことがあるくらいです。近衛騎士団長など、お話するような事もございませんでした」
「まあそうだよね。とにかく今回は、アイ…彼の御実家も拝見させてもらう事になっているから」
「わかりました」
するとスティーリアがヴァイオレットに言う。
「まあ私達からすれば雲の上の御方です。遠くからお目見えするのが丁度よいかと思います」
いや、雲の上の御方ってよりも、俺に色目を使って来るキモイ奴だって感じだけどね。
「わ、わかっております! 私の女友達の間で噂になっているものですから、ちょっと驚いてしまっただけです」
「まあ、分からなくもないです」
スティーリアが良い感じにまとめてくれた。
しかし…あの近衛騎士団長の何処が良いんだか…。イケメンで爽やかな雰囲気のくせに、周りに冷たくて堅物って感じで…。たしかに部下達の信望は厚いようだけど、なんか俺にだけフランクに接して来ようとするんだよね。
キモイ。
そしてスティーリアが言う。
「後は日程調整と通達ですね」
「出来れば…」
俺がスティーリアに手を上げて言う。
「どうしました?」
「議会の日にぶつけてもらったら嬉しいかな。父親が議会に行っている間に、こちらは研修に行くって言うのが理想的なんだけどね」
‥‥‥
スティーリアは難しい顔をする。
「それは、聖女様から陛下に許可を頂かねばなりませんが?」
確かにそうだ。俺がルクスエリムに直談判して、それから各部署にネゴシエーションしなければならない。だが俺はあの議会には出たくないし、議会に出ている親父達が女子部研修に参加できないようにしたいんだ!
「なんとかしてみる…」
「わかりました。一度、聖女様の方でお尋ねして見てください。決めるのはそれからという事になりそうです」
「はい…」
かなり険しい賭けだが、俺がルクスエリムに言えば何とかなりそうな気もする。今度の議会では俺は何も発言する事は無いだろうし…。まあその次の議会では、女子部研修会の報告をしなければならないだろうけど。一回目くらいはソフィアといちゃいちゃしたい…
するとヴァイオレットが言う。
「それにしても聖女様の印象が百八十度変わりました。こんなに女性の地位の事や、孤児の事を考えていらっしゃっただなんて。私は本当にここに来て良かったです。採用してくださってありがとうございます!」
「いや、ヴァイオレットが優秀だからだよ」
「そんなことはございません! でも嬉しいのです!」
「そうだ。女子部研修にはヴァイオレットも来てもらうからね」
「えっ! 私がですか! 良いのですか?」
「もちろん。私の仕事を見てもらわねばならないし」
「わかりました! 是非お供させてください!」
まあヴァイオレットちゃんのお目当てはバレンティアの野郎だろうけど、俺はヴァイオレットちゃんの素を見てみたいんだ。研修への同行を口実に、おめかししてやろうと画策しているのだった。
だって間違いなく。えっ! 意外! 眼鏡取ったら可愛いい! って感じの人なんだもの。それを見ずして、俺は一緒に仕事なんかしてられない。気になってちらちら見続けちゃうから!
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