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序章 宇宙人襲来

01 夢、散る

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 「それでは、我々に予言をお聞かせください」
 大勢の民が固唾を呑んで次の言葉を待つ。
 重たい期待を背負いながら予言者は口を開く。

『1年後の今日、地球にて未知の力を持った子どもが1人生まれる。
 その力は宇宙の理を壊しかねないものだ』

 ***

 ー現在 2038年 6月ー

 スポーツで世界一になる。

 誰もが一度は描いたことのある夢だろう。かくいう俺もその1人。小さな頃から焦がれ続けた。そして今日、俺は夢への一歩を踏み出した。

 ワールドカップ開会式直前。本戦に駒を進めた各国の代表たちがスタジアムへの入場を終え、開会の合図を今か今かと待ちわびている。
 そんなここセントラルスタジアムにて、俺、山下龍也やましたりゅうやも日本代表の1人として整列し、これからの未来への希望に胸を膨らませていた。

 「やべぇな龍也、今から開会式だぜ? いまだに現実感ねえよ俺は」
 緊張した雰囲気の中、小声でそう話しかけてきたのは同じ日本代表の石井春樹いしいはるき。共に予選を勝ち抜いた大切な仲間だ。
 「ああ、だけど現実だ。勝って絶対に世界一になろう!」
 俺は笑いながらそう返すと、目を閉じ今までの人生を思い返す。

 父さんは俺が小さい頃にいなくなった。思い出が無いほど昔の話だ。
 しかし、母さんはそんな父さんのことを決して悪く言わず、女手一つで俺を育ててくれた。貧乏な暮らしだったが幸せな毎日だった。
 そして母さんは大のサッカー好き。直接聞いたわけではないが、父さんもサッカーが大好きだったらしい。もちろん息子の俺もすぐにサッカーの虜になった。

 正直才能がある方ではなかった。だけどサッカーを楽しむ才能は人一倍あったと思う。幼い頃から毎日毎日、ひたすらにサッカーを楽しんできた。俺の人生はサッカーだ。
 プレーすることだけがサッカーじゃない、観戦することも楽しみ方の1つだ。現在過去問わず様々な試合を見ていた俺は、伝説のサッカープレイヤー、ガル・イーザンに憧れた。ガルは俺が生まれた時には既に引退していたが、その荒々しくも美しいプレイ、仲間を最大限活かす戦い方、そして1番の魅力である諦めない心に魅了された。俺がサッカーで世界を目指すことになったきっかけだ。

 サッカーをしていれば父さんに会えるかも。
 そう考えたことが無いと言えば嘘になる。
 しかし今はもうそんな考えは無い。
 貧乏ながらもサッカーを続けさせてくれた母さんを喜ばせたい、そして何よりサッカーが大好きだという自分自身の気持ちに応えるため、俺は世界一に――

 「おい!」

 なんだ? 今いい感じに浸ってる所なんだから邪魔を
 「おい! 龍也! あれを見ろ!」
 なんだよ。春樹の必死な声に疑問を覚えつつ、俺はしぶしぶ目を開けた。するとそこには

 UFOがあった

 そしてそのUFOが会場を

 破壊した

 逃げ惑う人々。混乱する会場。

 俺の夢は、儚く散った。
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