グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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序章 宇宙人襲来

08 真実

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 宇宙人との試合に勝利した俺たちは仲間と喜びを分かち合う。そんな最中、ブラドがクレートに問いかける。

 「クレ! お前のパスの腕前知ってたら協力したのによ、なんで最初から俺様にパスを出さなかった?」

 「クレ……俺はクレートだ。
 独りよがりなプレーをしていたお前に協力する気など本当は無かったがな。龍也に頼まれたから少し遊んでやっただけだ」

 ブラドもクレもおそらく幼少期からサッカーが上手かったのだろう。
 だから自分が頼られることに慣れていて、自分にボールが回って来るのが当然だという考えがこびり付いている。
 だから今までとは違いかなりの実力者が揃ったこのチームでの戦い方に合わせることができなかったのだろう。
 しかし……。

 「まあ気持ちもわかるけどさ、それでも大事な試合なんだし途中で投げ出すようなことはしない選手だと思ってたよ俺は」

 クレに対し俺が正直な感想を口にすると。

 「それは……」
 「この試合が茶番だって気づいてたからだよな?」

 会話に割って入ってきたのはレオとペペだ。

 「茶番!?
 どういうことだ??」

 「やっぱり気づいてなかったか。別にこの試合に負けても地球侵略なんかはされないってことだよ。そうだろ? 監督さん?」

 「ほっほ、いつから気づいていたのじゃ?」

 え……。
 理解が追いつかない、茶番?
 どういうことだ?

 周囲を見渡すと、隣の未来をはじめとして、将人とブラド、そしてヘンドリックが俺とような反応をしている。

 「やはりそうでしたか……」
 「ちょっとはそんな気もしてたっスけど……」

 アランとザシャにも察しがついていたらしい。

 試合が終わって以降気が抜けたように座っているネイトと俺たちに近寄ってこないヒルは顔が見えないため反応はわからない。

 「おい! どういうことだよ! 茶番!? 誰か説明してくれ!」

 叫ぶヘンドリックに対してレオが説明する。

 「これが茶番だってヒントは至る所にあったぜ?
 例えばセントラルスタジアムのモニターとかな。宇宙人からあれだけの攻撃があったにも関わらず全く壊れていなかったのは不自然だぜ。
 理由は俺たちに呼びかける際に必要だったからだろうな。放送だと翻訳ができなくて俺たち全員に話が通じないし。まあその翻訳も準備が良すぎて逆に怪しかったんだけどな」
 「それにあれだけの攻撃で人が死んでなさげなのも違和感あったかなー」

 レオに続いてペペも感じた違和感を口にする。
 確かにスタジアムはボロボロ。それなのにモニターは傷ついた雰囲気も無く正常に機能していた。
 それに正確なことは知らないが少なくとも人の死体を見た記憶は無い。運が良かったと納得していたがあれだけの攻撃の結果を運で片付けるのは不自然か……。
 
 「そして決定的だったのはあのイヤホン型翻訳機だな。毎回の操作も無しでここまで正確な翻訳は今の地球の技術じゃまず無理だ。そう、例えば宇宙人の科学力を使わない限りはな。
 あとは自分たちから仕掛けてきたわりに宇宙人のサッカーが特別上手くなかったことも気になったな」

 「いぇす! で、俺は同じく気づいてそうなレオに声をかけて2人で1点を取ってあげたのさ」

 ペペも補足する。あの1点はそういう経緯だったのか。
 そしてあの翻訳機。無理か……。地球の技術スゲーって思ってたんだけどな……。そうか……。無理か……。

 「まあ、そういうことだ。俺はこういう試され方に少し腹が立ってたから最初から本気を出す気は無かった」

 クレも流れに乗って続ける。なるほど、だから試合を放棄できたのか。元々大切な試合とは思ってなかったんだな。

 ……ていうかクレレオペペ、そんな気づいて当然みたいな顔止めてくれ。数名全く気づいてないまぬけがいるんだ。見てみろって、将人も未来も、俺私もちろん気づいてましたって顔して頷いてるんだ。こんな情けない2人俺見てられないよ。
 え? 俺? 俺は賢くてクールだから今日UFO見えた瞬間に一瞬で全てを察してうわー茶番始まったーって冷めた感じで見守っ――

 「流石だな」
 俺が心の中でクソみたいなボケをかましたタイミングで、今まで話を黙って聞いていたトール会長が立ち上がって言葉を発する。

 「試合はしっかりと見させてもらったよ。見事だった。
 さて、君たちが気になっているのはどうしてこんな茶番を演じたのかだね。
 ここからは私が話そう」
 
 ***

 俺たちに語られた話は想像以上のものだった。
 簡単に説明すると

 まず今回戦った宇宙人。
 これは本物の宇宙人で、オグレス星人と言い、その名の通りオグレス星に住んでいる。オグレス星と地球は古くからの同盟星だ。

 事の発端は1か月前、オグレス星にゼラという星から通信が入る。
 その内容は、銀河の星を集めサッカーでトーナメントを行い、負けた星は侵略するというもの。そして、トーナメントで優勝した星はゼラと戦う権利を得、勝つことができれば侵略を免れるというルールだ。当然参加しなかった場合も侵略される。

 こんな横暴を働くゼラを倒してしまえばいいと思うかもしれないがそれは難しい。
 大前提として、ゼラは宇宙でもトップの戦力を有している。1VS1で戦って勝つことは難しい。
 ならば複数の星と協力して戦えばいいと思うかもしれないが、それも不可能だ。

 ゼラの本当に恐ろしいところは圧倒的なスパイ技術。ほとんどの星にスパイがおり、どんな企みも全て筒抜けだ。
 そんなスパイにも構わず、ゼラを倒そうと奮起した星がある。宇宙の交易の中心である大きな星だ。この星もゼラには及ばないがかなりの強星だった。
 しかし案の定、スパイにより企みはバレてしまい失敗、侵略されてしまうこととなる。

 ゼラという星の強さは伝わっただろうか。
 とはいえ、本来のゼラはこんな積極的に侵略をするような星ではなかったため、何故急にこんな提案をしたのかはわかっていない。
 ただ1つハッキリしていることは、トーナメントに参加する以外に道はないということだ。

 しかし、オグレス星人は総じて体が弱く、サッカーでの勝利が不可能だということは火を見るより明らか。そこで、サッカーが盛んな同盟星の地球に助けを求めたという流れだ。

 今回の茶番を演じた理由は、宇宙人の侵略という恐怖に立ち向かえるサッカー選手、もしくはこの侵略が茶番だと気づける洞察力を持ったサッカー選手を見つけるため。そのためには大会の開会式が1番都合がよかったということだ。

 また、当然オグレス星にもゼラのスパイはいた。オグレスは地球と連携をとるため、ある方法でスパイを見つけ出し、逆に自分たちが操るところまで漕ぎ着けた。
 その方法は今の俺たちには教えられないらしいが何かしらの凄い技術があるのだろう。

 オグレス星は科学がかなり発展している星だ。それは地球に比べてではなく、宇宙全体でもトップクラス。
 そんなオグレスの科学力は地球の発展に密接に関与しており、俺たち地球人はオグレスに莫大な恩がある。加えて、オグレスが侵略されると地球にも様々な不利益がある。
 地球が手を貸さない理由は無かった。

 これが今までに起こっていたこと。
 そしてここで、トーナメントを勝ち抜くためにもオグレス星の代表として戦ってほしいと頼まれた。

 と、こういった経緯があって今に至る。

 「それではみんな、今の話、考えておいてほしい。
 また、頻繁に行き来していたらゼラにバレてしまう可能性があるのでね、基本的に地球には戻れなくなるということも頭に入れておいてくれ。
 しかし、時間が無いのも現実でね、期限は明日にしたい。満足に時間を与えられなくて申し訳ないよ」

 期限は明日。みんなは突然の出来事に頭を悩ませているようだった。

 「あ、あと今日はここオグレス星に泊まるといい。近くのいいホテルを取ってある。
 君たちの勝利は直に地球でも報じられるからね。地球に戻ったらマスコミが押し寄せてきてゆっくり考える時間も取れないだろう。今日はゆっくり身体を休めてくれ。
 そして明日の朝9時にまたこの場に来て、答えを聞かせてほしい。もちろん断ったとしても何ら気に病む必要はないよ。
 ではまた明日会おう」

 そう言って去ろうとするトールさんを俺は呼び止める。

 「トールさん、俺……やります」
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