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第二章 初陣

25 仁義なき戦い 第三戦

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 「おい! こんな時間に呼び出して何の用だ?」

 ブラドが気を悪くするのも無理はない。
 今の時刻は夜11時を回ったところだ。

 ちなみに時間や朝昼夜の概念は地球やオグレスに限らず文明の発展した星だと基本的に共通しているらしい。フォロさんも言っていたが、そういう星は必然的に環境も似るからだ。それ故に365日や24時間などの地球の基準に近しい数字は宇宙でも多くの星に使用されており、ここオグレス星での生活に慣れるのも簡単だった。というよりそもそも地球のそういう概念は宇宙から伝わってきたものらしい。

 関係の無い話は終わり。

 俺とクレはブラドを説得する役目に任命された。ブラドに認められてる人じゃないとそもそもブラドは話を聞かないというアランの推測からだ。
 その推測は間違っていないだろう。

 「ブラド、お前は何故そこまで他の選手を見下す」

 最初に声をかけたのはクレだ。

 「あ? 事実だからだろ。ほとんどの奴が雑魚なのが悪ぃ。
 いやお前らのことは使えるやつだと思ってるぜ? パスも上手いし連携も取れるしよ」

 「なあブラド、お前俺の事どう思ってる?」

 「なんだよ龍也、だから使えるやつだって言ってるだろ」

 「違う、フォワードとしてどう思ってるんだって話だ」

 「!
 ……正直に言うと……フォワードとしては雑魚だぜ」

 やっぱりな。
 将人と引き分けてもあそこまで食い下がってたブラドが俺の事を簡単に認めているのはおかしいと思っていた。

 「……なあブラド。俺とも勝負しようぜ。今日の練習と同じ形式だ。
 ただ1つ違うのは1回勝負だと言うことだ」

 「まあ勝負くらいはしてやってもいいが。タイマンの勝負でお前は俺に勝てないと思うぜ?」

 「そう思ってもらって結構だ。俺は勝つ気でいく」

 「龍也、策ってそれか? かなりリスクのあるやり方に思えるが」

 「そうだな。でもこれでいいんだ。
 リスクから逃げていたらダメなんた……!」

 思い返せばこの前の作戦は他人に任せて引き分けを狙うって回りくどい上に余りに逃げ腰すぎたな。
 俺はキャプテンだから。自分の手で決着を付けないと……!

 「そうか。無理はするなよ」

 こうして俺とブラドはコートに入る。
 1回勝負。これで負けたらブラドを説得することはかなり困難になるだろう。
 絶対に勝つ。改めて覚悟を決める。

 「両者準備はいいか?
 では……開始」

 合図と共に俺はボールに飛び込む。
 しかし……

 「うぉらあ!」

 突っ込んでくるブラドの気配を察して一旦下がる。

 「悪いな、早く終わらせて休みたいんだ。さっさと片付けさせてもらうぜ」

 俺にボールを取らせなかった。
 実力を測るまでもないということか。

 そして力いっぱいに俺に突っ込んでくるブラド。
 そんなブラドに対して俺は

 「……なにっ!?」

 ボールを奪う。

 「何をしやがった! この間みたいに油断はしてねえ! お前が俺からボールを奪えるはずがねえ!」

 「確かに実力だとお前に劣るかもしれない。でもサッカーは実力だけで決まるスポーツじゃない!」

 俺には才能がなかった。世間ではニューグレ世代だの言われていたが、正直俺にその力が備わっているとは思えなかった。身体能力・サッカーのセンス・技術力、全てにおいて置いていかれる日々。努力をしても埋まらない明確な差がそこにはあった。
 しかしサッカーを大好きだという気持ち、それだけは決して負けていなかった。

 同年代の優秀な選手たちが俺に戦い方を与えてくれた。身体能力で負けているなら頭で戦えばいい、気持ちで戦えばいい、自分より上の……相手の力を使えばいい……!

 ブラドの攻撃を受け流し、力を利用してボールから引き離した。これが俺の得意技。

 「うおおおおおおおおおおおお」

 叫びながら突っ込んでくるブラドの動きを冷静に見極め再びいなす。

 「なんで奪えねえんだよ!!!」

 「俺の得意技は相手の力を利用すること。
 お前のプレーが"剛"の技だとするなら俺の技は"柔"。
 相性の勝利だ!」

 「相性ー?
 んなもんがあるか! 強者と雑魚には覆せない差があんだよ!」

 何度も突っ込んでくるブラドを俺はかわし続ける。しかしスピードも早いブラドだ。当然完璧にかわし続けることは難しく徐々に体力を削られていく。

 「おら! どうした! 動きのキレが悪くなってるぜ!
 無理せず諦めた方がいいんじゃないか!」

 下り調子の俺とは反対にブラドは動きのキレを増していく。
 だがここで折れる訳にはいかない。
 気持ちでは絶対に負けない……!

 「この勝負が瞬発力に長けた将人や技術の高い凛なら勝てなかったかもしれない。
 だけどブラド! 俺はお前には絶対に負けない!」

 最後まで吠え、気持ちで負けることなくブラドの猛攻を凌ぎ切る。
 そして一瞬の隙を突いて前に出、しっかりとシュートを決める。

 「ゴール! この勝負……龍也の勝利!」

 「やった……!」

 危なかった。いくら相性が良かったとはいえブラドのポテンシャルを考えたら勝負は五分五分。
 リスクは大きかったが勝ててよかった。

 「くそおおおおおおおおおおおおおお」

 「……ブラド」

 「なんだよ? 馬鹿にしに来たのか?」

 「別にそんなことしねえよ。いい勝負だった」

 俺はブラドに手を差し伸べる。
 しかしブラドはその手を払ってこう言う

 「あ? いい勝負だろうがなんだろうが俺様が負けた雑魚だってことは変わらねえだろ。
 で、どうするつもりだ? 雑魚の俺はチームから追い出すか?」

 「んなことしないって言ってるだろ。俺が勝ったのも結局相性が良かったってだけだしな。
 サッカーは実力で全てが決まるスポーツじゃないし、負けたとしてお前が雑魚ってことにはならないよ」

 「…………」

 「なあブラド、お前は何故そこまで雑魚を嫌う?」

 「そうだ。何かあったんだったら聞かせてくれよ、仲間だろ?」

 「……昔……雑魚にチームを壊された、それだけだ」

 「壊された? 詳しく教えてくれよ」

 「別に大したことじゃねえよ」

 「それでもだ」

 「……昔俺とネイトはかなり強いチームに入ってサッカーしてたんだ。
 けど、そこに監督の息子が入ってきてよ……」
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