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第二章 初陣
26 雑魚
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ー6年前ー
「監督! 誰だそいつは?」
「そう騒ぐなブラド。
こいつはマイケル、俺の息子で今日からお前たちの仲間だ。サッカー好き同士仲良くしてやってくれ」
当時10歳だった俺は地元でも有名なサッカーチームに入っていた。子供の頃から成長が早く体格にも恵まれた俺は当時からフォワードとして活躍していた。
そんな時に現れたそいつは最悪だった。
「初めまして。俺はマイケル!
ポジションはフォワードを希望だ。シュートを決めるのはかっこいいからな!
どんどん俺にパスしてくれよ!」
フォワードと聞いて少し身構えたが、その不安は取り越し苦労に終わる。
マイケルは雑魚だった。
ポジションを奪われる心配は無いと安堵し迎えた次の試合。
「ええー、今日の試合のメンバーを発表する。
今回フォワードは1人でいく、マイケル」
「はいっ!」
「あ? ちょっと待てよ! なんで俺がベンチなんだ!?」
「悪いなブラド、今回の相手は攻撃的なチーム。ディフェンスを増やした方が有効だからフォワードは1人でいくことにした」
「いやそういうことを聞いてるんじゃなくて! なんで俺じゃなくてマイケルが出場するんだ? 俺のがつえーだろ」
「マイケルは最近よく頑張っているしね、今回はマイケルの方がいいと私が判断した」
「は? なんで――」
「ブ、ブラドさん。それ以上言ったら怒られちゃいますよ」
ネイトの説得もあって俺は一旦引き下がり試合を見届けることにする。
しかし、案の定マイケルがチャンスで決めきれず試合は敗北。
俺なら5点は決めてたのによ。
そんな事を考えていると鬼のような形相でチームメイトを怒鳴りつけるマイケルが視界に入ってきた。
「おい! お前あの時パスミスっただろ! あのパスが通ってたら点決めれてたんだよ! もっとしっかりしやがれ!」
今にも暴れだしそうなマイケルに近づく監督。見当違いなことを喚いてるあいつを宥めるのかと思って眺めていると
「確かにあのパスはダメだったなライアン。もっと練習しないとな」
何故かマイケルを怒らない監督。スタメン出場といい明らかな贔屓が行われてることは馬鹿でもわかる。
1発ぶん殴ってやろうかと立ち上がった俺だがネイトに止められる。
ネイトによると監督は俺が思っている以上に権力があるらしい。結局手は出せずモヤモヤした気持ちを抱えながらその日を終えた。
しかし何もしなかったからといって良い方向へ向かうはずもなく、事態は悪化の一途をたどることとなる。
試合には絶対にマイケルが出場するし、試合中はマイケルへのパスを強要される。モチベーションもサッカーの楽しさも薄れ、当然試合には勝てない。
それでも辞めなかったのは俺があのチームを好きだったからだな。もちろん強いチームだったとか辞めた後の不利益を気にしてたってのもあるけど、それ以上にみんな気の合ういいヤツらだったっていうのが大きかった。
そんなチームメイトが雑魚に気を使う雑魚になってしまった。いや、俺もその雑魚の1人になっちまってたんだ。
そんな自分が嫌になった俺は1番の親友、ネイトに声をかける。
「なあネイト、頼みがある」
「え、あ、なんですか……?」
「次の試合、マイケルと監督の指示を無視して動こうと思う。お前も協力してくれないか?」
「え、で、でもそんなことしたら……」
「わかってる。もうチームにはいられなくなるだろうな。
でも、もうこんな雑魚な自分でいることに耐えられねえんだ……。
頼む……!」
「ブラドさん……。
わ、わかりました。怖いけど……。
ぼ、ぼくも協力します!」
「すまねえ、恩に着るぜ」
こうして迎えた次の試合、俺は手始めに毎度試合に出てるくせに一向に成長しないクソ雑魚マイケルにタックルで突っ込みボールを奪う。
呆気に取られるチームメイトたちを無視し俺はネイトと2人で試合を行う。
そこからは楽しかった。マイケルの怒鳴り声も監督の交代の指示も無視して俺はネイトと2人で自由に戦った。
結果、試合は5-0での圧勝。
マイケルが出張ってた頃は0-5で負けていたチームにな。
その後、俺とネイトは監督に怒られチームを去ることに。それだけで済めばまだマシだったのに、マイケルがキレたせいで罰が重くなる。
「父さん! こいつら辞めさせるだけじゃイライラが収まらないよ!
辞めたらどうせこいつら他のチームに入るだろうし、試合相手になることもありえるんだろ?
そんなの嫌だ! 顔も見たくない!」
マイケルの主張の結果だろう。色々と根回しされ、俺たちが他のチームに入ることすら許されなかった。
結局高校に入るまで、まともにチームでサッカーをやることは叶わなかった。
***
「1人の雑魚に俺のサッカー人生は狂わされた。
この事から俺は学んだのさ、雑魚は不要。それどころか存在がマイナスでしかないんだってことをな……!」
「…………。
ブラド、確かにそれに関しては可哀想だと思うしそういう贔屓は俺も許せない。
けどな、このチームは違う。みんな地球を救おうと志を同じくする仲間だ。
絶対にそんなことはしない! 雑魚なんかいない! だから……仲間を信じてくれよ」
「でもよ……雑魚なのは事実じゃねえか」
「何故そうなる! 実績のある選手ばかりだろ? 雑魚なはずがない!」
「いやでも、どう見てもほとんどのやつが俺より弱えだろ」
ここで初めて俺は気づく。
違うんだ。
何か理由があるわけじゃない。
ブラドは単純に、純粋に、本気でこう思っているんだ。
恐らくこれは子供の頃から人より強かったことから生まれた過剰な自信、そしてチームを辞めて以降チームスポーツをしてこなかったことの弊害だろう。
どうする。
過去は聞き出せた。けどこれじゃあ……。
「ブラド」
俺が頭を悩ませている今、声を発したのは黙って話を聞いていたクレだ。
「お前、仲間のプレー見たことないだろ」
「あ? んなわけ」
「パス以外の話だ」
クレの言葉にブラドが口をつぐむ。
「わかるんだよ。俺も昔そういう時期があったからな。自分に自信がありすぎて仲間への関心が薄くなる。
だがそれだといつか壁にぶち当たることになる。
この間のワールドカップ、お前は予選は突破できていたようだがな、十中八九本戦で負けていた」
「んなことやってみなくちゃわかんねえだろ」
「いや、わかる。
サッカーはチームプレーが基本だ。仲間との信頼が大切だ。
それが無かったお前のチームは必ず負けていたと断言できる」
「…………」
「今すぐ認めろとは言わない。
ただ明日の練習、お前は一度仲間のプレーを見ろ。真剣にな。
まずはそこからだ」
「わーったよ。
で、今日はこれでいいか? 色々考えて頭痛え」
「龍也、もういいか?」
「え? あ、ああ。時間取らせて悪かったなブラド。また明日」
ブラドはそのまま俺たちの方を見ることなく宿舎へ戻っていった。
クレの言葉に反論し切れなかったのはブラド自身思うところがあったからだろうか。
それにしても仲間のプレーを見ない、か。
常にどうやって仲間と連携するかを考えていた俺からは出てこない発想だな。
「クレ、ありがとう。
俺1人じゃここまで漕ぎ着けられなかったよ」
「気にするな。ブラドとの勝負を制したお前も充分活躍しただろう」
「そう言ってもらえると嬉しい。
それで、正直ブラドが仲間のプレーを見たとしてそれで意識が変わると思うか?」
「確実に変わるだろう。あいつは確かに脳筋のゴリラだが馬鹿じゃない。見るべきものを見れば何をすべきかぐらい理解できるだろう」
その言葉を聞いて俺はひとまず安心する。もちろん結果が出るまでは確実ではないが、クレの自信に溢れた言葉は信頼できる。
とはいえまだ問題が解決し切ったわけではない。
先程ミアから凛の説得に失敗したとの連絡があった。明日また話すと言っていたがどうなるかはわからない。
試合まであと3日、悔いのないように過ごしたい。
「監督! 誰だそいつは?」
「そう騒ぐなブラド。
こいつはマイケル、俺の息子で今日からお前たちの仲間だ。サッカー好き同士仲良くしてやってくれ」
当時10歳だった俺は地元でも有名なサッカーチームに入っていた。子供の頃から成長が早く体格にも恵まれた俺は当時からフォワードとして活躍していた。
そんな時に現れたそいつは最悪だった。
「初めまして。俺はマイケル!
ポジションはフォワードを希望だ。シュートを決めるのはかっこいいからな!
どんどん俺にパスしてくれよ!」
フォワードと聞いて少し身構えたが、その不安は取り越し苦労に終わる。
マイケルは雑魚だった。
ポジションを奪われる心配は無いと安堵し迎えた次の試合。
「ええー、今日の試合のメンバーを発表する。
今回フォワードは1人でいく、マイケル」
「はいっ!」
「あ? ちょっと待てよ! なんで俺がベンチなんだ!?」
「悪いなブラド、今回の相手は攻撃的なチーム。ディフェンスを増やした方が有効だからフォワードは1人でいくことにした」
「いやそういうことを聞いてるんじゃなくて! なんで俺じゃなくてマイケルが出場するんだ? 俺のがつえーだろ」
「マイケルは最近よく頑張っているしね、今回はマイケルの方がいいと私が判断した」
「は? なんで――」
「ブ、ブラドさん。それ以上言ったら怒られちゃいますよ」
ネイトの説得もあって俺は一旦引き下がり試合を見届けることにする。
しかし、案の定マイケルがチャンスで決めきれず試合は敗北。
俺なら5点は決めてたのによ。
そんな事を考えていると鬼のような形相でチームメイトを怒鳴りつけるマイケルが視界に入ってきた。
「おい! お前あの時パスミスっただろ! あのパスが通ってたら点決めれてたんだよ! もっとしっかりしやがれ!」
今にも暴れだしそうなマイケルに近づく監督。見当違いなことを喚いてるあいつを宥めるのかと思って眺めていると
「確かにあのパスはダメだったなライアン。もっと練習しないとな」
何故かマイケルを怒らない監督。スタメン出場といい明らかな贔屓が行われてることは馬鹿でもわかる。
1発ぶん殴ってやろうかと立ち上がった俺だがネイトに止められる。
ネイトによると監督は俺が思っている以上に権力があるらしい。結局手は出せずモヤモヤした気持ちを抱えながらその日を終えた。
しかし何もしなかったからといって良い方向へ向かうはずもなく、事態は悪化の一途をたどることとなる。
試合には絶対にマイケルが出場するし、試合中はマイケルへのパスを強要される。モチベーションもサッカーの楽しさも薄れ、当然試合には勝てない。
それでも辞めなかったのは俺があのチームを好きだったからだな。もちろん強いチームだったとか辞めた後の不利益を気にしてたってのもあるけど、それ以上にみんな気の合ういいヤツらだったっていうのが大きかった。
そんなチームメイトが雑魚に気を使う雑魚になってしまった。いや、俺もその雑魚の1人になっちまってたんだ。
そんな自分が嫌になった俺は1番の親友、ネイトに声をかける。
「なあネイト、頼みがある」
「え、あ、なんですか……?」
「次の試合、マイケルと監督の指示を無視して動こうと思う。お前も協力してくれないか?」
「え、で、でもそんなことしたら……」
「わかってる。もうチームにはいられなくなるだろうな。
でも、もうこんな雑魚な自分でいることに耐えられねえんだ……。
頼む……!」
「ブラドさん……。
わ、わかりました。怖いけど……。
ぼ、ぼくも協力します!」
「すまねえ、恩に着るぜ」
こうして迎えた次の試合、俺は手始めに毎度試合に出てるくせに一向に成長しないクソ雑魚マイケルにタックルで突っ込みボールを奪う。
呆気に取られるチームメイトたちを無視し俺はネイトと2人で試合を行う。
そこからは楽しかった。マイケルの怒鳴り声も監督の交代の指示も無視して俺はネイトと2人で自由に戦った。
結果、試合は5-0での圧勝。
マイケルが出張ってた頃は0-5で負けていたチームにな。
その後、俺とネイトは監督に怒られチームを去ることに。それだけで済めばまだマシだったのに、マイケルがキレたせいで罰が重くなる。
「父さん! こいつら辞めさせるだけじゃイライラが収まらないよ!
辞めたらどうせこいつら他のチームに入るだろうし、試合相手になることもありえるんだろ?
そんなの嫌だ! 顔も見たくない!」
マイケルの主張の結果だろう。色々と根回しされ、俺たちが他のチームに入ることすら許されなかった。
結局高校に入るまで、まともにチームでサッカーをやることは叶わなかった。
***
「1人の雑魚に俺のサッカー人生は狂わされた。
この事から俺は学んだのさ、雑魚は不要。それどころか存在がマイナスでしかないんだってことをな……!」
「…………。
ブラド、確かにそれに関しては可哀想だと思うしそういう贔屓は俺も許せない。
けどな、このチームは違う。みんな地球を救おうと志を同じくする仲間だ。
絶対にそんなことはしない! 雑魚なんかいない! だから……仲間を信じてくれよ」
「でもよ……雑魚なのは事実じゃねえか」
「何故そうなる! 実績のある選手ばかりだろ? 雑魚なはずがない!」
「いやでも、どう見てもほとんどのやつが俺より弱えだろ」
ここで初めて俺は気づく。
違うんだ。
何か理由があるわけじゃない。
ブラドは単純に、純粋に、本気でこう思っているんだ。
恐らくこれは子供の頃から人より強かったことから生まれた過剰な自信、そしてチームを辞めて以降チームスポーツをしてこなかったことの弊害だろう。
どうする。
過去は聞き出せた。けどこれじゃあ……。
「ブラド」
俺が頭を悩ませている今、声を発したのは黙って話を聞いていたクレだ。
「お前、仲間のプレー見たことないだろ」
「あ? んなわけ」
「パス以外の話だ」
クレの言葉にブラドが口をつぐむ。
「わかるんだよ。俺も昔そういう時期があったからな。自分に自信がありすぎて仲間への関心が薄くなる。
だがそれだといつか壁にぶち当たることになる。
この間のワールドカップ、お前は予選は突破できていたようだがな、十中八九本戦で負けていた」
「んなことやってみなくちゃわかんねえだろ」
「いや、わかる。
サッカーはチームプレーが基本だ。仲間との信頼が大切だ。
それが無かったお前のチームは必ず負けていたと断言できる」
「…………」
「今すぐ認めろとは言わない。
ただ明日の練習、お前は一度仲間のプレーを見ろ。真剣にな。
まずはそこからだ」
「わーったよ。
で、今日はこれでいいか? 色々考えて頭痛え」
「龍也、もういいか?」
「え? あ、ああ。時間取らせて悪かったなブラド。また明日」
ブラドはそのまま俺たちの方を見ることなく宿舎へ戻っていった。
クレの言葉に反論し切れなかったのはブラド自身思うところがあったからだろうか。
それにしても仲間のプレーを見ない、か。
常にどうやって仲間と連携するかを考えていた俺からは出てこない発想だな。
「クレ、ありがとう。
俺1人じゃここまで漕ぎ着けられなかったよ」
「気にするな。ブラドとの勝負を制したお前も充分活躍しただろう」
「そう言ってもらえると嬉しい。
それで、正直ブラドが仲間のプレーを見たとしてそれで意識が変わると思うか?」
「確実に変わるだろう。あいつは確かに脳筋のゴリラだが馬鹿じゃない。見るべきものを見れば何をすべきかぐらい理解できるだろう」
その言葉を聞いて俺はひとまず安心する。もちろん結果が出るまでは確実ではないが、クレの自信に溢れた言葉は信頼できる。
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