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第二章 初陣

29 ギガデスの洗礼

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 「ゴオオオオオオオオオオオオオ」

 重たい音と共にギガデス星の宇宙船が宇宙港に到着する。
 搭乗口が開き中から出てくるのは……

 「ヒャッハーーーーーーーーーー」
 「着いたぜええええええええ」
 「ここがオグレスかァ! 科学科学って堅っ苦しいってぇんだよなァ!」
 「あたしたちの力見せつけてやるよォ!」
 「ハッハーッ! パワーこそ最強なんだよなああああああああ」

 「「「……!?」」」
 予想外の高いテンションに圧倒される俺たち。
 ひたすらにうるさく登場したのがギガデス代表グラッシャー。
 見た目は俺たちと似ているが、身長は事前情報通り、いやそれ以上か。全員2.5mは超えているように見える。それに体つきもかなりガッチリしている。1人だけ女性がいたが、その人もかなり筋肉がついていて強そうだ。

 そんなギガデス代表たちの1番最後に出てきた一際違う雰囲気を放つ選手。
 彼が宇宙船から降りた瞬間

 「静まれっ……!」

 大きな声で号令を叫ぶ。
 その声で騒いでいた選手たちが一斉に静まりその選手の後ろに整列して並ぶ。

 「はじめましてオグレス星の諸君。
 我々はギガデス代表グラッシャー。そして私はキャプテンのガロ。よろしく頼む」

 ガロと名乗ったその男はチームの中でも一際大きく、3m近い身長を有していた。
 チームの雰囲気は軍隊に近く。ガロはその中でも司令官のようだった。

 フィロさんに背中を押され、俺はガロの前に出る。

 「はじめまして。俺たちはオグレス代表……」

 あれ? そういえば俺たちのチーム名ってなんて言うんだ……? まだ決まってないんだっけ……? うわやべっ、恥ずかしい……。

 「……です。あ、明日の試合は正々堂々悔いの無い試合にしたいと思っています。よろしくお願いします」

 俺は握手をするためガロさんに手を差し出す。すると……

 「……小さいな」

 「え?」

 「ゴザ!」

 「はーい、お呼びでガロさん」

 「……洗礼を与えろ」

 「!?
 いいんすか……!」

 ガロに呼ばれたゴザという男、彼もまた3m近い身長を有した巨漢だ。
 そんな彼が何らかの指示を受けて俺たちの前に立ち、咳払いをした後大声で叫ぶ。

 「おいてめえらああああああああああああ!
 てめえらだよ! 科学科学のクソ野郎ども!
 少しでも勝てると思い上がっちまってるてめえらに洗礼だ。
 てめえらのチームの力自慢に1VS1で勝負を申し込む!
 てめえらの希望をぐちゃぐちゃに踏み潰してやる。さあ、出てこいよ!」

 ギガデス側の突然の提案にざわめく俺たち。加えて3mの男の咆哮は迫力があって少しだけ怖い。

 「あぁー? どうしたあああああああああああ!
 出てこねえのか?? 試合前の戯れすら受けられないとはとんだチキンチームだなあ!
 まあ見るからに雑魚しかいねえし仕方ねえか」

 ゴザはそう言って大声で笑う。明らかな挑発、スルーすべきかと思ったがある男が前に出る。

 「おうデカブツ。なめた事言いやがって。俺が相手だ、覚悟しろ」

 「お? お前か。
 こんなヒョロガリが力自慢とかオグレスも底が知れるなあ!」

 「あァ!?」

 2人の会話によくない雰囲気を感じた俺は一度ブラドを引き戻す。

 「ブラド、相手が明らかに挑発してきてる。この勝負は受け損かもしれない。一旦作戦を」

 「いらねえよそんなの。
 あいつはお前らのことを雑魚と言った。今の俺はそれだけは否定しなくちゃならねえ」

 マズい。ブラドに言った言葉がここにきて裏目に出た。

 「大丈夫だって、あんなデカいだけのやつ、俺様がぶっ飛ばしてやるからよ」

 「よう、作戦会議は終わったか? 小賢しい作戦が俺に通じるとも思えないがなァ!」

 「は! 言ってろ。
 俺様に力比べを挑んだことを後悔させてやるぜ」

 ブラドを止めることはできなかったがここは一度頭を切り替える。裏を返せばこれはチャンスだ。試合前に相手の戦い方を知ることができる。ブラドを応援しつつ、相手のプレーを注意深く観察する。

 勝負の内容は至ってシンプル、制限時間2分以内に守備側が攻撃側からボールを奪えば勝ち。攻撃側は2分間ボールを守り切れば勝ちというゲームだ。

 「おいチビ、特別に選ばせてやるよ。攻撃側と守備側どっちがいい」

 「あ? チビじゃねえブラドだゴラ。
 どっちでもいいが攻撃側にしてやる、吹っ飛ばしてやるぜクソ野郎」

 こうしてブラドが攻撃側、ゴザが守備側に決まる。
 ギガデス星人は3m級の身長で果たしてどう戦うのか……。

 「私が審判を務める。準備はいいな、では始めろ」

 ガロの合図とともにゲームが始まる。
 ボールを持ったブラド、ルール的に逃げるのが得策だが……?

 「うぉおらあ! デカブツがあ! ぶっ飛ばしてやるぜえ!」

 想像通りゴザに突っ込むブラド。対するゴザは重心を異常なほど低く下げ、迎え撃つ体勢をとる。

 「はっ! 俺がデカすぎてお前と上手くぶつかれねぇとでも思ったか?
 残念だなあ! チビ対策はできてんだよ! 重心を可能な限り低くすることでお前らチビと同じ高さになる。そこら辺の雑魚ならこんな状態で動くことはできねえが、俺たち鍛え抜かれたギガデスの戦士ならこの状態からでも力を100%発揮することが可能! そしてシンプルなパワーならでけえ俺の方が上だ!
 これが俺たちの対チビ用の戦闘姿勢"キラー"。
 刈り取ってやるぜええええええええええええ」

 「ごちゃごちゃ言ってねえでかかってこいやあ!」

 ブラドとゴザが激しくぶつかる。
 凄まじい衝撃の後、吹き飛ばされたのは……ブラドだった。

 「ぐっあっ!」

 「おいおいどうした力自慢。
 こんなんじゃうちのチームの誰にも勝てないぜぇ?
 ほら、まだボール奪ってないからもう一度かかって来いよ」

 「くそっ! なんかの間違いだ。俺様がパワーで負けるはずがねええええええええええ」

 そう叫びながら再び突撃するブラドだったが、一度決まった実力差は簡単には覆らない。
 何度挑めど跳ね返されるブラド。

 そして、残り時間もあと少しになったところでゴザが動く。

 「はぁ、ガッカリだぜ。
 所詮科学に頼るだけの雑魚だな。
 強さってのは即ち力だ。生きていく上でも戦争でも、もちろんスポーツでもだ。サッカーも、結局は力の強いものが勝つだけのくだらないスポーツなんだよ。
 わかったら大人しく寝とけやくそ雑魚がッ!」

 トドメとばかりにブラドに向かってボールを蹴り込むゴザ。ブラドにぶつかり跳ね返ってきたボールを取ったことによりこの勝負の決着がついた。

 「ゲーム終了。我々ギガデスの勝利だ。よくやったゴザ。
 ではオグレスの諸君、明日の試合を楽しみにしている」

 ガロの最後の言葉の後、ギガデス代表は全員ワープをしていなくなった。ホテルに向かったのか。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。俺たちは即座にブラドに駆け寄る。

 「大丈夫か! ブラド!」

 「すまねぇ……」

 ブラドはこちらを向かず、沈んだ声で謝罪の言葉を口にする。

 「なあ、俺がよ、力自慢のブラドがよ、最強だと自信を持って言えたパワーで負けちまったらよ……俺の存在価値ってなんなんだよ」
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