グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第二章 初陣

28 変わりだすチーム

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 気持ちのいい朝日に照らされて目を覚ます。
 今日は試合前日、身体を起こす前に昨日の出来事を思い返すことにする。

 まずは試合会場。アウラス監督は無事コイントスに勝利し、ホームグラウンドで試合が行われることとなった。初戦から敵陣で戦うという事態にならなくて一安心だ。
 試合星入りは前日なので今日ギガデス代表がオグレス星に来る予定となっている。
 身長平均は2.5mを超える巨大な種族であるギガデス星人。星に入る際は俺たちが出迎えるらしいが、どんな人たちなのかしっかりと見極めたいところだ。

 次にブラド。結局昨日は練習に参加することはなかったが、終始真面目にチームメイトのプレーを観察していた。
 練習後も考え込んでいる様子だったから何か思うところがあったのなら嬉しいな。
 明日の試合に間に合うといいのだが……。

 最後に凛。ミアたちの努力が実り心を通わせることができたらしい。
 とはいえ男連中とすぐに仲良くなんてことにはならず、昨日は特に何も起こらなかったわけだが、練習に来てくれただけでも満足だ。ブラドも変に絡んだりはしてなかったしな。
 とにかく試合までにどれだけ歩み寄れるかが大事だ、頑張らないと。

 そんなことを考えているうちに朝食兼ミーティングの時間になる。俺は身支度をして部屋に向かおうとすると、その途中で……

 「「あ」」

 「…………」

 「……お、おう凛。昨日はよく眠れたか?」

 絶妙に気まずい空気が流れたせいで俺はありきたりなセリフを口にしてしまう。

 「……まあ、普通」

 「あ、そうか……」

 前回の別れ際を思い出して上手く言葉が出てこない。
 何を言おうか考えていると先に凛から言葉をかけられる。

 「あの……この間は……ごめん。
 あと……気使ってくれて……ありがと。
 それだけ」

 凛はそれだけを口にして小走りで去ってしまう。
 凛の後ろ姿が見えなくなると、俺は1人で大きく息をつく。

 「はぁぁぁぁぁ。緊張したぁ、よかったぁ」

 俺も一男子高校生。ほぼ初対面の女子に拒絶されるのは中々堪えてたから、物腰が柔らかくなっていてかなり安堵した。
 この感じなら凛は大丈夫そうか。ミア・アリス・ラーラ、3人とも本当にありがとう……!

 そうして俺は食堂に到着し、フィロさんの話に耳を傾ける。

 「はーいみんな揃ったわね。
 じゃあ今日の予定だけど、知っての通り今日はギガデス代表がオグレスに到着する日です。到着予定時刻は朝9時、今が8時過ぎだからちょうど朝食を食べ終わったら出発する感じね」

 「フィロちゃんさーん。出迎えって何か特別なことするのー?」

 「うーん、キャプテン同士で軽く挨拶するくらいで基本的には何もしないわね。
 まあ体裁的なことだしすぐ終わるわよ」

 「ほっほ、とはいえ油断は禁物じゃよ。
 星によってはこのタイミングから仕掛けてくることも有り得るからのう」

 「げっ、盤外戦術! そんなのありなのかよ!」

 「推奨されてるかと言われたらもちろんノーだけどね。直接の暴力とかは当然失格になるけど精神攻撃とかなら防ぎようがないし」

 「ならよ、俺たちもしたらいいんじゃねえの? 盤外戦術。適当に科学兵器でもチラつかせときゃ相手もひよるんじゃね?」

 「おいヒル! それはダメだろ! 俺たちはあくまでサッカーで勝負するんだ!」

 「あ? 何甘いこと言ってんだよ。地球の命運がかかってるんだぞ? 使える手は何でも使うべきだろ」

 確かにヒルの言うことにも一理ある。一理はあるが……。

 「はいはーい、ヒルくんもヘンディくんもそこまで。
 確かに盤外戦術は有効な手ではあるけどデメリットも多いわ。他の星はもちろん、やりすぎた結果ゼラに目を付けられたら不利になる可能性もある。ゼラはあくまでサッカーでの勝負を望んでいるからね。
 それに今回はホームでの試合。既にアドバンテージはあるんだしリスクを背負う必要はないわ」

 話し合いの末俺たちは普通に出迎えるだけという結果に落ち着く。ヒルは納得してないみたいだが、個人的には一安心だ。
 ただヒルの言う通り甘いことを言ってられない時が来るかもしれないということは念頭に置いておきたい。

 そうこうしているうちにミーティングも終わり、俺たちはギガデスを出迎えに第一宇宙港へ向かうこととなる。
 第一宇宙港とはオグレスで1番広い宇宙港で例のテルからワープできる宇宙港だ。
 相手チームを出迎える時や逆に俺たちが出向く時に利用する。

 宇宙港にワープした俺たちはギガデス代表の到着まで時間を潰すことに。
 何か問題がないか周囲を見回すと青ざめた顔をしたネイトを発見する。

 「ネイト、どうした? 気分でも悪いのか?」

 「あ、龍也さん……。
 今から宇宙人に会うんですよね……。
 覚悟は決めたつもりなんですけど、やっぱり怖いです……。
 ぼくの2倍くらいの身長……恐ろしい見た目をしてたらどうしよう……」

 ネイトはネガティブが発動してパニックになりかけている。
 大きいってのはそれだけで恐怖を感じるからな。身長が低いネイトならなおのこと。

 「ネイト、気にしすぎるなって!
 フィロさんも言ってただろ? 大きさの違いこそあれど見た目は人と変わらないって」

 「うん……だけど宇宙人だから変身とかしてくるかも……」

 「怖がることが悪いとは言わないが、怖がりすぎるのは良くないぞネイト」

 「クレさん……」

 「いきなり図太くなれとも言わないけどな、人の発言まで疑いだしたらキリがない。最低限楽観的にいこう」

 クレの援護もあってネイトの表情が少し柔らかくなる。
 そんな俺たちに近寄る影がひとつ。

 「なあ、龍也、クレ」

 「……ブラド」

 「話中に悪ぃな。
 昨日1日練習見て俺なりに色々考えたんだけど聞いてくれるか?」

 「ああ、聞かせてくれ」

 「正直に言うとな、俺と比べると……俺ならもっと上手くできる……って何度も思った。パワーなら確実に俺が1番だしな。
 ただ……俺にはできねえってプレーがあったのも事実だ。
 まだ上手くまとまらねえけどよ、少なくとも雑魚じゃねえ、って思った。もちろんお前らもだ。だから……悪かったよ」

 言葉の歯切れは悪かったがブラドの考え方が変わってきていることは伝わった。
 俺たちのやり方は間違っていなかったみたいだ。

 それにしても自分の行動で人を変えるというのは気持ちのいいことだな。
 プレッシャーを感じているだけだったキャプテンという役割に少しのやりがいを感じる。

 「え、ブ、ブラドさん……!?」

 「ネイト、お前にも迷惑かけたかもしれねえな。すまん」

 「え、その……」

 ネイトは突然のブラドの変化に戸惑っているようだ。
 ブラドとの付き合いは1番長いのだし無理はないだろう。

 「けどよ、だからって黙って見てるわけじゃねえぜ。
 俺様は元々強くなるためにサッカーやってたんだ!
 もう一度お前らを雑魚と思えるくらいまで強くなってやるぜ! ライバルだ! ガハハ!」

 「ふっ、望むところだ」

 「ああ! 負けないぜ! ブラド!」

 ブラドも前向きになったようだしこのチームは確実にいい方向に進んでいる。そんな実感を覚えた。

 そして大きな音を立てて宇宙船がこちらに向かってくる。
 ギガデス代表到着の時間だ。
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