グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第二章 初陣

39 凛の戦い 前編

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 時は少しだけ巻き戻り、後半34分、得点は4-5。ここにきてのガロの本気によって逆転されチームメイトがざわめく中、中園凛は別の問題に頭を悩ませていた。

 ***

 ー前半開始直後ー

 「あれー? あんた女じゃーん」

 「…………」

 「え? 無視? ノリ悪ぅー。ねぇ、あんたなんでサッカーなんかしてんの?」

 「…………」

 試合中なのにベラベラ話しかけてくる相手の女に凛は内心かなりうんざりしつつも無視を決め込む。

 「おい、無視すんなっての。
 見るからにヒョロいしさ、どうせ足手まといなんでしょ。それなのに男に介護されて、あたしはそういう女見るとイライ――」

 「ギャズ、何話してんだ、試合中だぞ」

 「あー? わーってるよ。じゃあね、ウザイから早く消えて」

 ギャズと呼ばれた女は最後まで凛を口汚く罵り去っていく。

 「はぁ……」

 そうして去っていくギャズを見ながら凛は1人ため息をつく。

 「吹っ切れたつもりだったんだけどね……」

 ***

 ーハーフタイムー

 龍也の話す作戦を聞きつつ前半の試合を思い返す凛。結局少しも活躍できていないことに落ち込んでしまっていた。そして……ギャズの言葉にも。
 足手まといじゃない。そう胸を張って言い返せなかった自分が悔しかった。

 「……うか?」

 そして、ギャズの言動。あれはもしかして……

 「……凛?」

 「わっ、びっくりした、何?」

 「え、あ、いや、大丈夫かなーって全員に聞いて回っててさ。考え事か?」

 「えっと、まあそんなとこ。
 大丈夫、あんたの作戦なら把握してるから」

 「そうか、考え事……あ、もしかしてあれか? ブラドとまだ仲直りできていないことか? 橋渡しくらいならできるけど……」

 「……よくわかったわね。ま、でも自分で解決するから大丈夫。ほらもう試合始まるしいくよ」

 龍也に心配されるも凛は適当に濁してごまかす。試合中に余計な心配をかけたくないという気持ちもあったが、1番はギャズの"介護されて"という言葉を気にしていたこと。ここで助けを求めることは今の凛にはできない。

 そしてブラドについても思い出す。他に大きな問題ができたこともあり今は大して気にしていなかったのだが、試合前は話すことができなくてモヤモヤしていたのも事実。ブラドも自分と同じ、いやそれ以上に不調な状態。何とかしてやりたいという気持ちが無くもなかったが、残念ながら今の凛にそんな余裕はなかった。

 ***

 ー後半20分ー

 「初得……点っ!」

 空中でのダイレクトボレーシュートが決まり得点は4-3。龍也の作戦もかなり上手くハマっていていいペースだ。凛自身もディフェンスやパスに参加したりシュートを決めたりと活躍ができている。少し自信を取り戻していたところで、またもや彼女が現れる。

 「はっ! 嬉しそうな顔しちゃって。
 男の考えた作戦で、男にレール敷かれて、それで得点取れたのがそんなに嬉しい?」

 「なに? 負け惜しみ?」

 「あ、やっと反応した。
 事実を言っただけだけど?」

 「あんただってあの偉そうなやつに従ってるだけじゃない」

 「そうよ。けどあたしたちの星だとそれが正義なの。そして女でこのチームに選ばれたのはあたし1人。
 わかる? 女でガロさんに従えられるなんて快挙なの。光栄なことなの。そのために、それこそ女を捨てるくらいの努力をした。
 何の強みも無く、ただの男の命令に従うだけのあんたと一緒にしないで!」

 そう言い残し去っていくギャズ。

 「……ムカつく」

 呟く凛。

(そもそもなんでこっちの作戦考えたの誰か知ってるの? 盗み聞き? 気持ち悪い。それにボクにだって強みは……)

 そこまで考えて一旦止める。事実この試合では自分の強みを一切見せられていない。そう言われても仕方ない面は確かにある。

 それに凛は今の会話で確信した。ギャズは、以前の、ひたすらに男を憎んでいた自分と同じだということを。"女を捨てて"その言葉を言う時にとても辛そうな顔をしていたからだ。

 凛にもわかっている。どう見てもギガデスは女には住みにくい星だ。歪んでしまうのも仕方の無いように思える。しかしギャズは倒すべき敵、同情はしない。そして何よりウザイ! それでも、自分の面影を彼女の中に感じてしまった。そんなギャズをどういう目で見ればいいのか、凛にはわからない……。

 ***

 ー後半35分ー

 凛にボールが渡る。ガロの指示のせいでパスが通りにくくなっている。しかし穴がないわけじゃない。相手はパスカットに集中しすぎて純粋なディフェンスが疎かになっている。ファクタとペペがいなくなった今、"ジェイグ"中にドリブルできる選手はいないと思われているのか。

 そんな凛の前にディフェンスが現れる。1人抜いたらそのままゴールも狙えるかもしれない絶好の機会。しかし抜ける自信がない。パスをしよう、そう決めて蹴ろうとすると……

 「また逃げるのかい?」

 「!?」

 自分の前に現れたディフェンス、ギャズが凛に語りかける。

 「逃げるというか、頼るか。自分1人じゃ何もできない、男からの介護が無ければ足手まといなことを自覚しているからすぐにパスを出す。
 気づいているんだろ? あたしを抜けばゴールも可能だって」

 ギャズの声に気を取られているうちにパスを出せない位置まで距離を詰められる。こうなったらやるしかない。凛はギャズと向き合う。

 地面が揺れる、ジャンプはしない。空中でフェイントを行うテクニックは無いからだ。
 しかし地上は違う。今まで練習してきた自分のテクニックを信じ、倒れそうな身体の中、渾身のフェイントを決める。

 かわした! ……かのように思えたが、ダメだ。抜ききれていない。地面の揺れに足を取られ、あと一歩踏み込むことができなかった。
 ここはまだギャズの間合いの中、後方から激しいチャージをくらう。ファールすれすれ、しかしファールではない。
 凛は倒され、ボールを奪われる。

 「うっっっ……」

 「なんだ、やっぱり足手まといじゃないか」

 ギャズは凛の方には目もくれないままそう呟き、そのままガロに対してロングパスを出す。

 「そういえばあのディフェンスの女も活躍してないね。足手まといを2人を抱えて、弱いとはいえオグレスも災難だね」

 「……! ラーラのことは馬鹿にするな!」

 仲間の悪口を言われ、凛はとっさにギャズに反論する。しかし、そんなギャズの目は悲しみと苦しみに溢れていた。

 まるで少し前の自分の目。

 凛は、その目をした自分が救われた、2日前の出来事を思い返す。
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