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第二章 初陣
40 凛の戦い 過去編
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ー試合2日前ー
「あーあ、ひっどい顔。
……ボク、何してるんだろ」
ブラドに負け、全てが嫌になった凛は練習にも行かず宿舎から逃げ出してきたものの、行く当ても無く適当な場所で佇んでいた。
スマホのカメラで見た自分の顔は酷く、ため息が出るばかり。
どうしよう。
途方に暮れていると
「凛」
突然声をかけられて、驚きつつ声の方向を振り返ると、そこにいたのはミアとアリスだった。顔を取り繕って言葉を返す。
「はぁ、またあんたたち? 何の用? ていうか何でこの場所――」
最初は拒絶する凛だったが、衝撃的な事実を耳にしてからは態度が変わる。それはミアが自分のファンだということ。
凛は小学生時代と高校生時代の二度にわたって、悪口を言われたり無視をされたりの嫌がらせを受けていた。それは凛が男子とばかりつるんでサッカーをしていたから。そんなくだらない理由での嫌がらせ。
そして嫌がらせをするのは総じてミアやアリスの様な人。カーストもプライドも高く、故に凛はそういうタイプの女子を毛嫌いしていた。
だからミアやアリスも内心自分のことを馬鹿にしていると思っていたし、まさかファンであるなんて夢にも思っていなかったのだ。
「ふふっ、確かににそうね。
あーあ、なんかあんたたちと話してたらイライラも消えちゃった」
その結果、驚きの感情によってペースが崩され、怒りの気持ちも消えていった。
そして、実は来ていたラーラを含め、4人で凛の話を聞く流れに。
「ボクは昔からサッカーが好きだった。だけど、やっぱりサッカーって男子の方がメジャーだから、ボクも男子に混ざってサッカーしてた。これが小学生の頃。ラーラもこんな感じ?」
「うん、そうだね。私もそんな感じ……」
少しバツの悪そうな顔をしながらラーラも同意する。
「で、ボクはその中でも上手かった、それがダメだったんだ。
同じチームの男子に言われた、"なんで女に負けるんだ! つまらない!"って。みんな溜め込んでたのかな。1人が言った途端同調するように他の子たちからも色々言われた」
「あー、まあねぇ、シンプルに辛いわよねぇそういうのは」
「……今となっては子どもの言葉と思うかもだけど、当時のボクも当然子ども。仲間だと思ってた人たちに性別で色々思われてたのが悲しかった。
そしてちょうどその時女子からの嫌がらせも全盛期で、ボクは耐えきれなくなって辞めたんだ、サッカーを」
「小学生の時だもんね、辛いね……」
「でもサッカーを諦めきれなくて、中学生の間はずっと1人で練習してた。
そして高校受験を控えた冬、親の仕事の都合で引越しをすることになった。いいタイミングだし高校からはサッカーを本格的に再開しようと思った。そして引越した時、受験も終わった3月に地域のクラブチームに入会したんだ。そこそこ強いチームだから楽しみだった」
「高校生のクラブチーム……」
「どうかした? ラーラ?」
「え? いやなんでもないの! 続けて……?」
「でもその時ボクは気づいていなかった、男子の小学生から高校生の成長は著しいってことを。久しぶりに相対した男子たちの動きは小学生の時とは比べ物にならない。単純な身体能力の差だね、ボクは男女の身体の違いを思い知らされた」
「そうよね。小学生の頃は女子の方が成長早いけど高校生になると男子に抜かされるものだし」
「しかも細かいテクニックより勢いのあるプレーを重視するチームで、加えて治安も悪かったから雑魚とかパワー無いやつはいらないとか女はサッカーするなとかまた色々言われたわ。それこそこの間のブラドみたいなことをたくさん。
ボクはそれでも戦おうと思ったんだけど、結局夏休みが始まる前にはチームを辞めてた。ちょうど学校でも女子からの嫌がらせが始まったし辞め時だなって。
その辺りで完全に、男と嫌がらせしてくるタイプの女子が嫌いになった」
「過酷だねぇ、苦労したんだねぇ、それでも今ここにいるの最高に偉いと思うよ、アリス泣いちゃう」
「……ありがとアリス。でもそこからはかなり迷走してた。それこそこのボクって一人称になったのもこの時期。女を捨てようとか本気で思ってた。それは違うって気づいてすぐその考えは捨てたんだけど。
そして翌年2月、女子サッカーの日本代表が決められるという話を聞いた。もちろん当時のボクにはなんの実績も無いから呼ばれなかったんだけど。それでもサッカーは続けてたから半ば自暴自棄でその選抜会に突撃したの」
「それは……また破天荒だね……」
「まあそれはそう。でも当時は必死だった。選抜に選ばれた選手に片っ端から勝負吹っかけてね」
「そんなこともしてたの……やっぱり破天荒ね」
「ま、まあ確かにそうだけど……。で、ボクは当然要注意人物として遠ざけられそうになった。そんな時に助けてくれたのがちょうど日本に来ていたトール会長。ボクの実力を見込んで代表候補に推薦してくれた。
そうしてサッカー女子代表になったんだけど、ボクは少しモヤモヤしていた。こう言ったらあれだけど、身体能力の高い男から逃げて身体能力の低い女に勝って喜ぶ負け犬、と思ってた。
もちろん男に対する怨みは無くなってなかったからそういう気持ちが積もり積もって男子日本代表に殴り込みをかけた事もあったわ」
「知ってたけどこう改めて聞くと破天荒だねぇ~」
「……い、痛かったのは自覚してるけど、だからってそんな破天荒破天荒連呼しなくてもいいじゃん……」
「!?
いじけてる凛ちゃんも可愛いねえっ!」
「か、可愛くないからっ!
……で、まあそんな気持ちを抱えたままトール会長に今回の話を聞いてチームに参加したってわけ。
参加した理由はトール会長に恩があったからっていうのもあるけど、本命は同じチームの男たちをぶっ倒したいって理由。まあそれで男に逆にボコられてこんな凹んでたって情けないにも程があるんだけど」
「まぁまぁ、そんな自虐しないで。
でさ、高校生時代のクラブチームの男がブラドみたいだったって言ってたけど、ほんとにそいつらとブラドが同じだった?」
「え? なに?
悔しいけどそりゃブラドの方がパワーもスピードもテクニックもそいつらよりは圧倒的に上だと思――」
「そうじゃなくて言動の話」
「言動……? それこそ全く変わらな……あれ……?」
「ブラドだけじゃない、他のチームメイトも。1人でもそんなこと気にしてる人、いた?」
「え……? あれ……?」
この時凛は理解した。今のチームメイトは誰1人として"女のくせにサッカーするな"や"女なのにそんなプレーするとか……"など、プレーに関して女であることを気にしていなかったのだと言うことを。
「もしかして……男だ女だって気にしてたのは……ボクだけ……?」
ブラドも凛を馬鹿にした、それは事実。凛はそれを聞いて悲しみ腹を立てた、それも事実。しかし女のくせにとかそういう類の言葉は一言も言っていない。性別なんて関係ない、ブラドは一サッカープレイヤーとして凛に接していたことに今気づいたのであった。
「ね? 確かにブラドは確実にやりすぎだわ。あれはダメ。
だけど、どう? もう1度みんなとサッカーしてみない……?」
「…………」
沈黙する凛。しかし誰も次の言葉を催促しない。
「ごめん、少し考えさせて」
「……そうね、簡単に割り切れるものじゃないものね」
「でも……変わりたいって思えた。ボク、練習に出るよ。今すぐ何かが変えられるかどうかはわからないけど、それでも行動したい。ここで立ち止まってはいられないから……!」
凛のその言葉を聞いて、ミアたち3人は顔を見合せ喜ぶ。
「な、なんでそんな喜んだ顔するの……」
「べっつに~。ね、アリス」
「うんっ!」
「凛じゃーん! ばたしも協力するから一緒に頑張ぼうねえええええぇぇぇ」
「もう、だからラーラはすぐに泣きすぎ」
「だっでえええええ」
「「「あはははは」」」
変わることは簡単ではない。しかし、一歩一歩、歩みは少なくとも進むことが大切。少なくとも今日生まれた3人との絆は大切な一歩だ。
この日凛は久しぶりに心から笑うことができた。
「あーあ、ひっどい顔。
……ボク、何してるんだろ」
ブラドに負け、全てが嫌になった凛は練習にも行かず宿舎から逃げ出してきたものの、行く当ても無く適当な場所で佇んでいた。
スマホのカメラで見た自分の顔は酷く、ため息が出るばかり。
どうしよう。
途方に暮れていると
「凛」
突然声をかけられて、驚きつつ声の方向を振り返ると、そこにいたのはミアとアリスだった。顔を取り繕って言葉を返す。
「はぁ、またあんたたち? 何の用? ていうか何でこの場所――」
最初は拒絶する凛だったが、衝撃的な事実を耳にしてからは態度が変わる。それはミアが自分のファンだということ。
凛は小学生時代と高校生時代の二度にわたって、悪口を言われたり無視をされたりの嫌がらせを受けていた。それは凛が男子とばかりつるんでサッカーをしていたから。そんなくだらない理由での嫌がらせ。
そして嫌がらせをするのは総じてミアやアリスの様な人。カーストもプライドも高く、故に凛はそういうタイプの女子を毛嫌いしていた。
だからミアやアリスも内心自分のことを馬鹿にしていると思っていたし、まさかファンであるなんて夢にも思っていなかったのだ。
「ふふっ、確かににそうね。
あーあ、なんかあんたたちと話してたらイライラも消えちゃった」
その結果、驚きの感情によってペースが崩され、怒りの気持ちも消えていった。
そして、実は来ていたラーラを含め、4人で凛の話を聞く流れに。
「ボクは昔からサッカーが好きだった。だけど、やっぱりサッカーって男子の方がメジャーだから、ボクも男子に混ざってサッカーしてた。これが小学生の頃。ラーラもこんな感じ?」
「うん、そうだね。私もそんな感じ……」
少しバツの悪そうな顔をしながらラーラも同意する。
「で、ボクはその中でも上手かった、それがダメだったんだ。
同じチームの男子に言われた、"なんで女に負けるんだ! つまらない!"って。みんな溜め込んでたのかな。1人が言った途端同調するように他の子たちからも色々言われた」
「あー、まあねぇ、シンプルに辛いわよねぇそういうのは」
「……今となっては子どもの言葉と思うかもだけど、当時のボクも当然子ども。仲間だと思ってた人たちに性別で色々思われてたのが悲しかった。
そしてちょうどその時女子からの嫌がらせも全盛期で、ボクは耐えきれなくなって辞めたんだ、サッカーを」
「小学生の時だもんね、辛いね……」
「でもサッカーを諦めきれなくて、中学生の間はずっと1人で練習してた。
そして高校受験を控えた冬、親の仕事の都合で引越しをすることになった。いいタイミングだし高校からはサッカーを本格的に再開しようと思った。そして引越した時、受験も終わった3月に地域のクラブチームに入会したんだ。そこそこ強いチームだから楽しみだった」
「高校生のクラブチーム……」
「どうかした? ラーラ?」
「え? いやなんでもないの! 続けて……?」
「でもその時ボクは気づいていなかった、男子の小学生から高校生の成長は著しいってことを。久しぶりに相対した男子たちの動きは小学生の時とは比べ物にならない。単純な身体能力の差だね、ボクは男女の身体の違いを思い知らされた」
「そうよね。小学生の頃は女子の方が成長早いけど高校生になると男子に抜かされるものだし」
「しかも細かいテクニックより勢いのあるプレーを重視するチームで、加えて治安も悪かったから雑魚とかパワー無いやつはいらないとか女はサッカーするなとかまた色々言われたわ。それこそこの間のブラドみたいなことをたくさん。
ボクはそれでも戦おうと思ったんだけど、結局夏休みが始まる前にはチームを辞めてた。ちょうど学校でも女子からの嫌がらせが始まったし辞め時だなって。
その辺りで完全に、男と嫌がらせしてくるタイプの女子が嫌いになった」
「過酷だねぇ、苦労したんだねぇ、それでも今ここにいるの最高に偉いと思うよ、アリス泣いちゃう」
「……ありがとアリス。でもそこからはかなり迷走してた。それこそこのボクって一人称になったのもこの時期。女を捨てようとか本気で思ってた。それは違うって気づいてすぐその考えは捨てたんだけど。
そして翌年2月、女子サッカーの日本代表が決められるという話を聞いた。もちろん当時のボクにはなんの実績も無いから呼ばれなかったんだけど。それでもサッカーは続けてたから半ば自暴自棄でその選抜会に突撃したの」
「それは……また破天荒だね……」
「まあそれはそう。でも当時は必死だった。選抜に選ばれた選手に片っ端から勝負吹っかけてね」
「そんなこともしてたの……やっぱり破天荒ね」
「ま、まあ確かにそうだけど……。で、ボクは当然要注意人物として遠ざけられそうになった。そんな時に助けてくれたのがちょうど日本に来ていたトール会長。ボクの実力を見込んで代表候補に推薦してくれた。
そうしてサッカー女子代表になったんだけど、ボクは少しモヤモヤしていた。こう言ったらあれだけど、身体能力の高い男から逃げて身体能力の低い女に勝って喜ぶ負け犬、と思ってた。
もちろん男に対する怨みは無くなってなかったからそういう気持ちが積もり積もって男子日本代表に殴り込みをかけた事もあったわ」
「知ってたけどこう改めて聞くと破天荒だねぇ~」
「……い、痛かったのは自覚してるけど、だからってそんな破天荒破天荒連呼しなくてもいいじゃん……」
「!?
いじけてる凛ちゃんも可愛いねえっ!」
「か、可愛くないからっ!
……で、まあそんな気持ちを抱えたままトール会長に今回の話を聞いてチームに参加したってわけ。
参加した理由はトール会長に恩があったからっていうのもあるけど、本命は同じチームの男たちをぶっ倒したいって理由。まあそれで男に逆にボコられてこんな凹んでたって情けないにも程があるんだけど」
「まぁまぁ、そんな自虐しないで。
でさ、高校生時代のクラブチームの男がブラドみたいだったって言ってたけど、ほんとにそいつらとブラドが同じだった?」
「え? なに?
悔しいけどそりゃブラドの方がパワーもスピードもテクニックもそいつらよりは圧倒的に上だと思――」
「そうじゃなくて言動の話」
「言動……? それこそ全く変わらな……あれ……?」
「ブラドだけじゃない、他のチームメイトも。1人でもそんなこと気にしてる人、いた?」
「え……? あれ……?」
この時凛は理解した。今のチームメイトは誰1人として"女のくせにサッカーするな"や"女なのにそんなプレーするとか……"など、プレーに関して女であることを気にしていなかったのだと言うことを。
「もしかして……男だ女だって気にしてたのは……ボクだけ……?」
ブラドも凛を馬鹿にした、それは事実。凛はそれを聞いて悲しみ腹を立てた、それも事実。しかし女のくせにとかそういう類の言葉は一言も言っていない。性別なんて関係ない、ブラドは一サッカープレイヤーとして凛に接していたことに今気づいたのであった。
「ね? 確かにブラドは確実にやりすぎだわ。あれはダメ。
だけど、どう? もう1度みんなとサッカーしてみない……?」
「…………」
沈黙する凛。しかし誰も次の言葉を催促しない。
「ごめん、少し考えさせて」
「……そうね、簡単に割り切れるものじゃないものね」
「でも……変わりたいって思えた。ボク、練習に出るよ。今すぐ何かが変えられるかどうかはわからないけど、それでも行動したい。ここで立ち止まってはいられないから……!」
凛のその言葉を聞いて、ミアたち3人は顔を見合せ喜ぶ。
「な、なんでそんな喜んだ顔するの……」
「べっつに~。ね、アリス」
「うんっ!」
「凛じゃーん! ばたしも協力するから一緒に頑張ぼうねえええええぇぇぇ」
「もう、だからラーラはすぐに泣きすぎ」
「だっでえええええ」
「「「あはははは」」」
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