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第二章 初陣
41 凛の戦い 後編
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ー現在 後半38分ー
凛は自分を立ち直らせてくれた3人の顔を思い出す。そして、この試合に負けたらその3人が悲しむという事実も改めて自覚する。
ギャズに対する同情心が無くなったわけではない。しかし……
「凛ーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
名前を呼ばれ、後ろを振り向く。名前を呼んだのは龍也、凛にボールが届く。相手の反応が遅れたのか地面は揺れず、無事ボールを受け取ることができた。
凛は前を向く。状況は先程と同じ、前にはギャズ。そして1人抜ければシュートも狙える場面。しかし今度はパスを出す余裕もある。
「今度は逃げるの? 逃げないわよねえ!?
かかってきなさいよ! 何度でも叩きのめしてあげるから!」
凛にもその言葉は聞こえている、だが行動に迷いはない。凛は最初からどう動くか決めていた。
「当然!
ここであんたを倒して……ボクはさらに前に進む!」
声を張り上げて凛は叫ぶ。
「今度は負けない!」
またも地面が揺らされる。
しかし凛だって無策なわけじゃない。
まず1つ、明らかに最初に比べて揺れが弱くなっている。当然だ、地面を揺らすためには毎回かなりの力を使う。力に優れたギガデスとはいえ、試合終了直前なら流石に疲弊しているのだろう。
そして2つ目、それは直前の攻防からほとんど時間が経っていないこと。自分と相手の位置関係はほぼ同じ状態だ。つまり直前に受けた揺れと似たような揺れがくると推測できる。
そして3つ目は……
「なんども転ばされたんだから……慣れるっつーのっ……!!!」
凛は揺れる地面に添わせるように身体を傾ける。揺れる地面まで完璧に利用した、普段より圧倒的にキレのあるフェイントが決まる。
しかしギャズも馬鹿じゃない。同じ状態での揺れなら対応してくる可能性は充分にあると警戒していたため、凛に抜かれかけるもすんでのところで踏ん張り、渾身のチャージをかける。
「絶対に……抜かせないっっっっ!!!」
今までの凛ならここでボールを奪われていただろう。しかし、凛には新たな技がある。
「うおおおおおっっっらっっっ……!!!」
それは、龍也から教わった"柔"の技、その中でも一番難易度の高いもの。その技は見事に決まり、ギャズのチャージを完璧にいなす。
最後の最後まで行動を読み切り、完膚なきまでに突破した、凛の完全勝利だ。
凛は龍也の言葉を思い出す。
「さっきのプレーすごかった!
よかったら教えてくれ、俺も教えたい技が……」
「……はっ、いい技じゃん。
あいつにも私の技、教えないとね」
「まだよ!」
後ろから聞こえるギャズの声、その声に合わせて2人の選手が飛び出してくる。自分が抜かれた時に備えて、特に足の速い選手を置いていたのだろう。最後まで気を抜かないギャズの的確な指示。しかし凛には通じない。
「抜いたらシュート可能? そんなチャンスこそ一流のサッカー選手は慎重になるものよ」
凛は慌てず、逆サイドにいるブラドにパスを出す。
「さあ! ボクは吹っ切った!
対して、あんたは何!? ボクに勝っといて、あそこまで言っといて、いつまでもうじうじうじうじ、大したプレーもしないで!
"負けた相手がこいつでよかった"って、ちょっとはそう思わせてよ! この雑魚がっっっっ!!!」
自分を負かしておきながら、いつまでも踏み出せないでいるブラドに対し、凛は大声で発破をかける。
そしてブラド。凛の声が届いたかどうか、高く飛び上がり、完璧なオーバーヘッドシュートを決める。放たれたボールはキーパーの届かない隅を撃ち抜き、豪快にネットを揺らす。
「よっしゃああああああああ」
全力で喜ぶブラド。その顔を見たらもう今の彼が凛と同じく吹っ切れたことなど一目瞭然だ。
そんなブラドに凛は声をかけようとするも……
「凛ぢゃああああああああん」
叫びながら抱きついてくるラーラ。いや、ラーラだけじゃない。ミアもアリスも抱きついてくる。
「ちょ、3人とも、重いって」
「だっでええええええ」
「凛! やったじゃない!」
「すごいドリブルだったよぉ~」
止めても止まらない3人からの言葉を凛は少し困りつつも、喜び、笑いながら受けとめる。
「凛」
3人の言葉も止んできたところに声をかけてきた男が1人。
「……なに」
「すごいドリブルだな。地面も揺れてたのに。
凛に教えてよかったよ」
「……は! あんたより100倍上手くやってやったから! こんなんが1番難しい技って……あんたもまだまだね!」
そう答えながら、凛は昨日の出来事を思い出す。
***
ー昨日 練習中ー
「なあ」
「なに? あんたの技なら余裕でできたから。あんなの少し話聞けば一瞬!」
「まあそうだと思ったよ。俺もそこまで把握してないけど、それでも凛の技術はチームでもトップクラスだと思ってるからな」
「……急に褒めだして気持ち悪いんだけど」
「なんでそう刺々しいんだお前は……。
だからさ、凛ならできるかと思って、俺の1番難しい技教えるよ」
「え、1番……? ちょっと、買い被りすぎじゃない?」
「いや、凛ならできる! 覚悟しろよ、みっちり教えてやるからな!」
***
ー現在ー
「相変わらずひっどい言い方だなぁ。
俺も半日でマスターされて、しかも揺れたフィールドで完璧に決められて内心ちょっと劣等感あるのに」
「ふん、実力の差ね。
ただまあ……役には立ったから……。
今度はボクの技教えてあげるよ」
「……!
おう! 期待して待ってる!」
「ふん、別にあんたが簡単にマスターできるような技じゃないから期待しない方が身のためよ」
「ほんといっつも一言余計なんだよなぁ。
にしても吹っ切れたみたいでよかったよ。けどボクって一人称は変わらないんだな」
「ん……この一人称は確かに迷走してた時のものだけど、その時期も大切なボクの一部だから……。
ってなんでこんなくっさいセリフ言わせんの! あんたには関係ないでしょ!」
そうして半分怒りながら龍也との会話を終える。
男子に対しては未だ自然に話せない凛だったが、これからどんどん成長していくことだろう。
その前に、話すべき相手がもう1人……
「ブラド」
「んだよ」
「……あと1点、頼んだから。
これでもしまだ不甲斐ないプレーするようなら……容赦なくボクが決めるし」
「……!
……ああ、任せとけ……!」
仲直りと呼べるかはわからないが、ついに凛はブラドと会話をかわす。短い会話だが確かな会話。
満足し、自陣に戻ろうとする凛に対し、声をかける女が1人。
「ちょっと待ちなよ」
「…………」
「なんで! あんた!」
「……まだ試合は終わってない。
最後まで全力で戦う。それだけ」
ギャズを振り返ることなく、凛は決意の篭った言葉を発する。
残り4分。まだ試合は終わっていない。
凛は自分を立ち直らせてくれた3人の顔を思い出す。そして、この試合に負けたらその3人が悲しむという事実も改めて自覚する。
ギャズに対する同情心が無くなったわけではない。しかし……
「凛ーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
名前を呼ばれ、後ろを振り向く。名前を呼んだのは龍也、凛にボールが届く。相手の反応が遅れたのか地面は揺れず、無事ボールを受け取ることができた。
凛は前を向く。状況は先程と同じ、前にはギャズ。そして1人抜ければシュートも狙える場面。しかし今度はパスを出す余裕もある。
「今度は逃げるの? 逃げないわよねえ!?
かかってきなさいよ! 何度でも叩きのめしてあげるから!」
凛にもその言葉は聞こえている、だが行動に迷いはない。凛は最初からどう動くか決めていた。
「当然!
ここであんたを倒して……ボクはさらに前に進む!」
声を張り上げて凛は叫ぶ。
「今度は負けない!」
またも地面が揺らされる。
しかし凛だって無策なわけじゃない。
まず1つ、明らかに最初に比べて揺れが弱くなっている。当然だ、地面を揺らすためには毎回かなりの力を使う。力に優れたギガデスとはいえ、試合終了直前なら流石に疲弊しているのだろう。
そして2つ目、それは直前の攻防からほとんど時間が経っていないこと。自分と相手の位置関係はほぼ同じ状態だ。つまり直前に受けた揺れと似たような揺れがくると推測できる。
そして3つ目は……
「なんども転ばされたんだから……慣れるっつーのっ……!!!」
凛は揺れる地面に添わせるように身体を傾ける。揺れる地面まで完璧に利用した、普段より圧倒的にキレのあるフェイントが決まる。
しかしギャズも馬鹿じゃない。同じ状態での揺れなら対応してくる可能性は充分にあると警戒していたため、凛に抜かれかけるもすんでのところで踏ん張り、渾身のチャージをかける。
「絶対に……抜かせないっっっっ!!!」
今までの凛ならここでボールを奪われていただろう。しかし、凛には新たな技がある。
「うおおおおおっっっらっっっ……!!!」
それは、龍也から教わった"柔"の技、その中でも一番難易度の高いもの。その技は見事に決まり、ギャズのチャージを完璧にいなす。
最後の最後まで行動を読み切り、完膚なきまでに突破した、凛の完全勝利だ。
凛は龍也の言葉を思い出す。
「さっきのプレーすごかった!
よかったら教えてくれ、俺も教えたい技が……」
「……はっ、いい技じゃん。
あいつにも私の技、教えないとね」
「まだよ!」
後ろから聞こえるギャズの声、その声に合わせて2人の選手が飛び出してくる。自分が抜かれた時に備えて、特に足の速い選手を置いていたのだろう。最後まで気を抜かないギャズの的確な指示。しかし凛には通じない。
「抜いたらシュート可能? そんなチャンスこそ一流のサッカー選手は慎重になるものよ」
凛は慌てず、逆サイドにいるブラドにパスを出す。
「さあ! ボクは吹っ切った!
対して、あんたは何!? ボクに勝っといて、あそこまで言っといて、いつまでもうじうじうじうじ、大したプレーもしないで!
"負けた相手がこいつでよかった"って、ちょっとはそう思わせてよ! この雑魚がっっっっ!!!」
自分を負かしておきながら、いつまでも踏み出せないでいるブラドに対し、凛は大声で発破をかける。
そしてブラド。凛の声が届いたかどうか、高く飛び上がり、完璧なオーバーヘッドシュートを決める。放たれたボールはキーパーの届かない隅を撃ち抜き、豪快にネットを揺らす。
「よっしゃああああああああ」
全力で喜ぶブラド。その顔を見たらもう今の彼が凛と同じく吹っ切れたことなど一目瞭然だ。
そんなブラドに凛は声をかけようとするも……
「凛ぢゃああああああああん」
叫びながら抱きついてくるラーラ。いや、ラーラだけじゃない。ミアもアリスも抱きついてくる。
「ちょ、3人とも、重いって」
「だっでええええええ」
「凛! やったじゃない!」
「すごいドリブルだったよぉ~」
止めても止まらない3人からの言葉を凛は少し困りつつも、喜び、笑いながら受けとめる。
「凛」
3人の言葉も止んできたところに声をかけてきた男が1人。
「……なに」
「すごいドリブルだな。地面も揺れてたのに。
凛に教えてよかったよ」
「……は! あんたより100倍上手くやってやったから! こんなんが1番難しい技って……あんたもまだまだね!」
そう答えながら、凛は昨日の出来事を思い出す。
***
ー昨日 練習中ー
「なあ」
「なに? あんたの技なら余裕でできたから。あんなの少し話聞けば一瞬!」
「まあそうだと思ったよ。俺もそこまで把握してないけど、それでも凛の技術はチームでもトップクラスだと思ってるからな」
「……急に褒めだして気持ち悪いんだけど」
「なんでそう刺々しいんだお前は……。
だからさ、凛ならできるかと思って、俺の1番難しい技教えるよ」
「え、1番……? ちょっと、買い被りすぎじゃない?」
「いや、凛ならできる! 覚悟しろよ、みっちり教えてやるからな!」
***
ー現在ー
「相変わらずひっどい言い方だなぁ。
俺も半日でマスターされて、しかも揺れたフィールドで完璧に決められて内心ちょっと劣等感あるのに」
「ふん、実力の差ね。
ただまあ……役には立ったから……。
今度はボクの技教えてあげるよ」
「……!
おう! 期待して待ってる!」
「ふん、別にあんたが簡単にマスターできるような技じゃないから期待しない方が身のためよ」
「ほんといっつも一言余計なんだよなぁ。
にしても吹っ切れたみたいでよかったよ。けどボクって一人称は変わらないんだな」
「ん……この一人称は確かに迷走してた時のものだけど、その時期も大切なボクの一部だから……。
ってなんでこんなくっさいセリフ言わせんの! あんたには関係ないでしょ!」
そうして半分怒りながら龍也との会話を終える。
男子に対しては未だ自然に話せない凛だったが、これからどんどん成長していくことだろう。
その前に、話すべき相手がもう1人……
「ブラド」
「んだよ」
「……あと1点、頼んだから。
これでもしまだ不甲斐ないプレーするようなら……容赦なくボクが決めるし」
「……!
……ああ、任せとけ……!」
仲直りと呼べるかはわからないが、ついに凛はブラドと会話をかわす。短い会話だが確かな会話。
満足し、自陣に戻ろうとする凛に対し、声をかける女が1人。
「ちょっと待ちなよ」
「…………」
「なんで! あんた!」
「……まだ試合は終わってない。
最後まで全力で戦う。それだけ」
ギャズを振り返ることなく、凛は決意の篭った言葉を発する。
残り4分。まだ試合は終わっていない。
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