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第二章 初陣

42 ブラド・イーガン

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 「母ちゃん! 父ちゃん! 俺今日の喧嘩でよ! 3つ上のやつぶっ飛ばしてきたぜ!」

 「グハハハー! そうか! それは凄いな! ブラドは最強だな!」

 「もう、喧嘩ばっかりして。誰に似たのかしら。
 でも強いのはいい事よ。ブラドもお父さんみたいに強くなるのよ」

 ブラドが生まれたのは普通の……少し荒れた街。
 日常に喧嘩が染み付く地域に生まれたブラドは、子どもの頃から喧嘩の強い男だった。恐らくはプロボクサーである父親の影響だろう。

 殴る蹴るはもちろん、当時その地域で流行っていたサッカーにもすぐに慣れ、ブラドはその名を広く轟かせていった。
 挑んでくる歳上も返り討ち、ブラドの強さは留まることを知らない。勝利に溢れた人生はブラドの自信を強固なものにしていった。

 そんな中唯一の挫折は同じクラブチームの雑魚に弾き出されたこと。
 力では解決できない出来事に、力以外の強さを知らないブラドがどうこうできるはずもなく、雑魚に対するヘイトが溜まっていく毎日。

 こうして出来上がったのが、ただただ強く、そして雑魚には容赦のない男、ブラド・イーガン。

 そんな男の2回目の挫折はチームメイトの龍也との勝負。自分のパワーを完璧にいなされ、敗北を喫した。

 そして3度目の挫折はその後すぐにやってくる。ギガデス代表ゴザとの勝負。今度は何一つとして言い訳ができない。単純なパワー勝負、自分の得意とするフィールドで負けてしまったのだ。

 成功してきた人間ほど崩れる時は一瞬。
 ブラドはチームメイトから様々な言葉を貰うが、どうしてもこの挫折を乗り越えることができなかった。

 そんなブラドにある言葉が届く。
 「"負けた相手がこいつでよかった"って、ちょっとはそう思わせてよ! この雑魚がっっっっ!!!」
 その言葉は自分が負かし、傷つけた相手からの言葉。
 そいつは、ブラドの心無い言葉を乗り越え、成長し、ここ一番という場面で素晴らしいプレーをしてのけた。

 そんなプレーを見せられてブラドが何も感じないわけがない。
 そして彼女の言葉から、強い者は強くある責任があることも知る。

 今、フィールドにはゴザどころではない強敵がいる。だがこれはブラドにとって挫折ではない。何故ならまだ完全に負けたわけではないからだ。真正面から戦い、どちらが上か決める。

 無謀な戦いにも見える。しかし、ブラドはそうは思っていない。
 今、ブラドの中には熱く燃えたぎる気持ちがある。その気持ちはブラドに力を与える。

 「俺はパワーなら誰にも負けねえ」

 そう呟き、ブラドは戦場に立つ。

 ***

 ー後半41分ー

 「みんな! 全員でディフェンスだ! なんとしてでもガロを止めるぞ!」

 龍也の指示が聞こえる。しかしブラドにはそれが無意味だとわかっている。何故なら……ブラドにはガロを1人で止められるという確信があったからだ。

 「下がってろ」

 「え? ブラド……?」

 「言ったろ、あいつ相手じゃ全員でもかないっこないって。
 だから……俺が止める」

 「なんで! それでも俺たち全員でやった方が!」

 「信じてくれよ、キャプテン。
 今の俺様は……全く、負ける気がしねえんだよおおおおおおおおおおおおおおおお」

 身体中から溢れるパワーを感じながらブラドはガロに突っ込む。

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 ガロとブラド、互いに雄叫びを上げながらぶつかり、そして言葉を交わし合う。

 「貴様、何故1人で俺に挑んだ。それだけの力があるのなら仲間と協力したら俺にも勝てる可能性はあった」

 「あー? 何勝った気でいんだゴラ。
 何故1人で挑んだか、そんなの簡単だ。
 お前レベルを倒すくらい俺様1人で充分だと思ったからだよおおおおおおおおおおおおお」

 「なに!?」

 ガロが驚くのも無理はない。この一瞬でブラドのパワーは格段に強くなった。

 「ガハハハハ、あばよ、力自慢」

 その言葉の後、凄まじい衝撃波が巻き起こる。
 結果は……

 「よっしゃあああああああああああああ」

 ガロを吹き飛ばし、ブラドは勝利の雄叫びを上げる。

 「え、ちょ、ガロさん!? まじっすか!?」
 「え、え……?」

 ゴザを筆頭としたギガデス代表、そしてブラドを止めようとした龍也もこの結果には驚きを隠せない。

 「え、ちょっと、何あのパワー」
 「すっげぇー」
 「ブラドさん……流石です……!」

 ベンチのメンバーも思い思いの感想を呟く。

 「ガハハ! 見たか! これが俺様のパワーだ!
 なんてったって、俺様のパワーは最強なんだからよう!」

 「嘘だ! ガロさんがお前なんかに負けるわけねえ!
 どんな手を使いやがったんだ!」

 ガロの敗北が信じられないと、ゴザがブラドに1人で突っ込む。

 「あー? お前……。
 あの時はよくもやってくれたなぁ!」

 ゴザを倒したブラドにとって他の奴らはもはや敵ではない。当然のようにゴザを跳ね除ける。

 「ぐああああああああああ」

 「はっはー! かかってこいや雑魚どもがあああああああああああああああああああ」

 そのまま1人で敵陣に突撃するブラド。束になってディフェンスに向かって来るギガデス陣を悉く倒して進み続ける。
 地面が揺らされる。無駄だ。ジャンプしていてもなおギガデスに負けないパワーがブラドにはあるからだ。もう今のブラドを止められる者は誰もいない。

 それでも立ち向かうギガデスの選手たち。その中にはギャズの姿もあった。自分の敬愛するキャプテンを吹き飛ばした相手に突撃するギャズ。
 肩と肩がぶつかる。重い振動が身体中に響く。倒れそうになるが諦めない。もう1度、不屈の精神で挑むも、現実は無情。
 今のブラドに敵うはずもなく吹き飛ばされてしまう。

 「うおらあああああああああ! これでトドメだああああああああああああああああ」

 叫びながら放つブラドのシュートは凄まじい威力。
 止めようと飛び出したキーパーごとゴールに叩き込む。

『ゴーーーーーーーーーーーーーール!
 そしてここでタイムアップ!
 6-5! この試合は……オグレスの勝利ーーーー!!!!!』
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