グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第三章 謎と試練

50 パワー?

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 ヘンディとの会話を終え、練習に戻ろうと思ったが、何やらCコートの方が騒がしい。

 「どうした?」

 Cコートには随分と人が集まっていた。状況を把握するため、まず初めにクレに声をかける。

 「龍也か、アランがみんなを集めたんだ」

 アランが……?
 話があるなんて事前に聞かされてはいなかったが……何事だろう。
 気になったのでコートの中心を見てみると、アランとブラドが話している姿が見えた。

 「ブラドくん、この間の試合は素晴らしかったです。あのガロさんを上回るパワー、人間業とは思えません」

 「ガハハ、俺様は最強だからな! 人間程度の限界なんて余裕で超えれらあ!」

 「それで、その超パワー、今発揮することはできますか?」

 「あー? あれ疲れるんだよな。
 まあ別にいいけどよ。どうやって発揮すりゃいいんだ? お前らとやり合ったら怪我させちまうかもしれねえ」

 「そうですね、ギガデスと同じやり方にしましょう。ガロさんは1人で地面を揺らしました。そのガロさんを上回った貴方なら当然同じことができるはずです」

 「ったくよー。めんどくせえなあ」

 「ではみなさん、今から少し揺れるかもしれませんので、警戒だけお願いします」

 アランに注意を促され俺たちは少し構える。
 どうやらアランはあのときのブラドの力を再現させたいらしい。そういえばアランはこの間の試合の後もブラドのことを気にしていたような気がする。

 「ふん、面白いこと考えるじゃない」

 「凛?」

 「あれ? もしかして気づいてない?? これが成功すれはギガデスと同じ戦い方ができる、戦術の幅が広がるってことよ」

 むっ、隙あらばマウントを取ってきやがって。
 だが確かにその通りだ、理論上は同じことが可能だ。
 完全に盲点だったな。まさか俺たちがあんな無茶苦茶な戦法をすることになるとは。

 とはいえこれはいいのだろうか。ルール的には禁止されてないらしいが、サッカー選手としてこのような戦い方は違うのではないかという疑問も残る。
 しかし、その疑問は始まる前に終わってしまう。

 「……全力ですか?」

 「お、おうよ」

 「揺れた?」

 「んー、震度1くらいだね」

 困惑する俺たち。確かに揺れはしたが微々たるもの。人をこかせられるものではない。

 「何やってんのあいつ」

 不甲斐ない揺れに凛もご立腹のようだ。

 「……もう一度お願いできますか?」

 「……おう」

 再び足を踏み込むブラドだが結果は変わらず、試合で見せたあのパワーは無くなっているとしか思えない状況だ。

 「はああああ? なんであのパワーが出ないんだよおおお?」

 「…………」

 荒ぶるブラド、対するアランは冷静だ。

 「火事場の馬鹿力ってやつだったんじゃないのー?」

 「ありえるっスね。冷静に思い返してもあのパワーは人間辞めすぎっス」

 ペペとザシャはブラドの力を恒常的に使えないものと判断。
 俺も同じ考えだ。あのパワーはギガデス星人という非地球人だから出せたパワー。あれが恒常的に使えるのは余りにも地球人から逸脱している。火事場の馬鹿力、まさにその通りの現象だと推測する。
 またピンチになれば起こり得るのか、それとも二度とあの力を見ることにはならないのか、今はわからない。だが少なくとも、現状ギガデスの戦い方を真似るという選択肢は無くなった。

 「あー? おっかしいなぁ」

 ブラド自身はまだ納得がいっていないようだが、他のメンバーは違う。元からあの力が奇跡のようなものだと何となく思っていたのだろう。この結果に一定の納得を得たのか、それぞれのコートへと戻っていく。

 「あー、つまんない。解散ね。練習行くわよ」
 「だな。アランの着眼点は優れていると思うが、今回は上手くいかなかったな」

 凛もクレもコートに戻ろうとする。俺も一緒に戻ろうとすると

 「龍也くん、少しいいですか」

 アランに声をかけられる。

 「なんだ?」

 「……どう思いましたか? 今のブラドくんを見て」

 「どうって……みんなが言うようにこの間のは奇跡だったのかな、って」

 特に取り繕いはせず、感じたままの感想を述べる。

 「…………」

 「な、なんだよ急に黙って。
 それよりお前はどう思ったんだ? これは予想通りの結果か?」

 「そうですね、予想通りといえば予想通りですし予想通りではないといえば予想通りではありません。
 どちらともありえると思っていました」

 「へぇ、そうなのか」

 この感じ、ダメ元というわけではなさそうだ。
 ブラドがあのパワーを使いこなせる可能性があると、真剣に予想した上での今回の一件なのだろう。

 「話は変わりますが龍也くん。今まで生きてきて、何か自分だけの特別なことはあったりしますか?」

 んー? 急に話が変わったな。

 「えっと、今の状況が特別。とかそういうのじゃないんだよな?」

 「当然です。地球にいた頃、何かありませんでしたか?」

 「……いや、これといって特にはないかな。
 一般的なニューグレ世代の人生を……あっ」

 「! 何かありましたか?」

 俺はニューグレ世代にしては才能が無い。
 少しだけ引っかかったが、特別というほどのことでもないか。

 「いや、なんでもない。
 やっぱり特別なことは無かったよ」

 「……そうですか。ありがとうございます」

 爽やかな笑みと共に去っていくアラン。結局何を聞きたかったのかいまいち理解することができなかった。

 すると、目の前のアランが突然歩みを止め、俺に再び話しかけてくる。

 「龍也くん、貴方は先程この結果は予想通りかと聞きましたよね?」

 「ん、ああ、聞いたけど」

 「この結果は予想通りではあります。しかし、この先もずっとこの結果のままだとは予想していません。
 断言します、ブラドくんのあの力はいずれ再び発揮されます。
 では」

 俺の方へは振り向かず、そのまま去っていくアラン。
 いずれ再び発揮される。
 アランが何を考えているのか、今の俺に理解することはできなかった。

 「おい」

 背後から声をかけられる。聞き慣れない声、これは意外な人物だ。

 「なんだ? ルカ」

 ルカは未だにずっとアウラス監督と行動を共にしている。そのせいもあってか、俺はルカとまともに話をしたことがない。
 だから今回声をかけられたことに内心凄く驚いていた。

 「珍しいな、お前が俺に話しかけてくるなんて」

 「そんなことはどうでもいい。それより今何を話していた。教えろ」

 強めの圧で話しかけてくるルカ。
 予想はしていたが仲を深めに来てくれたわけではないらしい。残念。

 「今って、アランとか? 大した話はしてないよ。ブラドを見てどう思ったかとか、昔何か特別なことは無かったかとか」

 「それでどう答えたんだ。隠さず正確に教えろ」

 何故こんなことを聞いてくるのかわからなかったが、何かやましいことがあるわけでもない。
 包み隠さず全てを話た。

 「なるほど、理解した」

 聞くだけ聞いてすぐにこの場から離れそうとするルカ。
 そんなルカを俺は引き止める。

 「ちょっと待てよ、これも監督の指示か?
 俺たちは仲間なんだ。一度お前自身と話してみたい」

 「……必要の無いことだ。お前の質問に答えることも、お前と俺が話すことも」

 結果は惨敗。
 ブラド、凛、ヘンディと雰囲気が良くなってきてはいるが、まだ足りない。
 まだこのチームは1つになれていない。

 一度の勝利で油断してはいけない。
 次の試合までの2週間でどれだけチームを改善できるか。
 毎日が勝負だな。

 俺は改めて気合いを入れ直すのだった。
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